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第2章 今の情勢とこれからの立場

14.本当の〈月と太陽〉伝説

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城から国王であるソレイユが居なくなって1晩が経った朝。
王の執務室の机上から見つかった3つの爆弾と言っても差し支えなほどの置き土産が見つかった。
2つ折りにされた1枚の紙に、ある法案に関する書類1式、そして1冊の古そうな本だ。それらを順に目を通したエルデイン王国の重鎮達は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。 

それらがどんな物だったのかと言うと、まず1つ目がエルデイン王国の王政を廃止する旨の書かれた王の署名と認印が既にされている書類1式。2つ目が『私は太陽にあらず。王家とは代替わりと共に満ち欠けを繰り返す月なり。エルデインの太陽は前は国と共にあったが今はすでに無い。』という文の書かれた紙切れ。
そして最後3つ目が、これまで王にのみ伝わっていたのだろう古代の予言書〈月と太陽〉の原本である。 

今まで月と太陽の予言の詳細は王家しか知らないとされていたが、大まかな内容はこの国の人なら誰もが知っているほど有名な話だった。 

未来を明るく照らし導く、太陽。
そんな太陽と共に国を静かに見守る、月。
大きな変革が起こる時、太陽の子が現れる。太陽は月と共にある事で真の力を発揮し、そうする事で世の安寧とさらなる躍進が約束される。そのため決して失ってはならない。と、そう言われている。
それがこの大陸のはるか昔からある誰でも知る伝説だった。 

太陽が王でそれに寄り添い支える月が王妃。
エルデイン王国では平民向けの絵本や劇にすらなっている有名な話だが、王の置き土産を見るにその伝説の解釈は根底から間違っていたと言う事になる。


【エルデイン王国首都トリスティナ・中央区1番地1-4(シエルリュミエール城 国王執務室横大会議室)】 

その場にいる全員に聞かせるために本の冒頭を朗読する者の声は読み進める内にどんどん震えていく。 

『はるか昔、神々が今いる天界に移り住むと決めた時、我々人間はこの地の管理のために生み出された。その後──(中略)── 

…こうして、神の世界からの使いである太陽の"みこ"と神から力を授かった月の王は世界の危機を乗り越えた。
その時に神は言った。世界にとって大きな変革が起こる時にまた太陽の"みこ"が生まれる。絶対に守りなさい、と。 

それから長い長い時が過ぎ、その時の出来事が忘れさられていった頃。ある何代目かの太陽の"みこ"がよからぬ事を企む人の手で殺された。 

それから世界は数百年間荒れ続けた。
神々は怒り姿を消し、生き物は変容し人を襲うようになった。それだけでもとんでもない事だったがそれだけでは無い。
ありとあらゆる天変地異が大陸全体を頻繁に襲うようにもなったのだ。
そして、その時に人は1度滅びかけた。 

──(中略)── 

太陽の"みこ"は全てを見通す神の目を持ち、神々から愛された者なり。
月とは現在までに刻まれたものを読み解く目をもち、太陽と共にある者なり。 

月と太陽は2つで1つ。次にどちらかがかけた時、世界は今度こそ滅びるだろう。』


エルデイン王国の重鎮達は今まで王が秘匿してきただろう予言書とも言えるその本の冒頭を少し読んで、王の置き手紙の内容を思い出して青ざめる。 

『この本がこれから先の未来で生まれる、新たな 太陽の神子みこ のためにならんことを願っている。』
『この本が、子孫達未来の月の王の助けとなりますように。』 

本の最初のページをめくったすぐのところにそれぞれ違う筆跡で書かれたその2つの文は、どちらが月でどちらが太陽なのかで揺れるこの場の誰もが誤解や考える余地も無く理解できるように明確に示されていた。 

太陽とは王のことではなかったのだ。神から愛された者、"みこ"と呼ばれる者が本当の太陽だったのだ。 

この大陸で言う"みこ"とは巫女と言ったり神子と言ったり様々だが、総じて未来を視ることの出来る力を持つ者の事を指す。 

そしてこの国にも、国王の手紙通り以前は未来を視る事ができる巫女がいるという噂が存在していた。
噂が真実だったなら巫女が数百年ぶりに現れた事になると当時それなりに騒ぎになったからそこそこ有名な話だ。 

その巫女の名前はクリスティーナ・フィア・マクファディン。3年前に前国王らにそそのかされて自分達の手で殺した公爵家のご令嬢だった。



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お読みくださりありがとうございます。
次回も明日のお昼ぐらいに更新できるように頑張ります。また読みに来てくれると嬉しいです。



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