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第二部 魔王と少年トントン(更新中)

第17話 飛竜 その8

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 さて。今の俺の目の前には2つの選択肢がある。

 一つは、大げさに剣を振りかぶったモーションで、衝撃波を伴った全力の斬撃をワイバーンのやつにお見舞いする。これは王都のコロシアムで黒き獅子テトカポリカの首を何度も切り落としたあの技である。

 少し大袈裟だが、こいつでワイバーンの翼を切り落とせば、後はアブラムシの様に地面を這い回るだけのザコに成り下がる。

 見た目のインパクトを求めるなら断然こちらだ。邪神と対峙した時は飛距離やための時間に少し難はあったが、あの頃より格段にレベルアップした今は違う。飛距離も溜の時間もあの時の比ではない。

 弟子たちは、その威力とスピードを見て「流石は師匠!」と尊敬の眼差しを俺に向けるに違いない。ただ、一つ難点を言えば、妹のレイラもこの技が使えてしまうと言うのが問題だ。その点において多少の不安が残る。


 だったら妹が使えない技と言うことで……。

 もう一つは最小限の動きでソニックブームを起こしてしまうほど高速の玉を発射する、俺の得意技『弾指《だんし》』だ。これは玉に込める『気』のコントロールが非常に難しい技で、レイラもまだ使いこなせてはいない。

 一方で、エデンがそこそこ使いこなしてしまうのだが……そこは無視だ。なんせ俺は、こいつから尊敬されたり師匠と呼ばれる事などはもう諦めちゃってるからな。

 いっちょここは、俺が最大級の『指弾』ってやつをお見舞いしてやるというのも面白い。確か以前、憑き物に乗っ取られかけたドーマの剣を粉々に砕いたのもこの技だった。でも……今の全力ならもっと面白いことが起こるぜ……。

 などなど……。常に己の強さを見せびらかそうとするのは俺の悪い癖だ。

 なんせここは『妹の晴れ舞台』なのである。ならば俺は一歩後ろに控えて妹に花を持たせるのがよろしかろう。


 と言うことで、俺はおもむろに地面から取り上げた石粒二つにの力を込めてから、今か今かと待ち構えている妹に向かって声をかける。

「いいかレイラ。今からこいつを地面におとすぞ!」

「うん。お願い!」

 すかさず、妹からそんな言葉が帰って来る。そして俺は前方に突き出した二本の親指を、いにしえのコメディアンよろしく二本同時にと鳴らした。その名も『ダブル指(弾)パッチン!』

 次の瞬間。上空で急降下するチャンスを伺っていたワイバーンの両翼の真ん中に大きな穴が二つ空いた。

 必死に羽ばたけども風を掴む事が出来ず、ワイバーンのそのアフリカ像の様に大きな身体は虚しく地面へと真っ逆さまに落ちていく。もちろんその落下地点にて待ち構えているのは我が愛弟子レイラである。頭上高くに剣を構えて静かにその瞬間を待つ構えは、まさにテトカポリカの首を何度も切り落としたあの大技だ。

 そして「えいっ!」とばかりに振り下ろされた剣の斬撃によって、ワイバーンの身体は地面に落ちるのを待たずして、空中で真っ二つに切り裂かれた。

 ギャオーーーン

 ワイバーンの断末魔の叫びが辺り一帯の山々にこだまする。


 かくして、俺達兄妹の長年の夢は達成された……。

 だが余りにも呆気ない。おそらくそれを一番噛み締めているのは目の前にいるレイラに違いない。かつての英雄『千年救敗』もその晩年は、強くなりすぎたがゆえの孤独と常に戦っていたと言う。

 レイラは、まだ戦い足りないといった様子で、手にした剣を再び強く握りしめた。

 しかし今はその剣を向ける相手もいない。

 そして……何を思ったか突然全速力で駆け出したレイラの姿を俺は黙って見送った。やり場のない気持ちをどうしていいかわからずにやみくもに走り出す。そんな青春。少し古い気もするが俺は嫌いじゃないよ。

「そう思わないか?君たち……。」

 妹の姿を見送った俺は、そう言って振り返る。もちろんそこには俺達の戦いっぷりを見ていた二人の弟子たちが、俺に向って熱い視線を………。

 送っていなかった。

 何故だろう……。

 二人の弟子たちのその視線は俺を通り越し、妹が駆けていった山の稜線へとむけられていたのである。
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