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第一部 剣なんて握ったことの無い俺がでまかせで妹に剣術を指導したら、最強の剣聖が出来てしまいました。

第9話 カイル 明日のために…… その4

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「うっ、う~ん」

「うぐぐぐぐぐ~」(変な声出た)

「はぁ~」

 秋の朝は夏と違ってちょっとひんやり。そしてどこまでも空気が澄んでいる。

 俺と妹は村の外れにある泉の前で、ようやく山の合間から顔を出したお日様の光を浴びて、仲良く一緒に精一杯の伸びと深呼吸をした。

「さて、始めるか」

 とうとうこの時がやって来た。これから始まる修行。伝説の剣聖に近付く第一歩は、まず目を鍛える事に始まる。

 良くバトル漫画とかにあるでしょ。

「お、お前。今の攻撃見えたか?」

「いや、俺には全然見えなかった……」

 あれですよ、あれ。

 あれって大抵、漫画では素早いやつとか強いやつにしか見えないんです。でもさぁ~、おかしくないです?

 あの世界観って、見えるイコール避けられる、反応出来るの世界だから、キャラクターの強さの尺度を図るにはとっても分かりやすいんだけど……。あれって、間違いなく動体視力でしょ。
 動体視力って、強く無くても鍛える事出来るよね。

 ってことで、俺はまず妹に見える達人になって貰おうって言うわけ。動体視力を鍛えるだけなら、怪我とか絶対にしないじゃん。

 そして、あわよくばこの第一段階で挫折して俺のドラゴン退治なんかも、どうでも良くなってくれれば……なんてね。

 それで、俺が選んだ修行場所は、この泉ってわけ。




 ん?なんで泉かって?そりゃあれですよ。秋の水辺とくりゃ………。ほら、下ばかり見てないで顔を上げて。

 たくさんいるでしょ。むちゃくちゃ素早いやつらが。そう、赤トンボだ。つまり、今から妹には、この赤トンボの数を全部数えて貰おうってわけさ。

 まぁ~出来るわけない。本当。どう考えても無理でしょ。だってみんなトンボだし、ひっきりなしに動いてるし、五十匹?百匹?俺には見当すらつきません。



 だから、俺が妹にトンボの数を数えろって言ったらキョトンとしてたよ。でもやっぱりそこは八歳の女の子。俺が出来ると言ったら信じちゃうんだよなぁ……。

「いち、にぃ、さん……よん……。あぁ~そっちに行っちゃ駄目だって」

 慌ててもう一度数え直して

「いち、にぃ、さん……」

 まずは指差し確認で一匹ずつ数えようと試みる妹。当然そんな数え方じゃあ無理なんだけど根気だけはあるから、何回でも試すわけ。なんとか十までは行けるみたいだけど、それ以上はやっぱり無理でやり直し。俺もさすがに健気過ぎて可哀想になってくる。

 しまいには、数字を数える声が涙ぐんできた。

「あゝもう……ストップ。ストップ~!」

 俺のほうが耐えられないわ。

「だって……トンボが動くから……」

 目にいっぱいの涙をためた妹が、それでも、もう一度最初っから数えようと涙を拭う。


 あぁ~。俺が本当に剣の達人だったら、こんなふうに妹を泣かせずにすんだと言うのに。(俺がついた嘘のことはもう忘れてくだだい……)
 でもまぁ、八歳児なんてこんなものですよ。こうなることは最初っから分かってました。だって兄妹なんですもの。

 だから。もちろん次の手も用意してますよ。このトンボは『かまし』ってやつです。修行の大変さを伝える為に私が妹に一発かましたったわけです。


 さて、そこで、取り出しましたるたくさんのカラフルな石。妹が寝ている間に私が頑張って色を塗りました。五色に色分けして百個ほど袋に入ってます。

 それを袋の中で混ぜ混ぜして、片手で握れるだけ握ったら……。地面にポイッと放り投げます。

「さて。全部で何個ある?」

 トンボを数えるのを中断して、俺がなにかを始めようとしていたのを横で見ていた妹。突然振られてちょっと驚いたみたいだったけど、すぐにこれは修行なんだと理解したようだ。

「いち、に、さん、し、ご……」

 あくまでも指差しだけど、数えるのがさっきよりも早い。まぁ当たり前っちゃぁ当たり前。だって石は動かないしね。


 でもさぁ、そんなことが修行になるなんて思ってる奴いねぇよなぁ~。


 俺は、妹がまだ数え終わらないうちに、その石を拾い始める。そして少し厳しめの口調でこう言った。

「おい。それでは駄目だ。これは修行だぞ。普通に数えてどうするんだ?」

 さてさて、ここからが修行の本番ってわけ。妹はどう言うこと?って顔をしてるけど、この目を鍛える修行は、まずはこのカラフルな石の数を一瞬で数える練習から始まる。それこそが(わたしの考えた)剣聖への第一歩なのだ。
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