竜神の巫女~前世人間、今ドラゴン(♀)。拾った王子をとことん庇護します~

二階堂吉乃

文字の大きさ
上 下
9 / 15

憩う

しおりを挟む
            ◇



「ジョン」

 巫女が部屋に入ってきた。侍従は下がる。10年ぶりに2人は再会した。ルナは何一つ変わっていない。やはり人ではなかった。黒い喪服に身を包み、目に涙を浮かべて立っている。

「ルナ?」

 どうしてそんなに悲しそうな顔をするのだろう。王妃と面識はなかったはずだが。

「奥さんを亡くしたって聞いたわ。お悔やみを言いにきたの」

 そう言ってルナはジョンを抱きしめた。家族はいないが友はいた。ジョンは彼女の肩に涙を落した。侍従も護衛も気を使って入ってこない。優しい巫女は、いつまでも彼の背を撫でてくれた。



            ♡



 ルナは暫く王都にいることにした。ジョンは城に滞在するように勧めたが断った。ネッガー将軍邸に転がり込む。夫人は暖かく迎えてくれた。

「ノルドはどうしたの?」

 赤毛の少年が見当たらない。夫人が彼は騎士団に入ったと教えてくれた。

「そっか15になったんだね。大きくなっただろうなぁ」

「新入りなのに誰よりも大きいみたいなのよ」

 夫人は嬉し気に笑った。幸せそうで良かった。ルナはノルドに会おうと将軍に許可を求めに行った。

「相変わらずだな。巫女どの」

 少し老けた将軍が自ら案内してくれる。騎士団の廊下を歩きながら、この10年の事を聞いた。ノルドは目覚ましい成長を遂げたらしい。今に国一番の剣士になる。将軍は自慢した。幸せそうだ。

 非番のノルドを従者が呼んでくれた。騎士団の食堂で3人で語らう。

「ルナ様!お久しぶりです!」

「わー。大きい!2メートルいってる?」
 
 赤毛の少年は大男になっていた。まだ15歳だろうに。見た目は20代半ばだ。

「まさか。185センチです。でもまだ伸びてますから」

 最終的には巨人だな。彼は以前ルナが話した剣聖ソードマスターを紹介して欲しいと頼んできた。もうノルドに教えられる教師がいないそうだ。

「いいよ。お金払えば来てくれると思う」

 紙とペンを借りて、ルナはその場で紹介状を書いた。ノルドは驚いた。

「え?私が修行に出向くのでは?」

「険しい山で修行とか?今時無いわー。ビジネスだから。指南料は交渉してね」

 保証人を将軍にしようとして、フルネームを知らないことに気づいた。

「ネッガー将軍のファーストネームって何?」

「シュワルツだ」

 ペンが止まった。シュワルツ。息子がアーノルド。家名はネッガー。ムキムキの親子に笑いが止まらない。他の騎士たちに変な目で見られてしまった。



            ◇



 ジョン・シャルル王は書類の山から、次の紙束を取った。王子の養育に関する未決定事項が書かれている。乳母や侍女はいる。それを取り仕切る養育頭を決めねばならない。どの派閥にも属さない中立な人物が良いが思いつかない。

 疲れた王は立ち上がり、窓辺に近づいた。眼下の庭園にルナと赤毛の青年がいた。楽しそうに笑って散歩をしている。ジョンの胸に痛みが走った。輝くような若さが眩しい。この先、ジョンは国政に奔走しながら息子の養育にも気を配らねばならない。辛い未来しか見えない。

「ジョン?」

「わっ!」

 いつの間にかルナが窓から顔を出していた。窓枠に鉤が引っ掛けられ、縄梯子が垂れている。

「ルナ様ー!じゃあ俺行くんでー!」

 ノルドが大らかに言って去った。

「またねー!ありがとー!」

 ルナは手を振った。王は呆然とした。床に下りた彼女は縄梯子を引き上げ、丸めるとスカートの中に仕舞った。

「お仕事中?少し休憩しない?夫人が美味しいクッキー持たせてくれたの」

 またスカートから箱を出す。どうなっているんだ。

「陛下。お茶の準備が出来ております」

 タイミングよく侍従がワゴンを押して入ってきた。釈然としないままジョンはソファに腰を下ろした。毒見をすると言ってルナはクッキーを食べた。

「ルナ。どうして窓から?」

「ノルドに案内してもらってたら、ちょうどジョンが居たから」

 気軽だ。一応王なのだが。護衛も侍従も、彼女を特別扱いのようだ。ジョンは暫し休憩を取ることにした。ノルドの希望で剣聖を呼ぶことになったとか、平騎士の食堂にネッガー将軍が来たら皆緊張して面白かったとか、雑談をする。

「剣聖はまだ現役なのか?」

「結婚してからは指導で食べてるけど、まだまだ強いよ。半分仙人だから年も取らないし」

「…君もだろう?」

 さりげなく不老について訊く。ルナはしばたたいた。自覚が無いようだ。するとその美しい瞳が曇った。

「変?気持ち悪い?」

 ジョンは慌てて否定した。
 
「そんなことはない。竜神の加護なんだろう?素晴らしいことだ」

 話題を変えようと王子の養育係を探している件を話す。ルナがあっさりと答えを出してくれた。

「ネッガー夫人でいいじゃない。息子が出て行って暇そうだよ」

 このクッキーは暇つぶしの産物だった。しかし将軍夫人なら見事な中立派だ。王は早速、将軍に依頼をした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!

音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。 愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。 「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。 ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。 「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」 従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

闇黒の悪役令嬢は溺愛される

葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。 今は二度目の人生だ。 十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。 記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。 前世の仲間と、冒険の日々を送ろう! 婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。 だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!? 悪役令嬢、溺愛物語。 ☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。 ☆2025年3月4日、書籍発売予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...