異世界・魔法薬の魔女

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異世界、始めてみました。

アクロバティックソング!

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 グングンと、高くなる目線。
いつの間にか、雑貨屋も町も、遥か足元だ。
 空の上は、風が強い。
 はためくスカートの裾を押さえつつ、私はヒドく感動した。
 箒に乗った時でさえ、上空の景色には感動したけど、その感動を味わう余裕などなかったので、改めて景色を堪能する。
 綺麗だった。
 青く澄んだ空も。
 眼下に広がるカラフルな屋根も。
 遥か遠くにそびえ立つ山脈も。
 小さく見えるけど、驚くほど大きな木々も!
 日本にいたら、決して見れない景色に、私は本当に感動した。
 だから、ついついというか。
 思わず、両手をガバっと広げて中腰になった。
 突然の行動に、隣で座っていたトムが身体をビクリと震わせている。
 けど、そんなことはお構いなし。私は、自分の感情の昂りのままに大きな声で歌っていた。
「すーてきーすぎーてー!!」
 有名なシーンの歌。まさに、ヒロインとヒーローが魔法の絨毯に乗って歌うシーンだ。
 あの何とも言えない空の旅が、私は大好きだった。
 本当に信じられない。
 まさか、あの歌のように魔法の絨毯で空を飛ぶ日が来るなんて!
「あーたらーしいーせかーいー!」
 映画のシーンのように、いつの間にか絨毯が私を乗せてクルクルとアクロバティックに飛ぶ。
 でも、それすらも私は楽しくて仕方ない。
 風が気持ちよくて、思わず立ち上がろうとする私をトムが必死に何か叫びながら引き止めている。
 風が煩くて何いってるか分からないけど、取り敢えず酷い顔だ。
 あれかな、乗り物酔いかな。魔法の本の癖に。
 しょうがないので歌をやめて、大人しく座ると、絨毯はさっきまでの動きが嘘のようにピタリと止まった。
「トム、大丈夫?」
 トムは、肩で息をしながら苦しそうに私にしがみついている。
 思わず声をかけると、トムは顔を歪ませた。
「ほ、箒より酷いじゃないですか!
 何ですか、この動き!!」
 どうやら、本当に酔ったらしい。
 具合が悪そうに口元を押さえるトムの背中をさすってあげると、苦しそうにもう一度呻く。
 これは、早く地面に下ろしてあげた方が良さそうだ。
「揺らさないように。けど、なるべく早く家まで行って」
 そう言うと、絨毯は滑るように空を飛んだ。
 風が心地よく、トムの頭をそのまま撫でてやると、少しだけ顔色が戻ったようでホッとした。
 ある程度は進んでいたから、家に着いたのはすぐだった。
 箒に乗った時よりは遅く、それでも歩くよりは早く家に着いたので、運転さえ気を付ければ便利な乗り物になるだろう。
「トム、大丈夫?」
 フラフラと絨毯から降りたトムは、顔色は悪いものの、しっかりした足取りで荷物を運んでいた。
 私も慌てて手伝おうと駆け寄ると、何故か足が言うことを聞かず、ガクンとチカラが抜ける。
「え?」
 転ぶのを避けようと手を伸ばそうとしても、頭がクラクラしてそれすらも出来ない。
 遠くで、トムが叫ぶ声が聞こえたけど、地面の上にいるのに、風の音のようなゴウゴウという轟音のせいで上手く聞き取れない。
 地面に打つかる衝撃と、それを無抵抗に受け入れた身体が少しバウンドした。
 頭から倒れたわけじゃないけど、強かに打った肩が痛い。
 地面に寝転がり、何とか立ち上がろうとしても力が入らなかった。
 急に瞼が重くなり、このまま死んでしまうかのような脱力感に恐怖する。
 さっきまで、あんなに楽しかったのに。
 まだこの世界に来てから、一日もたってないのに、こんな死に方はさすがに嫌だな。
 グラグラした視界はどんどん狭まっていって、最後に見えたのはトムの綺麗な金髪だった。
 
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