老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃

文字の大きさ
上 下
17 / 22

12 遠い夜明け

しおりを挟む
            ◇


 行方不明だった騎士達が伝説のドラゴンを倒した。民衆は狂喜した。勝利を導いたジェラルド・パルデュー副団長は英雄になった。また、討伐に参加した銅級冒険者パーティー“紅の狼”は、一気に金級に昇格した。

 神殿は高瘴気の収束を発表した。数百年に一度の厄災は回避できたのだ。全てが上手くいった。ただ1人、眠り続ける聖女を除いては。

「聖女は何故目覚めない?」

 王城では聖女召喚を分析する会議が行われた。後世に記録を残すためだ。

「おそらく、一気に瘴気を祓ったせいかと」

 王の問いに神官長が答えた。昏睡状態が続く聖女は、神殿が預かっている。

「2週間は長いな。このまま死んでしまうのでは?」

 王子が無責任に言う。副団長は拳を握りしめた。魔力が滲み出てしまったのか、王子はビクッとして目を逸らした。

「流れを整理する。聖女は何らかの原因で一時的に若返った。偶然、パルデュー侯爵家で働き始め、今回の捜索隊に参加した」

 神官長が書類を読み上げた。

「騎士達に配った護符の紐には聖女の祝福が込められていた。それでブレスを受けても無事だった。また、ブレスを弾き返したのは聖女自身の力だ。あの鍋を詳しく調べたが、ただの鍋だった」

 押し花のカードもジェラルドを護ってくれた。もうキコがくれた物は何もない。

「最後のブレスを受け、急激に引き出された力が、一気に世界中の瘴気を消し去った。それで魔力が切れ、元の老女に戻った。これが神殿の見解だ」

「お目覚めになる確率は?」

 堪え切れずに、副団長は訊いた。神官長は難しい顔で答えた。

「半々だ。以前の聖女は光魔法を習得し、何年もかけて瘴気を祓った。そして王族と婚姻し、長く生きたと伝えられる。今回は、修行を積まずに魔力を全放出したことで、かなり寿命を縮めてしまった」

「…」

 召喚後、直ぐに保護していたら。ゆっくりと魔法を学んでいれば。キコは自分が聖女だと気づいてなかった。もしドラゴンと戦わなかったら。今も侯爵家で侍女をしていただろうに。

(謝れなかった…ごめんよ。キコ)

 聖女はその後1週間以上、目覚めなかった。


            ♡


 きよ子は布団の中でぐずぐずしていた。腰が痛いし、目眩がひどい。ゴミ出しに行けるかも怪しい。とりあえず起きあがろう。掛け布団から顔を出すと、見知らぬ部屋だった。

(もしかしてまた入院しちゃった?)

 以前、部屋で倒れて救急車で運ばれたことがある。きよ子はそれを全く覚えていなかった。

 高い天井に大きな窓。個室だ。差額ベッド代を取られてしまう。大部屋に変えてもらわなくちゃ。慌ててナースコールを探すが、見当たらない。

 看護師さんを呼ぶのは諦めた。そのうち様子を見に来るだろう。腰の痛みが辛いので少しベッドを起こしてほしいな…と思ったら、自動で持ち上がった。最近の医療用ベッドはすごい。考えただけで動くんだ。感心していると、

「セイジョ様?!」

 いきなりドアがバンっと開いた。白い制服を着た、男性の看護師さんが飛び込んできた。銀髪に水色の目をした外国人だ。

「お…お目覚めに?本当に?」

「すみません、部屋の件ですが…」

 日本語通じるかしら。心配していたら、看護師さんは泣き出した。その腕に巻かれたミサンガに見覚えがある。楽しい夢を見ていて、それに出てきた気がする。またドアが開いた。

「起きたか!」

 白い長い髪と髭の、偉そうな爺さんがやってきた。白の魔法使いだ。きよ子は完全に目が覚めた。


            ♡


 説明を聞いてもピンと来ない。きよ子はベッドの横に座る魔法使いに訊いた。

「とにかく、やるべきことは終わったんですね?」

「まあ。そうなるな」

 じゃあ、退院したら好きにさせてもらおう。侍女はもう無理だ。またジェームズに仕事を貰わなきゃね。だが爺さんは反対した。

「神殿で余生を過ごせ。召喚した責任は取る」

「借金があるんです。大金貨80枚の」

「それくらい儂が払う」

 男気がある。しかし自分で返したいときよ子は粘った。神官長は折衷案を出してきた。

「暫くは絶対安静だ。あの紙の鳥を作ってくれ。こちらで買おう」

「そんなので良いんですか?」

「あれは魔道具だ。魔力を込めて飛ばせる」

 小金貨1枚の価値があるらしい。きよ子は療養しつつ、内職をすることにした。


            ◇


「キコが目覚めた?!本当ですか?」

 騎士団に神殿から知らせが来た。ジェラルドはすぐに出ようとしたが、使者に止められた。

「申し訳ありません。大変お加減が悪く。面会はできません」

 その後、1週間が過ぎても会うことは出来なかった。痺れを切らせた副団長は神殿に乗り込んだ。


            ◇


 短い時間だけという条件で、ジェラルドは面会許可をもぎ取った。そっと病室に入ると、彼女は眠っていた。かなり痩せた気がする。

「キコ」

 その細い手を握り、呼びかけたら、うっすらと目が開いた。

「若様?」

 声もか細い。彼は努めて明るい声で訊いた。

「具合はどうだい?」

「良いですよ。おかゆばっかりでウンザリです」

 姿は老人だが、中身は確かにキコだ。彼女は急に話を変えた。

「あの。給料の前借りの件なんですけど」

「え?」

「神官長が立て替えてくれるんです。お館様に伝えていただけますか?」

 そんな話をしに来たんじゃない。言いかけたが止めた。キコは遺言をしているのだ。ジェラルドは頷いた。

「分かった」

「奥方様にも、急に辞めることになってすみませんって。最後の月給は日割りでお願いします」

「うん」

「スタローンには振込み済なんですけど、もし足りなかったら、神殿に請求するよう言ってください」

「ああ」

「従業員金庫の私のお金は、半分はジュリアに渡してください。半分はジェームズに」

「…」

 金のことばかりだ。下を向いて黙っていると、キコは手に力を込めた。

「あの時、大金貨をありがとう。幸せになってね。ジェラルド」

 初めて名を呼ばれた。驚いて顔を上げたが、もうその目は閉じていた。何度呼んでも、キコが起きることはなかった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

処理中です...