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第一部 剣なんて握ったことの無い俺がでまかせで妹に剣術を指導したら、最強の剣聖が出来てしまいました。

第77話 a.k.a 千年求敗 その4

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 こんなボロボロの身体になってまで……。兄は今、いったい何をやりたいのだろうか――

 突然、得体の知れない技を身につけてカイルはレイラの前にやって来た。そして彼の使う技はどれも初めて見るものばかりで正直に言うと彼女は腹を立てていた。

 自分を置いて、一人だけ先に進んで……。共に学ぼうって約束したはずなのに――

 初めはそう思っていた。

 しかし、邪神と兄の闘いを見て、そして共に闘ってレイラには一つ気がついた事がある。それは……。兄には「千年九剣とは別に、どうしてもやりたい技がある」と言う事だった。

 あの魔力結界の中で見せた、兄の必死な姿……。あれはいったい何をしようとしていたのだろうか。何度も失敗してそれでももう一度チャレンジする、レイラはあんなに必死になってまで技に打ち込む兄の姿を今まで見たことが無かった。

「お兄ちゃん……」

 レイラはカイルの右手に、そっと自分の両手を添えて、まだ意識の戻らない兄にゆっくりと語りかけた。

「お兄ちゃんは、あの技がどうしてもやりたかったんだよね……。ねぇ、もし良かったら、代わりに私がやってあげるよ……」

 兄が夢見た技を、兄の代わりに自分がやって見せる。

 それが、レイラの出した答えだった。

 もちろんその言葉はカイルにも届いていた。

 身動き一つ出来ない身体で、できる事など何一つ無い。だが、身体は動かなくても大量に蓄えた気の力を譲る事は出来る。兄は妹のその言葉を、ずっと待っていたのだ。


 レイラの言葉に応えるかのようにカイルの気がもう一段強くなった。もちろんそれは了解の合図だ。

 もう既にレイラには受け入れる準備が出来ている。

「だから……。私に、お兄ちゃんの気の力を全部ちょうだい!」



  
 …………


 そして、この悪夢のような邪神テスカポリカとの闘いは、兄から力を譲り受けた剣聖レイラによって、終止符がうたれたのである。

「おのれ、千年求敗……またしても私の邪魔をすると言うのか……」

 それは、邪神テスカポリカが再びドーマの身体に封印される間際に残した言葉であった。

「えっ?千年求敗って誰が?」

 戸惑った様な顔を見せるレイラを、その場にいた全員が笑顔で見つめていた。

「私?」

 自分を指さして、尚も戸惑うレイラに皆んなが一様に頷く。この場面で、邪神がそう言ったのなら間違いない。

 剣聖レイラ。彼女こそが、この世界に新たに誕生した千年求敗………なのである。

 しかし……その喜びの横で、兄の意識はやり切った実感と共に、今度こそ二度と戻ることの出来ない遠い世界へと旅立っていった………。


 
はずだったのだが………。
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