5 / 15
慕う
しおりを挟む
♡
明日が即位式という忙しい時にも関わらず、ジョンはルナを歓迎してくれた。城で一番良い部屋に泊めてもらう。宰相とジョンとルナで夕食も食べた。2人とも贈り物をすごく喜んでくれていた。
「ルナには助けられてばかりだ。いつか恩返しをしたいが…」
律儀なジョンは恐縮していた。戦争でお金を使い果たし、困っていたらしい。
「気にしないで。竜神さまには痛くも痒くもないわ」
「ありがたく復興に使わせていいただきます。そうだ、竜神さまの神殿も作りましょう!」
ワインを飲んで上機嫌の宰相は提案した。神殿か。100年もしないうちに寂れそう。それより人が集まる噴水が良い。竜の彫刻とかから水が流れてて。ジョンの像もあったらいいな。
「その泉に後ろ向きにコインを投げ入れると、またそこに来れるの」
「?そういうものなのか?」
ルナのいい加減な説明にジョンが首を傾げる。宰相が戦災で壊れたままの噴水があると言う。そのデザインを好きにして良いと、ジョンが約束してくれた。
♡
翌日は城の大広間で即位式が行われた。ルナは一番前の席で見せてもらえた。新王ジョンが人々の前で王冠を被る。
(自分で被るんだ。斬新)
偉い坊さんっぽい人が被せると思っていた。この国には国教などは無いらしい。だから宰相も気軽に神殿を建てようとか言い出すのだろう。侍従が王に白い毛皮で縁取られた緋色のマントを着せ、王笏を渡す。ジョンが玉座に登る。
「ジョン・シャルル王ご即位!」
大きな拍手が広間を包む。背の高い男前の王が誕生した。ルナは我が事のように誇らしかった。
◇
その夜は盛大な舞踏会が開かれた。新王は笑顔で家臣たちの祝いの言葉を受けた。全ての貴族の応対を終え、この日のジョンの公務は終わった。
(ルナは…)
巫女を目で探す。舞踏会へ招待したら大喜びしていた。来ているはずだが。すると会場の一角に人だかりができている。中心にルナがいた。
今夜の彼女は青い生地に宝石を散りばめたドレスだ。黒い髪は半分結い上げ、半分下ろしている。ほとんど化粧をしていない。なのに輝くほど美しい。若い貴族子弟が蜜蜂のように群がっている。
「お呼びしましょうか?」
王の視線に気づいた侍従が訊いた。
「いや。いい」
呼びつけるのも気が引ける。ジョンは遠くから若者たちを眺めた。彼に妻はいない。内戦で結婚どころではなかった。落ち着いたら適当な大貴族の娘を娶るだろう。跡継ぎを儲けることは急務だ。継承権保持者は激減しているからだ。
王は目を閉じて回想した。5年前の選択を後悔したことはない。だが彼の心にはいつも黒髪黒目の巫女がいた。決して手に入らない、夜空の星のような娘が。
「ジョン」
「わっ!!」
当の巫女が目の前にいて、思わずジョンは声を上げてしまった。威厳もへったくれもない。彼女は訊いた。
「あなたは踊らないの?仕事終わったんでしょ?」
「本当は一番初めに踊るんだ。でも俺はまだ独身だから…」
許婚もいないし。言っていて寂しくなった。
「もう皆踊ってるよ。そのルール、グダグダだね!踊ろう、ジョン」
ルナは彼の手を取った。女性から誘うものじゃないんだが。まあいいか。王は巫女と踊りの輪に加わった。
◇
舞踏会は初めてだと言うが、彼女は軽やかに踊った。青いドレスが華麗に翻る。
「綺麗なドレスだな。君によく似合っている」
「ありがとう!ジョンの目の色よ。髪の色に合わせるとカラスみたいに真っ黒になっちゃうし」
彼の気持ちを知ってか知らずか。ルナは破壊力のある笑顔で言った。つられて彼も微笑む。
「やっと笑ってくれた!そう。これが見たかったの」
「え?」
「あなたの笑顔が大好きなの。私」
何だろう。貴公子に口説かれている令嬢の気分だ。だがそこに恋情は感じない。晴れた青空が大好き、と同列の誉め言葉みたいだ。ジョンはだんだん可笑しくなってきた。
「君だけだよ。こんなおっさんの笑顔が好きだなんて」
クルクルと回りながらルナは大笑いした。
「おっさんじゃないわ。とっても美男なのよ。あなたは。知らないの?」
ジョンは吹き出した。34歳の美男子。そういうことにしておこう。巫女は変わった嗜好の持ち主なんだよ。青年諸君。曲が終わった。続けて2曲以上踊るのは、許婚か夫婦以外はマナー違反だ。そう教えたが彼女は笑って蹴とばした。
「グダグダだよ。そのマナーも」
結局、ルナの気が済むまで2人は踊り続けた。噂されるだろうな。でも結婚したらもうこんな無茶は許されない。ジョンは今夜だけ、羽目を外すことにした。美しい巫女を独占して恨めしそうに見られたが、王に挑戦する者はいない。即位して唯一良かったことだった。
明日が即位式という忙しい時にも関わらず、ジョンはルナを歓迎してくれた。城で一番良い部屋に泊めてもらう。宰相とジョンとルナで夕食も食べた。2人とも贈り物をすごく喜んでくれていた。
「ルナには助けられてばかりだ。いつか恩返しをしたいが…」
律儀なジョンは恐縮していた。戦争でお金を使い果たし、困っていたらしい。
「気にしないで。竜神さまには痛くも痒くもないわ」
「ありがたく復興に使わせていいただきます。そうだ、竜神さまの神殿も作りましょう!」
ワインを飲んで上機嫌の宰相は提案した。神殿か。100年もしないうちに寂れそう。それより人が集まる噴水が良い。竜の彫刻とかから水が流れてて。ジョンの像もあったらいいな。
「その泉に後ろ向きにコインを投げ入れると、またそこに来れるの」
「?そういうものなのか?」
ルナのいい加減な説明にジョンが首を傾げる。宰相が戦災で壊れたままの噴水があると言う。そのデザインを好きにして良いと、ジョンが約束してくれた。
♡
翌日は城の大広間で即位式が行われた。ルナは一番前の席で見せてもらえた。新王ジョンが人々の前で王冠を被る。
(自分で被るんだ。斬新)
偉い坊さんっぽい人が被せると思っていた。この国には国教などは無いらしい。だから宰相も気軽に神殿を建てようとか言い出すのだろう。侍従が王に白い毛皮で縁取られた緋色のマントを着せ、王笏を渡す。ジョンが玉座に登る。
「ジョン・シャルル王ご即位!」
大きな拍手が広間を包む。背の高い男前の王が誕生した。ルナは我が事のように誇らしかった。
◇
その夜は盛大な舞踏会が開かれた。新王は笑顔で家臣たちの祝いの言葉を受けた。全ての貴族の応対を終え、この日のジョンの公務は終わった。
(ルナは…)
巫女を目で探す。舞踏会へ招待したら大喜びしていた。来ているはずだが。すると会場の一角に人だかりができている。中心にルナがいた。
今夜の彼女は青い生地に宝石を散りばめたドレスだ。黒い髪は半分結い上げ、半分下ろしている。ほとんど化粧をしていない。なのに輝くほど美しい。若い貴族子弟が蜜蜂のように群がっている。
「お呼びしましょうか?」
王の視線に気づいた侍従が訊いた。
「いや。いい」
呼びつけるのも気が引ける。ジョンは遠くから若者たちを眺めた。彼に妻はいない。内戦で結婚どころではなかった。落ち着いたら適当な大貴族の娘を娶るだろう。跡継ぎを儲けることは急務だ。継承権保持者は激減しているからだ。
王は目を閉じて回想した。5年前の選択を後悔したことはない。だが彼の心にはいつも黒髪黒目の巫女がいた。決して手に入らない、夜空の星のような娘が。
「ジョン」
「わっ!!」
当の巫女が目の前にいて、思わずジョンは声を上げてしまった。威厳もへったくれもない。彼女は訊いた。
「あなたは踊らないの?仕事終わったんでしょ?」
「本当は一番初めに踊るんだ。でも俺はまだ独身だから…」
許婚もいないし。言っていて寂しくなった。
「もう皆踊ってるよ。そのルール、グダグダだね!踊ろう、ジョン」
ルナは彼の手を取った。女性から誘うものじゃないんだが。まあいいか。王は巫女と踊りの輪に加わった。
◇
舞踏会は初めてだと言うが、彼女は軽やかに踊った。青いドレスが華麗に翻る。
「綺麗なドレスだな。君によく似合っている」
「ありがとう!ジョンの目の色よ。髪の色に合わせるとカラスみたいに真っ黒になっちゃうし」
彼の気持ちを知ってか知らずか。ルナは破壊力のある笑顔で言った。つられて彼も微笑む。
「やっと笑ってくれた!そう。これが見たかったの」
「え?」
「あなたの笑顔が大好きなの。私」
何だろう。貴公子に口説かれている令嬢の気分だ。だがそこに恋情は感じない。晴れた青空が大好き、と同列の誉め言葉みたいだ。ジョンはだんだん可笑しくなってきた。
「君だけだよ。こんなおっさんの笑顔が好きだなんて」
クルクルと回りながらルナは大笑いした。
「おっさんじゃないわ。とっても美男なのよ。あなたは。知らないの?」
ジョンは吹き出した。34歳の美男子。そういうことにしておこう。巫女は変わった嗜好の持ち主なんだよ。青年諸君。曲が終わった。続けて2曲以上踊るのは、許婚か夫婦以外はマナー違反だ。そう教えたが彼女は笑って蹴とばした。
「グダグダだよ。そのマナーも」
結局、ルナの気が済むまで2人は踊り続けた。噂されるだろうな。でも結婚したらもうこんな無茶は許されない。ジョンは今夜だけ、羽目を外すことにした。美しい巫女を独占して恨めしそうに見られたが、王に挑戦する者はいない。即位して唯一良かったことだった。
11
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!
音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。
愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。
「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。
ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。
「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」
従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】少年王の帰還
ユリーカ
ファンタジー
——— 愛されるより恐れられよ。
王の崩御後、レオンハルトは六歳で王に祭り上げられる。傀儡の王になどなるものか!自分を侮った貴族達の権力を奪い、レオンハルトは王権を掌握する。
安定した政のための手駒が欲しい。黄金の少年王が目をつけた相手は若き「獣」だった。
「魔狼を愛する〜」「ハンターを愛する〜」「公爵閣下付き〜」の続編です。
本編でやっとメインキャラが全員参加となりました。
シリーズ4部完結の完結部です。今回は少年王レオンハルトです。
魔封の森に封じられた魔神とは?始祖王とは?魔狼とは?
最後の伏線回収です。ここまで何とかたどり着けて感無量です。
こちらも最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
細かい設定はさらっと流してます。
※ 四部構成。
一部序章、二部本編はファンタジー、三部は恋愛、四部は外伝・無自覚チートです。
※ 全編完結済みです。
※ 第二部の戦闘で流血があります。苦手な方はご注意ください。
※ 本編で完結ですが、後日談「元帥になりたい!!!」ができてしまいました。なぜ?
こちらはまだ未完ですが、楽しいので随時更新でゆるゆるやりたいと思います。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
☆2025年3月4日、書籍発売予定です。どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる