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13 終話・白い恋人
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ブランカが死んで1年が経つ。辺境伯から一房の白い毛が送られてきた。彼女の遺骸は森に埋められたそうだ。
レオナルドの環境はまた激変した。懲りずに襲撃してきた王妃を返り討ちにして、母がその座に就いたのだ。まさに下剋上だ。
軍を辞め、継承権第一位の王子として執務をこなす。掌を返した宮廷人らのおべっかを聞く。レオナルドはどこか満たされなかった。何かが足りない。そう思いながら日々に流されていた。
母の侍女と同時に婚約者候補を募集することになった。貴族たちがうるさいので試験で決めることにしたのだ。アイリーンの件もあって、レオナルドは冷めている。どうせ似たり寄ったりの令嬢しかいない。
◆
「で…殿下!今すぐ試験会場へ!」
執務室にレフが駆け込んできた。書類を読んでいたレオナルドは顔を上げた。
「まだ侍女の試験中だろ」
彼の出番は午後のはずだ。乗り気でないが。
「ブランカ様ですよ!お帰りになりました!」
「!」
それを聞いた王子は部屋を飛び出した。今度は何だ。蝶でも何でも良い。見れば分かる。会場のドアを蹴破るように開けた。そこには白い髪の少女を抱きしめる母がいた。
「ブランカ!」
少女が顔を向けた。紅玉の瞳。確かに。だが確かめねば。
「レオ。見て。帰って来てくれたのよ!」
母は涙を流しながら、少女を彼の方に向かせた。彼女は神々しく微笑んでいる。
レオナルドは少女の前で立ち止まった。じっと赤い目と見つめ合う。彼は手を差し出した。
「お手」
「はい」
少女は華奢な白い手を乗せた。
「おかわり」
「はい」
「お座り」
「はい」
何の迷いも無く令嬢は跪いた。そしてレオナルドの手に顔を摺り寄せ、舐めた。
「ちょっと待ったーっ!!セクハラですからーっ!」
「何やってんの!変態!?」
副官と母が2人を割いた。付き添いで来ていた辺境伯夫人が、後ろで倒れていた。
◇
お母様とお母上にこっぴどく怒られた。レオナルド王子に会った瞬間に理性が消えてしまった。なかなか狼の習性が抜けない。
「えーっと。侍女の試験はどうなったんでしょうか?」
ブランカはお母上に訊いた。まだ名乗ってもいなかった。別室に連れていかれて、王子と辺境伯夫人の4人でお茶を飲んでいる。
「もちろん合格よ!今の名前は?」
何か縁故採用みたいになってしまった。ブランカは王妃に挨拶をした。
「ビアンカ・ルビーノと申します。王妃殿下」
「西の辺境伯、ルビーノ家の三女でございます。至らぬ点も多いかと思いますが、宜しくお願い致します」
お母様が大幅に補足してくれた。
「いや。俺の婚約者にしたい」
王子が割り込んで来た。ビアンカはびっくりした。元狼だよ。
「こんな色ですし。レ…殿下にふさわしくないです」
髪は染められるけど、目はねぇ。眼帯でもしてみようか。お洒落だし赤目も気にならないかも。そう言ったら、お母上と王子が大笑いした。
結局、王妃と王子がビアンカを取り合ったので、侍女兼婚約者候補というものに落ち着いた。
◆
「あの子は何故か自分が醜いと思っているのです」
ビアンカは王妃宮の部屋を見に行った。辺境伯夫人はため息をつきながら言った。
「誰かにそう思い込まされたのでしょう。私たちが否定しても、家族だからと信じてもらえません」
レオナルドは驚いた。バカな。あんなに美しい女はいない。もうその姿が見たくてたまらないというのに。
「宮廷で多くの殿方に褒められれば大丈夫よ」
母がつまらぬ事を言う。レオナルドのこめかみに青筋が走った。
「俺が褒めます。他の奴らは不要」
「あらあら。結納金の相談でもしましょうか?ルビーノ夫人」
「少し気が早いですわ。王妃殿下」
母親たちは笑った。そこにビアンカが戻ってきた。部屋は気に入ったらしい。明日から侍女見習いとして働くことになった。
「1日1回は俺の宮に来い。宴のパートナーも務めてもらう。ドレスや装飾品はこちらで用意するから心配ない」
レオナルドは雇用契約のような命令を下した。レフが後ろでメモを取っている。
「舞踏会では俺以外の男と踊ってはならん。話すのも禁止だ」
「どうして?」
ビアンカは無邪気に質問した。独占欲丸出しで母たちは笑いを堪えている。素直に“お前が好きだからだ”と言えない。レオナルドは誤魔化した。
「あれだ。護衛なんだ。お前は。だから俺から離れてはダメだ」
するとビアンカは目を輝かせた。
「はいっ!剣もお父様に習いました!」
ぱっとドレスの裾が宙を舞った。
「ぎゃっ!」
レオナルドはレフの眼鏡を叩き落とした。ビアンカは白い脚に巻いたベルトから短剣を抜いた。下着まで丸見えだった。
「絶対に刺客を寄せ付けません!」
カッコよく短剣を構える。あまりの可愛らしさに王子は悶絶した。
「「ビアンカ!何してるの?!」」
だがまたしても母親達の雷が落ちた。城への武器の持ち込みには許可が要る。色々と教育が必要そうだ。レオナルドは短剣を取り上げた。ビアンカは涙ぐんだ。
「俺以外に肌を見せてもいかん。涙もな」
「どうして?」
濡れた赤い目が訊く。
「お前は美しいからだ。誰もが愛さずにはいられない。それは困る」
王子は白い恋人を抱きしめた。
(終)
ブランカが死んで1年が経つ。辺境伯から一房の白い毛が送られてきた。彼女の遺骸は森に埋められたそうだ。
レオナルドの環境はまた激変した。懲りずに襲撃してきた王妃を返り討ちにして、母がその座に就いたのだ。まさに下剋上だ。
軍を辞め、継承権第一位の王子として執務をこなす。掌を返した宮廷人らのおべっかを聞く。レオナルドはどこか満たされなかった。何かが足りない。そう思いながら日々に流されていた。
母の侍女と同時に婚約者候補を募集することになった。貴族たちがうるさいので試験で決めることにしたのだ。アイリーンの件もあって、レオナルドは冷めている。どうせ似たり寄ったりの令嬢しかいない。
◆
「で…殿下!今すぐ試験会場へ!」
執務室にレフが駆け込んできた。書類を読んでいたレオナルドは顔を上げた。
「まだ侍女の試験中だろ」
彼の出番は午後のはずだ。乗り気でないが。
「ブランカ様ですよ!お帰りになりました!」
「!」
それを聞いた王子は部屋を飛び出した。今度は何だ。蝶でも何でも良い。見れば分かる。会場のドアを蹴破るように開けた。そこには白い髪の少女を抱きしめる母がいた。
「ブランカ!」
少女が顔を向けた。紅玉の瞳。確かに。だが確かめねば。
「レオ。見て。帰って来てくれたのよ!」
母は涙を流しながら、少女を彼の方に向かせた。彼女は神々しく微笑んでいる。
レオナルドは少女の前で立ち止まった。じっと赤い目と見つめ合う。彼は手を差し出した。
「お手」
「はい」
少女は華奢な白い手を乗せた。
「おかわり」
「はい」
「お座り」
「はい」
何の迷いも無く令嬢は跪いた。そしてレオナルドの手に顔を摺り寄せ、舐めた。
「ちょっと待ったーっ!!セクハラですからーっ!」
「何やってんの!変態!?」
副官と母が2人を割いた。付き添いで来ていた辺境伯夫人が、後ろで倒れていた。
◇
お母様とお母上にこっぴどく怒られた。レオナルド王子に会った瞬間に理性が消えてしまった。なかなか狼の習性が抜けない。
「えーっと。侍女の試験はどうなったんでしょうか?」
ブランカはお母上に訊いた。まだ名乗ってもいなかった。別室に連れていかれて、王子と辺境伯夫人の4人でお茶を飲んでいる。
「もちろん合格よ!今の名前は?」
何か縁故採用みたいになってしまった。ブランカは王妃に挨拶をした。
「ビアンカ・ルビーノと申します。王妃殿下」
「西の辺境伯、ルビーノ家の三女でございます。至らぬ点も多いかと思いますが、宜しくお願い致します」
お母様が大幅に補足してくれた。
「いや。俺の婚約者にしたい」
王子が割り込んで来た。ビアンカはびっくりした。元狼だよ。
「こんな色ですし。レ…殿下にふさわしくないです」
髪は染められるけど、目はねぇ。眼帯でもしてみようか。お洒落だし赤目も気にならないかも。そう言ったら、お母上と王子が大笑いした。
結局、王妃と王子がビアンカを取り合ったので、侍女兼婚約者候補というものに落ち着いた。
◆
「あの子は何故か自分が醜いと思っているのです」
ビアンカは王妃宮の部屋を見に行った。辺境伯夫人はため息をつきながら言った。
「誰かにそう思い込まされたのでしょう。私たちが否定しても、家族だからと信じてもらえません」
レオナルドは驚いた。バカな。あんなに美しい女はいない。もうその姿が見たくてたまらないというのに。
「宮廷で多くの殿方に褒められれば大丈夫よ」
母がつまらぬ事を言う。レオナルドのこめかみに青筋が走った。
「俺が褒めます。他の奴らは不要」
「あらあら。結納金の相談でもしましょうか?ルビーノ夫人」
「少し気が早いですわ。王妃殿下」
母親たちは笑った。そこにビアンカが戻ってきた。部屋は気に入ったらしい。明日から侍女見習いとして働くことになった。
「1日1回は俺の宮に来い。宴のパートナーも務めてもらう。ドレスや装飾品はこちらで用意するから心配ない」
レオナルドは雇用契約のような命令を下した。レフが後ろでメモを取っている。
「舞踏会では俺以外の男と踊ってはならん。話すのも禁止だ」
「どうして?」
ビアンカは無邪気に質問した。独占欲丸出しで母たちは笑いを堪えている。素直に“お前が好きだからだ”と言えない。レオナルドは誤魔化した。
「あれだ。護衛なんだ。お前は。だから俺から離れてはダメだ」
するとビアンカは目を輝かせた。
「はいっ!剣もお父様に習いました!」
ぱっとドレスの裾が宙を舞った。
「ぎゃっ!」
レオナルドはレフの眼鏡を叩き落とした。ビアンカは白い脚に巻いたベルトから短剣を抜いた。下着まで丸見えだった。
「絶対に刺客を寄せ付けません!」
カッコよく短剣を構える。あまりの可愛らしさに王子は悶絶した。
「「ビアンカ!何してるの?!」」
だがまたしても母親達の雷が落ちた。城への武器の持ち込みには許可が要る。色々と教育が必要そうだ。レオナルドは短剣を取り上げた。ビアンカは涙ぐんだ。
「俺以外に肌を見せてもいかん。涙もな」
「どうして?」
濡れた赤い目が訊く。
「お前は美しいからだ。誰もが愛さずにはいられない。それは困る」
王子は白い恋人を抱きしめた。
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感想ありがとうございます!
返信、遅くなって申し訳ありませんでした!
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