アヴァロンズゲート

八雲 全一

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六節 キマイラ小隊

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俺達は十日程平原の地形を歩き続けている。未だに盗賊などには襲われていない。行商人と数度すれ違ったくらいだ。呑気な旅路である。退屈そうにエリーが話しかけてくる。
「ねえ、あなたは薬草とか野菜のスープの方が好きなの?いつも肉をそんなに食べないじゃない。」
「そういう訳では無いよ。ちゃんと肉も食べるけど君ほど量が要らないだけだ。」
「なんか私が無駄に大喰らいみたいないい口ね。」
「実際君の一族の中で君はどうだったんだ。」
「普通ぐらいに食べる方で、全然大食漢ではないわね。」
「何回聞いても疑わしいな。本当に平和な時に君の村を訪れていたら本当の事がわかるのだが…」
「もうその話は言う事無しよ。もう過ぎ去った事だもの。」
「そうだな。何か別の話をしようか。そもそも君は何歳なんだ。全然聞いてなかったが。」
えへんと胸を張るエリー。
「百六十歳ね。そうは見えないでしょ。」
「驚いたよ。エルフは本当に長命種なのだな。精々三十歳位だと思っていたよ。」
「そのくらいの年だと本当に幼子ね。私はもっとお姉さんなのよ。だから無銘も頼ってもいいのよ。」
「食べっぷり以外は今のところ見張るものがないな。修行をし直して来るんだなエリー。」
「そう言われるとムカつくわね。戦闘もこなせるし裁縫とか料理とか結構家庭的な事も出来るのよ。」
「知らなかったよ。機会があれば拝見させてもらおう。…お嬢さん。気をつけろ。前に人類開放騎士団の小隊だ。黙って通り過ぎろ。」
「了解したわ。無銘。」
姿の偽装魔術は現在も稼働中問題なし…アーマーが三十体。闘ったらただ事じゃ済まなくなるな。黙ってすれ違おうとした…その時感知音が鳴り響いた。俺の中からだクソ…探索用の呪詛が鳴き声を上げた。
「脱走したナンバーズです。至急処分してください。脱走したナンバーズです。至急処分してください。」
呪詛の影響で容姿偽装魔術が剥がれてしまった。これでデミエルフとエルフの所帯だとばれてしまったわけだ。
「おい!御兄さん…あんたデミエルフだな。ナンバーズってのは嘘じゃないらしい。脱走兵か。御縄についてもらおうか。」
隊長格のアーマーが話しかけてくる。もうやるしかない。亜空跳躍!
小隊長が駆るアーマーの背後を取り、ストームブリンガーで突き抜いた。
「ガはッおえっ…お前らこいつは敵だ。殺せ!」
そう言うとアーマーのリアクターが爆発し小隊長は絶命した。
残り二十九機か…厄介だな。
「エリー!気絶しない程度に大技を使え!俺は俺で何とかする!そのアーマーの残骸に隠れるんだ!」
矢継ぎ早にエリーに指示を出し、俺は更に亜空間跳躍をする。隊長格をやられたあいつらは混乱している。
亜空跳躍!袈裟斬り!爆散!二十八機!ヘビーマシンガンで狙い打たれる。敵のアーマーの残骸に隠れる。射線が交差し敵の同士討ち!ヘビーマシンガンで撃ち抜かれた敵機は爆散する。残り二十六機!
エリー…本当に人類開放騎士団の機械の鎧と闘う事になるとはね。私の呪術がどこまで通用するか分からないけどやらないと生き延びられないのよ!やってやるわ!
エリーがアーマーの残骸の陰から詠唱を開始した。
エリーの詠唱!生命の危機究極!偉大なるオーディンよ!そなたの巫女を穢す究極の害悪現れたり。グングニルを借り受ける!未来永劫の時の狭間まで消え果よ!ヘルレイズスパーク!
集団で集まっていたアーマーに神の槍が降り注ぎ撃ち抜いた!六機爆散!オドを酷使したせいでエリーは気絶寸前だ。
残り二十機…敵は生身の俺達に仲間がやられた事で明らかに恐慌している。俺は駆け出した。
ストームブリンガー構え!袈裟斬り!爆散!無明三錬!爆散!三錬閃刃!爆散!続けざまに我流の剣技で敵を切り殺した。ヘビーマシンガンによる反撃!アイギスにより無効化!
ヘビーマシンガンが無効化された事により更に戦線に混乱が広がる。俺はオドをアイギスの多重展開に振り抜いた。
気絶しかけていたエリーが気を張り持ち直した。急いで呪詛の用意に入る。
「私だってやるのよ!無銘が闘っているんだ!」
エリーの詠唱!生命の危機究極!大いなる主神イグドラシルの巫女を穢すものよ!滅びるがいい!ミストルティンバースト!多重展開!
ヤドリギが五機のアーマーを貫き即死させた。
「後はお願い…もう私は無理そう…」
エリーは卒倒。
残っているのは俺だけだな。残り十二機。
俺も死力を尽くそう!真言詠唱開始!マナに焼き尽くされてもいい!
第二の魔獣!バハムートよ。貴様への供物を用意した。喰らいつくすがいい。ラグナロクバースト!
巨大な竜が顕現し、属性など無いひたすら力任せに叩き潰すマナの息吹を展開した。
残っていた九機は一体が爆発するとリアクターの高熱爆発が連続で起こり連鎖爆発した!
残り三機…俺の目の前にブラスターを吹かしながら特攻してくる手にはカリバー。切り殺す気か…機械の力で増幅された刃をストームブリンガーでは受けきれず、腹を袈裟斬りに斬られた。しかしカウンターで相手の胸もストームブリンガーで突き返す。相打ち…ハァハァこんなところで、不死刻印を失うわけにはいかない。
残り二機がスラスターを吹かして近づいてくる。チッ終わったか。
エリー…はっと目を覚ました。無銘が怪我をしている。そこに機械の鎧が凄い勢いで近づいている。これじゃ無銘が殺されてしまうわ!私がやらなきゃ!
「無銘!危ない!詠唱破棄!ミストルティンバースト!」
簡易詠唱だが、生命の危機でマナを極大化させたヤドリギが俺に近づいてくるアーマーを襲い二機とも絶命させた。
腹からカリバーを抜く。対アーマー用の刃とだけあって受けたダメージは甚大だ。このままだと死ぬ。無銘の詠唱!回復祈祷!プライ!
「わたしからも回復法術をするわ。大丈夫?」
「ありがとう。おかげ様で死なないで済みそうだ。凄まじく痛いけどな。」
偉大なる癒しの加護を与え給え!主神イグドラシルよ!ヒーリング!
ああ…傷が癒えていく。これで俺は死なずに済みそうだ。
「助かったよ。エリー。さあ行こう。もう生きている奴はいない。」
「これからもこんな人達に追われるの?」
不安そうな瞳でエリーがのぞき込む。
「そうならないために主要都市を避けているんだ。大丈夫…きっとな。」
「私も魔術を鍛えないとね。そうすれば貴方の負担も減るわ。」
「もう十分に助けてもらっていると思うけどな。」
「そうかしら?」
「二人で小隊を相手にして倒せるだけで十分すぎるほど手伝ってもらっているよ。普通はあり得ない。正に奇跡を起こしているに等しい振る舞いを俺達はしている。」
「そうね。あんな大量の機械の鎧を倒せるなんて…貴方の小隊を葬った時以来だわ。」
「そうだな。あの時ですら奇跡だったのにな。こんなに奇跡を起こしていたら戦場の神様になってしまうよ。」
「そんなものなりたくないわね。貴方と無事にプリマスに行ければ言う事はないわ。」
「闘いに塗れているのに、やはり行くのを諦めない。エリーは強いんだな。」
「闘わずに済むのが本当に強いっていう事よ。こうやって会う者全てを切り捨てるのは本当の強さじゃない気がする。」
「そうだな。プリマスの先の妖精舞う島は闘いなんてきっとないんだろう。」
「そこを目指すために闘いに塗れるのは仕方ないと思うわ。行きましょう。無銘。」
「ああ。また野宿になると危険だ。近くの集落まで行こう。」
俺達二人はふらふらになりながら会話を終えた。余りにも今回の闘いはハードだったな。
しかし俺達はリュミエールに向けての旅路を止める事はなかった。止まっているとまた人類開放騎士団に襲われるような気がしてなかったのだ。
今回勝てた事も奇跡に近い。また勝てる保証はどこにもないのだ。
エリー…人類開放騎士団の機械の鎧…アーマーというのだったかしら…は強烈な敵だったわ。一機一機を討ち取る事は出来るのだけれどとにかく数が問題になるわね。まともに相手をしていたらすぐに追い詰められてしまう。今回の様にうまくいけばいいけれど、戦いはそんなに甘くないわ。私もオドをもっと拡張して呪術を使えるようにしなければね。

ガガガ…こちらユニオン小隊!キマイラ小隊答えよ!ナンバーズとエルフと交戦したと聞いたが、オイ!無線を誰も聞いていないのか?アッ…メリー様。お疲れ様です。ハイ…ガルム小隊所属のナンバーズが脱走したそうで、エルフの娘と歩いている所を拘束しようとしたのですが、信じられない事に逆に小隊が壊滅したそうです。
メリー…そう。聖都レーヴェのエルダーナイトマクソンに通達。神託者の一団が通りかかる恐れありとね。レーヴェに入ってしまえば信号で追えるでしょう。
ユニオン小隊…承知しました。そのようにお伝えします。

メリー・ジョウガ機密ログ…早い。早すぎる。もう嫦娥の手の者がプリマスに向かおうとしているのか…過去の私を救うためにも干渉を強めねばならない。亜人種廃滅戦争も最終局面に向かわせなくてはならないわね。それにもうこの干渉をし続けるのも限界に近付いている。だんだん一万年前の夢の世界の私を保つ事が出来なくなり、こちらの世界のメリー・ジョウガが危うくなってきている。過去で私が絶命しかけているのかもしれない。一万年の円環の輪が閉じる時が近づいているというの?それならばいいのだけど。
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