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今日ラドラテックスの町を発つ。アスの持っていた暗黒教団の幹部の居場所をしらみ潰しに回ることにした。
何処に居ようと必ず見つけ出して裁いてやる。
俺は漆黒の意思を新たにした。
まずはここから一番近いニューウッドの町に幹部が居るらしい。それを狩りにいく。
慈悲はない。
宿屋で朝食を取り終えた所だ。俺が口を開く。
「エクス、アンジェリカ。ラドラテックスの町を今日発って、ニューウッドと呼ばれる町を目指すぞ。そこに暗黒教団の枝が延びている。それを刈り取りながら黒仮面の男を探す。良いか?」
「ボクは特に問題無しだよ。そうやって幹部を倒しながら本命の黒仮面の男に辿り着くんだよね。うんうん良いんじゃないかな。暗黒教団は凶悪な犯罪者集団だ。手加減無しで行こう!」
「私も異論は無いわ。ただ…幹部を狩りながら黒仮面の男が見つけられるかは分からないけれどね。腐っても暗黒教団…気を抜かずに向かいましょう。」
「それじゃあ食事も終わったし早速ニューウッドに向かうか。もうこの町でやり残した事は無いな?皆?」
「勿論さ!早く行こう。紫音。退屈で仕方がないよ。」
「私も用事はないわ。特にこの町で気にかかる事もないし、出掛けましょうか。ニューウッドへ!」
俺達は宿屋を抜けると目抜通りを通り町の門までやって来た。
衛兵が声を掛けてくる。
「やあ。旅の剣士達よ。今日はどうしたんだい?モンスターハントにでも外に出掛けるのかな?気をつけて行ってくるんだぞ。」
「こんにちは。衛兵さん。俺達はニューウッドの町に行くことにしたんだ。しばらくラドラテックスの町には戻ってこないだろう。連続殺人犯の件では世話になったな。またいつか会おう。さらばだ。」
「そうか…旅を続けているならやむを得ない。皆悲しむが仕方の無いことだな。よし。他の衛兵には俺から貴方達の事は伝えておこう。さらばだ。旅の剣士よ。貴方の旅路に幸運があらんことを…」
俺達は衛兵に別れを告げると町の門の外に出た。
ニューウッドはラドラテックスの町から南東へ一週間程歩いた所にある町だ。
また歩いての旅が始まる。
俺達はニューウッドを目指して歩き始めた。
アンジェリカが口を開く。
「また歩いての旅か…まあそれも良いんだけれど…馬かなんかが欲しいところだね。くたびれちゃうよ。」
「アンジェリカ…馬って一頭いくらするんだ。場合によっては買えるかもしれない。」
「うーん。そうだねぇ。少なくても五万ゴールドは下らないんじゃないかな。ゲーニアで相場を見たときはそんなんだった気がするよ。」
エクスが答える。
「それじゃあダメね。私達の資金では一頭も買えないわ。諦めて歩きましょう。アンジェリカ?」
「エクスは良いよなー。紫音のエクスカリバーの中に避難すれば疲れないんだもの。ボクも憑依して持ち運ばれたいなあ…」
「私も滅多なことじゃエクスカリバーに憑依はしないわよ。だってあの中は窮屈で仕方無いんですもの。とてもずっと入っていられる環境じゃないわ。だから私もほとんど歩いているでしょう。楽はしてないわよ。」
「それもそうか…あーあ我慢して歩くしかないな。こりゃ。先が思いやられるよ。」
「ほら…アンジェリカ。覚悟決めて歩こうぜ。歩けば良い運動になるし、サヴァ缶詰いくら食べても太らないぞ。よかったな。サヴァ缶詰は太りやすい食べ物だからな。日頃から気を付け無いと一気に太っちまうぞ。」
「乙女に太るとか失礼じゃないか!紫音。ボクは代謝が良いから太らないんだもーん。へっへーん。サヴァ缶詰いくらでも食べて平気なんだからね。」
あの油の塊の魚肉缶をいくら食べても平気とは頂けない物だ。
「そんな事言っていると後から後悔する事になるぞ。今はとにかく運動第一。ニューウッドまで頑張って歩こうぜ。何…一週間歩き通せばニューウッドに辿り着くさ。」
「むー。分かったよ。歩けば良いんだろ。歩けばさ。よしニューウッド目指して出発進行!」
エクスはようやく町を出発出来るのかと呆れた様子だった。
仕方ないだろうと目線を送る。アンジェリカがグズッたままでは旅に支障が出るんだからな…
「紫音。相変わらずアンジェリカには甘いわね。あのワガママ加減見ていて少し頭に来るわ。もう少しあのじゃじゃ馬の手綱をしっかり握っておきなさい。いつまで経っても旅に出られないじゃない。」
「すまんすまん。ああみえても結構まともだからさ。多少のワガママは許してやろうぜ。エクスが真面目すぎるんだよ。もう少し崩しても良いんだぞ。」
「私はこの旅に真剣なだけよ。暗黒教団崩壊が私の唯一の使命であり目標なんだから。貴方も黒仮面の男を倒したいんでしょう?被害が広がる前に早く暗黒教団を刈り取らなければならないわ。」
「本当にごめん。エクスの言う通りだ。今も刻々と犠牲者が出ているんだよな。茜だけじゃない。他の犠牲者も地球で沢山出ているはずだ。その動きを止めないといけないよな。分かってるさ。必ず暗黒教団を打ち倒す。」
「分かれば結構…決戦まではまだ時間があるけど、一歩ずつ本命に近付いていってるわ。まずは地球に戻る方法を暗黒教団の幹部から聞き出さないといけないわね。」
「そんな方法を幹部が知っていれば良いんだけどな。アス曰く最高幹部が地球に行く時空移動の方法を握っているっていう話だったし。」
歩みを続ける。今はラドラテックスの町を出てから数時間経った所だ。日が頂点に登っていた。
アンジェリカが口を挟む。
「ニューウッドの暗黒教団の幹部は時空移動の方法を知っているのかなあ?気にならない?エクス、紫音。」
「勿論気になるわよ。でもね最高幹部以外は知らないって言う話だしね…まあイスワルド側に居る奴の中に最高幹部が居れば問題はないわ。」
「そうである事を祈ろう。そうしないと大陸中駆けずり回っても無駄足と言うことになりかねないからな。まあイスワルドに黒仮面の男が居れば俺の復讐は終わるが…大義がある。暗黒教団は必ず滅ぼしてやる。」
そんな会話をしながら足早に俺達はニューウッドの町を目指して進んだ。

残り三日程の場所まで辿り着いた。街道を今まで歩いていたが、急に街道は無くなり山道になっている。山を跨がなくてはならなくなってしまっていると言う事だ。
「ここに来て山登りかぁ。結構体に響くな。こりゃ。エクスと紫音は大丈夫そう?」
「私は問題ないわ。神霊はこんな事で参ったりしないもの。貴女こそ大丈夫?アンジェリカ?随分きつそうじゃない。」
「そりゃ四日間歩き詰めだったからね。疲労困憊ってやつ?今から山登りは流石のボクも予想できなかったよ。うへぇ。参ったな。」
「弱音を吐くとはらしくないじゃないか。アンジェリカ。俺も結構キツいが頑張るさ。アンジェリカも頑張れよ。」
「はいはーい。本当に頑張るしか無さそうだね。何か体力を回復できる物があれば良いんだけれど…エクスカリバーの鞘は傷を癒すだけで疲労はどうしょうもできないしなあ。」
「アンジェリカ…取り敢えずサヴァ缶詰でも食べたら良いんじゃないかしら?まだ残りがあったでしょう。少しは体力回復できるんじゃない?」
「ありがとう。エクス。でも今はサヴァ缶詰の気分じゃないんだよね。何か元気になる飲み物が欲しいところだ。」
「ここが地球だったらなぁ。アンジェリカ…お前の求めている元気が出る飲み物が至るところで売っているんだよ。少し価格は高いけどな。暗黒教団の技術で地球に行けたら買って飲んでみると良い。」
「なにそれ~?凄く飲みたいんだけれど…クソ!何でイスワルドには元気が出る飲み物が売っていないんだ…ガックシ。まあ良いや。ありがとう。紫音。気分転換にはなったよ。さあこの山を攻略しようか。」
そう言葉を交わすと俺達は黙々と登山した。山道をひたすら登り…何時間経ったのだろう?この世界には時計と言う物が存在しないので正確な時刻が分からないが…三、四時間程経ったと思う。
ようやく山の頂上に到着した。これから山の反対側に下山を始める。
エクスが口を開く。
「ハァハァ…流石に疲れたわね。紫音?休憩無しでぶっ通しで行くのかしら?」
「残念だがエクス…その通りだ。このままだと山の中で夜を迎える事になる。どんな魔獣やモンスターに襲われるか分かったもんじゃない。強行軍だがこのまま進むぞ。」
「ええ~疲れた。疲れたよぉ。紫音。本気で言ってる?ボクは疲れすぎて死んじゃうよぉ。紫~音~。休憩しよ?」
「駄目だな。アンジェリカ。甘えても無駄だ。さあこのまま下山しよう。そうすればまた街道に戻れるさ。そこなら一晩休めるぞ。行こうか。」
女性陣の反対を押しきり俺は山を下り始めた。登りよりスピードは落ちるがエクスもアンジェリカも何とか着いてきている。
歩く。ひたすら歩く。山道はデコボコで石だらけであり、下山でも体力を磨耗する。
俺達は無言になった。歩き始めてから二、三時間経過しただろうか?モンスターは現れなかった。
ようやく山を下山する事が出来た。
山道を抜けると街道に戻っていた。これで安心して休息を取ることが出来る。街道には魔除けの加護が何重にも掛けられておりモンスターは寄り付かない。まぁその代わりに盗賊が出るかもしれないのだが。
アンジェリカが口を開く。
「だぁーようやく終わったぁ。今日はもう一歩も進めないよ。ここで休む。決めた。良いよね。紫音、エクス。」
「私も賛成。流石に歩き続けて疲れたわ。良いでしょう?紫音。アンジェリカもこう言っている事だしね?」
「そうだな。もう山道じゃないしモンスターの危険もない。今日はここで休むとしよう。」
「やった!やった!休みだ。休み。何かそうと決まると逆に元気になっちゃうな。へへ。今日の晩御飯は何だろう?今から気になっちゃう!」
「干し肉かサヴァ缶詰しか無いぞ。モンスターと闘えていたら奴らの肉が手に入ったんだかな。すまん。アンジェリカ。我慢してくれ。」
「ああ…最後の楽しみが打ち砕かれる。紫音。…まあ言う前から分かっていたさ。でも一寸だけ期待しちゃったんだ。うん。モンスターを倒さないと別の食べ物にはありつけないよね。ハァ…明日はモンスターと闘いたいな。今日はサヴァ缶詰にするよ。まあなんだかんだこれが一番好きだしね。」
「食事くらい我慢なさいというのは残酷よね。アンジェリカ。街道を進む限りモンスターは狩れないわ。後三日間の辛抱よ。頑張って頂戴。」
俺達は会話をしながら食事の準備をした。と言っても全員サヴァ缶詰なのだが。
その後黙々と食事を取り終えるとテントを広げて中に入り、眠ってしまった。
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