老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃

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07 勝手にしやがれ

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 王城には多くの騎士の家族が集まっていた。皆、詳しい情報を欲していた。

「えー。只今より臨時の戦況報告会があります。ご家族の方は大ホールにお集まりください」

 アナウンスがあり、人々は移動した。カトリーヌときよ子も一緒に行こうとしたら、侍従が声をかけてきた。

「パルデュー侯爵夫人はこちらへどうぞ」

 大ホールは劇場のような造りだった。その一番前の席に通された。階級順らしい。全員が着席すると、舞台に見覚えのある面々が出てきた。長テーブルにボンド氏と白の魔法使いが、少し離れた席にクリント・イーストウッドが座る。隅っこに立つ官僚風の男が進行役だった。

「では只今より戦況報告会を始めます。まず騎士団長より概況をご説明いたします」

 ボンド氏が立ち上がった。

「えー。質問は後で受け付けるので、今はお控えください。…1ヶ月前に王国東端の森で魔物狩りを始めました。人員は正騎士100名、神官1名です。指揮官はジェラルド・パルデュー副団長。討伐した魔物は約50体で、レベル的には並でした。日に一度の定時連絡を義務付けておりましたが、一昨日から連絡がありません」

 ざわめきが広がった。ボンド氏は着席した。

「次に神官長から、遠見の結果についてお話しいただきます」

 魔法使いは座ったまま話し始めた。具合が悪そうだ。

「着座のまま失礼する。神殿では昨日朝より“遠見”の術を行ったが…駐屯地は焼け野原となっていた。残念だが生存者はおらぬ」

 騎士団長がまた立った。

「映像を分析した結果、魔物としては最上級のドラゴンが出現したと推測します」

「ああっ!そんなっ!」

 家族らのざわめきは悲鳴に変わった。カトリーヌが気を失いかける。きよ子はぐったりとした夫人の肩を支えた。よく分からないが、絶望するほど強い魔物が出たらしい。

「お静かに!陛下からお話があります!」

 司会が大声で呼びかけると、ホールは静まり返った。王も座ったまま言った。

「ドラゴンは予測できなかった。結果として多くの騎士を失ってしまった。…すまぬ」

 あちこちから啜り泣きが聞こえ始めた。騎士団長が今後の対応を述べた。東端の森は放棄。何とか領の何とか川を絶対防衛線として、ドラゴンの侵入を防ぐ。今より非常事態宣言を発する。皆は自領の防衛に徹してほしい…等々。

「よろしいでしょうか。ではこれを以ちまして…」

 司会が締めようとした時、きよ子はサッと手を挙げた。



          ◆


 パルデュー侯爵夫人の侍女が手を挙げた。

「恐れながら。質問してもよろしいでしょうか?」

 司会は王を見た。頷かれたので、発言を促した。

「どうぞ」

「ありがとうございます。神官長にお聞きします。なぜ生き残りがいないと断言出来るのでしょう?」

 よく通る声が響いた。場内のざわめきはぴたりと止んだ。

「また騎士団長。捜索隊を出す予定は?」

 壇上の2人は目配せをした。騎士団長が立つ。

「両方私が答えよう。駐屯地の半径10キロに人間の姿はなかった。よって生存者は無いと判断した。捜索隊は出せない」

「騎士の遺体が写ったのですか?」

 侍女はまだ諦めない。

「いや。恐らくドラゴンのブレスで骨も消えたのだろう」

「ブレスとやらの温度は?鎧兜まで溶けて消えるのですか?」

「…」

 団長は黙ってしまった。ドラゴンに会って生き延びた事例は少ない。その能力の詳細は分からないのだ。

「10キロ以上逃げたかもしれません。通信手段が無いのかも。その可能性は?」

 場内の空気が変わる。侍女は堂々と要求した。

「捜索隊を出してください。遺体を見るまで信じません」



            ♡



 きよ子は呆れた。100人もの人間が一瞬で蒸発するわけがない。無礼は承知の上で捜索隊を求めた。だが王は拒否した。

「ならぬ。今は防衛に人員を割きたい」

「では勝手に行かせてもらいます」

 腹が立ったので直答してしまったが、クリントは怒らなかった。

「女子の身でどうやって?」

 カトリーヌの意識が戻る。きよ子はすっくと立ち上がった。

「冒険者を雇います。ついでにドラゴンの弱点も探ってきます」

「出来るわけがない」

 ますます腹が立った。彼女は啖呵を切った。

「いいえ。絶対に若様を見つけます!」

 きよ子は王と睨み合った。向こうが先に目を逸らした。

「好きにせよ」

 他に質問をする人はいなかった。説明会が終わると、お館様が駆けつけてきた。仕事を抜け出してきたらしい。カトリーヌときよ子はお館様と会場を出た。



            ◆



「キコ。先ほどのあれは本当?」

 王城の一室で夫に経緯を話した後、侯爵夫人は問いただした。黒髪の侍女は頷いた。

「はい。暫く休ませてください。東の森とやらに行ってきます」

 侯爵夫妻は呆気に取られた。キコは当たり前のように息子の生存を信じている。もしかしたら。夫人の胸に希望の光が差した。

「つきましては…お給料の前借りをしても良いでしょうか?」

 しかし、キコは妙な事を言い出した。

「良いけど。幾ら?」

「えーっと。冒険者1人は1日小金貨8枚。10日拘束するとして、大金貨8枚。それを10人だと大金貨80枚。私の月給は大金貨1枚なので…余分を見込んで、8年分・大金貨96枚貸してください」

 この娘は自腹で行こうとしている。夫人は慌てて言った。

「費用なんて、いくらでも私たちが出すわ」

「いいえ。若様にご恩をお返しする機会なので」

 キコは涼しい顔で答えた。夫人が何と言っても、彼女は借金を望んだ。そして手配をすると言って、先に帰ってしまった。
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