竜神の巫女~前世人間、今ドラゴン(♀)。拾った王子をとことん庇護します~

二階堂吉乃

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 明日が即位式という忙しい時にも関わらず、ジョンはルナを歓迎してくれた。城で一番良い部屋に泊めてもらう。宰相とジョンとルナで夕食も食べた。2人とも贈り物をすごく喜んでくれていた。

「ルナには助けられてばかりだ。いつか恩返しをしたいが…」

 律儀なジョンは恐縮していた。戦争でお金を使い果たし、困っていたらしい。

「気にしないで。竜神さまには痛くも痒くもないわ」

「ありがたく復興に使わせていいただきます。そうだ、竜神さまの神殿も作りましょう!」

 ワインを飲んで上機嫌の宰相は提案した。神殿か。100年もしないうちに寂れそう。それより人が集まる噴水が良い。竜の彫刻とかから水が流れてて。ジョンの像もあったらいいな。

「その泉に後ろ向きにコインを投げ入れると、またそこに来れるの」

「?そういうものなのか?」

 ルナのいい加減な説明にジョンが首を傾げる。宰相が戦災で壊れたままの噴水があると言う。そのデザインを好きにして良いと、ジョンが約束してくれた。




            ♡



 翌日は城の大広間で即位式が行われた。ルナは一番前の席で見せてもらえた。新王ジョンが人々の前で王冠を被る。

(自分で被るんだ。斬新)

 偉い坊さんっぽい人が被せると思っていた。この国には国教などは無いらしい。だから宰相も気軽に神殿を建てようとか言い出すのだろう。侍従が王に白い毛皮で縁取られた緋色のマントを着せ、王笏を渡す。ジョンが玉座に登る。

「ジョン・シャルル王ご即位!」

 大きな拍手が広間を包む。背の高い男前の王が誕生した。ルナは我が事のように誇らしかった。
 


            ◇



 その夜は盛大な舞踏会が開かれた。新王は笑顔で家臣たちの祝いの言葉を受けた。全ての貴族の応対を終え、この日のジョンの公務は終わった。

(ルナは…)

 巫女を目で探す。舞踏会へ招待したら大喜びしていた。来ているはずだが。すると会場の一角に人だかりができている。中心にルナがいた。

 今夜の彼女は青い生地に宝石を散りばめたドレスだ。黒い髪は半分結い上げ、半分下ろしている。ほとんど化粧をしていない。なのに輝くほど美しい。若い貴族子弟が蜜蜂のように群がっている。

「お呼びしましょうか?」

 王の視線に気づいた侍従が訊いた。

「いや。いい」

 呼びつけるのも気が引ける。ジョンは遠くから若者たちを眺めた。彼に妻はいない。内戦で結婚どころではなかった。落ち着いたら適当な大貴族の娘を娶るだろう。跡継ぎを儲けることは急務だ。継承権保持者は激減しているからだ。

 王は目を閉じて回想した。5年前の選択を後悔したことはない。だが彼の心にはいつも黒髪黒目の巫女がいた。決して手に入らない、夜空の星のような娘が。

「ジョン」

「わっ!!」

 当の巫女が目の前にいて、思わずジョンは声を上げてしまった。威厳もへったくれもない。彼女は訊いた。

「あなたは踊らないの?仕事終わったんでしょ?」

「本当は一番初めに踊るんだ。でも俺はまだ独身だから…」

 許婚もいないし。言っていて寂しくなった。

「もう皆踊ってるよ。そのルール、グダグダだね!踊ろう、ジョン」

 ルナは彼の手を取った。女性から誘うものじゃないんだが。まあいいか。王は巫女と踊りの輪に加わった。



           ◇


 舞踏会は初めてだと言うが、彼女は軽やかに踊った。青いドレスが華麗に翻る。

「綺麗なドレスだな。君によく似合っている」
 
「ありがとう!ジョンの目の色よ。髪の色に合わせるとカラスみたいに真っ黒になっちゃうし」

 彼の気持ちを知ってか知らずか。ルナは破壊力のある笑顔で言った。つられて彼も微笑む。

「やっと笑ってくれた!そう。これが見たかったの」

「え?」

「あなたの笑顔が大好きなの。私」

 何だろう。貴公子に口説かれている令嬢の気分だ。だがそこに恋情は感じない。晴れた青空が大好き、と同列の誉め言葉みたいだ。ジョンはだんだん可笑しくなってきた。

「君だけだよ。こんなおっさんの笑顔が好きだなんて」

 クルクルと回りながらルナは大笑いした。

「おっさんじゃないわ。とっても美男なのよ。あなたは。知らないの?」

 ジョンは吹き出した。34歳の美男子。そういうことにしておこう。巫女は変わった嗜好の持ち主なんだよ。青年諸君。曲が終わった。続けて2曲以上踊るのは、許婚か夫婦以外はマナー違反だ。そう教えたが彼女は笑って蹴とばした。

「グダグダだよ。そのマナーも」

 結局、ルナの気が済むまで2人は踊り続けた。噂されるだろうな。でも結婚したらもうこんな無茶は許されない。ジョンは今夜だけ、羽目を外すことにした。美しい巫女を独占して恨めしそうに見られたが、王に挑戦する者はいない。即位して唯一良かったことだった。

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