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再会
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◇
翌日の昼過ぎに侍従がルカを迎えに来た。王は内密に会うつもりのようで、小さな部屋に通された。
「修道士ルカ殿をお連れしました」
豪華なソファに50代の男が座っていた。一番上等な衣服を着ている。王だ。ルカは跪いた。
「お召しにより参上いたしました」
「…良い。立て」
立ち上がると目が合った。初めて会う父親だ。髪と目の色がルカと同じだった。そこだけ血縁を感じる。
「息災だったか?」
「はい」
気まずい沈黙が落ちる。同席した宰相閣下が口を挟んだ。
「陛下。ペテロ司祭から図書室への閲覧申請が出ております。ルカ…ルーカス殿下のご希望だそうです」
久しぶりに元の名を耳にした。王はルカに訊いた。
「何が読みたいのだ?」
「見事な祈祷書の写本があるとか。その他にも貴重な本を拝見したく存じます」
「許可する」
あっさり許された。ルカは嬉しさを顔に出してしまった。
「ありがとうございます!」
陛下は驚いたように瞬きをした。しまった。ルカは真面目な顔に戻そうとした。
◆
8年ぶりに第7王子に会った。王はじっくりと息子を観察した。喜びに満ちた笑顔。さぞかし恨まれているだろうと思っていたが。
「そちは王族への復帰を拒んでいるそうだな」
本題に入ると息子は笑顔を消して頷いた。
「はい。私は修道士として生きる所存でございます」
「父の頼みでもか?」
「私は神の息子です」
「…」
王子の地位も富も要らぬか。宰相が、せめて赤子が生まれるまでと引き止める。予定日は2週間後。それまでは城に留まるとルーカスは約束した。
「もう良い。下がれ」
息子は宰相と退出した。脚は引きずっていない。会話も問題ない。天はまだ我を見捨てていないらしい。王は図書室の鍵を息子に届けるように命じた。
◆
謁見は成功だった。あとは2週間で殿下のお気持ちを変えねばならない。御前を辞した後、宰相は王太子宮での待遇に不満はないか尋ねた。
「ご不便はありませんか?」
「ええ。そうだ。昨日、王太子妃殿下が宮に来てくださいました。お加減が悪かったようなので、気になっていて」
「妹が?知りませんでした」
宰相は嫌な予感がした。その日の夜、早めに帰宅した彼は妹を探した。
◆
妹は父の書斎で叱られていた。
「この役立たず!」
ガシャンと何かが割れる音がした。ミカエルは部屋に飛び込んだ。向かい合う父と妹。床には花瓶が砕け散る。
「父上?どうなさったんです?」
2人の間に割って入った。また父の癇癪だ。うんざりする。
「ミランダを第7王子の宮に行かせたのだ。なのに手ぶらで帰って来おった」
「どういう意味です?」
ミカエルは目を細めた。背後の妹が涙声で言った。
「誘惑しに行ったのよ。殿下を。嫌よ。絶対にしない!」
「口答えするか!この親不孝者!」
父の頭痛が始まって、ようやく親子喧嘩は終わった。
◆
ミカエルは妹の部屋で事情を聞いた。父の野望に呆れた。
「兄様も同じ?私に王太子妃になってほしい?」
いつもは大人しい妹が今日は強気だ。
「そりゃ、ベリー公爵家としてはね。でも誘惑は無理じゃないかな」
「無理よ。あんな清らかな方」
兄妹は顔を見合わせて笑った。父も実際にお会いすれば分かるだろう。
ミランダはまだ18だ。きっと良い縁が見つかる。ミカエルは励ました。ついでに殿下がお前の具合を気にしていたよと伝えた。妹は頬を染めた。
「まあ。何てお優しい…」
ルーカス殿下とミランダ。悪くないかもしれん。宰相は計画に妹の再婚も加えるか考えた。
「そうだ兄様。殿下はなぜ王太子宮にいらっしゃるの?」
妹が思い出したように言った。
「え?王妃様が決めたからだろ?」
いずれ王太子になる方だ。今から慣れていただく為だろう。妹は衝撃の事実を兄に教えた。
「王太子宮は閉鎖されていたわ。殿下はお一人なのよ!」
◇
修道士は早く寝る。朝が早いからだ。夜のお祈りを済ませるとルカは8時前にベッドに入った。寝入ってすぐに宮のドアが叩かれた。誰かが大きな声で騒いでいる。ルカは目を擦りながらドアを開けた。
「宰相閣下?どうされました?」
閣下が立っていた。数人の従者もいる。急ぎの要件のようだ。
「どうもこうもありませんっ!何故言わなかったのですかっ!」
大声で目が覚めた。閣下は真っ赤な顔で怒っていた。何だろう。ルカは首を傾げた。
「まあ落ち着いてください。お茶でもいかがですか?」
「誰が淹れるんです?!」
「私ですが」
閣下は額に手を当てて俯いた。冷えたのかな。ルカは厨房に向かった。閣下もついてくる。
火を熾して湯を沸かす。温めたポットに茶葉を入れ湯を注ぎ、客間に移動した。
「どうぞ。皆様も。夜遅くにお疲れ様です」
ルカは丁寧に茶を淹れた。従者たちは主人を横目で見た。閣下は無言だ。落ち着けば用件を話してくれるだろう。ルカは茶を飲んだ。我ながら美味い。
翌日の昼過ぎに侍従がルカを迎えに来た。王は内密に会うつもりのようで、小さな部屋に通された。
「修道士ルカ殿をお連れしました」
豪華なソファに50代の男が座っていた。一番上等な衣服を着ている。王だ。ルカは跪いた。
「お召しにより参上いたしました」
「…良い。立て」
立ち上がると目が合った。初めて会う父親だ。髪と目の色がルカと同じだった。そこだけ血縁を感じる。
「息災だったか?」
「はい」
気まずい沈黙が落ちる。同席した宰相閣下が口を挟んだ。
「陛下。ペテロ司祭から図書室への閲覧申請が出ております。ルカ…ルーカス殿下のご希望だそうです」
久しぶりに元の名を耳にした。王はルカに訊いた。
「何が読みたいのだ?」
「見事な祈祷書の写本があるとか。その他にも貴重な本を拝見したく存じます」
「許可する」
あっさり許された。ルカは嬉しさを顔に出してしまった。
「ありがとうございます!」
陛下は驚いたように瞬きをした。しまった。ルカは真面目な顔に戻そうとした。
◆
8年ぶりに第7王子に会った。王はじっくりと息子を観察した。喜びに満ちた笑顔。さぞかし恨まれているだろうと思っていたが。
「そちは王族への復帰を拒んでいるそうだな」
本題に入ると息子は笑顔を消して頷いた。
「はい。私は修道士として生きる所存でございます」
「父の頼みでもか?」
「私は神の息子です」
「…」
王子の地位も富も要らぬか。宰相が、せめて赤子が生まれるまでと引き止める。予定日は2週間後。それまでは城に留まるとルーカスは約束した。
「もう良い。下がれ」
息子は宰相と退出した。脚は引きずっていない。会話も問題ない。天はまだ我を見捨てていないらしい。王は図書室の鍵を息子に届けるように命じた。
◆
謁見は成功だった。あとは2週間で殿下のお気持ちを変えねばならない。御前を辞した後、宰相は王太子宮での待遇に不満はないか尋ねた。
「ご不便はありませんか?」
「ええ。そうだ。昨日、王太子妃殿下が宮に来てくださいました。お加減が悪かったようなので、気になっていて」
「妹が?知りませんでした」
宰相は嫌な予感がした。その日の夜、早めに帰宅した彼は妹を探した。
◆
妹は父の書斎で叱られていた。
「この役立たず!」
ガシャンと何かが割れる音がした。ミカエルは部屋に飛び込んだ。向かい合う父と妹。床には花瓶が砕け散る。
「父上?どうなさったんです?」
2人の間に割って入った。また父の癇癪だ。うんざりする。
「ミランダを第7王子の宮に行かせたのだ。なのに手ぶらで帰って来おった」
「どういう意味です?」
ミカエルは目を細めた。背後の妹が涙声で言った。
「誘惑しに行ったのよ。殿下を。嫌よ。絶対にしない!」
「口答えするか!この親不孝者!」
父の頭痛が始まって、ようやく親子喧嘩は終わった。
◆
ミカエルは妹の部屋で事情を聞いた。父の野望に呆れた。
「兄様も同じ?私に王太子妃になってほしい?」
いつもは大人しい妹が今日は強気だ。
「そりゃ、ベリー公爵家としてはね。でも誘惑は無理じゃないかな」
「無理よ。あんな清らかな方」
兄妹は顔を見合わせて笑った。父も実際にお会いすれば分かるだろう。
ミランダはまだ18だ。きっと良い縁が見つかる。ミカエルは励ました。ついでに殿下がお前の具合を気にしていたよと伝えた。妹は頬を染めた。
「まあ。何てお優しい…」
ルーカス殿下とミランダ。悪くないかもしれん。宰相は計画に妹の再婚も加えるか考えた。
「そうだ兄様。殿下はなぜ王太子宮にいらっしゃるの?」
妹が思い出したように言った。
「え?王妃様が決めたからだろ?」
いずれ王太子になる方だ。今から慣れていただく為だろう。妹は衝撃の事実を兄に教えた。
「王太子宮は閉鎖されていたわ。殿下はお一人なのよ!」
◇
修道士は早く寝る。朝が早いからだ。夜のお祈りを済ませるとルカは8時前にベッドに入った。寝入ってすぐに宮のドアが叩かれた。誰かが大きな声で騒いでいる。ルカは目を擦りながらドアを開けた。
「宰相閣下?どうされました?」
閣下が立っていた。数人の従者もいる。急ぎの要件のようだ。
「どうもこうもありませんっ!何故言わなかったのですかっ!」
大声で目が覚めた。閣下は真っ赤な顔で怒っていた。何だろう。ルカは首を傾げた。
「まあ落ち着いてください。お茶でもいかがですか?」
「誰が淹れるんです?!」
「私ですが」
閣下は額に手を当てて俯いた。冷えたのかな。ルカは厨房に向かった。閣下もついてくる。
火を熾して湯を沸かす。温めたポットに茶葉を入れ湯を注ぎ、客間に移動した。
「どうぞ。皆様も。夜遅くにお疲れ様です」
ルカは丁寧に茶を淹れた。従者たちは主人を横目で見た。閣下は無言だ。落ち着けば用件を話してくれるだろう。ルカは茶を飲んだ。我ながら美味い。
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