「月が、綺麗ですね。」

八尾倖生

文字の大きさ
上 下
7 / 21
第二章 執筆

夏①

しおりを挟む




――いつの間にGPSなんて付けていたんだ…

自分でも知らない事が行われていた事に驚きつつも『あぁ』と返事をする。


芹名の声が次第に遠のいているような気がして、何とか意識を保とうと必死に手元の砂を握った。

悠長に電話で話していられるほど、今の龍司に余裕などない。
腹部を銃弾が貫通しているのだ。
頭や心臓に比べると腹部は致命傷という訳ではなく即死はしないが、この状態が長く続けば何が起きても不思議ではない。


これなら、なにも感じず一発で死んだ方がまだ楽だとさえ思った。


「龍司様!大丈夫ですか?ボクたちがそちらに到着するまで、おおよそ20分程かかります。龍司様のご容態を推測すると腹部を撃たれ、血が止まらないという事なので恐らく肝臓か腹大動脈どちらかをかすめている可能性が高いと考えられます。どちらも大量の血液が循環している場所になりますので、今この状態も非常に危険な状況ですっ!…龍司様のジャケットの内ポケットの奥に、止血用と鎮痛剤が一緒になったカプセルが入っています。ボクが開発したものですが、効果は即効性のものなのですぐ使用してください!」

「はぁっ…ッ!ハァッ…!ハァ…ッ!くッ…カプ、セル…?」

「はい!もしもの時の為に入れさせてもらいました。救急車にはボクから電話して龍司様の所へ急いで行って貰うように手配致します!龍司様、お怪我で動ける状況ではないと重々承知ですが…なるべくそこの場所から離れるようにしてください!まだ、龍司様を狙っている人間は近くにいるはず…再び撃たれる可能性がかなり高いです!」

「はぁ…ッ!…分かった…ッ」


龍司は言われた通り、ジャケットの内ポケットの奥を探す。

奥からは小さなプラスチックの容器が出てきた。
恐らくこの中に芹那が開発した薬が入っているのだろう。

振れば、カラカラと中から音がする。

容器についてあるボタンらしき突起物を押すと、引き出しのようにカプセルが1つ乗って出てきた。
指先で掴み押し込むように口に入れると歯で噛み砕く。
中からはドロリとした液体状のものが出てきて、口内へと溶けていく。
龍司は喉を鳴らして液体を飲み込んだ。
味は薬特有の苦みは全くなく、無味無臭と言ったところだ。


「今―…薬を飲んだ…そろそろ、切る…ッ」

「…かしこまりました…。龍司様、どうかご無事で――。」


電話を切るとジャケットの横ポケットに仕舞い、手元の砂を握る。
芹名が即効性と言っていただけの事はある。

薬を飲む前と比べ、少しではあるが痛みが幾分和らいだ気がした。
変わらず腹部から下は、流れた血で真っ赤だが、流れたまま一向に止まることがなかった血液の流れが、薬を飲む前に比べて若干遅くなった気がする。



腕に力を入れて匍匐前進で体を前へと移動させる。


龍司が前に進むたびに砂が体中へばりつき、砂浜が赤く染まった



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...