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反撃

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            ♡



 国王は眠りこけたヴァイオレットを部屋に運んでくれた。あとは侍女たちが手際よくドレスを脱がせ、寝間着を着せ、顔を洗いベッドに放り込んだ。誰もいなくなったところで狸寝入りを止めた。

「バレてたわね」

「バレてるね。完全に」

 布団の中で友と相談する。何故自分がヴァイオレット姫だと分かったのだろう。急な縁談で肖像画の交換も無かった。婚儀の時もベールで顔は見えなかったはずだ。

 陛下は謝っていた。幽閉は前王妃の陰謀だったらしい。彼は何も知らなかったのに。

「知らないじゃ済まされないでしょ。仮にも夫だよ?」

 ナナコは厳しい。どうしよう。陛下はいつまでも謝り続けそうだし。

「ちゃんと話したいけど…。非公式で」

「おっけー。アイツの夢の中に送り込んであげる!」

 久々に新魔法が飛び出した。ナナコはヴァイオレットと国王の夢の回廊を繋げた。
 


            ◆



 霧の中に金色の髪に紫の瞳の美女が佇んでいる。花嫁衣裳のヴァイオレット姫だ。

 マークは頭を下げて詫びた。

「本当に申し訳なかった。全て私の責任だ」

 姫に地獄の苦しみを与えた、その罰を与えてくれと乞うた。

「あなたの母上のした事です。もうお気になさらず」

 彼女は赦した。それではマークの気が済まない。

「償いたい。何でもする。どうすれば良い?」

 姫は微笑んだ。飢える子供がいない国を作って欲しい。そう言うと姿が薄れてきた。待ってくれ。まだ訊きたいことがあるんだ。マークは手を伸ばした。しかし姫に触れることは出来ない。

「幸せになってください。あなたも」

 その言葉を最後に姫は消えた。彼は目を覚ました。夜が明ける前だった。



            ♡



 決戦の朝が来た。ヴァイオレットが城壁の上に行くと、既にリトナード将軍がいた。爽やかな笑顔で挨拶をしてくれる。

「おはようございます。将軍」

「おはよう!ヴィーどの!」

 少しして陛下が登って来た。顔色が悪い。夢見が悪かったようだ。

「では始めよう。ヴィー。頼む」

 城門の前、数百メートル先に敵陣が見える。かしきの煙が上がっている。

(ナナコ。行くわよ)

(いいよ!)

 第4段階だ。帝国軍の荷を奪う。何もかも。



            ■




「報告します!しょ…食料が消えました!」

 スープを煮ていた鍋が消えた。パンが消えた。水が樽ごと消えた。帝国軍の糧食は一瞬で無くなった。

「何が起こった!?」

 帝国軍司令官は怒鳴った。2、3日前から輸送中の糧食が盗まれていた。いくら探しても見つからない。数十万食の食料が魔法のように無くなったのだ。

「朝メシが消えました!」

 それが今、兵の目の前で消えた。食糧が無ければ1日たりとも軍を維持できない。帝国軍は大混乱に陥った。司令官が天幕を跳び出すと、敵襲を知らせる警鐘が鳴らされた。

「打って出ただと?バカな!」

 慌ただしく迎撃の準備を指示する。だが更に信じがたい報告が届く。

「矢が消えました!剣も槍もです!武器がありません!」

 司令官は自分の腰を見た。剣が無い。小姓に確かめさせると弓矢も消えていた。

「に…逃げろっ!!」

 兵はたちまち逃げ出した。騎士たちは自分の騎馬を探したが見つからない。1頭残らず消えていた。そこへケイオス軍が殺到した。立ち向かえる兵はいない。あっと言う間に帝国軍は瓦解した。



            ♡



 作戦は成功した。ナナコは帝国軍の糧食と武器、馬を城壁内に移動させた。闘技場は奪った物資でいっぱいになった。難点は奪った馬が走り回り、捕まえるのに苦労したことか。

「やった!」

 敵司令官の捕縛が報告されると、ヴァイオレットは跳び上がって喜んだ。眼鏡の作戦は見事に成功した。

「陛下。フレンテ侯爵及びキラリナ公爵軍が間もなく到着します!追撃いたしましょう!」

 将軍が陛下に進言した。ようやく援軍が来たようだ。

「よし。両軍と連携してミニスト領までの追撃を許す」

「はっ!」

 リトナード将軍旗下は援軍と合流し、ついには謀反人の領地まで制圧した。ニュージューク包囲戦は稀に見る逆転劇で幕を閉じたのである。



            ◆



 マークは捕虜の処遇や援軍への指示などに忙殺されていた。気付くとヴィーの姿が無い。一番の功労者は彼女だ。慌てて探させたが城内にはいなかった。夜遅くになって下町にいると報告が来た。

 迎えに行こうとする王を護衛たちは止めた。

「ようやく開いた城門から多くの民が流れ込んでいます。非常に危険です」

 なおさら保護しなければ。彼が無理矢理下町へ行くと、民は広場で歌い踊っていた。その中にヴィーがいる。

「ヴィー!」

「あら。へい…ヘイっ!楽しんでる?伯爵さま!」

 彼女は酔っていた。それでもマークの正体を誤魔化してくれる。

「なぜ戻った?城下は危ないと…」

「だーいじょーぶ!まあ1杯!って言っても帝国のお酒だけどね!」

 ぶどう酒が入ったカップを手渡された。ヴィーは自分のカップをぶつけた。乾杯のつもりか。

「ケイオス万歳!ニュージューク万歳!」

 近くにいた男が音頭を取ると、人々は陽気に杯を掲げた。大人も子供も浮かれ騒いでいる。スラムの子らも満腹で笑顔だった。ヴィーは慈愛に満ちた微笑みで彼らを眺めている。

「そうだ。再開発計画ですけど」

 思い出したように彼女が言った。

「家賃をもっとまけてください。下町商工会の働きに免じて。お願いしますよ」

 蕩けるような声で頼まれた。夢の中の姫と被る。どうしてそんなに優しいんだ。

 その時、急にヴィーが抱き着いてきた。マークは彼女を受け止めた。背に流れる金髪から何かが生えている。

「伏せて!」

 護衛がマークを引き倒す。倒れるヴィーの背中が赤く染まるのを見て、ようやく矢が刺さったのだと分かった。

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