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拾う
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♡
ルナは10年振りに目を覚ました。ちょっと寝すぎた。竜に生まれ変わってから、時間の感覚がおかしい。1回眠りにつくとなかなか起きられない。
(前回は5年で起きたのになぁ)
大きな欠伸をしながら寝床を見回す。先代が収集した財宝の山が煌めいている。ここは竜の住まう地下大神殿。ルナが暮らし始めて100年が経つ。50年くらい前までは財宝を狙って盗人が忍び込んできたものだが、昨今は全く来ない。忘れられたらしい。
竜は唯一無二の存在だ。1000年に1度生まれ変わる。前世人間だったルナが今代の竜に選ばれたのだ。
(あと900年か。長…)
基本、竜に果たすべき務めは無い。数年起きて数年眠るのを繰り返している。龍脈を守るとか勇者と戦うとか、無い。自ら人間に化けて人里に下りないと何年も誰ともしゃべらずに終わる。ルナは退屈しのぎに外界の様子を見ようと、魔法の鏡を起動した。
(おや?)
神殿は大きな山の地下にある。その山の裾野の森にカラスが集まって騒いでいる。鏡の像を拡大すると戦の後のようだった。倒れる人と馬。20人ほどの一団か。どの人間も鎧を着けている。ルナは悲しくなった。あと数時間、自分が早く起きていたら助けられたのに。
1人くらいは生きていないかと周囲を探る。すると崖の下に生命反応があった。まだ間に合うかも。ルナは慌てて神殿の外に出た。
♡
巨大な羽を広げ…ないで魔法で転移する。もう何十年も空を飛んでいない。
(羽が弱って飛べないかも。今度確かめないと…)
ルナは巨体で人間を踏みつぶさないように、慎重に下りた。そこに血まみれの人間が倒れていた。微かに息がある。彼女は魔法で治そうとしたが、ふと奇妙な事を思いついた。
(お世話してみたい)
怪我の手当てをして、食事を与えて。そのうち懐くかもしれない。前世飼っていた小動物みたいに。そう考えたら、退屈な日常が急に彩られたように感じられた。
そこで竜は最小限度の血止めを施し、瀕死の人間を銜えて巣に戻った。
♡
先代の記憶も受け継いでいるが、ルナは自分の心は人間に近いと思っている。だから目覚めると人間の村を観察したり、実際に赴いて交流したりする。この人間を助けて感謝され、長く一緒に暮らせたらいい。1人(竜?)の暮らしはとにかく暇なのだ。
しかし地下大神殿に帰り、この巨大な体ではお世話ができないことに気づいた。
(仕方ない。人間に化けるか)
ルナは黒竜だから化けると黒い髪の女になる。本当はどんな姿にもなれるが、前世の姿に近い方が落ち着くので黒髪黒目が定番だ。いよいよお世話に入る。怪我人を宙に浮かせ、浄化の魔法で汚れを落とし、治癒の魔法で傷を塞ぎ包帯を巻く。更に着替えの魔法でゆったりとした衣服を着せると、あっと言う間に手当ては終わった。
拾ったのは人間としては大きな、黒い髪の若い男だ。血を失いすぎて蒼白な顔をしている。目が覚めたら良い食事を与えよう。綺麗な顔立ちをしているから笑ったら素敵だろう。
にやにやと男の顔を眺めていたルナは、また気づいた。竜の巣には人間に必要な物が何もない。寝かせるベッドも食事を食べるテーブルも椅子も無い。しばし考え、神殿の外にある小屋を使うことにした。
♡
数百年前、ここは竜を神と称える神殿だった。竜に仕える神官や巫女がいた。いつの間にか寂れてルナが生まれた頃には無人になっていた。1つだけ残っていた小屋には家具がある。ルナはそこへ男を運び入れた。
保存の魔法が効いているので家具も布類も真新しい。男をベッドに寝かせ、そっと上掛けを掛ける。その他に気をつける点はないだろうか。気温はまだ春だから大丈夫。湿度はよく分からないが多分問題ない。あとは水と食料か。
ルナは森の恵みで食事を作った。水は湧水を小屋に引いた。全てを魔法でするのですぐ終わる。あとは男が目覚めるのを待つだけだ。彼女はベッドの横の椅子に座り、その時を今か今かと待っていた。
ルナは10年振りに目を覚ました。ちょっと寝すぎた。竜に生まれ変わってから、時間の感覚がおかしい。1回眠りにつくとなかなか起きられない。
(前回は5年で起きたのになぁ)
大きな欠伸をしながら寝床を見回す。先代が収集した財宝の山が煌めいている。ここは竜の住まう地下大神殿。ルナが暮らし始めて100年が経つ。50年くらい前までは財宝を狙って盗人が忍び込んできたものだが、昨今は全く来ない。忘れられたらしい。
竜は唯一無二の存在だ。1000年に1度生まれ変わる。前世人間だったルナが今代の竜に選ばれたのだ。
(あと900年か。長…)
基本、竜に果たすべき務めは無い。数年起きて数年眠るのを繰り返している。龍脈を守るとか勇者と戦うとか、無い。自ら人間に化けて人里に下りないと何年も誰ともしゃべらずに終わる。ルナは退屈しのぎに外界の様子を見ようと、魔法の鏡を起動した。
(おや?)
神殿は大きな山の地下にある。その山の裾野の森にカラスが集まって騒いでいる。鏡の像を拡大すると戦の後のようだった。倒れる人と馬。20人ほどの一団か。どの人間も鎧を着けている。ルナは悲しくなった。あと数時間、自分が早く起きていたら助けられたのに。
1人くらいは生きていないかと周囲を探る。すると崖の下に生命反応があった。まだ間に合うかも。ルナは慌てて神殿の外に出た。
♡
巨大な羽を広げ…ないで魔法で転移する。もう何十年も空を飛んでいない。
(羽が弱って飛べないかも。今度確かめないと…)
ルナは巨体で人間を踏みつぶさないように、慎重に下りた。そこに血まみれの人間が倒れていた。微かに息がある。彼女は魔法で治そうとしたが、ふと奇妙な事を思いついた。
(お世話してみたい)
怪我の手当てをして、食事を与えて。そのうち懐くかもしれない。前世飼っていた小動物みたいに。そう考えたら、退屈な日常が急に彩られたように感じられた。
そこで竜は最小限度の血止めを施し、瀕死の人間を銜えて巣に戻った。
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先代の記憶も受け継いでいるが、ルナは自分の心は人間に近いと思っている。だから目覚めると人間の村を観察したり、実際に赴いて交流したりする。この人間を助けて感謝され、長く一緒に暮らせたらいい。1人(竜?)の暮らしはとにかく暇なのだ。
しかし地下大神殿に帰り、この巨大な体ではお世話ができないことに気づいた。
(仕方ない。人間に化けるか)
ルナは黒竜だから化けると黒い髪の女になる。本当はどんな姿にもなれるが、前世の姿に近い方が落ち着くので黒髪黒目が定番だ。いよいよお世話に入る。怪我人を宙に浮かせ、浄化の魔法で汚れを落とし、治癒の魔法で傷を塞ぎ包帯を巻く。更に着替えの魔法でゆったりとした衣服を着せると、あっと言う間に手当ては終わった。
拾ったのは人間としては大きな、黒い髪の若い男だ。血を失いすぎて蒼白な顔をしている。目が覚めたら良い食事を与えよう。綺麗な顔立ちをしているから笑ったら素敵だろう。
にやにやと男の顔を眺めていたルナは、また気づいた。竜の巣には人間に必要な物が何もない。寝かせるベッドも食事を食べるテーブルも椅子も無い。しばし考え、神殿の外にある小屋を使うことにした。
♡
数百年前、ここは竜を神と称える神殿だった。竜に仕える神官や巫女がいた。いつの間にか寂れてルナが生まれた頃には無人になっていた。1つだけ残っていた小屋には家具がある。ルナはそこへ男を運び入れた。
保存の魔法が効いているので家具も布類も真新しい。男をベッドに寝かせ、そっと上掛けを掛ける。その他に気をつける点はないだろうか。気温はまだ春だから大丈夫。湿度はよく分からないが多分問題ない。あとは水と食料か。
ルナは森の恵みで食事を作った。水は湧水を小屋に引いた。全てを魔法でするのですぐ終わる。あとは男が目覚めるのを待つだけだ。彼女はベッドの横の椅子に座り、その時を今か今かと待っていた。
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