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第1章 (強制連行という名の)帰還

13.疲れた心と解ける誤解

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遅くなりました。
読みに来てくれてありがとうございます。

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精霊の回廊を通って森へ帰ってきたクリスティーナは崩れ落ちるようにしゃがみこむとその場で崩れた。 

悲しいはずなのに涙は出ない自分に嘲笑がこぼれる。

クリスティーナが死んだ時ソレイユは城にいなかったから、ソレイユだけは大丈夫だと思っていたのに城にあのルーナがいた事で信じていたのに裏切られたような気がした。3年もソレイユを放置したのは自分の方なのに。 

めちゃくちゃな気持ちのまま、しばらく1人でいたがそんなクリスティーナの所にソレイユが契約精霊に案内されてやってきた。 

「近づいてもいいかい?」 

「…好きにすればいいわ。」 

すぐに追ってくるのはわかっていた。精霊達がつくった回廊が消えないのはソレイユの契約精霊が精霊の王に頼んだからだろうから。
クリスティーナは精霊の回廊が自分の制御下から外れたのに一向に消える気配のない時点でそれを悟った。だが、ソレイユがすぐに追って来ることがわかっていてもクリスティーナはその場から動く気力がわかなかった。 

元ヒロインで元妹でもあるあの子の手の甲で光っている印をちらりと見たけれど、思っていた通り私とは違っていた。 

あの子のあれは私と違って天族の印だ。それも天族の中でも最上位に位置する王族とそれに連なる天族だけに出現する最上位の印。今頃きっと空の上の大陸でも新たな王が生まれてるはずなのに一向に現れないと大騒ぎしている事だろう。
海未にはよく考えずに突っ走ってしまう癖があるから今回もそれだろう。私が死ぬ原因になったあの時のあの言葉もどうせあいつの言葉を鵜呑みにしてよく確かめもせずに突っ走った結果なんだろう。それはわかる。わかってはいるのだ。
だって妹だったのだから。 

それでも、今の状況を改善しようと動き出すための力がどうしてもわかない。 

「大丈夫?」 

「…リュヌこそ、大丈夫なの?全然笑わなくなってるわ。」 

城では誰が聞いているか分からないから満足に本音で会話もできないと私が思っている事を知っているソレイユはさっきとはまるで別人な反応をする私にそう言った事は何も聞かない。 

「君がいないのになぜ笑う必要があるんだ。」 

「王様なんだったら笑いたくなくても少しは笑ってあげないと大変な事になるわ。」 

「そうだろうね。でも僕にはもうそれはできないし、やる気もない。そもそも僕が不在の間に勝手に君を殺すような奴らの前でどうして笑えると言うんだ。君も期待するのをやめたから笑うのをやめたんだろう?」 

ソレイユがそう言ってクリスティーナの手を握る。 

「よかった。君に触れられて。」 

泣きそうな顔で笑うソレイユを見てクリスティーナは何か誤解があるんじゃないかとようやく気づいた。この3年間のお互いの違いに。 

クリスティーナは森で精霊達相手にのんびりしていたがソレイユはそうでは無いのだ。
3年の月日は人を変えるのには充分過ぎる。 

「貴方はいつでも大丈夫よ。私に触れられなくなる事なんてもう無いわ。」 

「でも、さっきは触れなかった。」 

さっき、とは回廊に入ろうとするクリスティーナを止めようとした時の事だろう。 

「さっきは私が誰にも触れられたくないと明確に思って拒絶していたからよ。知ってるでしょう、私が細かいコントロールとか操作が苦手なの。」 

ソレイユだけをはじかないようにするなんて器用な事は私にはできない。私は前からずっと不器用なのだから。 

「…それだけ?」 

再会してからずっと険しい顔をしていたソレイユの気の抜けた呆けた顔をクリスティーナは久しぶりに見た。 

「それだけよ。」 

懐かしいその顔にほっとしつつもクリスティーナは自信満々にそう答えた。 

「あはは…。そういえば…そう、だったね。いっつも豪快にいろいろ吹っ飛ばしてたのを今の今まで忘れてたよ…。」 

ソレイユはクリスティーナの変わらない姿に喜びと切なさが同時に込み上げて涙が1つこぼれた。 

「1回死んだくらいじゃ変わらないし無理に変えるつもりもないわ。めんどうだもの。」 

「そうだったね…君は細かいところは気にしないんだったね。」 

「リュヌはいちいちなんでも細すぎるのよ。そんな調子だと疲れちゃうわ。」 

そうでなくてもお互い見たくないものまでいろいろ視えてしまうのに。

ソレイユはその言葉を聞いてようやくクリスティーナが生きてここにいるんだと実感ができた。たまらずクリスティーナを抱きしめた。
抱きしめられたソレイユが震えている事に気づいたクリスティーナはソレイユを慰めるようその背に手を回した。
そして、自分が殺された理由の1つでもある元の居場所に戻るのが怖くて、大切な人をあんなところに3年も放置してしまった事を後悔した。 

「貴方を3年も放置してごめんなさい。あの場所に戻るのが…とても、怖かったの。また殺される気がしたの。ごめんなさい。」 

謝っていると久しく出ていなかった涙が堪えきれずにあふれる。これまで何をしても動かなかった自分の心がようやく自分の元に返ってきたような気がした。 

そう、クリスティーナは天使になってから初めてちゃんと泣くことができたのだ。 

「やっと、かえってきた。もう絶対に離れない。」 

ソレイユは自分に言い聞かせるようにそうつぶやくとクリスティーナを抱きしめる力を強めた。 

「……。」 

喜ぶべき所なのはわかるのだけど、その言葉の裏になんだか嫌な予感がするのは私だけかしら。 

ゲームのソレイユの台詞に『あらゆる手を尽くして君を守ろう』というものがある。その台詞の続きの言葉をふと思い出したクリスティーナはふと気づく。 

「ソル…貴方もしかしてこの後、国に戻るつもりがなかったりする?」 

「僕が戻らなくてもどうとでもなるようにこの3年調整してきた。国民は大丈夫だ。ただエルデインが王国では無くなるだけ。あいつらの自業自得だと思わない?」 

かつて婚約者同士だった頃の日常会話と同じような調子でそう話すソレイユにクリスティーナは固まる。 

「……。」 

あら?
私の聞き間違いかしら…。 

もしかして、このまま私が戻らなかったら、大陸最大の超大国であるエルデイン王国が王制じゃ無くなるの…? 

なにそれ。馬鹿なの? 

この人私を逃がさないために国を盾に脅してきてない?
ソレイユってヤンデレキャラじゃなかったわよね? 

そんなクリスティーナの戸惑いを見透かしたようにソレイユが再び口を開く。 

「前に言ったでしょ?『もう逃げられないよ』って。国から逃げる事は許すけど、僕に精霊がはっきり見えている限り、僕から逃げる事は許さない。」 

「精霊達が見えてるの?」 

「見えてるね、素の僕には見れるはずのない微小精霊までばっちりと。」 

「こ、ここでだからってだけじゃ…なくて?」 

3年もの間クリスティーナが居た影響で神域となりつつあるこの森の深部では誰でも精霊を目視する事ができるのだ。 

「この3年間、城でもどこでもずっと見えてたよ。」 

意地悪そうに笑うソレイユにクリスティーナは恥ずかしくなり真っ赤に頬を染めあげる。 

だって、ソレイユが精霊を見る事ができるのは愛し子であるクリスティーナの想い人に精霊の王がくれた加護だから。
その加護によってソレイユはクリスティーナに1番に想われている限り、その思いの強さに応じて恩恵を受けられる。
聖域でもないのに微小精霊までくっきりと見えているのがクリスティーナが未だにソレイユの事が大好きな事の動かぬ証拠というやつなのだ。 

つまり、この3年間。クリスティーナがうだうだしていた事が、ソレイユにはずっとダダ漏れだったのだ。
クリスティーナはその事が恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなくなりソレイユの胸に顔をぐりぐりと押し付け、唸り声をあげる。 

そんなクリスティーナの頭の上からクスクスと笑う声が聞こえてくる。 

「ソアレは肝心なところでいっつも抜けてるよね。こういうのドジって言うんだっけ?」 

ソレイユにドジという言葉を教えたのはクリスティーナだが、余計な事を教えたと今この時ばかりは後悔した。 

「リュヌの意地悪!腹黒!馬鹿~!!」 

「僕が意地悪なのも、腹黒なのも、馬鹿になるのも全部君にだけだ。むしろ本望。」 

全く悪びれる様子がないどころかドヤ顔で言い放つソレイユ。 

ダメだわ、今この人に何を言っても開き直られるだけですべて徒労に終わるわ…。 

クリスティーナは真っ赤な顔で「貴方のそばから離れなくてもいいなら城に戻ってあげてもいいわ」と、か細く呟いた。 

「だからもうしばらく貴方が王様やってやりなさい。」 

こうして仕方なくクリスティーナはエルデイン王国にとんぼ返りすることになった── 

──のだが、ソレイユの提案により数日間ゆっくりとしてから戻ることになる。なんでもここしばらく働き詰めだったのでゆっくりしたいのだと言う。


だがしかし。
これよりほんの少し先の未来でこの時すぐにソレイユの首根っこ引っ掴み、強制的にでも城に戻らなかった事をクリスティーナはものすごく後悔する事になる。 

なぜなら。
なんとソレイユは自分の執務室に3つの置き土産をして来ていたのだ。
その3つの爆弾により今頃エルデイン王国の重鎮達が蜂の巣をつついたような大騒ぎになっている事など今のクリスティーナには知る由もなかった。


-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^- 

クリスティーナ=ソアレ
ソレイユ=リュヌ
なぜ王子にリュヌなんて呼び名つけたのかを書く機会は来るのか…

この物語の全ては予定調和です
ここまでではあまりその要素を出せてませんが、主人公は死んで蘇った段階でかなりのチートとなってます
主人公が想定外の敵に襲われてピンチになったりは全くしない(予定)です
何かがあって主人公サイドの立場が悪い方に傾きそうになっても、それは全て主人公の思惑の内というやつです
ストレスフリーで読めるお話…にしたい(願望)

そしてこれで1章が終わりです。次話から2章です。1章は長めのプロローグ的なものだと思っていただければ幸いです。

2章の1話目も明日のお昼ぐらいに投稿出来たらいいなと思います。引き続きよろしくお願いします。
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