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第二章
第十七話 愛するってどういうことですか?
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「ねぇ、アシュは恋をしたことがある?」
「え・・・」
突然のエレナの発言に、執務室で書類をかいている手がとまる。
まさかエレナが恋煩い・・・何気に平静を保てず動揺をあらわにするが、エレナは窓の外を見ている。
「そ、そうだね、俺も25だし、それなりには」
「じゃあ、誰かを愛したことがあるの?」
思わずインクを机にぶちまける、ああ、情けない。
執務室には二人しかいない。アシュベルは時折第一近衛隊隊長として、部下たちから受けた報告や伝達事項を確認するため、一日執務室にこもることがある。エレナは書類の整理を手伝っていたが、なんの前触れもなく先ほどの爆弾発言をしてきた。
「彼は、セーデルは母上を愛していたと言ったの、でも殺したわ・・・」
ああ、そういうことか、とアシュベルが平常心を取り戻す。
「でも母上はわたしを庇ってセーデルに殺されてしまったの、本当は殺すつもりはなかったみたい、」
窓の外に目を向けたままエレナはこちらを見ようとしない。
「ひとつ言っておくけど、王妃様はヒメちゃんのせいで亡くなったんじゃない、セーデルが殺したんだ」
はっきりとアシュベルは言う。
自分のせいで誰かが傷つくのは、彼女が一番願わないことだ。
「でもわたしさえあの時光のマナを覚醒させなかったら・・・!」
エレナの声が震えている、ずっと言葉にせず抱え込んでいたのか、それに気づかない自分自身にアシュベルは苛つく。
「記録では賊がやったと思わせる様々な工作がされているのが見て取れた、これは用意周到に仕組まれていた事なんだ、とても衝動的に行われた犯行とは思えない。ごめんもっと早くにこの事を言っておけばよかったね、ヒメちゃんにはその時の記憶があるし、今更詳細な記録を見るのは精神的にきついかと思って・・・」
「そっか、事前に仕組まれていた事なのね」
セーデルは揺さぶりをかけてきていたのか、まんまとひっかかり目的を見失う所だった。
でも、母上を愛していたと言ったセーデルの顔は、見たこともない青年のような表情をしていた。
「ジュール国王とマリアンヌ王妃、それとセーデルの関係について知りたいって言ってたよね」
「ある人に当てがあるって言ったの覚えてる?今から行こう」
「え、いいの?」
初めてエレナがこちらへ振り向く。
「報告書は読み終えたし、おおかた問題はない。俺独自で下調べをしてたんだけど情報がなかなか集まらなくって。ちょっと曲者だからヒメちゃんも覚悟してね」
「それに、」
アシュベルの赤い瞳が濃く深くなっていく。
「愛するって、そんな身勝手なものじゃない、俺はそう思う」
愛すること・・・それは無償でなければならないとアシュベルはおもう。
奪い取る愛もあるかもしれない、傷つけあう愛もあるかもしれない、でも愛する相手の幸せを壊すのは間違っているんじゃないかと。
もしも、エレナが自分以外の誰かと ―――――― 。
想像するだけで心がちぎれそうになる。
恋はいつしか愛になっていた、この人を失いたくない。
けれど一番嫌なのはエレナが悲しむこと、だから俺は彼女を守る、今はその一点に気持ちを置く。
アシュベルとエレナは馬に乗り、城を出て王都からも出て行く。
「ちょっと急ぐよーちゃんとついて来てねヒメちゃん!」
まだ誰に会いに行くのか、アシュベルからは聞けていないが、彼の表情から見てあまり会いたくない人の様だ。エレナは申し訳なくも思うが、あの事件の経緯を確かめておきたいと思いアシュベルの好意に甘える。
夕暮れ、到着したところはあまりにも大きく立派な屋敷の前。
手入れが行き届き隅々まで新しく見えるが、ところどころ修復されているような跡があり、代々受け継がれてきたことがわかる。屋敷の前に広がる庭園も、まるで今造園されたかのように細やかな仕事が見て取れる。この屋敷の主人は相当几帳面な性格の様だ。
そして、それを見てアシュベルは辟易とした顔を隠すことなくあらわにしている。
「ようこそ、俺の実家に、」
ここはアシュベルが18歳になるまで暮らしたオーギュスト公爵の屋敷だ。
とすると彼が会いたくない、曲のある人物というのはアシュベルの父親、その人だ。
使用人が出てきてアシュベルらを出迎える。
「父上は?」
「書斎にいらっしゃいます、お目通りいたしますか?」
「ああ、頼む」
この屋敷に到着してからアシュベルがびりびりしているのがわかる。
「え・・・」
突然のエレナの発言に、執務室で書類をかいている手がとまる。
まさかエレナが恋煩い・・・何気に平静を保てず動揺をあらわにするが、エレナは窓の外を見ている。
「そ、そうだね、俺も25だし、それなりには」
「じゃあ、誰かを愛したことがあるの?」
思わずインクを机にぶちまける、ああ、情けない。
執務室には二人しかいない。アシュベルは時折第一近衛隊隊長として、部下たちから受けた報告や伝達事項を確認するため、一日執務室にこもることがある。エレナは書類の整理を手伝っていたが、なんの前触れもなく先ほどの爆弾発言をしてきた。
「彼は、セーデルは母上を愛していたと言ったの、でも殺したわ・・・」
ああ、そういうことか、とアシュベルが平常心を取り戻す。
「でも母上はわたしを庇ってセーデルに殺されてしまったの、本当は殺すつもりはなかったみたい、」
窓の外に目を向けたままエレナはこちらを見ようとしない。
「ひとつ言っておくけど、王妃様はヒメちゃんのせいで亡くなったんじゃない、セーデルが殺したんだ」
はっきりとアシュベルは言う。
自分のせいで誰かが傷つくのは、彼女が一番願わないことだ。
「でもわたしさえあの時光のマナを覚醒させなかったら・・・!」
エレナの声が震えている、ずっと言葉にせず抱え込んでいたのか、それに気づかない自分自身にアシュベルは苛つく。
「記録では賊がやったと思わせる様々な工作がされているのが見て取れた、これは用意周到に仕組まれていた事なんだ、とても衝動的に行われた犯行とは思えない。ごめんもっと早くにこの事を言っておけばよかったね、ヒメちゃんにはその時の記憶があるし、今更詳細な記録を見るのは精神的にきついかと思って・・・」
「そっか、事前に仕組まれていた事なのね」
セーデルは揺さぶりをかけてきていたのか、まんまとひっかかり目的を見失う所だった。
でも、母上を愛していたと言ったセーデルの顔は、見たこともない青年のような表情をしていた。
「ジュール国王とマリアンヌ王妃、それとセーデルの関係について知りたいって言ってたよね」
「ある人に当てがあるって言ったの覚えてる?今から行こう」
「え、いいの?」
初めてエレナがこちらへ振り向く。
「報告書は読み終えたし、おおかた問題はない。俺独自で下調べをしてたんだけど情報がなかなか集まらなくって。ちょっと曲者だからヒメちゃんも覚悟してね」
「それに、」
アシュベルの赤い瞳が濃く深くなっていく。
「愛するって、そんな身勝手なものじゃない、俺はそう思う」
愛すること・・・それは無償でなければならないとアシュベルはおもう。
奪い取る愛もあるかもしれない、傷つけあう愛もあるかもしれない、でも愛する相手の幸せを壊すのは間違っているんじゃないかと。
もしも、エレナが自分以外の誰かと ―――――― 。
想像するだけで心がちぎれそうになる。
恋はいつしか愛になっていた、この人を失いたくない。
けれど一番嫌なのはエレナが悲しむこと、だから俺は彼女を守る、今はその一点に気持ちを置く。
アシュベルとエレナは馬に乗り、城を出て王都からも出て行く。
「ちょっと急ぐよーちゃんとついて来てねヒメちゃん!」
まだ誰に会いに行くのか、アシュベルからは聞けていないが、彼の表情から見てあまり会いたくない人の様だ。エレナは申し訳なくも思うが、あの事件の経緯を確かめておきたいと思いアシュベルの好意に甘える。
夕暮れ、到着したところはあまりにも大きく立派な屋敷の前。
手入れが行き届き隅々まで新しく見えるが、ところどころ修復されているような跡があり、代々受け継がれてきたことがわかる。屋敷の前に広がる庭園も、まるで今造園されたかのように細やかな仕事が見て取れる。この屋敷の主人は相当几帳面な性格の様だ。
そして、それを見てアシュベルは辟易とした顔を隠すことなくあらわにしている。
「ようこそ、俺の実家に、」
ここはアシュベルが18歳になるまで暮らしたオーギュスト公爵の屋敷だ。
とすると彼が会いたくない、曲のある人物というのはアシュベルの父親、その人だ。
使用人が出てきてアシュベルらを出迎える。
「父上は?」
「書斎にいらっしゃいます、お目通りいたしますか?」
「ああ、頼む」
この屋敷に到着してからアシュベルがびりびりしているのがわかる。
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