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一章 聖女、旅に出る
4.聖女、旅に出る
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「ああああああああ」
アデル少年は、もう完全に床に座り込んで頭を抱えてしまった。
隠し通すことはできないと覚悟して、リュイちゃんさま溺死の可能性について伝えた途端、崩れ落ちた。どうも俺の気遣いはだめ押しとなって、結果的に念入りに心を折ることになってしまったらしい。
「ま、まあアデル少年。手足固められて海に落とされたくらいのことだ。もしかしたら普通に無事ってこともあるし……」
「だから! あいつのああいうところがほんっっっとうに最悪なんだよ! マジでなんも考えてないんだ! 聖女の力があるから窮地なんてだいたい切り抜けられるし、そもそも喧嘩売ってくるやつもいないしな! もう少しものを考えて行動しないと命を失うっていう危機意識自体が欠如してて……」
最後の方はちょっと涙声になってる姿を見て、不覚にも胸がきゅんとしてしまった。別にそういう性癖はなかったはずだが、クソ偉そうなイケメンが打ちひしがれているのを見るとにやにやしたくなる。あれか、単にすかっとしただけか。
とにかく、俺は猫なで声で少年の背中を撫でながら声をかけた。
「や、あんたほんと頑張ってるよ。もしかして、世話係ぜんぶあんたがやってんのは、単に押し付けられてるだけなのか?」
「押し付け……そうだな。そうかもしれない。聖女の力が全容を把握しない者にも畏怖されているというのもあるが、それよりもフリーダム過ぎる言動が面倒がられているという方が大きいかもしれない……」
「そうかい少年。いやあ、あんたも苦労してるんだなぁ」
「分かってくれるか……」
「十分すぎるほどな。ま、それはいいとして、結局、俺はどうすりゃいいんだ?」
「……ああああああああ……」
慰めが不十分だったらしい。アデル少年はそのまま床に突っ伏してしまった。
ま、こいつは置いておいて、ちょっと状況を整理しようじゃないか。
まず、リュイちゃんさまは、自分の聖女の力を使って、異世界にいる俺の魂と自分の魂を入れ替えた。
その理由は……アデル少年いわく、なんも考えてないからってことらしいが、本当かどうかは分からんな。
そして、もともとリュイちゃんの持っていた聖女の力は今や彼女の身体と共に俺に引き継がれ、元の俺の身体にリュイちゃんが入っているはず。
うん、やっぱリュイちゃんさま、溺死してんじゃねぇか?
いや、もしかしたら生きてるかもだが、そこがはっきりするまでは、うかつに「元の世界に戻りたーい」なんて考えて聖女の力を使う訳にはいかねぇぞ。戻ったところで魚の餌になるだけだろ。
しかも、その場合、死後の世界からリュイリュイの魂とやらを連れ戻せるかどうかも分からん。単純に死者が二人になるだけの可能性が割とある。
……逆に言えば、リュイちゃんの生死さえはっきりすれば、今後の方針が決められる訳だ。
ま、正直、元の世界に死ぬほど戻りたいかと言われれば、さほどではない。
だが、この美少女の身体で聖女と崇められつつ生きていくのも、とても面倒くさい。
窮地さえ脱してるなら、まあ……元の身体の方がなんぼかマシか。
「おう、アデルくん。ちょっと聞きたいんだがな」
「うっうっうっ……なんだよ」
「あんた、リュイちゃんさまが無事かどうか確かめたいんだろ? 聖女の力以外に、向こうの世界にいるリュイちゃんと交信するような方法、なんか思いつかねぇか?」
「異世界と交信……そう言えば」
はっとした顔で、アデル少年は涙を拭き、立ち上がった。
「お前がこれから向かう皇国の辺境には、異界を覗く鏡があると聞いたことがある」
「へー、鏡か。それがあれば、リュイリュイの無事も確かめられるかも」
「詳細は分からないが、よくすれば、どうすれば身体が戻るのかをリュイ本人に尋ねることもできるやも!」
拳を握ったアデル少年は、俺の目をじっと見つめて頷いた。
「旅の支度をしてくる。異界の鏡の場所ももう一度確認してこなければ」
「おー、疲れのとれる温泉のある町や、名物もチェックしといてくれや」
「……今回はお前の忠告で、進展の可能性が見えたようなものだからな。善処しよう」
俺のやる気ないコメントに一瞬、顔をしかめたが、すぐに表情を整えて頷き返す。
やる気に満ちて扉を出て行く少年の背中を見送り、俺はばたりとベッドにダイブし直した。
さて、いつまで続くかは知らないが、異界の名物名所めぐりでも楽しみに、美少女ライフを満喫しましょうかね。
自分が美少女よりも、周りに美少女が大量にいるライフの方が良かったんだけどなぁ。
アデル少年は、もう完全に床に座り込んで頭を抱えてしまった。
隠し通すことはできないと覚悟して、リュイちゃんさま溺死の可能性について伝えた途端、崩れ落ちた。どうも俺の気遣いはだめ押しとなって、結果的に念入りに心を折ることになってしまったらしい。
「ま、まあアデル少年。手足固められて海に落とされたくらいのことだ。もしかしたら普通に無事ってこともあるし……」
「だから! あいつのああいうところがほんっっっとうに最悪なんだよ! マジでなんも考えてないんだ! 聖女の力があるから窮地なんてだいたい切り抜けられるし、そもそも喧嘩売ってくるやつもいないしな! もう少しものを考えて行動しないと命を失うっていう危機意識自体が欠如してて……」
最後の方はちょっと涙声になってる姿を見て、不覚にも胸がきゅんとしてしまった。別にそういう性癖はなかったはずだが、クソ偉そうなイケメンが打ちひしがれているのを見るとにやにやしたくなる。あれか、単にすかっとしただけか。
とにかく、俺は猫なで声で少年の背中を撫でながら声をかけた。
「や、あんたほんと頑張ってるよ。もしかして、世話係ぜんぶあんたがやってんのは、単に押し付けられてるだけなのか?」
「押し付け……そうだな。そうかもしれない。聖女の力が全容を把握しない者にも畏怖されているというのもあるが、それよりもフリーダム過ぎる言動が面倒がられているという方が大きいかもしれない……」
「そうかい少年。いやあ、あんたも苦労してるんだなぁ」
「分かってくれるか……」
「十分すぎるほどな。ま、それはいいとして、結局、俺はどうすりゃいいんだ?」
「……ああああああああ……」
慰めが不十分だったらしい。アデル少年はそのまま床に突っ伏してしまった。
ま、こいつは置いておいて、ちょっと状況を整理しようじゃないか。
まず、リュイちゃんさまは、自分の聖女の力を使って、異世界にいる俺の魂と自分の魂を入れ替えた。
その理由は……アデル少年いわく、なんも考えてないからってことらしいが、本当かどうかは分からんな。
そして、もともとリュイちゃんの持っていた聖女の力は今や彼女の身体と共に俺に引き継がれ、元の俺の身体にリュイちゃんが入っているはず。
うん、やっぱリュイちゃんさま、溺死してんじゃねぇか?
いや、もしかしたら生きてるかもだが、そこがはっきりするまでは、うかつに「元の世界に戻りたーい」なんて考えて聖女の力を使う訳にはいかねぇぞ。戻ったところで魚の餌になるだけだろ。
しかも、その場合、死後の世界からリュイリュイの魂とやらを連れ戻せるかどうかも分からん。単純に死者が二人になるだけの可能性が割とある。
……逆に言えば、リュイちゃんの生死さえはっきりすれば、今後の方針が決められる訳だ。
ま、正直、元の世界に死ぬほど戻りたいかと言われれば、さほどではない。
だが、この美少女の身体で聖女と崇められつつ生きていくのも、とても面倒くさい。
窮地さえ脱してるなら、まあ……元の身体の方がなんぼかマシか。
「おう、アデルくん。ちょっと聞きたいんだがな」
「うっうっうっ……なんだよ」
「あんた、リュイちゃんさまが無事かどうか確かめたいんだろ? 聖女の力以外に、向こうの世界にいるリュイちゃんと交信するような方法、なんか思いつかねぇか?」
「異世界と交信……そう言えば」
はっとした顔で、アデル少年は涙を拭き、立ち上がった。
「お前がこれから向かう皇国の辺境には、異界を覗く鏡があると聞いたことがある」
「へー、鏡か。それがあれば、リュイリュイの無事も確かめられるかも」
「詳細は分からないが、よくすれば、どうすれば身体が戻るのかをリュイ本人に尋ねることもできるやも!」
拳を握ったアデル少年は、俺の目をじっと見つめて頷いた。
「旅の支度をしてくる。異界の鏡の場所ももう一度確認してこなければ」
「おー、疲れのとれる温泉のある町や、名物もチェックしといてくれや」
「……今回はお前の忠告で、進展の可能性が見えたようなものだからな。善処しよう」
俺のやる気ないコメントに一瞬、顔をしかめたが、すぐに表情を整えて頷き返す。
やる気に満ちて扉を出て行く少年の背中を見送り、俺はばたりとベッドにダイブし直した。
さて、いつまで続くかは知らないが、異界の名物名所めぐりでも楽しみに、美少女ライフを満喫しましょうかね。
自分が美少女よりも、周りに美少女が大量にいるライフの方が良かったんだけどなぁ。
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