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第二章 玩具編
8夜目 偽るもの
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深く深くねじ込んで、すべて吐き出した。
腰が動くのを止められず、快楽の吐息が滑り出た。
締まる内壁を擦りながら顔をしかめて引き抜く。
見下ろせば、荒い息をつくアグラヴィスの間に白い体液だまりが出来ている。
どうやら、ひとり勝手に達した訳ではなかったらしい。
「……は、はは」
既にぐったりした様子のアグラヴィスの手首を解いてやってから、その横にごろりと転がった。
ちょうど真横にきた頬に、黙って口づけた。
涙でぐちゃぐちゃに濡れた肌は、塩みが強い。
目元まで唇を滑らせて吸い取ると、ようやく紅の瞳だけが動いてこちらを見た。
「なんのつもりだ」
「何もクソもないだろう。閨教育なら、むしろこういうことを教えるものだ。終わった後は始める前以上に優しくしろ、とかな」
「そ、そういうものなのか?」
「お前がやれと言ったんだろう」
呆れた顔を作りつつ、銀の髪を手で梳く。
見開かれた目が恥ずかしげに逸らされて、その雰囲気でなんとなく自分も手を止めた。
ユインも別にこういうことをするつもりではなかったのだ。ただ、その肌も髪も、ずいぶんと綺麗に見えたから、触れたかっただけで。
話を切り替える合図として、ユインは喉の奥で小さな咳ばらいを鳴らした。
「……で?」
「で、とはなんだ。俺にも同じことをやれというのか? お前のそのデカイ図体を、たった今やられたように愛おしげに撫でまわせと?」
「そんなことは言っていない。ついでにおれは特に愛おしいとは思っていない。後朝というのはこういうものなのだ、おぼえておけ」
「そうなのか? そういうものだというならまあ、それはそれで構わんが。俺はせんぞ」
ぷいと横を向いて息を吐くと、魔王は開き直ったように話し始めた。
「……そもそもお前をここに呼んだのは、本当のところそんなことが目的ではない」
「だろうな」
「知っていたのか!?」
大げさに驚くアグラヴィスの頭に、枕をぶつけてやった。
鬱陶しそうに払いのけ、紅の瞳をこちらに向ける。
「どう言えば最も良い結果になるのか、正直なところ計りかねておった。お前の動きも……俺自身の思いもな」
「お前の思い?」
「お前を……帝国に帰したくない」
伸ばされた手が、ユインの顎にかかる。
正面から見据える瞳は、ひどく真剣に見えた。
「だが、帰さねば不幸になるだけだ。だから……」
「――いい、皆まで言うな」
半裸の胸に抱き寄せると、アグラヴィスはびくりと背を震わせた。
「お、おい! 突然なんだ!? 俺はただ――」
「構わん。お前がそのつもりなら、おれは……そうだな、ここにいてやってもいい」
「ほ、本当か!?」
がばっと顔を上げた表情が喜びで上気している。
愛らしい、と思った。間違いなく。
まさか自分が、男にそんな感情を抱くことがあるとは思っていなかったが。
祖国の家族も、たぶん既に自分を見限っている婚約者も、地位も名誉もどうせとっくになくしたようなものだ。
ここにいてくれとこんなに可愛らしくせがまれたならば、誰だって頷くに決まっている。
そんな風に心の中で囁く声がする。
「……おい、何をぼんやりしているのだ?」
「いや、何でもない。それより、もう一回しよう」
「……は?」
表情の固まった身体を優しく寝台に倒す。
今度は正面からのしかかると、困惑した表情で見上げてくる。
「その……それは、交換条件ということか?」
「交換……いや、そんなつもりではないが、こうなったからにはもう少し付き合え。おれとて、一人寝は寂しいものだ」
ぐぅ、とうめき声のようなものを上げて、魔王は自分の顔を両手で覆った。
「……そういうのは、ほとんど交換条件のようなものだろう」
「そうか? お前がどうしてもいやだと言うなら考え直すが」
「やるに決まっている! そ、そ、そうすれば……大人しく俺が言うことを聞けば、お前は帝国に戻らないのだろう!」
下から涙目でしがみついてくる様子を可愛らしく見下ろし、ユインは上機嫌で口づけを落とした。
「ああ、お前の言う通りだ。ずっとここにいてやろう。お前がこうしておれに身体を預けてくれる限りな」
二度目の挿入は先ほどより簡単だったはずなのに、なぜか魔王はひどく辛そうな顔をしていた。
まるで、市場に引かれていく子牛のように。
腰が動くのを止められず、快楽の吐息が滑り出た。
締まる内壁を擦りながら顔をしかめて引き抜く。
見下ろせば、荒い息をつくアグラヴィスの間に白い体液だまりが出来ている。
どうやら、ひとり勝手に達した訳ではなかったらしい。
「……は、はは」
既にぐったりした様子のアグラヴィスの手首を解いてやってから、その横にごろりと転がった。
ちょうど真横にきた頬に、黙って口づけた。
涙でぐちゃぐちゃに濡れた肌は、塩みが強い。
目元まで唇を滑らせて吸い取ると、ようやく紅の瞳だけが動いてこちらを見た。
「なんのつもりだ」
「何もクソもないだろう。閨教育なら、むしろこういうことを教えるものだ。終わった後は始める前以上に優しくしろ、とかな」
「そ、そういうものなのか?」
「お前がやれと言ったんだろう」
呆れた顔を作りつつ、銀の髪を手で梳く。
見開かれた目が恥ずかしげに逸らされて、その雰囲気でなんとなく自分も手を止めた。
ユインも別にこういうことをするつもりではなかったのだ。ただ、その肌も髪も、ずいぶんと綺麗に見えたから、触れたかっただけで。
話を切り替える合図として、ユインは喉の奥で小さな咳ばらいを鳴らした。
「……で?」
「で、とはなんだ。俺にも同じことをやれというのか? お前のそのデカイ図体を、たった今やられたように愛おしげに撫でまわせと?」
「そんなことは言っていない。ついでにおれは特に愛おしいとは思っていない。後朝というのはこういうものなのだ、おぼえておけ」
「そうなのか? そういうものだというならまあ、それはそれで構わんが。俺はせんぞ」
ぷいと横を向いて息を吐くと、魔王は開き直ったように話し始めた。
「……そもそもお前をここに呼んだのは、本当のところそんなことが目的ではない」
「だろうな」
「知っていたのか!?」
大げさに驚くアグラヴィスの頭に、枕をぶつけてやった。
鬱陶しそうに払いのけ、紅の瞳をこちらに向ける。
「どう言えば最も良い結果になるのか、正直なところ計りかねておった。お前の動きも……俺自身の思いもな」
「お前の思い?」
「お前を……帝国に帰したくない」
伸ばされた手が、ユインの顎にかかる。
正面から見据える瞳は、ひどく真剣に見えた。
「だが、帰さねば不幸になるだけだ。だから……」
「――いい、皆まで言うな」
半裸の胸に抱き寄せると、アグラヴィスはびくりと背を震わせた。
「お、おい! 突然なんだ!? 俺はただ――」
「構わん。お前がそのつもりなら、おれは……そうだな、ここにいてやってもいい」
「ほ、本当か!?」
がばっと顔を上げた表情が喜びで上気している。
愛らしい、と思った。間違いなく。
まさか自分が、男にそんな感情を抱くことがあるとは思っていなかったが。
祖国の家族も、たぶん既に自分を見限っている婚約者も、地位も名誉もどうせとっくになくしたようなものだ。
ここにいてくれとこんなに可愛らしくせがまれたならば、誰だって頷くに決まっている。
そんな風に心の中で囁く声がする。
「……おい、何をぼんやりしているのだ?」
「いや、何でもない。それより、もう一回しよう」
「……は?」
表情の固まった身体を優しく寝台に倒す。
今度は正面からのしかかると、困惑した表情で見上げてくる。
「その……それは、交換条件ということか?」
「交換……いや、そんなつもりではないが、こうなったからにはもう少し付き合え。おれとて、一人寝は寂しいものだ」
ぐぅ、とうめき声のようなものを上げて、魔王は自分の顔を両手で覆った。
「……そういうのは、ほとんど交換条件のようなものだろう」
「そうか? お前がどうしてもいやだと言うなら考え直すが」
「やるに決まっている! そ、そ、そうすれば……大人しく俺が言うことを聞けば、お前は帝国に戻らないのだろう!」
下から涙目でしがみついてくる様子を可愛らしく見下ろし、ユインは上機嫌で口づけを落とした。
「ああ、お前の言う通りだ。ずっとここにいてやろう。お前がこうしておれに身体を預けてくれる限りな」
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まるで、市場に引かれていく子牛のように。
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