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10 燃えよドラゴン/怒りの脱出
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♡
森に入って数時間後。小休止を取っていた冒険者一行はドラゴンに遭遇した。思ったより大きい。5、6階建てのビルぐらいだ。黒い鱗に覆われた不気味な怪獣が吼えた。その口が大きく開く。
(来る!)
きよ子は咄嗟に馬にぶら下げてあった万能鍋を掴んだ。あの国民的怪獣映画のような、青白い光が襲ってきた。
「!!」
鍋を顔の前に突き出した。光線は鍋の裏に弾かれ、ドラゴンに当たった。ズシンっと地響きを立てて、怪獣は倒れた。
「何が起こった?」
呆然とスタローンが言った。
「お前、何やった?」
きよ子の持つ鍋が光線を防いだ。聖なる鍋かも。
「この鍋、凄いよ。スタローン!」
「んなわけあるか!ついでに俺はそんな名前じゃねえ!」
怒られた。だがこれで証明できた。ドラゴン・ブレスは鍋で凌げる。そこへ白い折り鶴が飛んできた。ひらひらと鍋の中に舞い落ちる。
「大丈夫か?!」
森から神官っぽい人と、若様が走り出てきた。ほら。生きてた。きよ子は得意げにスタローンを見た。
◇
彼らは我々の捜索に来た冒険者だった。ドラゴンはなぜか倒れて動かない。
「今のうちにご飯にしましょう。お腹空いたでしょう?」
キコと女性冒険者たちが食事を作り始めた。副団長は森に散った部下を集めた。久しぶりのまともな飯に、皆涙を流さんばかりに喜んだ。本当に泣きながら食っている奴もいる。
「若様も。お代わりありますよ」
「…説明してくれ。キコ。何がどうなっている」
落ち着いた頃、ジェラルドは訊いた。
「若様達が全滅したって言われたんです。捜索隊を出してほしいって頼んだんですが。ダメだって。じゃあ勝手に行きますって言ったら、王様が好きにしろって」
キコは笑顔で言った。ジェラルドは厳しい声で咎めた。
「なんて危険なことを…。女性が来る所じゃないぞ」
「だから冒険者に護衛してもらったんです」
「…」
気まずい沈黙が落ちた。そこへ冒険者のリーダーが来た。
「メシ食ったか?脱出計画を立てるぞ」
「分かった。よろしく頼む、スタローン」
「…もうそれでいいや」
リーダーと副団長は打ち合わせを始めた。キコは食器を片付けて行ってしまった。
♡
若様に怒られてしまった。来たことを後悔はしていない。だが少し寂しい。
「皆さん。婚約者の方々からお手紙預かってますよ。あと魔石もね」
気を取り直して、きよ子は令嬢からの預かり物を配った。騎士達はまた泣いた。
「ううっ。フランソワ…」
「僕だって会いたいよ。ミシェル…」
神官の青年は婚約者がいないらしい。可哀想なので余ったミサンガをあげた。折り鶴も彼のだったので、返した。
「ありがとうございます!聖女様の御鳥なんです」
満腹になった若者達は気力と活力を取り戻したようだ。皆いい笑顔だ。来た甲斐がある。そう思う事にした。そしてスタローンと若様から脱出計画が発表された。
◇
冒険者パーティーは騎馬で先行しつつ、魔物を駆除する。ドラゴンが目覚めたら、騎士団長が託してくれた対魔物砲で足止めをする。計画通りに行けば数時間で森を出られるはずだ。
「魔石も十分だな。ありがたい」
手早く新兵器を組み立てながら、副団長はリーダーに礼を言った。すでにキコと女冒険者たちは出発している。
「あんたさ。思い違いをしてるぞ」
リーダーは顔を顰めた。
「俺たちを雇ったのはキコだ。大金貨80枚でな。魔石も兵器も、何もかもキコが手に入れたんだ。あんなに冷たくするこたあねえだろ」
ジェラルドは頭を殴られたような気がした。部下も抗議した。
「そうですよ。フランソワの手紙にも書いてありました。キコさん1人が捜索隊派遣を直訴したんだって。自腹らしいですよ。給料を8年分前借りしたとか」
知らなかった。両親がキコと冒険者を送ったと思い込んでいた。
「後で謝ってやれよ。あんたの生存を1ミリも疑ってなかったんだぜ。キコは」
「…分かった…」
凄まじい後悔が押し寄せる。彼女のおかげで助かったのに。なんて無情な事を言ってしまったのだ。
(ごめん。キコ)
その時、悪魔の咆吼が森を揺るがした。ドラゴンが起きてしまった。
♡
遠くでドラゴンが吠えた。スタローン夫人は馬を止めなかった。
「起きたね。散るよ。後で合流しよう」
仲間の女冒険者達はバラバラに分かれた。鍋を背負ったきよ子は、必死に夫人にしがみついた。お尻が痛い。
「…妙だ。こっちに来る」
夫人が緊張した。ズシンズシンとドラゴンが歩く音がする。またあの閃光が襲ってきて、馬は転んでしまった。
「きゃあっ!」
2人は運よく枯れ草の山に落ちた。
「迎え撃ちましょう」
きよ子は聖なる鍋を構えた。夫人は頷いた。剣を抜いてドラゴンを待つ。
「あんただけでも逃がしたいが。無理だね」
剣と鍋対ドラゴンの戦いが始まった。
森に入って数時間後。小休止を取っていた冒険者一行はドラゴンに遭遇した。思ったより大きい。5、6階建てのビルぐらいだ。黒い鱗に覆われた不気味な怪獣が吼えた。その口が大きく開く。
(来る!)
きよ子は咄嗟に馬にぶら下げてあった万能鍋を掴んだ。あの国民的怪獣映画のような、青白い光が襲ってきた。
「!!」
鍋を顔の前に突き出した。光線は鍋の裏に弾かれ、ドラゴンに当たった。ズシンっと地響きを立てて、怪獣は倒れた。
「何が起こった?」
呆然とスタローンが言った。
「お前、何やった?」
きよ子の持つ鍋が光線を防いだ。聖なる鍋かも。
「この鍋、凄いよ。スタローン!」
「んなわけあるか!ついでに俺はそんな名前じゃねえ!」
怒られた。だがこれで証明できた。ドラゴン・ブレスは鍋で凌げる。そこへ白い折り鶴が飛んできた。ひらひらと鍋の中に舞い落ちる。
「大丈夫か?!」
森から神官っぽい人と、若様が走り出てきた。ほら。生きてた。きよ子は得意げにスタローンを見た。
◇
彼らは我々の捜索に来た冒険者だった。ドラゴンはなぜか倒れて動かない。
「今のうちにご飯にしましょう。お腹空いたでしょう?」
キコと女性冒険者たちが食事を作り始めた。副団長は森に散った部下を集めた。久しぶりのまともな飯に、皆涙を流さんばかりに喜んだ。本当に泣きながら食っている奴もいる。
「若様も。お代わりありますよ」
「…説明してくれ。キコ。何がどうなっている」
落ち着いた頃、ジェラルドは訊いた。
「若様達が全滅したって言われたんです。捜索隊を出してほしいって頼んだんですが。ダメだって。じゃあ勝手に行きますって言ったら、王様が好きにしろって」
キコは笑顔で言った。ジェラルドは厳しい声で咎めた。
「なんて危険なことを…。女性が来る所じゃないぞ」
「だから冒険者に護衛してもらったんです」
「…」
気まずい沈黙が落ちた。そこへ冒険者のリーダーが来た。
「メシ食ったか?脱出計画を立てるぞ」
「分かった。よろしく頼む、スタローン」
「…もうそれでいいや」
リーダーと副団長は打ち合わせを始めた。キコは食器を片付けて行ってしまった。
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若様に怒られてしまった。来たことを後悔はしていない。だが少し寂しい。
「皆さん。婚約者の方々からお手紙預かってますよ。あと魔石もね」
気を取り直して、きよ子は令嬢からの預かり物を配った。騎士達はまた泣いた。
「ううっ。フランソワ…」
「僕だって会いたいよ。ミシェル…」
神官の青年は婚約者がいないらしい。可哀想なので余ったミサンガをあげた。折り鶴も彼のだったので、返した。
「ありがとうございます!聖女様の御鳥なんです」
満腹になった若者達は気力と活力を取り戻したようだ。皆いい笑顔だ。来た甲斐がある。そう思う事にした。そしてスタローンと若様から脱出計画が発表された。
◇
冒険者パーティーは騎馬で先行しつつ、魔物を駆除する。ドラゴンが目覚めたら、騎士団長が託してくれた対魔物砲で足止めをする。計画通りに行けば数時間で森を出られるはずだ。
「魔石も十分だな。ありがたい」
手早く新兵器を組み立てながら、副団長はリーダーに礼を言った。すでにキコと女冒険者たちは出発している。
「あんたさ。思い違いをしてるぞ」
リーダーは顔を顰めた。
「俺たちを雇ったのはキコだ。大金貨80枚でな。魔石も兵器も、何もかもキコが手に入れたんだ。あんなに冷たくするこたあねえだろ」
ジェラルドは頭を殴られたような気がした。部下も抗議した。
「そうですよ。フランソワの手紙にも書いてありました。キコさん1人が捜索隊派遣を直訴したんだって。自腹らしいですよ。給料を8年分前借りしたとか」
知らなかった。両親がキコと冒険者を送ったと思い込んでいた。
「後で謝ってやれよ。あんたの生存を1ミリも疑ってなかったんだぜ。キコは」
「…分かった…」
凄まじい後悔が押し寄せる。彼女のおかげで助かったのに。なんて無情な事を言ってしまったのだ。
(ごめん。キコ)
その時、悪魔の咆吼が森を揺るがした。ドラゴンが起きてしまった。
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遠くでドラゴンが吠えた。スタローン夫人は馬を止めなかった。
「起きたね。散るよ。後で合流しよう」
仲間の女冒険者達はバラバラに分かれた。鍋を背負ったきよ子は、必死に夫人にしがみついた。お尻が痛い。
「…妙だ。こっちに来る」
夫人が緊張した。ズシンズシンとドラゴンが歩く音がする。またあの閃光が襲ってきて、馬は転んでしまった。
「きゃあっ!」
2人は運よく枯れ草の山に落ちた。
「迎え撃ちましょう」
きよ子は聖なる鍋を構えた。夫人は頷いた。剣を抜いてドラゴンを待つ。
「あんただけでも逃がしたいが。無理だね」
剣と鍋対ドラゴンの戦いが始まった。
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