老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃

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08 冒険者たち

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 きよ子はまずジュリアに手紙を出した。東の森へ人を探しに行きたい。護衛の冒険者を紹介してほしいと書いた。

(問題は…この姿よね。分かってくれるかな?)

 変に作り話をするより、正直に若返ってしまったと話そう。そう決心した。屋敷の従僕に届けてもらい、その日の午後に冒険者組合で会う手筈を整えた。

「ごめんください。予約をした者ですが」

 西部劇の居酒屋みたいなドアを押して入る。一斉に強面の男達がきよ子を見た。刺すような視線だ。きよ子は「依頼」と書かれた受付に向かった。そこにジュリアがいた。

「ジュリア」

 呼びかけると、彼女は凄い勢いで立ち上がった。

「キヨ!?」

「分かる?」

 きよ子は胸が熱くなった。友情に歳や姿は関係ない。

「当たり前じゃない!私をジュリアなんて呼ぶの、あなただけよ!」

 大きな口で笑われた。きよ子は応接室に通され、そこで西地区を去ってからの経緯と、今回の依頼の説明をした。



            ♡


「なるほど。騎士団の捜索ね」

 ジュリアは依頼用紙に細かに記していった。第一の目的は若様の救出。第二はドラゴンの観察。期間はざっくり10日間、費用は組合の規定でお願いする。

「あなたも行くのよね?キヨ」

「ええ。足手まといかもしれないけど。頼むわ」

 良い冒険者がいるだろうか。先ほど見た荒くれ者っぽい連中は避けたい。ジュリアは分厚いファイルから探してくれた。

「ちょうど仕事を求めてるパーティーがあるわ。女性が多いのよ。ここにしましょう」

 組合の小僧がそのリーダーを呼んでくれた。きよ子は依頼者として面談をすることになった。



          ◆


 “紅の狼”のリーダーは指名依頼ということで組合に行った。依頼主は黒髪の変な女だ。

「凄い筋肉。まるでスタローンね!」

 誰だそりゃ。受付嬢が依頼内容を説明するが、ドラゴンというのが引っかかる。リーダーは念を押した。

「隠れて見るだけだ。絶対に戦わないぞ」

「もちろんよ。それは国がやるでしょう。弱点が知りたいの」

 よし。10日間、大金貨80枚で契約する。女が準備する物を訊いてきた。食事はこちらで用意する。馬には乗れんらしい。仕方ない。ウチの女連中と相乗りさせよう。

「出来るだけ魔石を用意してくれ。充填済みでな」

「魔石?充填?何を?」

 女は素人だった。リーダーは教えた。魔物と戦う武器には、光の魔力を充填した魔石が要る。何度か使えば魔力は切れる。だから沢山用意しておく。

「それってどこで買えるの?」

「魔石は魔石屋だ。魔力は神殿で入れてもらう」

 出発は明後日の朝にした。前金は明日、組合の口座に振り込んでもらう。

「もしその若様が死んでいても残金はもらうぞ」

 リーダーが最後に確認すると、女は不機嫌な顔で言い切った。

「絶対に生きてる」


            ♡


 きよ子は準備に奔走した。お館様にお金を借りて、振り込む。スタローンに教えられた旅支度を整える。侍女仲間が色々と手伝ってくれた。魔石を買わなくちゃと思っていたら、城から大きな箱が届いた。中には空の魔石が詰まっていた。

「陛下よ。貰っときなさい。どうせ失敗した召喚の残りだから」

 奥方様がそう言うので、ありがたく頂戴した。充填するんだっけ。執事に神殿の場所を教わっていたら、次は来客が来た。若い女性が大勢だ。

「キコ様。大変不躾なお願いで恐縮なのですが…」

 行方不明の騎士達の婚約者や妻だという。彼らに手紙を届けてほしいと頼まれた。きよ子は二つ返事で引き受けた。

「良いですよ」

「お願いいたします!あら。この魔石は?よろしければ充填しましょうか?」

 玄関ホールに積まれた箱を見て、令嬢方が申し出てくれた。聞けば、光属性とやらの魔力を持つ女性は多いらしい。

「神官ほどはありませんが。1、2個充填するくらいなら」

 空の魔石は透明だが、令嬢が魔力を注ぐと水色になった。せっかくだから名前を書いた紙を巻いた。婚約者に届けてあげよう。皆で手分けして作業をしたら、半分の魔石は充填できた。令嬢達は魔力切れで帰っていった。

 残りはやはり神殿かな。箱を持ち上げたら、また誰かやってきた。白の魔法使いだった。

「失礼する」

 偉い人なので一番良い応接室に通した。奥方様が来るまでもてなす。魔法使いはきよ子の淹れた茶を飲んで目を見開いた。

「そなた。光属性だな」

「え?」

 飲んだだけで分かるんだ。凄い爺さんだ。

「きちんと修練を積めば神官にもなれよう。戻ったら神殿に来なさい」

「はあ」

 魔法使いは熱心に勧誘した。それより充填してほしい。今すぐ。ダメもとで頼んでみた。

「神官長様ともなれば、魔石への充填も一瞬でできますか?」

「もちろんだ。魔石を持ってきなさい」

 爺さんは箱に手を翳した。それだけで魔石は水色になった。凄い。本物だ。きよ子は拍手した。

「凄いです!ありがとうございます!」

「良い。そこに直れ。娘」

 よくわからないが頭を下げると、ふんわりと暖かい風が吹いた。それが終わるると魔法使いは帰っていった。何しに来たんだ。きよ子は見送りながら訝しんだ。奥方様が

「祝福しに来てくださったのよ。あなたを」

 と言う。ありがたいことらしい。そうこうしているうちに、出発前日はあっという間に過ぎた。翌日の早朝にきよ子は冒険者パーティーと合流したが、魔石が多過ぎてスタローンに怒られた。


            ◆


 依頼主のキコという女は大量の魔石を持ってきた。とても1頭の馬には載せきれない。パーティー全員に分けてやっと積み込んだ。

「買いすぎだ!1人10個もあれば良かったんだ」

 リーダーは文句を言った。彼の女房の後ろに乗った女は謝った。

「ごめんなさい。あ、帯のついてない魔石は全部使って良いわよ。神官長様が充填してくれたから、多分高級なんじゃない?」

 全員がぎょっとした。侯爵家の侍女だそうだが、思ったより大物みたいだ。

 街道に出た直後、後ろから騎士の一団が馬を走らせてきた。

「待たれよ!キコ殿!」

 先頭の男を見て、リーダーは驚いた。騎士団長だ。冒険者たちは馬を止めた。

「はい?」

 キコが首を伸ばした。そこへ下馬した騎士の1人が駆け寄った。大きな長い箱を持っている。騎士団長はキコに言った。

「持っていかれよ。完成したばかりの対魔物砲だ」

「使い方が分かりません」

 侍女は困ったような顔で言った。

「ジェラルドなら扱える。ドラゴンでも、数秒なら抑えられるかもしれん」

「…ありがとうございます。お預かりします。スタローン、受け取って」

 笑顔で命じられる。だからスタローンって誰なんだよ。貴族の手前、文句も言えずにリーダーはその箱を受け取った。騎士達はサッと馬首を巡らせて去った。また荷が増えてしまった。これ以上増えちゃたまらん。パーティーは速足で旅を再開した。
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