上 下
42 / 111
第一部 剣なんて握ったことの無い俺がでまかせで妹に剣術を指導したら、最強の剣聖が出来てしまいました。

第42話 帰ってきたカイル その4

しおりを挟む
 さて、俺はそんな事をエデンはとっくに知っていると思っていたんだけど……。俺の説明を聞いたエデンがなぜだか少し驚いたような表情を見せるんだ。

「どう言う事だい?お仕置きするんじゃ無かったのか?」

 キョトンとした顔で、そう言われた時。俺ははたと気が付いた。

 そうだった……。

 そう言えば、いつも二言目には文句ばかりのエデンが面倒で、俺は思わず都合のいい説明だけをして、ずっとお茶を濁していたんだった。

 だって、エデンのやつはいつも金をほしがってるしさ……。それに俺の妹レイラにもちょっと……ライバル心ってやつ?抱いちゃってるから……。

「い、いや。俺だって第一試合が終わるまではお前を優勝させるつもりだったんだよ。それでね、そのついでって言ったら語弊があるかもしれないけどさ……。優勝したら、ほら。最後にレイラと闘うわけじゃん。その時にさ、お前も使えるようになった『気』の力ってやつを、レイラにチョットだけ教えてやれたらなぁ~って」

「チェッ。やっぱり俺を利用しようとしてたんじゃねえか。まぁなんとなくは分かってたけどさ。でも正直俺は、賞金がもらえて、あの死神の姉ちゃんに仕返し出来るって言うから、おっさんの提案に二つ返事でOKしたんだぜ」

「それは知ってる。だからこそこうして頭を下げてるんじゃないか。頼むよ今回だけはあのダークエルフに負けてくれ」

 俺は、今日何度下げたか分からない頭を、もう一度エデンに向かって深々と下げた。いやはや、これじゃどっちの立場が上か分からんよね……。

 でも心配は無用。こいつが大人しく話しさえ聞いてくれればこっちのものなのよ。ちょいちょいってエデンのライバル心ってやつをくすぐってやれば、直ぐに言う事を聞くようになるから。

 まぁ、その為に頭を下げることなんて安いもんなのだ。

「すまん。今回ばかりはどうしても譲れない。だって、あのドーマと言う女が最後に使った技……。俺は、あの技をどうしても妹のレイラに会得させたいんだよ」

 さぁ、どうだい?

 エデン、お前よりも、俺は妹の修行の方にご執心だぞ。なんてね……。そうはっきり言う事によってまずはエデンの心にジェラシーという楔《くさび》打つ。そうすればエデンは絶対に俺の話に乗らなきゃならなくなる。

 だからこの時、エデンの目の色が変わったのは当然だったのだ。

「技だって?ありゃ単にあの女がスピードのリミットを外しただけだろう?」

「違うぞエデン。ちゃんと見ていたか?あれは絶対に何かの技を使っている。それは俺の確信と言ってもいい」

「それじゃぁおっさんは、まずは俺が試しに闘って、あの女の技を全て引き出せと?そんで、それが終わったらとっとと負けろと?」

「うんうん。察しがいいね。良くわかってるじゃないか。それでこそ俺の弟子だぞエデン君」

 俺はしめたとばかりにエデンの言葉に相槌をうった。

 しかし彼の直感が、さすがにそれでは都合が良すぎると思ったのだろう。すかさず最後の抵抗を試みる。

「だったら、俺は嫌だ。だって、それじゃあ俺はただのカマセみたいだろ?賞金だってもらえないんじゃぁ俺に何の得もないじゃんか」

 まぁ確かにそれは正論だ。だけど俺はエデンをそんな捨て駒の様に扱う気はさらさら無い。
 エデンのやつはまだまだ反抗期が終わって無いからこんなひねくれた事を考える。

 俺の本心はなぁ、あのドーマ=エルドラドを利用して、エデンとレイラ、この二人の弟子を共に成長させる事にあるんだよ。

「本当にそう思うかい?」

 俺は、今までとは打って変わって、真剣な眼差しでエデンを見つめた。

「えっ?」

「本当にお前に得が無いかと聞いているんだ」

 と、その言葉でエデンの顔つきが変わる。やはりこの少年も正真正銘俺の弟子なのである。俺の言葉に利があることにようやく気が付き始めたようだ。

「実はな。ここだけの話。あのドーマと言うダークエルフが使っているわざは『魔力』じゃ無いかと俺は見ているんだ」

 さて、ここからが今回の話のまさに本題であった。

「まさか……。魔力って言えば手から炎や冷気を出したりするあれだろ?」

「それは魔力ではない。魔力を具現化する為の魔術や魔法と言うものだ」

「そんなのどっちでもいいよ。魔法だか魔術だか知らないけどさ。あんなもん会得したって何の意味も無いって言ってたのはおっさんの方だろう?」

「確かにな。魔法は発動に時間がかかりすぎる。それに動いてる相手にぶつけるってのが相当難しい。それこそ当てられない連射出来ないの二重苦だ。だったらそこらへんに落ちてる礫《つぶて》を投げる練習をしたほうがよっぽどましだよ」

「ほら。魔法なんて頭の悪い獣《ケモノ》ばっかり相手にする冒険者にしか似合わないって……おっさんはいっつもそう言うじゃん」

「いや。それは間違って無い。でもな。あの女が使った技はそんな子ども騙しで役立たずな物では無いんだよ。俺はあの女が『身体強化魔法』ってやつを使ったんじゃないかと踏んでるんだ」

「なんだよ?その身体ナントカってやつは……」

 もちろんエデンはその不思議な言葉を初めて聞いた。

 だけど、現代日本のファンタジー世界でのソレは、あまりにも有名で超ご都合主義の権化のような、運動能力を向上させる超便利な支援魔法だ。もし、そんなものがこっちの世界でも使えるようになるなら……。
 
 だからこのチャンスは絶対にのがしてはならんのだ。

「ナントカじゃ無い。『身体強化魔法』だよ。たぶんあのダークエルフは自らの身体に魔法をかけて身体能力を底上げしてるんだ」

「まぁ、こう言う時のおっさんのはほとんどが当たるから俺も疑いはしないけどさ……。俺、そんな魔法なんか初めて聞いたぜ。『気』にしてもそうだったけど」

「それはほら。俺がいっつも言ってるだろう?」

「あっちの世界……」

 エデンが呆れたように俺の言葉を先取りする。

「それそれ。だからほら。お前は『気』が使えて、その上身体強化魔法の秘訣まで知ることが出来るんだぞ。それで俺の妹より一歩先を行く事になるじゃないか」

 もちろん俺の説明は根拠も理論もあった物ではなかった。だってさ俺は今、魔法の話をしながら自分自身は魔力なんて一切感じた事無いんだぜ。
 それなのに俺の弟子たちときたら、何故か俺の言葉を信じ切ってくれるんだ。

「まぁ分かったよ。おっさんがそう言うんだったら今回だけ言う事を聞いてやる」

 あんなに反抗的だったエデンが最後にはそんな可愛い事を言っていた。まったくこいつときたら本当に素直じゃ無いんだから……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

 女を肉便器にするのに飽きた男、若返って生意気な女達を落とす悦びを求める【R18】

m t
ファンタジー
どんなに良い女でも肉便器にするとオナホと変わらない。 その真実に気付いた俺は若返って、生意気な女達を食い散らす事にする

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

処理中です...