竜神の巫女~前世人間、今ドラゴン(♀)。拾った王子をとことん庇護します~

二階堂吉乃

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終話・誓う

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            ♡


「何だ。まだ王に話していないのか」

 剣聖ソードマスターは呆れたように言った。ルナはマスターの見送りに城門に来ている。契約期間が終わったのだ。また王子殿下が剣を習う頃に呼ぶ約束だ。

「うーん。一般人に何と言えば良いのか。マスターはどうしたの?」

 婚約者のジョンに話さなければいけないことがあった。言い辛くてマスターに相談している。

それがしは唯一言よ。『永遠とわに愛す』とな」

「何じゃそりゃ」

 侍のくせにロマンチックなセリフ。あれこれ省きすぎだし。全く参考にならない。

「考えすぎるな。素直に行け。ではな」

「うん。じゃね。あ、これ奥さんに」

 マスターの妻に似合いそうな宝石を見繕って渡す。

「かたじけない。健闘を祈る」

 剣聖も長い時を生きる仙人だ。付き合いはずっと続くだろう。ルナは不老の剣士を手を振って見送った。



            ◇


 ルナの正体は曖昧なままで良しとした。隣国に勝ち、ジョンの王権は強まった。貴族たちも何も言えない。2人の結婚の準備は着々と進んでいた。

「やっとジョン・シャルル王が最愛の妃をお迎えになる」

 王都中が湧き立つ中、幸せなはずの婚約者の顔色が優れなかった。ようやく時間ができたジョンはルナを遠乗りに誘った。



            ◇



「わあ。馬くん。久しぶり」

 ジョンは17年前にルナが森で見つけてくれた馬を連れてきた。この馬はとんでもなく足が速い。持久力も並外れ、内戦中はその駿足で彼を何度も助けてくれた。そろそろ寿命のはずだが一向に衰える気配が無い。

「馬には乗れるのか?」

「乗れないけど、馬くんに任せる」

 動物と話せるから大丈夫だと言う。不安なので2人乗りで出かけることにした。



            ♡



 ルナは馬に乗るのは初めてだった。しかもジョンと一緒。夢みたいだ。晴れた草原を風のように疾駆する。

「わあ~!楽しい~!馬くん大丈夫?重くない?」

『平気です。ご加護のお陰です。竜神さま』

「いい年なんだよね。引退しないの?」

『生涯現役を目指してます』

「偉いねぇ」

 ジョンが寂しそうに口を挟む。

「…俺とも話してくれ。ルナ」

「ごめんね。久しぶりに会ったんで」

 ジョンは綺麗な湖に連れて行ってくれた。馬くんが速すぎて護衛のノルドたちが追い付かない。2人は馬を降りた。待ちながら景色を堪能する。馬くんは水を飲んで草を食んでいる。

「綺麗だね。ありがとう、ジョン。忙しいのに」

「いや。何か言いたいことがあるんだろ?」

 ぎくっ。ルナはジョンを見た。気づかれている。

(よし)

 彼女は腹をくくった。竜神の秘密を話そう。



            ♡



 魂は転生を繰り返す。ルナは平凡な人間女性の一生を送り、何の因果か竜に生まれ変わった。竜に親はいない。先代が消えてルナが発生した。生まれた時には代々の竜の記憶が刷り込まれていた。

(ふむふむ。寿命は千年?!長すぎやろ)

 100年は地下大神殿で寝たり起きたりした。財宝目当てで竜退治に来た剣聖とは友達になった。

「17年前。寝て起きたら、ジョン、あなたを見つけたの」

 退屈だったし寂しかった。お世話をしたら懐いて、ずっと一緒に暮らせると思った。

「ペットみたいに思ってた。ごめんね」

 ジョンは首を振った。

「おかげで助かったんだ。謝ることない。これからはずっと一緒だ。ルナ」

 珍しく抱き寄せられた。彼の温かい手に勇気が出た。

「あと883年、一緒にいてくれる?」



            ◇



「ルナ?それはどういう意味だ?」

 ジョンは困惑して訊いた。竜は千年を生きると言った。だが己は人間だ。長くてもあと30年だろう。

「結婚の誓いを立てたら魂が結びつく。ジョンの寿命は私に引きずられる。同じ日に死ぬまで一緒に生きるわ」

 ルナは顔を彼の胸に埋めた。くぐもった声に悲哀が滲む。そうか。それが言い出せなくて悩んでいたのか。

「怖い?止めとく?」

 ジョンは強く婚約者を抱きしめた。今離したら、永遠に彼女を失う気がする。

「止めない。不老になっても君がいれば大丈夫だ」

「今の年のままだよ?」

 47歳のまま883年生きるのか。もうちょっと若い方が良かったかな。そう言うとルナは顔を上げた。

「ジョンは今が一番カッコいい。でも、おじいさんのジョンも見てみたかった。王様って感じの」

 お伽噺の老王か。白髪に白髭の。ジョンは吹き出した。婚約者を抱きしめたまま笑う王を、護衛騎士たちが遠巻きに見ていた。



            ♡



 十数年後。王太子が成人するとジョンは引退した。表向きは病気療養の為だ。

「本当に供はお連れにならないんですか?」

 密かに旅立つ元国王夫妻を王太子が見送る。ルナは息子を抱きしめた。

「大丈夫。心配しないで」

「心配はしてませんが…」

 仮にも王族が従者も無くフラフラするなんて…云々。息子のお説教がくすぐったい。大きくなったなあ。

「もう行こう。ルナ。後は任せたぞ。ジョージ」

 ジョンがひらりと馬くんに乗った。カッコいい。ルナは息子に言い置いた。

「元気でね。用があったら魔法の鏡で呼んで。すぐ転移で駆けつけるから」

「はい」

「絶対に婚約破棄とかしちゃダメだよ」

「しません!」

「媚薬と魅了に気を付けてね」

「…」

 息子は黙ってしまった。他に注意することはないかな。

「ルナ」

 ジョンが馬くんの背に引っ張り上げてくれる。

「行ってきます!」

 ルナは笑顔で手を振った。息子と赤毛のアーノルド・ネッガー将軍も手を振ってくれる。2人と1頭は出発した。

「さあ。どこに行きたい?ルナ」

 ジョンが優しく訊く。世界一周しても良し。剣聖の家に遊びに行っても良し。時間はたっぷりある。ルナは夫の胸に寄りかかった。

「2人きりになれる所」

 彼は笑ってルナの髪に口付けた。竜神とその連れ合いの長い長い蜜月が始まった。

(終)

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