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第三章
第二十一話 真っ白な未来へ
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エレナら一行はララ女王に出発を伝え、今まさに城から出て行こうとしている。
各々が荷造りを終え馬にのると、アシュベルが先頭を切って駆け出していく。
エレナの様子がややおかしいのを見止めると、アシュベルへとその冷たい視線を移す。
察しのいいアロもその事には気づいていた、だから彼はアシュベルに皮肉交じりの牽制を遠回りに言って見せる、とてもゆっくりと念を押すように。
「エレナ様と何かあったようですね、出発前に抜け駆けとはあなたらしい、ですがこれからはそうはいかないと思ってください、わたしもですが我々よりも若い者もいる、今後はご留意していただくことは可能でしょうかね」
「・・・アロ、お前ほんとまわりくどいな」
馬を走らせながら、話をしている彼らをカリーナは目をらんらんとさせて見入っている。
「この旅自体とても楽しみだと思ったけれど、これはまた特等席でエレナの取り合いが見られるなんて役得すぎるわぁ、で、エレナは誰と付き合てってみたいとか考えているの」
あからさますぎるカリーナにエレナは何と答えていいかわからない。
「カリーナ、わたしはグラディス国の使者よ・・・ね、あなたは、その付き合った事とかあるの」
「あたし?あたしには許嫁がいるもの、とてもいいひとよ、幼馴染同然だけど気が合うの、」
「・・・え」
衝撃の事実だった、カリーナには許嫁がおりそれを彼女自身も受け入れいずれ、その許嫁と結婚をするのだ。すでに彼女の未来は決まっている、彼女に寄り添い未来を歩いていく人が決まっている。
なぜかそれを聞くとカリーナがとても大人に見えた。
そんな重大な事をもう決めていたなんて。
そして少し不安になる、自分がおいて行かれているような気がして。
「大丈夫よ、エレナ、その時がきたらわかるの」
そんなエレナの心情を察してかカリーナが目くばせをする。
「あたしは親の許嫁だから結婚するんじゃないの、この人だって思える瞬間があったから結婚することにしたのよ、でもやりたいことがあって少し待ってもらっているけど」
「そう思える瞬間てどんな感じ・・・なの」
確かな感情がそこにあるのか、エレナはアシュベルを見ながら昨日の不思議な感情と恥ずかしさを思い出す。あんな事で頭がいっぱいになることはそうあることではない。
でも確かな感情、というには曖昧過ぎる。
しかもリュカに手を握られたときも、いつもとちがう雰囲気と彼の水色の瞳に意識を奪われた。
・・・でもこれでは、気が多すぎる。
剣術を学ぶ方がとても簡単に思える。
ララやカリーナのいう恋愛というものは、形がなくつかみ取れず努力すれば見える者でもない。
厄介な難問だ。
「エレナ!分かるの、それも自然に、この人が好きだって」
「そ、そう・・」
自然にわかるものなのか、ならば今はわたしがこうも悩んでいるという事ということは、カリーナの言うそれには焦点が会ってないのかもしれない、まだその手前でわたしは選ぶべき相手を選ばれる相手を模索する道の通過点にいるのだろうか。
「恋愛や結婚は人それぞれなの、だからエレナはこれからじーっくり、そしてゆーっくりと考えればいいのよ、だって旅の目的は国同士の交流なんだから」
その方が楽しめるだろう、なにせこれから争奪戦が始まるのだから。
早まった決断をしてほしくないことも事実だが、エレナの周りで右往左往する男性陣を見るのはなかなかに感慨深い、グラディス国のみならず他国からの注目を集める貴公子たちがこぞってエレナを取り合うのだから・・・忘れていたが、エレナにはアルガノット国の王子であるカミュ殿下からも恋文を匂わせる手紙が届いていた。
あの手紙を読んだエレナはカリーナにその内容の真意を聞いてきたのだ。
カミュ殿下の手紙の内容はまさに愛を語るポエム、彼は相当ロマンチストなようだ。
だが、肝心のエレナ本人がそのことに気付いていない、カリーナはカミュに少々同情した。
そしておせっかいとは思いつつも、エレナにはもっとわかりやすくアプローチをかけた方がいいと内密に手紙でアドバイスしておいた。
隣の国とは言え、カミュには距離がある、これくらいの援助はしてあげないと・・・それから脱落者を少なくするため。
そう言えばシャルルはこの手の話になると入ってこない。
「ねぇ、シャルルはどうなの、好きな人でもいるの」
カリーナは本当に直球だ。
「さぁ、僕にはそういう事はまだ早いような気がします、今はアシュベル様のお役に立つことが一番の僕の役目だと思ってるから」
うーん、優等生のようなセリフを真顔で言えるシャルルは本気なのだろう。
そしてこういう人物があっさり皆を置いて結婚してしまうという話はよくあるケースだ。
「でもまぁ、とにかくこの旅がたのしくなることは約束されたような物ね」
カリーナはくっくっくっと笑いをこらえているようでこらえきれていない。
あのアシュベル命のアロも自分の本当の気持ちに気付いたし、リュカは奥手ではあるがするどく心に切り込んでくることもある、そしてアシュベル、炎のマナを持つ情熱的な彼は恐らく本命ではあるとは思われるが、人の気持ちは移ろいやすい、その感情を捉えて離さないものこそエレナに選ばれる人物だろう。
「そのくらいの楽しみはなくちゃね」
「カリーナは高みの見物だねー」
カリーナとシャルルが笑いあっている。
もう、なにがそんなに楽しいのやら・・・でもその笑い声はエレナのこれからの旅に期待をもたらす。
今自分自身の心で動いている、宿命という暗い迷路のような檻の中から初めて見る陽光をその目で見るように、仲間たちを眩しげに見る。これが愛おしいという気持ち、そしてこの世界でとても大切な気持ちなんだからと自覚する。
自分はこれからやっと人としての人生を送るのだ、愛や恋を知らなくても当然、それもまたきっと・・・いずれ芽生える日がくるのだろう。
これから芽生えてゆく様々な感情や気持ちを大切にしていきたい、心地のいいことばかりではないかもしれない、それでもこの先の出来事はすべて自分自身ものだ。
ジェイン神官がここにいたら、そう思う時もある。
だが、深淵で彼と交差するときがあれば、いつか様々な思いを共有したいとも思う。
そう、エレナは思う、やはりわたしは欲張りなのだ、この身に二つのマナを有していた時点で気づくべきだったのかもしれない、恐らく二つのマナを持ってこの世に送り出すような危険な賭けに、天を支配する者たちは同意などしないだろう。
わたしが強引に飛び出して行った、この世界を救うぎりぎりの賭けに出て。
話はそれてしまったが、皆の顔を見てエレナはその先に何が待っていてもこの仲間がいれば乗り越えられることを知っている。さぁ、わたしが今度は彼らを引っ張って行く番だ。
エレナは乗っている馬の首にぽんぽんと軽く叩くと「さぁ、セルを追い抜かしちゃえ!」そう言って先頭のアシュベルを引き離していく。
彼女が乗っている馬はアシュベルの愛馬であるセルの血統を濃く受け継いだ息子にあたる、セルゆずりの気性の荒い暴れ馬のカインだ。そのカインはやはり立派な軍馬で体格も良く勇ましい性格を持っているが、エレナにしか懐かないという欠点があった。
当然カインはエレナ専用のものとなる。
カインはエレナの意を汲み、その素晴らしい脚力を披露する。
「おーっと、セル、ひよっこに引けは取らないよな、猛追開始だ」
駆け抜けていく2頭の軍馬の双行は力強く美しい。
カリーナはその様子を見て小さなため息を着く。
「あの様子じゃ、まだまだね」
「いいじゃない、おふたりとも今すごくいい顔をしている、」
解き放たれ未来へはせる想い、それは誰もがどこかで経験するものかもしれない。
そして今この二人には、まさにその瞬間を体感していると言ってもいいだろう。
未来へ行く道は一つではない、だが時に迷路に迷い込むことはある。
だから仲間がいるのだ。
仲間を導いてくれるその手が。
だから、力強くその一歩を踏みだそう、まだ真っ白な未来へ。
あとがき
ここまでお付き合いしてくださった方ありがとうございました。
初めての小説を書いて思ったのは、頭で描いている物語の人物がもっと自由に動いて欲しいというジレンマにかられることに閉口しました。最初の投稿にしては長編になってしまいましたがこれを全部読んでくれた人もいるのかなぁ
と、ちょっと気になったりして・・・読んでくださったかた、本当にありがとうございます♪
次回もなにか書こうと思っていますので、また寄り道してくださいませね。
各々が荷造りを終え馬にのると、アシュベルが先頭を切って駆け出していく。
エレナの様子がややおかしいのを見止めると、アシュベルへとその冷たい視線を移す。
察しのいいアロもその事には気づいていた、だから彼はアシュベルに皮肉交じりの牽制を遠回りに言って見せる、とてもゆっくりと念を押すように。
「エレナ様と何かあったようですね、出発前に抜け駆けとはあなたらしい、ですがこれからはそうはいかないと思ってください、わたしもですが我々よりも若い者もいる、今後はご留意していただくことは可能でしょうかね」
「・・・アロ、お前ほんとまわりくどいな」
馬を走らせながら、話をしている彼らをカリーナは目をらんらんとさせて見入っている。
「この旅自体とても楽しみだと思ったけれど、これはまた特等席でエレナの取り合いが見られるなんて役得すぎるわぁ、で、エレナは誰と付き合てってみたいとか考えているの」
あからさますぎるカリーナにエレナは何と答えていいかわからない。
「カリーナ、わたしはグラディス国の使者よ・・・ね、あなたは、その付き合った事とかあるの」
「あたし?あたしには許嫁がいるもの、とてもいいひとよ、幼馴染同然だけど気が合うの、」
「・・・え」
衝撃の事実だった、カリーナには許嫁がおりそれを彼女自身も受け入れいずれ、その許嫁と結婚をするのだ。すでに彼女の未来は決まっている、彼女に寄り添い未来を歩いていく人が決まっている。
なぜかそれを聞くとカリーナがとても大人に見えた。
そんな重大な事をもう決めていたなんて。
そして少し不安になる、自分がおいて行かれているような気がして。
「大丈夫よ、エレナ、その時がきたらわかるの」
そんなエレナの心情を察してかカリーナが目くばせをする。
「あたしは親の許嫁だから結婚するんじゃないの、この人だって思える瞬間があったから結婚することにしたのよ、でもやりたいことがあって少し待ってもらっているけど」
「そう思える瞬間てどんな感じ・・・なの」
確かな感情がそこにあるのか、エレナはアシュベルを見ながら昨日の不思議な感情と恥ずかしさを思い出す。あんな事で頭がいっぱいになることはそうあることではない。
でも確かな感情、というには曖昧過ぎる。
しかもリュカに手を握られたときも、いつもとちがう雰囲気と彼の水色の瞳に意識を奪われた。
・・・でもこれでは、気が多すぎる。
剣術を学ぶ方がとても簡単に思える。
ララやカリーナのいう恋愛というものは、形がなくつかみ取れず努力すれば見える者でもない。
厄介な難問だ。
「エレナ!分かるの、それも自然に、この人が好きだって」
「そ、そう・・」
自然にわかるものなのか、ならば今はわたしがこうも悩んでいるという事ということは、カリーナの言うそれには焦点が会ってないのかもしれない、まだその手前でわたしは選ぶべき相手を選ばれる相手を模索する道の通過点にいるのだろうか。
「恋愛や結婚は人それぞれなの、だからエレナはこれからじーっくり、そしてゆーっくりと考えればいいのよ、だって旅の目的は国同士の交流なんだから」
その方が楽しめるだろう、なにせこれから争奪戦が始まるのだから。
早まった決断をしてほしくないことも事実だが、エレナの周りで右往左往する男性陣を見るのはなかなかに感慨深い、グラディス国のみならず他国からの注目を集める貴公子たちがこぞってエレナを取り合うのだから・・・忘れていたが、エレナにはアルガノット国の王子であるカミュ殿下からも恋文を匂わせる手紙が届いていた。
あの手紙を読んだエレナはカリーナにその内容の真意を聞いてきたのだ。
カミュ殿下の手紙の内容はまさに愛を語るポエム、彼は相当ロマンチストなようだ。
だが、肝心のエレナ本人がそのことに気付いていない、カリーナはカミュに少々同情した。
そしておせっかいとは思いつつも、エレナにはもっとわかりやすくアプローチをかけた方がいいと内密に手紙でアドバイスしておいた。
隣の国とは言え、カミュには距離がある、これくらいの援助はしてあげないと・・・それから脱落者を少なくするため。
そう言えばシャルルはこの手の話になると入ってこない。
「ねぇ、シャルルはどうなの、好きな人でもいるの」
カリーナは本当に直球だ。
「さぁ、僕にはそういう事はまだ早いような気がします、今はアシュベル様のお役に立つことが一番の僕の役目だと思ってるから」
うーん、優等生のようなセリフを真顔で言えるシャルルは本気なのだろう。
そしてこういう人物があっさり皆を置いて結婚してしまうという話はよくあるケースだ。
「でもまぁ、とにかくこの旅がたのしくなることは約束されたような物ね」
カリーナはくっくっくっと笑いをこらえているようでこらえきれていない。
あのアシュベル命のアロも自分の本当の気持ちに気付いたし、リュカは奥手ではあるがするどく心に切り込んでくることもある、そしてアシュベル、炎のマナを持つ情熱的な彼は恐らく本命ではあるとは思われるが、人の気持ちは移ろいやすい、その感情を捉えて離さないものこそエレナに選ばれる人物だろう。
「そのくらいの楽しみはなくちゃね」
「カリーナは高みの見物だねー」
カリーナとシャルルが笑いあっている。
もう、なにがそんなに楽しいのやら・・・でもその笑い声はエレナのこれからの旅に期待をもたらす。
今自分自身の心で動いている、宿命という暗い迷路のような檻の中から初めて見る陽光をその目で見るように、仲間たちを眩しげに見る。これが愛おしいという気持ち、そしてこの世界でとても大切な気持ちなんだからと自覚する。
自分はこれからやっと人としての人生を送るのだ、愛や恋を知らなくても当然、それもまたきっと・・・いずれ芽生える日がくるのだろう。
これから芽生えてゆく様々な感情や気持ちを大切にしていきたい、心地のいいことばかりではないかもしれない、それでもこの先の出来事はすべて自分自身ものだ。
ジェイン神官がここにいたら、そう思う時もある。
だが、深淵で彼と交差するときがあれば、いつか様々な思いを共有したいとも思う。
そう、エレナは思う、やはりわたしは欲張りなのだ、この身に二つのマナを有していた時点で気づくべきだったのかもしれない、恐らく二つのマナを持ってこの世に送り出すような危険な賭けに、天を支配する者たちは同意などしないだろう。
わたしが強引に飛び出して行った、この世界を救うぎりぎりの賭けに出て。
話はそれてしまったが、皆の顔を見てエレナはその先に何が待っていてもこの仲間がいれば乗り越えられることを知っている。さぁ、わたしが今度は彼らを引っ張って行く番だ。
エレナは乗っている馬の首にぽんぽんと軽く叩くと「さぁ、セルを追い抜かしちゃえ!」そう言って先頭のアシュベルを引き離していく。
彼女が乗っている馬はアシュベルの愛馬であるセルの血統を濃く受け継いだ息子にあたる、セルゆずりの気性の荒い暴れ馬のカインだ。そのカインはやはり立派な軍馬で体格も良く勇ましい性格を持っているが、エレナにしか懐かないという欠点があった。
当然カインはエレナ専用のものとなる。
カインはエレナの意を汲み、その素晴らしい脚力を披露する。
「おーっと、セル、ひよっこに引けは取らないよな、猛追開始だ」
駆け抜けていく2頭の軍馬の双行は力強く美しい。
カリーナはその様子を見て小さなため息を着く。
「あの様子じゃ、まだまだね」
「いいじゃない、おふたりとも今すごくいい顔をしている、」
解き放たれ未来へはせる想い、それは誰もがどこかで経験するものかもしれない。
そして今この二人には、まさにその瞬間を体感していると言ってもいいだろう。
未来へ行く道は一つではない、だが時に迷路に迷い込むことはある。
だから仲間がいるのだ。
仲間を導いてくれるその手が。
だから、力強くその一歩を踏みだそう、まだ真っ白な未来へ。
あとがき
ここまでお付き合いしてくださった方ありがとうございました。
初めての小説を書いて思ったのは、頭で描いている物語の人物がもっと自由に動いて欲しいというジレンマにかられることに閉口しました。最初の投稿にしては長編になってしまいましたがこれを全部読んでくれた人もいるのかなぁ
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