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第八章 たたかうこと、前にすすむこと
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それ以降、佐中さんは、坂詰さん達に反抗するようになった。
私たちの作戦通りに動いてくれている。
国弘さんの席に来るのは坂詰さんだけになって、後ろの席の梨菜への圧迫感も少し薄れた。
相変わらず、梨菜への嫌がらせめいたことは続いている。
授業中のプリントは、やっぱり回ってこないらしい。
ただ、落書きの回数は減っているし、梨菜の靴箱から靴がなくなることがなくなった。
私たちが、坂詰さんと国弘さんを見ているからだろう。
無理に実行犯をやらされていた佐中さんは、もう二人には近づいていない。
今の坂詰さんには、始末しなければいけない人間が五人いる。
最初からターゲットだった梨菜。
その梨菜を庇う私。私の友人の美玖と鞠絵。
そして、裏切者の佐中さん。
つまり、完全なオーバーワークなのだ。
数で勝つ――これが私たちの作戦だった。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
草木も眠る丑三つ時。
当然、学校の正門は施錠されている。
私と梨菜は、裏門でひっそりと落ち合った。
「よし……行くか」
「う、うん……!」
梨菜に手伝って貰いつつ、裏門を乗り越える。
荷物があるのでぶつけないように気を付けながら。
校舎の窓が半分開いたままになっていることを確かめて、そこから中に侵入した。
電気を点けたりしたら、バレちゃう。
はぐれたりしないように、梨菜と手を繋いで歩いた。
真っ暗な廊下は、月明りだけが頼りだ。
歩きながら、私は小声でささやきかける。
「月って、こんなに明るいんだね」
「お、おう……」
いつになく緊張した声が返ってきたので、びっくりして梨菜の顔を覗き込む。
「な、なんだよ、何かいたか!?」
「そうじゃないけど。梨菜、もしかして暗いところって苦手?」
「に、苦手でもねーけど……ほら、学校ってさ、なんか色々いる、みたいな映画あるじゃん……」
「『学校の怪談』とか?」
小さい頃に、お母さんが買って来てくれた映画だ。
邦画なので、おばあちゃんは興味がなさそうだったけれど、私につきあって一緒に見てくれた。
子ども向けだったので、今思えば、それほど怖いおばけは出てこなかったのだけれど、ばあっといきなり出てくるシーンなんかは、やっぱりドキドキしたっけ。
小学生たちが廃校舎を入り口に異界に迷い込み、そこから脱出するまでというストーリーは単純だけど、小学生のほのかな悲恋や先生の事情とか面白いところがあって、今も好きだったりする。
そんなことを思い出していると、梨菜が辺りをきょろきょろ見回しつつ尋ねてきた。
「お、お前……邦画は見ないんじゃなかったのか?」
「もともと、映画自体がおばあちゃんが見てるから見てる、くらいだしね。あの、テケテケとか可愛くて笑っちゃう……きゃっ!?」
突然、梨菜がぎゅっと私の腕を掴む。
びっくりして軽い悲鳴をあげたけれど、すぐに、梨菜の方が怖がっているということに気付いた。
すごいへっぴり腰になってるし……。
「あの、もしかして……怖いの?」
「こ、怖い訳じゃ、ねーけど!」
「あ、そう? なんか意外だね。昼間、計画を話してるときは平気そうにしてたのに」
「そりゃあんた、めちゃくちゃ我慢してたんだよ……!」
「我慢せずに言ってくれても良かったのに。そうしたら……」
「そうしたらあんた、美玖や鞠絵を誘うだろ。わたしのことなのに、あんたらばっかにやらせられないじゃん!」
「梨菜……」
言葉は格好いいけど、姿勢は生まれたての小鹿みたいだ。
そっちを見てると反射で笑いそうになるので、私はまっすぐ前を見ることにした。
情けなく見えたって、勇気が出せるならその方がいいじゃない。
私の勇気だって、誰かにとってはきっと笑えるようなものだろうし。
私たちの作戦通りに動いてくれている。
国弘さんの席に来るのは坂詰さんだけになって、後ろの席の梨菜への圧迫感も少し薄れた。
相変わらず、梨菜への嫌がらせめいたことは続いている。
授業中のプリントは、やっぱり回ってこないらしい。
ただ、落書きの回数は減っているし、梨菜の靴箱から靴がなくなることがなくなった。
私たちが、坂詰さんと国弘さんを見ているからだろう。
無理に実行犯をやらされていた佐中さんは、もう二人には近づいていない。
今の坂詰さんには、始末しなければいけない人間が五人いる。
最初からターゲットだった梨菜。
その梨菜を庇う私。私の友人の美玖と鞠絵。
そして、裏切者の佐中さん。
つまり、完全なオーバーワークなのだ。
数で勝つ――これが私たちの作戦だった。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
草木も眠る丑三つ時。
当然、学校の正門は施錠されている。
私と梨菜は、裏門でひっそりと落ち合った。
「よし……行くか」
「う、うん……!」
梨菜に手伝って貰いつつ、裏門を乗り越える。
荷物があるのでぶつけないように気を付けながら。
校舎の窓が半分開いたままになっていることを確かめて、そこから中に侵入した。
電気を点けたりしたら、バレちゃう。
はぐれたりしないように、梨菜と手を繋いで歩いた。
真っ暗な廊下は、月明りだけが頼りだ。
歩きながら、私は小声でささやきかける。
「月って、こんなに明るいんだね」
「お、おう……」
いつになく緊張した声が返ってきたので、びっくりして梨菜の顔を覗き込む。
「な、なんだよ、何かいたか!?」
「そうじゃないけど。梨菜、もしかして暗いところって苦手?」
「に、苦手でもねーけど……ほら、学校ってさ、なんか色々いる、みたいな映画あるじゃん……」
「『学校の怪談』とか?」
小さい頃に、お母さんが買って来てくれた映画だ。
邦画なので、おばあちゃんは興味がなさそうだったけれど、私につきあって一緒に見てくれた。
子ども向けだったので、今思えば、それほど怖いおばけは出てこなかったのだけれど、ばあっといきなり出てくるシーンなんかは、やっぱりドキドキしたっけ。
小学生たちが廃校舎を入り口に異界に迷い込み、そこから脱出するまでというストーリーは単純だけど、小学生のほのかな悲恋や先生の事情とか面白いところがあって、今も好きだったりする。
そんなことを思い出していると、梨菜が辺りをきょろきょろ見回しつつ尋ねてきた。
「お、お前……邦画は見ないんじゃなかったのか?」
「もともと、映画自体がおばあちゃんが見てるから見てる、くらいだしね。あの、テケテケとか可愛くて笑っちゃう……きゃっ!?」
突然、梨菜がぎゅっと私の腕を掴む。
びっくりして軽い悲鳴をあげたけれど、すぐに、梨菜の方が怖がっているということに気付いた。
すごいへっぴり腰になってるし……。
「あの、もしかして……怖いの?」
「こ、怖い訳じゃ、ねーけど!」
「あ、そう? なんか意外だね。昼間、計画を話してるときは平気そうにしてたのに」
「そりゃあんた、めちゃくちゃ我慢してたんだよ……!」
「我慢せずに言ってくれても良かったのに。そうしたら……」
「そうしたらあんた、美玖や鞠絵を誘うだろ。わたしのことなのに、あんたらばっかにやらせられないじゃん!」
「梨菜……」
言葉は格好いいけど、姿勢は生まれたての小鹿みたいだ。
そっちを見てると反射で笑いそうになるので、私はまっすぐ前を見ることにした。
情けなく見えたって、勇気が出せるならその方がいいじゃない。
私の勇気だって、誰かにとってはきっと笑えるようなものだろうし。
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