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【番外編】全てを失った愛人の奮闘 ~悪事は全部かえって来て、愛しの侯爵に捨てられる~ 5-2
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ヘイワード侯爵家の別邸、あたしはキョロキョロと周囲を見回した。
あたしが使っていた家具とドレスは、ジョンがせっせと荷台に運んでくれている。
ふふっ。今のうちに、あたしはこっち。
だって、宝石だけは絶対に見つからないようにしなきゃね。そぉーっと、袋に仕舞ってムンギュッっと胸に押し込んだ。
そうこうしているうちに、ジョンが全部片づけてくれて、あたしが使っていた部屋は、すっかり空っぽになった。
こんなに広かったんだ……。
いつも、ケビン様と一緒にいたから、狭く感じていたけど、嘘みたいね。
「ジョン、この家具とドレス、すぐに売りに行くよ」
「おっおう。でもスゲーなエリカっ! 侯爵邸の家具なら、アンティークってやつだろう。いくらになるんだ、これ」
「ふっふっふっ、きっと遊んで暮らせるわよ」
――――…………。
「はぁはぁ…………」
それにしても、2人だけでこの荷物を荷台で運ぶのは、やっぱしんどいわね。
「エリカ、あそこに見えてる質屋でいいだろう」
あたしは、ジョンに頷いた。
「早いところ金貨に換えよう、もう限界」
正直言って、流石にこれだけの量は重過ぎるわよ。お腹も苦しいし、これ以上荷台を押すのは無理だから。
「店主~。この荷台の商品を全部買い取って頂戴」
「うぉー、お姉さんまた随分沢山持ってきたな。――あぁーこりゃーまた……。まあ、荷台全部でこの金額ってとこだ」
ポンっと、店主から袋に入った硬貨を渡された。
ふっふっ、思わずにんまりしてしまう袋の重さね。さっそく袋を開けて、金額を確認しましょう。
これでもね、ジョンの店じゃ、金の計算が一番早いって重宝がられてたほど得意なのよ、うふふっ。あーいけない、涎が。
――ガチャ(違う)、ガチャ(違う)、ガチャガチャガチャ……(無い無い無い)。
「ちょっと、金貨が足りないじゃない! これだけ売れば全部金貨でもおかしくないはずなのに、何で、銀貨ばっかりなのよ。馬鹿にしてるの?」
「お姉さん、何夢見たこと言ってんだよ。これでも、あっしら庶民で言えば、半年分の給金に抵たるだろう。あんたらが、クタクタになって運んできたから、それでも色を付けてやってんだぞ」
「嘘ばっかり。これだけのドレスと家具を売ってんのよ! 家具は大豪邸から貰ったんだから、そのアレよ、何だっけ、そう『アンティーク』ってやつでしょっ」
「わっはっはっはっ、姉さん冗談きついって。この家具全部、その辺の量産品だから。大豪邸って言うけど、どうせ使用人部屋か、どうでもいい客人用の部屋のもんだろうさっ!」
「はぁっ! 何言ってんの、そんな部屋じゃないわよ……見る目ない店主ね。じゃぁ、このドレスは? 高かったんだから!」
「高かったって、この一番安い生地のドレスが⁉ まあ、あっしら庶民にとっちゃぁ高いわな、ガハハハッ。でも、貴族様にとっちゃ、こーんなお安い生地じゃぁ、外には着て行けねーよ。それによぅ、1日に何回も着替える貴族様の普段着にするんでもな、こんなゴテッゴテッに大きなコサージュやフリルを付けたんじゃ、邪魔くさくて人気がないのは決まってんだ。こんな売りにくいもの、値段付けてやっただけでも、ありがたく思えってんだ」
「キィーー、何言ってんのよ! ジョン、こんな酷い店には売らない。違うところへ行くわよ」
あたしは、一度受け取った硬貨の入った袋を、店主へ投げつけるように返してやった。
何が「どうでもいい客人」よ。ドレスだって侯爵家に出入りしている商人から、ちゃんと買ったのに、そんな訳ないじゃない。
――――…………。
「はぁ~っ、はぁ~っ…………」
「てっ、店主~…………。この荷台の商品…………全部買い取って」
「ふんっ、お姉さん戻って来たのか。ほらよっ」
ポンっと、袋に入った硬貨をあたしへ放り投げた店主。
何が悲しくて今日2回も、この嫌味な店主に会わなきゃならないのよ。
あぁ――もう、汗だくで、くったくった、誰のせいよ。
早くお金を確認して、帰ってからゆっくりお菓子でも食べようっと。
ガチャ(少ない)、ガチャ(少ない)。
「さっきの半分しか入ってない。はぁはぁ」
「当たり前だ。昼間に来た時には言っただろ『色を付けた』って。今は、そんなの付ける気はないからな。それに納得しないなら他を当たれ。ふんっ、今から行ってもどこも閉まってるだろうけどよ」
「はぁはぁ。…………分かったわよ」
悔しぃー。
どうして、他の質屋でも家具とドレスを馬鹿にして、高く買い取ってくれなかったのよ。わざわざ、一番気前の良かった質屋に戻って来たのに、結局、一番安くなっちゃったじゃない。
「おいエリカ! それの半分は俺のもんだからな。あと、居候するなら、しっかり働けよ」
「……分かったわよ」
ジョンに半分あげるのは惜しいけど、でもまぁ、あたしにはまだ胸に隠し持ってる宝石があるしね。これくらいでケチクサイこと言う女じゃないわよ、うふふふっ。
あたしが使っていた家具とドレスは、ジョンがせっせと荷台に運んでくれている。
ふふっ。今のうちに、あたしはこっち。
だって、宝石だけは絶対に見つからないようにしなきゃね。そぉーっと、袋に仕舞ってムンギュッっと胸に押し込んだ。
そうこうしているうちに、ジョンが全部片づけてくれて、あたしが使っていた部屋は、すっかり空っぽになった。
こんなに広かったんだ……。
いつも、ケビン様と一緒にいたから、狭く感じていたけど、嘘みたいね。
「ジョン、この家具とドレス、すぐに売りに行くよ」
「おっおう。でもスゲーなエリカっ! 侯爵邸の家具なら、アンティークってやつだろう。いくらになるんだ、これ」
「ふっふっふっ、きっと遊んで暮らせるわよ」
――――…………。
「はぁはぁ…………」
それにしても、2人だけでこの荷物を荷台で運ぶのは、やっぱしんどいわね。
「エリカ、あそこに見えてる質屋でいいだろう」
あたしは、ジョンに頷いた。
「早いところ金貨に換えよう、もう限界」
正直言って、流石にこれだけの量は重過ぎるわよ。お腹も苦しいし、これ以上荷台を押すのは無理だから。
「店主~。この荷台の商品を全部買い取って頂戴」
「うぉー、お姉さんまた随分沢山持ってきたな。――あぁーこりゃーまた……。まあ、荷台全部でこの金額ってとこだ」
ポンっと、店主から袋に入った硬貨を渡された。
ふっふっ、思わずにんまりしてしまう袋の重さね。さっそく袋を開けて、金額を確認しましょう。
これでもね、ジョンの店じゃ、金の計算が一番早いって重宝がられてたほど得意なのよ、うふふっ。あーいけない、涎が。
――ガチャ(違う)、ガチャ(違う)、ガチャガチャガチャ……(無い無い無い)。
「ちょっと、金貨が足りないじゃない! これだけ売れば全部金貨でもおかしくないはずなのに、何で、銀貨ばっかりなのよ。馬鹿にしてるの?」
「お姉さん、何夢見たこと言ってんだよ。これでも、あっしら庶民で言えば、半年分の給金に抵たるだろう。あんたらが、クタクタになって運んできたから、それでも色を付けてやってんだぞ」
「嘘ばっかり。これだけのドレスと家具を売ってんのよ! 家具は大豪邸から貰ったんだから、そのアレよ、何だっけ、そう『アンティーク』ってやつでしょっ」
「わっはっはっはっ、姉さん冗談きついって。この家具全部、その辺の量産品だから。大豪邸って言うけど、どうせ使用人部屋か、どうでもいい客人用の部屋のもんだろうさっ!」
「はぁっ! 何言ってんの、そんな部屋じゃないわよ……見る目ない店主ね。じゃぁ、このドレスは? 高かったんだから!」
「高かったって、この一番安い生地のドレスが⁉ まあ、あっしら庶民にとっちゃぁ高いわな、ガハハハッ。でも、貴族様にとっちゃ、こーんなお安い生地じゃぁ、外には着て行けねーよ。それによぅ、1日に何回も着替える貴族様の普段着にするんでもな、こんなゴテッゴテッに大きなコサージュやフリルを付けたんじゃ、邪魔くさくて人気がないのは決まってんだ。こんな売りにくいもの、値段付けてやっただけでも、ありがたく思えってんだ」
「キィーー、何言ってんのよ! ジョン、こんな酷い店には売らない。違うところへ行くわよ」
あたしは、一度受け取った硬貨の入った袋を、店主へ投げつけるように返してやった。
何が「どうでもいい客人」よ。ドレスだって侯爵家に出入りしている商人から、ちゃんと買ったのに、そんな訳ないじゃない。
――――…………。
「はぁ~っ、はぁ~っ…………」
「てっ、店主~…………。この荷台の商品…………全部買い取って」
「ふんっ、お姉さん戻って来たのか。ほらよっ」
ポンっと、袋に入った硬貨をあたしへ放り投げた店主。
何が悲しくて今日2回も、この嫌味な店主に会わなきゃならないのよ。
あぁ――もう、汗だくで、くったくった、誰のせいよ。
早くお金を確認して、帰ってからゆっくりお菓子でも食べようっと。
ガチャ(少ない)、ガチャ(少ない)。
「さっきの半分しか入ってない。はぁはぁ」
「当たり前だ。昼間に来た時には言っただろ『色を付けた』って。今は、そんなの付ける気はないからな。それに納得しないなら他を当たれ。ふんっ、今から行ってもどこも閉まってるだろうけどよ」
「はぁはぁ。…………分かったわよ」
悔しぃー。
どうして、他の質屋でも家具とドレスを馬鹿にして、高く買い取ってくれなかったのよ。わざわざ、一番気前の良かった質屋に戻って来たのに、結局、一番安くなっちゃったじゃない。
「おいエリカ! それの半分は俺のもんだからな。あと、居候するなら、しっかり働けよ」
「……分かったわよ」
ジョンに半分あげるのは惜しいけど、でもまぁ、あたしにはまだ胸に隠し持ってる宝石があるしね。これくらいでケチクサイこと言う女じゃないわよ、うふふふっ。
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