アヴァロンズゲート

八雲 全一

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一節 出会い

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惑星イース、旧名地球は何度となく文明の勃興と滅亡のサイクルを辿っていた。月の神霊はその様子を見守っているが、もう既に飽きてしまっている。
しかし月の神霊は地球から生まれた存在なので仕方がなく、人類種が完全に滅亡するまでいつまでも観測し続ける。
暦などはもう意味をなさない世界になってしまった。一万年前に起きた人間と中華神との戦争で人間は石器時代まで文明が後退し、人間は人類史のやり直しを余儀なくされた。
今は暗黒時代…物質文明は闇の時代。精神文明にとっては沈まぬ太陽のような時代。魔術が唱えられるのが当たり前な時代。世界には黒歴史の化け物が蔓延っている。
そして今後時代が更に進むと幻想の生き物は世界から一掃されて何処にもいなくなってしまう。人間達の黄金の時代の到来だ。今まさに人類は精神文明の黄昏と物質文明の夜明けを目撃しようとしているのかもしれない。これはそんな時代の一ページに過ぎない物語だ。

モストゥーン王国 最南部 幽谷の谷
俺の名前?あんたらはみんなそういう事を気にするな?ガルム小隊の皆からは二五と呼ばれている。それは何故か?俺はナンバーズという人類開放騎士団の尖兵だからだ。
人類開放騎士団は人間による国家の同盟で騎士階級による支配がなされている。教導騎士と呼ばれる騎士の中の王とも呼べる存在を中心に階層国家が成立。そしてエルフと五十年前から亜人種廃滅戦争を始めた。今では何故争っているか現場の兵士は誰も知らない。エルフから始めたのか?人間から始めたのか?どちらも些細な問題だろう。相手を殺しきらなければ終わらないのだ。だから亜人種廃滅戦争と呼ばれている。全てのエルフを狩り尽くすのが兵士の責務だ。
ナンバーズとはモストゥーン王国から攫ってきたエルフと人間のハーフの兵士を指す。脳を魔術施工し、無茶苦茶なオド…体内の魔力機関をそう呼ぶ…の拡張を行ったおかげで、エルフの精鋭魔術師顔負けの神代魔術詠唱を俺達は行う。また簡単に死なない様に不死の呪いまでかかっている。おかげで戦場でこの世の地獄を拝み続ける。不死刻印が消えて死ぬ事が許されるようになるまでだ。俺の残りの不死刻印は三つだ。
そしてナンバーズは消耗品扱いなので後どれくらいの耐用年数があるかを知るために名前を生きた年で呼ぶのだ。
俺の場合は二十五年生きていたから二五だ。この小隊以外ではそんな長生きデミエルフはいまい。皆戦いの先頭に立って突っ込まされる。そして真っ先に死ぬんだ。大抵二十をまたがないで死んでしまうだろう。…だから二五なんて古株もいいところだ。俺も心は既に死に尽くしている。目の前の悪夢の光景にも何も感慨を覚えなくなって久しい。後何年殺し続ければいいのだろう。後何人エルフを狩れば良いんだ。この問いかけには誰も答えてくれない。
今俺達、人類開放騎士団第六中隊所属ガルム小隊は、モストゥーン王国最南部のエルフの集落を攻撃している。幽谷の森という場所だ。
目標は人類開放騎士団の南の橋頭保を確保する事だ。約五十年間の亜人種廃滅戦争の結果、人類開放騎士団はエルフの領土の三分の一を奪う事に成功していた。更なる領土確保のために小隊規模の尖兵を各地に送り込んでいる。噂によると人類開放騎士団の魔術師による亜空間転移技術によって、大軍でモストゥーン王国内部に攻め込むことが可能らしいが、エルフ達の大軍が集まる場所の情報など無いので、局地戦を繰り広げるにとどまっている。
俺は集落の中で待ち構えていたモストゥーンのエルフ魔術師部隊をあらかた掃除し終えて休憩中だ。歯ごたえの無い奴らだったな。魔術は全て俺の防御魔術の前に無効化され、神代詠唱で地獄に落ちていった。感慨は何もない。心の傷はもう響かない。大昔に最初の一人を殺した時からそうだ。
だけどもう俺は疲れた。闘う事も犯し殺す事も疲れた。このまま塵のようにどこかに吹かれて行ってしまいたいと思う。
死後の世界である天界があるならばただずうっとその端に座って空を眺める。そんな生活をしてみたい。何も壊さず、何も生み出さない…置物の様な生活。時が果て朽ちるまで俺には何も起きない。そんな生活に憧れる。
集落の奥地からは断末魔の叫びが聞こえてくる。小隊のメンバーがエルフを始末しているんだろう。ジワジワとなぶり殺しにしないで一瞬で命を絶ってしまえばいいのに奴らは殺しを楽しむ。本気を出したエルフに殺される恐怖を忘れるかのように。また、アーマーを着ているから気分が大きくなるのだろうか?対エルフ決戦機動兵器…大層な名前がついているが俺には動く棺桶にしか思えないな。
アーマー…人類開放騎士団の基本装備である外装骨格の騎兵だ。強固な装甲を持つ全身を覆う機械の鎧で、魔術への耐性が高い。これでエルフの攻撃が無効化できるという代物だ。その他にもアーマーのパワーアシスト機能で重火器を振り回すことも出来る。生身に比べて圧倒的な火力を身に着ける事が出来るのだ。
それを着ているから殺して犯して焼いて奪ってとやりたい放題が出来る。もっともエルフからの報復の恐怖から逃げるためにうちの小隊は全員ハッパ中毒者だ。
エルフの中には神代の魔術行使を行える一騎当千とも言える魔術師がいる。そいつらはアーマーと相討を狙えるほどの自爆呪詛「チェリーブロッサム」を練れるらしいと戦場の噂になっている。それこそが兵士達を唯一脅かす脅威の存在だ。
黄昏ているとそこに一機のアーマーが現れた。あのカラーは新兵のグリーン。確か童貞のデュークだ。あまり絡むことが無い奴だ。他の小隊員同様俺を見下していることは言うまでもないだろう。気分が悪くなるような殺しでもしたのだろうか。デュークの顔は歓喜に満ち溢れていた。
「へーい!二五ちゃん。楽しんでいるかい!俺っちはエルフをバーニングして最高にハイって奴だ!またなぁ!」
デュークは火炎放射器を何度も吹かせながら何処かに行ってしまった。結局何をしに来たのかは分からなかった。何だったのだろう。いやどうでもいい。俺もあいつと一緒さ。無造作にエルフを何人も殺して平然としているんだ。悪びれているかどうかが奴との違いだろう。だから彼を責める事は俺には出来ないだろう。
そういえば俺の学校時代の先生も言っていたものだ。メリー先生。懐かしい記憶。
「心を平坦にしなさい。心の眼を閉じれば嫌な事なんて全部なくなるわ。そうやってナンバーズは死ぬまで過ごすしかないのよ。これが私から施せる戦場の心得。」
心を平坦に無にする。エルフの返り血で黒いコートが真っ赤に染まっているが何も考えない。考えない。心の眼を閉じる。後は無が残るだけである。
そんな風に瞑想にふけっていると目の前に小隊長が現れた。酒に酔っぱらうといつも俺に絡んでくるどうしようもない奴だ。
「おし!小隊全員集合!デュークはエルフを熱心に燃やしているみたいだからよし!」
なんだろう…ッ!小隊長がアーマーの腕にエルフを捕まえている!まだ小娘のエルフだ。あれを殺すつもりなのか!全員わざわざ集めて?他の小隊員たちも集まってきた。不味いな。俺はこんな公開処刑を見たくはない。
「なんですか~?小隊長!今いいところだったのに。あーもう死んじゃいましたよ。」
「俺もですよ!エルフの首を切り取ってボール遊びをしていたんです!邪魔するなんてひどいじゃないですか!」
「うぃーひっく。エルフの飯は簡素で仕方ないですねえ~。健康になっちゃう。」
「小隊長!奴らから宝石を頂いてきました。あげませんよ~。」
小隊員が口々に好き勝手な事を言って集まってくる。とんでもない連中だ。殺し・略奪なんでもござれ。だが俺も一緒なんだ。俺にはこれから始まる公開処刑を止める事は出来ない。
「よーし!野郎ども集まったな!これからこの小さいエルフに皆でお仕置きをするぜ!銃を用意しな!」
…絶句。殺す気だ。犯すでもなくただ殺す。あんな若い小娘のエルフを…そこまで堕ちていたか…
一方捕まっている金髪金眼のエルフの娘は動揺一つせず、自分の主神と霊的な通信を試みていた。
???…よくも私が昼寝をしている最中に村中のハーン族を皆殺しにしてくれたわね。お爺様や叔父様達を殺した罪を贖わせてやる。只では終わらないわ!偉大なる主神よ!誅罰の神技を捧げ給え。
捕まっている若いエルフが口を開いた。
「我が主神たるイグドラシルよ!何故我がハーン族を助けないのだ!私以外のハーン族は全員殺されてしまったわ。本当に信仰の加護があるというならば!私の呼びかけに答えよ!神霊樹よ!」
イグドラシルより……に霊信!…霊的な通信技術による通信だ。網膜の裏に通信対象の姿が映し出され、脳裏にその声が響く極秘通信技術だ。高度な技術なので神霊や偉大な魔術師以外は行う事が困難だ。
イグドラシル―息まくな小娘。我が偉大なるイグドラシルの怒りの呪詛をマナから撃とう―
???…やったイグドラシルに繋がったわ。これでここにいる奴らを倒す事が出来る。早く呪詛を回して頂戴。私の怒りを思い知らせてやる。そう私が念じると心の中に詠唱の文句が伝わってきた。これがイグドラシルの攻撃呪詛ね…
エルフの娘のその小さな躰に大気からマナが補給される。あの馬鹿ども!大技が来るのが分からないのか?アーマーを着ていてもただじゃ済まないぞ!
小隊長がニタリと笑い問いかける。
「神様相手に命乞いかい!そいつはやめておいた方がいいぜぇ!死んだあと俺たちの崇めるグロリアス様はお嬢ちゃんを地獄に落としちまうかもしれないからなあ。」
???…そんなこと知らないわ。機械の鎧でもグロリアスでも何でも掛かって来なさいよ。私の呪詛で全てを刺し穿ち砕いてやる。
若いエルフの娘は怨念のこもった呪詛を練り始めた!
「我が真なる祈りを聞き給うたイグドラシルに感謝を!オドに神霊樹のマナを極限まで呼び込む!今炸裂せよ!誅滅!神罰のミストルティンバースト!」
俺は呆然とエルフの娘が呪詛を練る様を見守っていた。と、突然大地が揺れる!地震だ!何もない空間から分厚いツタが伸び俺達に絡みつく、そして俺達小隊全員がヤドリギで串刺しになって絶命した。アーマーを完全に貫通して絶命させている。…一人を除いて。
俺は不死刻印のおかげで即死から蘇生した。他の仲間はそんな呪いはかかっていないので絶命したままだ。冷静に思考を練ろうとしたが頭が重くぼうっとする。
エルフ側にこれほどの魔術行使者がいたとは信じられない。呆然と考える…いつしか胸のヤドリギは消えた。ハァハァ圧迫感が消えたが体に重たい澱の様な物が溜まっていく気分だ。最悪な気分と言った所か。目の前にはエルフの娘が健在で残っている。小隊はヤドリギで全滅した。どうする?どう動く?思考がまとまらない。脳だけが死んでしまったようだ。
後不死刻印は二つ残っている。二回死ねば俺はキチンと死ねるようになる。とんでもない呪詛を練ったエルフの小娘が俺を見つめている。
???…私の怒りの呪詛の前に人間どもの機械の鎧は全員倒れた。しかしデミエルフの兵士が一人生き残っている。正確に心臓を貫いたはずなのに何で生き残っているのよ。
このデミエルフに話しかけてみる。疲れを顔に出さないように…何かぼぅっとしている。私も気疲れから殺意を保てない。
「あんたは何で今のミストルティンバーストで死ななかったの?」
「死なない様に呪詛がかかっているんだ。御嬢さん。後三回俺を殺せば皆の仇を打てるぞ。」
「もういいわよ。あんたの異常な覇気の無さ。どうせ奴隷兵士かなんかなんでしょ。」
「良く分かったな。俺は人類開放騎士団ではナンバーズと呼ばれる尖兵だった。本当に使い捨ての兵士さ。異常な呪詛を放てるから、敵の精鋭エルフとずっと闘わされていたんだ。」
彼はニヒルな笑いで答えた。私は気を張り続けながら両手を組んで問いかけを続ける。
「こっちでもデミエルフ兵士の噂はかねがね聞いてたわ。戦場の殺し屋、消耗品のデミエルフってね。あんた今後どうするの?仲間は全員死んじゃったわよ。まだやるの?最後の一人まで残って?」
「どうしようか考えているけど何も浮かばないんだ。もう殺しはしたくないのかもしれない。エルフをもう殺したくない。」
???はふと思う…この人はもう殺しに疲れている哀れな戦争の被害者なのね。そんなデミエルフを手に掛ける訳には行かないわ。もう戦いは終わったわ。もう苦しまなくていいのよ。
「もう闘わなくてもいいのよ。エルフとの戦争は終わり。」
「そう言われてもな。今までに殺し過ぎたんだな。そんなに簡単に割り切っていいものなのか悩むよ。」
「割り切りと仕切り直しが人生には不可欠よ。私もあんた達に住処全部を焼かれてしまったから、仕切り直さないといけないわね。…ところで私、神託の夢を見たの。貴方もエルフなら見たんじゃない?」
「大陸北部モストゥーン王国の軍港プリマスに約束の大地への扉が開かれる。苦難を味わいしエルフ向い給わん…だったかな。」
これはナンバーズの間でも有名な神託だった。プリマスを目指すために小隊を脱走するナンバーズも居たとか居ないとか…はっきりとしたことは俺にも分からないがそれだけ夢のある神託だった。戦いで疲れ果てたデミエルフが夢に導かれても仕方がないだろうと思う。
「それね…もう私の身よりもないし、そこを目指そうと思うの。あんたも来なさい。皆を殺した責任を取って私を護りなさい。」
「責任ね…拒否権は無いんだろうな。それも運命なんだろう。ところで何で家族を殺されたばかりなのにそんなに気丈なんだ?」
「もうずいぶん昔に家族を亡くしていてね。ここにいたのは家族みたいな人達ばっかりだったの。ショックはショックだけど、戦ったばかりだから気が張ってるだけよ。」
「そうか。仕方がない。あんなに大量のアーマーを倒したんだ。しかしアーマーが魔術で倒される事なんてあるんだな。…お嬢さん…君はモストゥーン王国に追われる身になるよ。戦争を逆転させるかもしれない危険な呪詛を確立してしまった。」
「それじゃあプリマスにはどう向かえばいいのかしら。モストゥーン王国の領土は通れないんでしょ?」
「このまま人類開放騎士団とモストゥーン王国の緩衝地域を抜けながら、シャウヤーン連合地域に入らないといけないだろうな。そうすれば人類開放騎士団に追われなくて済むさ。ただ、エルフとしての身体的な特徴を隠すために魔術で隠蔽しなくてはならないよ。」
俺は魔術で簡単な大陸地図を出して、エルフの少女とのぞき込む。
「そういえば名前を聞いてなかった。俺はまあ名無しの権兵衛とでもなんとでも呼んでくれ。君の名前は?」
「私の名前はエリーゼ・ハーン。今は亡きユリウスの娘よ。貴方はそうね。『無銘』とでも呼びましょう。エルフのうちの名前など幼名のようなものだからこれでいいわ。それに名前を知られるという事は支配されるという事よ。」
「無銘…まあいいだろう。名前にこだわりはあまりないんだ。よろしくエリー。俺もプリマスまでお供に着くとしよう。中隊に復帰しても敵前逃亡の処刑が待っているだけに違いない。」
そう無銘が疲れた笑みを浮かべてエリーに語り掛ける。エリーも複雑な表情で相槌を打った。
俺達はお互いに名を明かし、モストゥーン王国北部プリマスの土地までの旅をする事を誓った。
この小娘の事を心の底から未だ信頼できないでいるが、長い旅の中で信頼できる日が来ることを祈ろう。俺の体にも半分エルフの血が流れているんだ。きっと分かり合えるさ。殺しと血に塗れ灰色に塗りつぶされた俺の心が少しだけ暖かく脈打つ気がした。
辺りを見回す。小隊全員の死骸…心の中で弔う。いくら俺の事を奴隷扱いした連中とはいえ、立派に仲間だったのだ。神の御許に帰り給え。彷徨える魂よ…
お祈りを終えてその場を離れようとするとデュークが現れた。哀れなエルフの死骸を焼いて戻ってきたのだろう。状況確認をせずに突っ掛ってくるデューク。
「二五!てめえが小隊長達を殺したのか?ふざけんじゃねえぞ!俺の火炎放射器で燃やしてやる!」
デュークか。やりたくはない…かつての小隊とは闘いたくはないが…これからはこいつらが全員敵だ。その最初の一人に過ぎない。
「私の呪詛はしばらくの間は撃てないわ!貴方が何とかして無銘!」
「分かった。…亜空跳躍!許せ!デューク!」
デュークのアーマーの裏側に空間の中の隙間を通り跳躍した。アーマーのリアクターが弱点だと聞いた事がある。試してみるぞ!
無銘の詠唱開始!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!ライトニングパルス!…
神話時代級の雷の攻撃魔術をアーマーの背中から嵐のように打ち込む。アーマーは物理的にへこみ、リアクターは熱暴走、中のデュークは押しつぶされて死亡してしまった。リアクターから火を噴きアーマーは爆散した。
…まさかアーマーを魔術で倒せるとは思わなかった。この事実はトップシークレット中のトップシークレットだ。エルフにも人間にもチェリーブロッサム以外に有効打がある事は知られていない。エリーも俺も触れてはいけない真実に触れ過ぎている。人類開放騎士団の優位性を保つ秘訣のアーマーの簡単な倒し方が見つかってしまったのだ。人類開放騎士団とモストゥーン王国の両方から追手を差し向けられるかもしれない。
「デューク。お前を殺したくは無かったよ。天国で可愛い姉ちゃんとよろしくやってくれ!あばよ。」
思わず肩が震える。仕方のない事だった。避けられない事だったんだ。味方を殺したことは初めてだった。枯れ果てた心が潰れそうになる。エリーにやられるのと自分がやるのではここまで差がある事にようやく気が付いた。初めて本当の意味で仲間を裏切ったのだ。しかし潰れた心はすぐに立ち直り始めていた。俺は余りにも地獄を見過ぎたのだ。
そんな無銘にエリーが心配そうに語り掛ける。
「泣きたかったら泣いていいのよ。貴方の身寄りを私がほとんど潰してしまったんですもの。ごめんなさい。」
「これが戦争さ。仕方ない。さあ行こうエリー。」
そう真顔で答える。エリーは寂しそうな表情を見せた。俺は君が思っているほど良いデミエルフじゃあないのさ。
俺達は涙を流さずにその場を後にした。哀しみを背負い感じる心は当に壊死した。今はただこのエリーと流離うのみだ。…何も感じない。まだ何も。ただ体の震えは当分止みそうになかった。
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