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♡
ジョンを見送った後、騎士の墓に花を供えたりして1年が過ぎた。暇だったのでまたルナは寝てしまった。目覚めた時、4年が経っていた。竜は魔法の鏡で周囲を確認した。
(また誰か落ちてないかな)
ジョンをお世話した日々は楽しかった。今度は子供とか女性が良い。長く一緒に暮らせるかもしれない。しかしそんな偶然がそうそうあるはずもない。静かな森があるばかりだった。
退屈を紛らわそうと、ルナは人間化して街に出かけた。金貨を1枚、銀貨に換えて買い物をする。目立たないように姿も少し地味にしておく。
久しぶりの街は祭りの様に賑わっていた。あちこちに『即位記念』という飾りがある。
「あれって何?誰が即位したの?」
ルナは酒屋で支払いをしながら訊いた。店主のオヤジは呆れたように言った。
「どんだけ田舎から来たんだ。あんた。ジョン・シャルル王さね」
オヤジによれば、5年前に死んだ前王の跡目争いがようやく終わり、第3王子が即位したんだそうな。第1王子を毒殺した第2王子が一旦王位に着いたものの、第1王子の遺児を担ぎ上げた一派が反乱を起こし云々。
「要するに泥沼の内乱を第3王子が制したってことだ」
「へえ。ありがとう」
自分が眠っている間に色々あったらしい。ルナは礼を言って店を出た。路上では画家が絵を並べて売っていた。その中に見覚えのある人物画があった。
「おじさん。この人誰?」
立派な鎧を着けた黒髪の男の絵を指さす。画家は呆れたように言った。
「どんだけ田舎からきたのさ。あんた。ジョン・シャルル王だよ」
何と。あのジョンが王だった。3日後に王都で即位式があるらしい。ルナは彼に会いたくなった。
◇
新王の即位式を明日に控えた王都。祝祭に浮かれる城下とは反対に、王城では王と宰相が頭を抱えていた。
「金が無い…」
呻くように王は言った。宰相も辛い顔で答えた。
「増税はできません。民は5年もの間、内乱に耐えたのです」
「分かっている」
この5年間、ジョンは戦いに次ぐ戦いの日々だった。己に長兄毒殺の罪を着せた次兄。長兄の遺児を立ててきた貴族連合。内乱の隙を突こうとする隣国。様々な敵との争いを勝ちぬいた。だがやっと平和が訪れた時、国庫は空になっていた。母方の実家に借金して何とか即位式にこぎつけたのだ。
「来年まで持つか?」
今年の税の徴収はもう終わった。宰相は首を振った。
「やはり商人連合から借りるべきかと」
「…」
借りても返せる当てがない。ジョンは金の工面という新たな戦いに苦闘していた。
「陛下!」
ノックもせずに侍従が部屋に飛び込んで来た。宰相は眉間に皺を寄せた。
「何だ。無礼な」
「りゅ…竜神さまの御使いと名乗る方が…!」
走ってきたらしい若い侍従は息も絶え絶えに言う。竜神と聞いてジョンは目を見開いた。
「ああ。陛下をお助けしたと言う竜神の巫女か。その方が何だと?」
せっかちな宰相はイライラと訊いた。侍従は窓を指差した。
「馬車がっ!馬車の列が城にっ!」
興奮のあまり要領を得ない。王と宰相は城門の見える窓に近づいた。見たこともない形の馬車が数十台、連なって来るのが見えた。
◆
「止まれ!」
門を守る兵が先頭の馬車に命じる。御者は無言で従った。その後ろには果てもなく同じ形の馬車が続く。
「登城の許可は得ているか?名と身分を名乗れ」
紋章が付いていなので貴族ではなさそうだ。番兵の誰何に馬車の扉が開いた。
「私はルナ。竜神に仕える巫女よ。許可は無いわ。ジョンに聞いて」
黒髪黒目の美女が降りて来た。銀糸の刺繍が施された豪華なドレスを着ている。
(貴族なのか?平民なのか?)
おまけに王を呼び捨てにしている。兵は混乱した。だが見た目が全ての世界だ。貴族の姫君だと判断した兵は、伝令を走らせた。
◇
「ルナ!!」
ジョンが城門に駆けつけると、巫女は振り向いた。素晴らしいドレスを着ている。彼は目を丸くした。どこから見ても大貴族の姫君だ。
「ジョン!元気だった?」
「あ…ああ。君も元気そうだな」
まるで数日前に別れたばかりのようだ。5年振りに会った巫女は全く年を取っていなかった。
「どうして急に…」
「会いに行くって言ったじゃない。おめでとう!王様になったんでしょう?」
ルナが合図をすると、従者らしき者が次々と荷を運んできた。ジョンの前で開ける。それは地下神殿にあった財宝だった。
「お祝いを持って来たわ」
「…ルナ…」
数十台の馬車の中身は全て金貨と宝石類だった。王と宰相は絶句した。借金を返しても余りある。竜神の巫女は大輪のバラのような笑顔を見せた。
「おめでとう。ジョン。頑張ったね」
♡
1日前。ルナは街から地下神殿に戻ると王都に行く準備をした。知り合いの慶事だ。お祝いを渡さねば。魔法で作ったカボチャ型の馬車に先代の財宝を詰めた箱を載せる。1つでは少ない気がする。
(王様になったんだもんね。ここは豪華にどーんと贈ろう)
どうせ誰にも使われない金銀だ。それを100台の馬車に積みこんだが、宝の山はちっとも減っていない。馬車を引く馬や御者、従者も魔法で作る。城に行くならと自らもドレスを着た。
(誰かを祝うって楽しい。ジョンも喜んでくれると良いなぁ)
彼の笑顔をまた見たい。神殿と王都を転移門で繋ぎ、ルナは意気揚々と出発した。
ジョンを見送った後、騎士の墓に花を供えたりして1年が過ぎた。暇だったのでまたルナは寝てしまった。目覚めた時、4年が経っていた。竜は魔法の鏡で周囲を確認した。
(また誰か落ちてないかな)
ジョンをお世話した日々は楽しかった。今度は子供とか女性が良い。長く一緒に暮らせるかもしれない。しかしそんな偶然がそうそうあるはずもない。静かな森があるばかりだった。
退屈を紛らわそうと、ルナは人間化して街に出かけた。金貨を1枚、銀貨に換えて買い物をする。目立たないように姿も少し地味にしておく。
久しぶりの街は祭りの様に賑わっていた。あちこちに『即位記念』という飾りがある。
「あれって何?誰が即位したの?」
ルナは酒屋で支払いをしながら訊いた。店主のオヤジは呆れたように言った。
「どんだけ田舎から来たんだ。あんた。ジョン・シャルル王さね」
オヤジによれば、5年前に死んだ前王の跡目争いがようやく終わり、第3王子が即位したんだそうな。第1王子を毒殺した第2王子が一旦王位に着いたものの、第1王子の遺児を担ぎ上げた一派が反乱を起こし云々。
「要するに泥沼の内乱を第3王子が制したってことだ」
「へえ。ありがとう」
自分が眠っている間に色々あったらしい。ルナは礼を言って店を出た。路上では画家が絵を並べて売っていた。その中に見覚えのある人物画があった。
「おじさん。この人誰?」
立派な鎧を着けた黒髪の男の絵を指さす。画家は呆れたように言った。
「どんだけ田舎からきたのさ。あんた。ジョン・シャルル王だよ」
何と。あのジョンが王だった。3日後に王都で即位式があるらしい。ルナは彼に会いたくなった。
◇
新王の即位式を明日に控えた王都。祝祭に浮かれる城下とは反対に、王城では王と宰相が頭を抱えていた。
「金が無い…」
呻くように王は言った。宰相も辛い顔で答えた。
「増税はできません。民は5年もの間、内乱に耐えたのです」
「分かっている」
この5年間、ジョンは戦いに次ぐ戦いの日々だった。己に長兄毒殺の罪を着せた次兄。長兄の遺児を立ててきた貴族連合。内乱の隙を突こうとする隣国。様々な敵との争いを勝ちぬいた。だがやっと平和が訪れた時、国庫は空になっていた。母方の実家に借金して何とか即位式にこぎつけたのだ。
「来年まで持つか?」
今年の税の徴収はもう終わった。宰相は首を振った。
「やはり商人連合から借りるべきかと」
「…」
借りても返せる当てがない。ジョンは金の工面という新たな戦いに苦闘していた。
「陛下!」
ノックもせずに侍従が部屋に飛び込んで来た。宰相は眉間に皺を寄せた。
「何だ。無礼な」
「りゅ…竜神さまの御使いと名乗る方が…!」
走ってきたらしい若い侍従は息も絶え絶えに言う。竜神と聞いてジョンは目を見開いた。
「ああ。陛下をお助けしたと言う竜神の巫女か。その方が何だと?」
せっかちな宰相はイライラと訊いた。侍従は窓を指差した。
「馬車がっ!馬車の列が城にっ!」
興奮のあまり要領を得ない。王と宰相は城門の見える窓に近づいた。見たこともない形の馬車が数十台、連なって来るのが見えた。
◆
「止まれ!」
門を守る兵が先頭の馬車に命じる。御者は無言で従った。その後ろには果てもなく同じ形の馬車が続く。
「登城の許可は得ているか?名と身分を名乗れ」
紋章が付いていなので貴族ではなさそうだ。番兵の誰何に馬車の扉が開いた。
「私はルナ。竜神に仕える巫女よ。許可は無いわ。ジョンに聞いて」
黒髪黒目の美女が降りて来た。銀糸の刺繍が施された豪華なドレスを着ている。
(貴族なのか?平民なのか?)
おまけに王を呼び捨てにしている。兵は混乱した。だが見た目が全ての世界だ。貴族の姫君だと判断した兵は、伝令を走らせた。
◇
「ルナ!!」
ジョンが城門に駆けつけると、巫女は振り向いた。素晴らしいドレスを着ている。彼は目を丸くした。どこから見ても大貴族の姫君だ。
「ジョン!元気だった?」
「あ…ああ。君も元気そうだな」
まるで数日前に別れたばかりのようだ。5年振りに会った巫女は全く年を取っていなかった。
「どうして急に…」
「会いに行くって言ったじゃない。おめでとう!王様になったんでしょう?」
ルナが合図をすると、従者らしき者が次々と荷を運んできた。ジョンの前で開ける。それは地下神殿にあった財宝だった。
「お祝いを持って来たわ」
「…ルナ…」
数十台の馬車の中身は全て金貨と宝石類だった。王と宰相は絶句した。借金を返しても余りある。竜神の巫女は大輪のバラのような笑顔を見せた。
「おめでとう。ジョン。頑張ったね」
♡
1日前。ルナは街から地下神殿に戻ると王都に行く準備をした。知り合いの慶事だ。お祝いを渡さねば。魔法で作ったカボチャ型の馬車に先代の財宝を詰めた箱を載せる。1つでは少ない気がする。
(王様になったんだもんね。ここは豪華にどーんと贈ろう)
どうせ誰にも使われない金銀だ。それを100台の馬車に積みこんだが、宝の山はちっとも減っていない。馬車を引く馬や御者、従者も魔法で作る。城に行くならと自らもドレスを着た。
(誰かを祝うって楽しい。ジョンも喜んでくれると良いなぁ)
彼の笑顔をまた見たい。神殿と王都を転移門で繋ぎ、ルナは意気揚々と出発した。
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