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第2章 今の情勢とこれからの立場

19.変わったものと変わらないもの

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【エルデイン王国首都トリスティナ・中央区1番地1-5(青薔薇宮2階)】


太陽が真上に来た頃、クリスティーナはアンネに相談しながらお茶会のための招待状を書いていた。 

かつて公爵令嬢時代に仲良くしていた家の夫人やご令嬢をこの青薔薇宮に招待し、王妃として社交界を掌握しておかなればならないからだ。 

「はぁ。めんどうだわ。ソルが王様辞めようとしてたのも今なら許してしまいそう。」 

そもそもなんで3年もいない人を王妃にしてるのよ。そしてなぜそれが認められてるのよ…。誰か止めなさいよ。 

………いえ、よくよく考えると、1度決めたあの人を止めるのは無理ね。 

「クリスティーナ様、お願いですからそれを陛下の前で言わないでくださいね。」 

「わかっているわ。そんなことしたら次の日には本当に辞めてそうだものね。今のあの人。」 

困ったものだわ、とクリスティーナはヤンデレに片足突っ込んでいそうな王様について考える。 

「…どうしましょう。」 

「?、その家は招待しても特に問題ないと思いますが何かございましたか?」 

「いえ、そうではないの。明日あの人と街へ行く事になったからその時にどうやって暴走を止めようかと考えていたの。」 

「さようでございましたか。クリスティーナ様は物欲がありませんから陛下も何を贈ればいいのかお困りなのではないでしょうか?いっその事これが欲しいと逆におっしゃってみてはどうでしょう?」 

さすがずっと使えてくれてたアンネね。何も言わなくてもなぜ悩んでたのかを理解してくれるわ。 

「……そうね。それが1番良さそうだわ。方向性を決めないからあちこちに飛び火するのよね。それならアンネの言う通り、方向を示してしまった方がいいわよね。」 

それにしても欲しいもの…どうしましょうか…。これといって思いつかないわ。 

…困ったわ。 

クリスティーナは欲しいものが思いつかずに困ってふと手元を見る。今クリスティーナの右手には招待状を書くための万年筆が握られている。 

「……そうだわ。ペンにしましょう。」 

「それはいい考えですね。ペンであればこれからもずっと使えますから陛下も贈りやすいと思います。」 

いかにもたった今手元を見て決めましたと言わんばかりのクリスティーナに微笑みつつアンネがそう言って同意した。 

「そうよね。そうと決まれば、明日の予定にガラス工房を追加してもらわないと!アンネ、ソルの所に行くわよ!」 

急がないと都合がつかずに明日行けなくなってしまうかもしれない。 

「え。あの。クリスティーナ様?なぜガラス工房…なのですか?」 

この展開にすごく懐かしさと既視感を覚えたアンネが戸惑いつつクリスティーナにそう聞く。 

「せっかくソルにお願いするのに普通のペンじゃつまらないじゃない!」 

「は、はあ。さようでございますか…。」 

アンネったらわかってないわね。普通のやつをなにかの度に贈られるようになるのも困るのよ! 

普通にペンが欲しいと言ってもそうなるだけなのだ。 

そんな事とは知らないアンネはクリスティーナがこうやって思いつきで行動するのには慣れていたので懐かしい気持ちになりつつもこれから振り回されるであろう人達に心の中で合掌した。



【エルデイン王国首都トリスティナ・中央区1番地1-4(シエルリュミエール城 北棟通路)】 

「!?、天使様!?」
「馬鹿っ、通達があっただろ!王妃様だ!」
「あっ…も、申し訳ありませんっ!!」 

顔を真っ青にして平謝りする警備兵を見て不思議に思うクリスティーナはついてきていたアンネを見る。 

「これが今のこの城の普通でございます。」 

「そうなの。変わったのね。」 

前は城の警備兵はもっと横暴だった。こんなにピリピリと張り詰めてはいなかったとクリスティーナは思いそうつぶやく。 

クリスティーナはこの変化が100%いいものとは思えなかった。恐怖政治の末に行き着くのは破滅しかないという言葉を思い出したからだ。当時は横暴ではあったが、ここまでピリピリしてはいなかったのだから。 

まあ、横暴でいい加減な者しかいなかったから、3年前のあの時はあれほどあっさり好き放題されたんでしょうけどね。 
そう思うと、前よりははるかにましなんでしょうね。緊張感もある程度は必要なのでしょうし。 

「別に怒っていないから頭をあげなさい。」 

「「はっ!」」 

クリスティーナの言葉で頭をあげた警備兵2人はガチガチに緊張してビシッと立つ。 

「ソル…いえ、陛下は執務室にいらっしゃるかしら?」 

「朝以降この通路を通っていらっしゃらないのでおそらく執務室かと思われます!」 

「そう、ありがとう。いつも警備ご苦労様です。」 

クリスティーナはそう言って微笑むと警備兵に背を向けて執務室へ続く方へ歩き出した。 

そんなクリスティーナの後ろについているアンネはちらりと後ろを振り返って先程の警備兵2人を見る。 

2人はぽけーと半ば放心状態でクリスティーナの方を見つめており、アンネは自分の契約精霊に頷いて見せる。 

こうしてまたクリスティーナ様を崇める会であるクレール・ド・リュンヌのメンバーは今までと変わらずに増えていく。
当事者であるクリスティーナが存在すら知らないままに。



【エルデイン王国首都トリスティナ・中央区1番地1-4(シエルリュミエール城 国王執務室)】 

「入るわね。」 

クリスティーナは執務室のドアをノックすると中の人の返事を聞かずにドアを開けて部屋の中に入った。 

「ティナ…来るのはいいが、ノックの後は返事を待ってからドアを開けなさいと何度も言ってるだろう…。」 

なんのためのノックだと思っているんだとここ数日ですっかり前のような態度に戻ってしまった兄ファウストからお小言をもらう。 

「あら、大丈夫なのはちゃんとわかっていたわ。」 

「そういう問題ではない!」 

そう言ったファウストから本格的なお説教が飛んできそうになったが、それをソレイユが止める。 

「ティーナは大丈夫なタイミングでしかやらないから大丈夫だよ。それよりも何か用事があったんでしょ?」 

ちょうどお昼休憩にしようと思っていたところだったから昼食をとりながら聞こうかとソレイユが嬉しそうに言う。 

そう。2人にはクリスティーナのこの感じにすごく既視感があったのだ。
学生だった頃によくソレイユのいるサロンに突撃されて思いつきによる計画をあれこれ手伝わされていたからだ。 

「ティーナの思いつきは久しぶりだから楽しみだ。」 

「私は今から胃がキリキリしそうなんですがね。」 

「お兄様は相変わらずなのね。でも今回は大した事じゃないから大丈夫よ!」 

「……そうだといいんですがね。」 

クリスティーナの言葉が全く信用できないファウストは力なく呟いた。 

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お読み下さりありがとうございます。
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