闇とともに

檸檬すかっしゅ

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零ノ章

始まりの異能狩

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※これは本編が始まる少し前に起きた、零の話


 けたたましく玄関の扉が開かれ、金髪の青年が家の中へ駆け込んできた。
  青年は息を切らしながら、何かを探すように部屋を見渡し始める。
 人が四、五人ほど横になれる広さで、生活な困らない程度の家具が置かれているだけのシンプルな部屋だった。

  全体を見渡した後、青年は渋い表情をしながら頭を掻いた。目的のものが見つからなかったらしい。

  一度深呼吸をして心を落ち着かせ、青年は部屋の真ん中に視線を向けた。そこにはテーブルが一つ置かれており、それを挟むようにして椅子に座る二つの人影があった。

 青年から見て左側には、薄紫色の髪を持つ少女。右側には少女と同じ髪色を持ち、白と黒が逆になっている目が特徴的な少年が腰掛けている。
 瓜二つ…と言うほどではないが、二人の顔付きは似ていた。

 少年少女は唖然とした表情で、いきなりの部屋に入ってきた青年に視線を送っている。

「ど、どうしたの?ティール。キョロキョロ部屋を見渡して…」

束の間の訪れた沈黙を破り、少年が口を開いた。色が逆になっている目からは、動揺がはっきりと見て取れる。

 「お前ら急いで逃げる準備をしろ!異能狩に包囲されてる」

 ティールと呼ばれた青年は、そう言いながら部屋へ上がった。    
 ティールの言葉に少女は怯えた表情を見せ、少年は椅子から立ち上がり、険しい顔付きになった。

 驚きの様子を見せる二人を横目に、ティールは棚から使える物を取り出し始める。それに合わせて、少年も机の上にある物を、腰に付けている革袋に入れ始めた。

「包囲されたってことは、この隠れ家がバレたって事?」

荷物をまとめる作業をしながら、少年はティールに問いかけた。

「いや、ここがバレた訳じゃない…ただ、この辺りに俺たちがいるって見当はついているらしい。包囲を少しずつ絞って、異能者を炙り出す作戦みたいだな。じきにここにも来るはずだ」

 「そう…だったら急がないとね。せっかくこの空き家に慣れてきたのに…残念」

 悲しげな表情を浮かべながら少年は呟いた。その後、未だ怯えている少女の方を向いて声をかける

「大丈夫かい?リズ。怖いかもしれないけど、逃げる準備…できるかな?」
 
 リズと呼ばれた少女はゆっくりと頷いた。
 少年の声掛けに、心なしか恐怖の表情が和らいだ気がする。

「大丈夫だよ、ルアにぃに…すぐ準備するから」
 
そう言った後、リズは椅子から立ち上がり近くの棚から物を取り出し始めた。

「時間が無い…持ち出すのは大事な物と金目の物だけにしてくれ」
 
 ティールが棚を漁っているリズの背に向かって声をかけると「分かってる!」と強めの口調が返ってきた。
 その声にわざとらしく肩をすくめ、リズにルアと呼ばれた少年へ目線を向けると、彼は苦笑いを浮かべていた。
 
「ところでルア。一つ質問していいか?」
  
 今までの会話の流れを崩しながら、ティールは人差し指を一本立てた。

「いいけど…どうしたの?」

「シャドウはどこに行ったんだ?」

 簡潔な質問だった。
 ティールの質問を聞き、ルアは何か納得したかの様にポンと手のひらを叩く。

「あぁ…玄関でキョロキョロしてたのは、シャドウを探していたからか。気でも狂ったのかと思ってたよ…」

「お前はたまに毒吐くよなぁ…まぁそれはいいや。で、シャドウの行き先知ってるか?」

「晩御飯の買い出しに行ったよ。多分商店街にいるんじゃないかな?」

 間髪入れずに答えを返してきた。     
 返ってきた言葉に、ティールは動きを止めたが、すぐに準備を再開する。

「そういえば、今日は商店街で安売りがあるんだったな…最悪のタイミングだ」

「仕方ないよ。僕らはお金を稼ぐのが難しいし…節約していかないとね」

 そう言いながら、ルアはティールに顔を向けて笑顔を見せた。白目と黒目が逆になっている一見すると恐ろしい風貌だが、その笑顔は幼さと優しさに溢れていた。
 何となく気恥ずかしくなったので、ルアから目を逸らし棚を漁っているリズへと目線を向け、話を変えた。

「シャドウがいない時に襲撃が起きたらどうするか…二人とも分かってるよな?」
 
声のトーンを落とし、ティールは確認する様に二人に問いかける。
 リズは頷きを返すだけだったが、ルアは作業の手を止めティールと向かい合った。

「ティールが囮になって、僕がリズを連れて逃げる…そうだったよね?」

 小さな声で答えを口にしたルアに、ティールは頷きを返す。

「あぁ、そうだ…準備が出来次第頼むぜ?ルア」

「その事なんだけどさ…」

「んぁ?」

 ルアの思わぬ返しに、ティールは間抜けな声を出してしまった。
 再び準備に取り掛かろうとしていた体をルアに向け、次に出てくる言葉を待つ。

「囮の事なんだけどさ、僕にやらせてくれないかな?」

 予想外の願い出に、ティールは目を見開き、唇を振るわせた。
 リズも驚愕の表情でルアを見ていた。
  束の間沈黙が訪れたが、ティールの深呼吸する音で、それはすぐに破られた。

「囮が危険なのは知ってるよな?」

「うん。異能狩の人たちの気を引かなきゃいけないからね。死と隣り合わせなのは知ってる…けどね」

 言葉を一旦切り、ルアはティールの正面に立つと、白と黒が反対になっている目で真っ直ぐにティールの瞳を覗いてきた。
 その瞳は固い意識に満ちていた。その意思が何なのかは聞くまでもない。

「みんな無事に逃げ切るためには、僕が囮をした方がいいと思うんだ」

 自分の目を指差しながら、ルアはまた幼い笑顔を浮かべた。
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