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モリナガ親王殺人事件
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玉座近くに座る内親王は、皇子を見てものすごく動揺していた。その意味することは。
「犯人は妹だ!!」
謁見後、控えの間に戻った一同に名探偵ミナミの推理が披露される。ヒナが慌てて遮音結界を部屋に張った。
「お姉さま!不敬罪で捕まります!」
「動機は何だと思う?」
皇子が水を向けてきた。ミナミは得意げに胸を反らせた。
「そんなの決まってるぞ。ヨッシー君。イケメンが殺される理由は1つ…痴情のもつれだ!」
数々の浮名を流し、女の恨みを買う親王。とうとう妹のお気に入りの侍女に手を出す。捨てられた侍女は自殺を図り、内親王は怒りの鉄槌を下す決心をする。兄を恨む7人の女たちを集め、1人1刺しづつナイフを突き立てたのだった…・
ミナミの7人のオリエント急行的な推理を聞いたリコリスは拍手をした。
「すごく面白いお話です!それで親王殿下の御遺体はどうしたんですか?」
「どっかに埋めたんじゃない?誰も近寄らない場所にさ」
「その程度で兄の皇太子を殺すか?全員側室にすれば良いだろう」
出たよ。男尊女卑。名探偵ミナミは粘った。
「遺体を見つければ真相が分かるでしょ?今夜あたり、あの妹が確認しに行くかもよ」
犯人は現場に戻る。遺体を見るまで皇子が別人だとは確信できないはずだ。そう言うと、皇子は少し考えた。
「…尾行してみるか」
夜は使節歓迎の宴がある。その後、内親王が動く様子があれば、跡をつけることになった。
◇
ヤマタイ皇国の宴は人魚の国のそれと似ていた。玉座に座る皇太后の右に皇子、左に内親王、一段下に使節団の者たちが座る。貴族や官吏たちも身分相応の位置に座して中央の舞や出し物を楽しむ。
どことなく日ノ本風の音楽に皇子は懐かしさを感じた。じっと楽に耳を傾けていると、皇太后が話しかけてきた。
「護良殿も楽器を嗜まれますか?」
「いや。不調法で何も。子供の頃に琵琶を習ったが、すぐに止めてしまった」
貴族ならば管弦の一つは出来るもの。だが皇子は武芸にのめり込み、そちらは疎かにしてしまった。前世の最期、幽閉中の無聊を慰めたのは妻の筝であった。共に奏でてみたかった。
「こちらにいらっしゃる間に習ってみてはいかがです?」
「有り難い。ぜひお願いする」
皇太后は侍従に合図した。すると見事な細工が施された琵琶が運びこまれる。一目で宝物の類であると分かる。
「息子が使っていたものですが。どうぞ」
更に皇太后は手づから教えることを約束した。皇子は礼を言って琵琶を受け取る。その様子を見ていた内親王の顔色が変わった。
撥で4本の弦を弾くと、思ったより軽やかな音が出た。楽師たちが気を利かせて手を止める。皇子はうろ覚えの曲を弾いてみた。
「…お上手ですね。お教えすることは少ないようです」
「楽器のせいだろう。素晴らしい琵琶だ」
皇太后の世辞に、皇子は照れ笑いを浮かべた。それにこの曲しか知らない。ミナミたちと合奏できるくらいに上達したいものだ。彼は新たな目標を見つけた。
気づくと、内親王が退出していた。思ったより早く動いた。皇子は豊玉に念話を送った。
(豊玉。内親王の跡をつけろ。気づかれるな)
(あい)
眷属となった豊玉は普段は皇子の影にいる。土人形よりも隠形が上手い。念じるだけで意思の疎通もできる。おそらくマリエルも同様だろう。
宴が終わるまで、内親王が戻ることは無かった。
♥
内親王サララ姫は後宮の暗い廊下を足早に歩いていた。付き従う侍女は僅か1人。自室の戻り、動きやすい着物に着替える。
「姫様。本当に今から行かれるのですか?朝になってからでは…」
侍女が着替えを手伝いながら不安げに訊いた。
「見たでしょう?あの男が兄さまの琵琶を弾いたのを。春宮しか弾けないはずなのに。悪霊が兄さまの身体を手に入れたのかもしれない」
てきぱきと着替え終えた姫は、皇族専用の脱出路へ向かった。侍女は慌ててその後を追った。
2人は床の間の掛け軸をめくり、その下にあった小さな扉を潜り抜ける。姫は何度も通った秘密の抜け道を明かりも無しに進んだ。数分で外へと出る。宮城の北東、ケガレ場と呼ばれる瘴気の谷に近い場所だ。
明日は満月という夜。月明りを頼りに進む主従を、道の先に何者かが待ち受けていた。先に気づいたサララ姫が誰何する。
「誰だ?」
「こんな夜更けにどちらに参られまする?内親王殿下」
小さな老人が近づいてくる。忍びの頭領だった。失踪した兄を探しに外国まで行っていた守役。サララ姫は気づいた。この老人があの兄の顔をした男を連れ帰ったのだ。
「お前だな。兄さまの偽物を引き入れたのは」
「サララ内親王殿下にお聞きいたしまする。モリナガ親王殿下を弑したのは、貴女でしょうか?」
老人の背後から10人以上の忍び達が走り出る。あっという間に姫と侍女は取り囲まれた。
「皇家に仕える忍び衆が皇族に刃を向けるか!」
「逆賊であれば。さあお答えください。殿下はいずこに?」
「…」
サララ姫は震える侍女を庇いながら老人を睨んだ。力づくでも答えさせる気だろう。怒りに燃えた老人がサッと手を下ろした。忍び達が囲む輪を縮める。姫は目を瞑った。
「抜け駆けするでない。翁よ」
次の瞬間、あの男の声がした。兄と声まで似ている。姫は目を開けた。いつの間に現れたのか、老人から姫を守るように立っていた。
「誤解するな。お前を助けに来たわけではない。俺は真実を知りたいだけだ」
男がぱちりと指を鳴らす。すると忍び衆は一斉に昏倒した。困惑した顔の老人だけが立っている。
「何をされるおつもりで?」
「姫に自白してもらう。1年半前に何があったのかを。モリナガ親王は今どこにいるのかを」
謁見の時とは比べ物にならないほどの威圧感。蛇に睨まれた蛙のように、サララ姫は硬直した。
「ついてこい」
姫と老人に命じ、男は空中に浮かび出た真っ暗な穴に入っていった。老人が続く。これ以上隠し通すのは無理のようだ。覚悟を決めた姫は侍女と手を繋ぎ、闇へと足を踏み入れた。
玉座近くに座る内親王は、皇子を見てものすごく動揺していた。その意味することは。
「犯人は妹だ!!」
謁見後、控えの間に戻った一同に名探偵ミナミの推理が披露される。ヒナが慌てて遮音結界を部屋に張った。
「お姉さま!不敬罪で捕まります!」
「動機は何だと思う?」
皇子が水を向けてきた。ミナミは得意げに胸を反らせた。
「そんなの決まってるぞ。ヨッシー君。イケメンが殺される理由は1つ…痴情のもつれだ!」
数々の浮名を流し、女の恨みを買う親王。とうとう妹のお気に入りの侍女に手を出す。捨てられた侍女は自殺を図り、内親王は怒りの鉄槌を下す決心をする。兄を恨む7人の女たちを集め、1人1刺しづつナイフを突き立てたのだった…・
ミナミの7人のオリエント急行的な推理を聞いたリコリスは拍手をした。
「すごく面白いお話です!それで親王殿下の御遺体はどうしたんですか?」
「どっかに埋めたんじゃない?誰も近寄らない場所にさ」
「その程度で兄の皇太子を殺すか?全員側室にすれば良いだろう」
出たよ。男尊女卑。名探偵ミナミは粘った。
「遺体を見つければ真相が分かるでしょ?今夜あたり、あの妹が確認しに行くかもよ」
犯人は現場に戻る。遺体を見るまで皇子が別人だとは確信できないはずだ。そう言うと、皇子は少し考えた。
「…尾行してみるか」
夜は使節歓迎の宴がある。その後、内親王が動く様子があれば、跡をつけることになった。
◇
ヤマタイ皇国の宴は人魚の国のそれと似ていた。玉座に座る皇太后の右に皇子、左に内親王、一段下に使節団の者たちが座る。貴族や官吏たちも身分相応の位置に座して中央の舞や出し物を楽しむ。
どことなく日ノ本風の音楽に皇子は懐かしさを感じた。じっと楽に耳を傾けていると、皇太后が話しかけてきた。
「護良殿も楽器を嗜まれますか?」
「いや。不調法で何も。子供の頃に琵琶を習ったが、すぐに止めてしまった」
貴族ならば管弦の一つは出来るもの。だが皇子は武芸にのめり込み、そちらは疎かにしてしまった。前世の最期、幽閉中の無聊を慰めたのは妻の筝であった。共に奏でてみたかった。
「こちらにいらっしゃる間に習ってみてはいかがです?」
「有り難い。ぜひお願いする」
皇太后は侍従に合図した。すると見事な細工が施された琵琶が運びこまれる。一目で宝物の類であると分かる。
「息子が使っていたものですが。どうぞ」
更に皇太后は手づから教えることを約束した。皇子は礼を言って琵琶を受け取る。その様子を見ていた内親王の顔色が変わった。
撥で4本の弦を弾くと、思ったより軽やかな音が出た。楽師たちが気を利かせて手を止める。皇子はうろ覚えの曲を弾いてみた。
「…お上手ですね。お教えすることは少ないようです」
「楽器のせいだろう。素晴らしい琵琶だ」
皇太后の世辞に、皇子は照れ笑いを浮かべた。それにこの曲しか知らない。ミナミたちと合奏できるくらいに上達したいものだ。彼は新たな目標を見つけた。
気づくと、内親王が退出していた。思ったより早く動いた。皇子は豊玉に念話を送った。
(豊玉。内親王の跡をつけろ。気づかれるな)
(あい)
眷属となった豊玉は普段は皇子の影にいる。土人形よりも隠形が上手い。念じるだけで意思の疎通もできる。おそらくマリエルも同様だろう。
宴が終わるまで、内親王が戻ることは無かった。
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内親王サララ姫は後宮の暗い廊下を足早に歩いていた。付き従う侍女は僅か1人。自室の戻り、動きやすい着物に着替える。
「姫様。本当に今から行かれるのですか?朝になってからでは…」
侍女が着替えを手伝いながら不安げに訊いた。
「見たでしょう?あの男が兄さまの琵琶を弾いたのを。春宮しか弾けないはずなのに。悪霊が兄さまの身体を手に入れたのかもしれない」
てきぱきと着替え終えた姫は、皇族専用の脱出路へ向かった。侍女は慌ててその後を追った。
2人は床の間の掛け軸をめくり、その下にあった小さな扉を潜り抜ける。姫は何度も通った秘密の抜け道を明かりも無しに進んだ。数分で外へと出る。宮城の北東、ケガレ場と呼ばれる瘴気の谷に近い場所だ。
明日は満月という夜。月明りを頼りに進む主従を、道の先に何者かが待ち受けていた。先に気づいたサララ姫が誰何する。
「誰だ?」
「こんな夜更けにどちらに参られまする?内親王殿下」
小さな老人が近づいてくる。忍びの頭領だった。失踪した兄を探しに外国まで行っていた守役。サララ姫は気づいた。この老人があの兄の顔をした男を連れ帰ったのだ。
「お前だな。兄さまの偽物を引き入れたのは」
「サララ内親王殿下にお聞きいたしまする。モリナガ親王殿下を弑したのは、貴女でしょうか?」
老人の背後から10人以上の忍び達が走り出る。あっという間に姫と侍女は取り囲まれた。
「皇家に仕える忍び衆が皇族に刃を向けるか!」
「逆賊であれば。さあお答えください。殿下はいずこに?」
「…」
サララ姫は震える侍女を庇いながら老人を睨んだ。力づくでも答えさせる気だろう。怒りに燃えた老人がサッと手を下ろした。忍び達が囲む輪を縮める。姫は目を瞑った。
「抜け駆けするでない。翁よ」
次の瞬間、あの男の声がした。兄と声まで似ている。姫は目を開けた。いつの間に現れたのか、老人から姫を守るように立っていた。
「誤解するな。お前を助けに来たわけではない。俺は真実を知りたいだけだ」
男がぱちりと指を鳴らす。すると忍び衆は一斉に昏倒した。困惑した顔の老人だけが立っている。
「何をされるおつもりで?」
「姫に自白してもらう。1年半前に何があったのかを。モリナガ親王は今どこにいるのかを」
謁見の時とは比べ物にならないほどの威圧感。蛇に睨まれた蛙のように、サララ姫は硬直した。
「ついてこい」
姫と老人に命じ、男は空中に浮かび出た真っ暗な穴に入っていった。老人が続く。これ以上隠し通すのは無理のようだ。覚悟を決めた姫は侍女と手を繋ぎ、闇へと足を踏み入れた。
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