54 / 57
【番外編】全てを失った愛人の奮闘 ~悪事は全部かえって来て、愛しの侯爵に捨てられる~ 5-2
しおりを挟む
ヘイワード侯爵家の別邸、あたしはキョロキョロと周囲を見回した。
あたしが使っていた家具とドレスは、ジョンがせっせと荷台に運んでくれている。
ふふっ。今のうちに、あたしはこっち。
だって、宝石だけは絶対に見つからないようにしなきゃね。そぉーっと、袋に仕舞ってムンギュッっと胸に押し込んだ。
そうこうしているうちに、ジョンが全部片づけてくれて、あたしが使っていた部屋は、すっかり空っぽになった。
こんなに広かったんだ……。
いつも、ケビン様と一緒にいたから、狭く感じていたけど、嘘みたいね。
「ジョン、この家具とドレス、すぐに売りに行くよ」
「おっおう。でもスゲーなエリカっ! 侯爵邸の家具なら、アンティークってやつだろう。いくらになるんだ、これ」
「ふっふっふっ、きっと遊んで暮らせるわよ」
――――…………。
「はぁはぁ…………」
それにしても、2人だけでこの荷物を荷台で運ぶのは、やっぱしんどいわね。
「エリカ、あそこに見えてる質屋でいいだろう」
あたしは、ジョンに頷いた。
「早いところ金貨に換えよう、もう限界」
正直言って、流石にこれだけの量は重過ぎるわよ。お腹も苦しいし、これ以上荷台を押すのは無理だから。
「店主~。この荷台の商品を全部買い取って頂戴」
「うぉー、お姉さんまた随分沢山持ってきたな。――あぁーこりゃーまた……。まあ、荷台全部でこの金額ってとこだ」
ポンっと、店主から袋に入った硬貨を渡された。
ふっふっ、思わずにんまりしてしまう袋の重さね。さっそく袋を開けて、金額を確認しましょう。
これでもね、ジョンの店じゃ、金の計算が一番早いって重宝がられてたほど得意なのよ、うふふっ。あーいけない、涎が。
――ガチャ(違う)、ガチャ(違う)、ガチャガチャガチャ……(無い無い無い)。
「ちょっと、金貨が足りないじゃない! これだけ売れば全部金貨でもおかしくないはずなのに、何で、銀貨ばっかりなのよ。馬鹿にしてるの?」
「お姉さん、何夢見たこと言ってんだよ。これでも、あっしら庶民で言えば、半年分の給金に抵たるだろう。あんたらが、クタクタになって運んできたから、それでも色を付けてやってんだぞ」
「嘘ばっかり。これだけのドレスと家具を売ってんのよ! 家具は大豪邸から貰ったんだから、そのアレよ、何だっけ、そう『アンティーク』ってやつでしょっ」
「わっはっはっはっ、姉さん冗談きついって。この家具全部、その辺の量産品だから。大豪邸って言うけど、どうせ使用人部屋か、どうでもいい客人用の部屋のもんだろうさっ!」
「はぁっ! 何言ってんの、そんな部屋じゃないわよ……見る目ない店主ね。じゃぁ、このドレスは? 高かったんだから!」
「高かったって、この一番安い生地のドレスが⁉ まあ、あっしら庶民にとっちゃぁ高いわな、ガハハハッ。でも、貴族様にとっちゃ、こーんなお安い生地じゃぁ、外には着て行けねーよ。それによぅ、1日に何回も着替える貴族様の普段着にするんでもな、こんなゴテッゴテッに大きなコサージュやフリルを付けたんじゃ、邪魔くさくて人気がないのは決まってんだ。こんな売りにくいもの、値段付けてやっただけでも、ありがたく思えってんだ」
「キィーー、何言ってんのよ! ジョン、こんな酷い店には売らない。違うところへ行くわよ」
あたしは、一度受け取った硬貨の入った袋を、店主へ投げつけるように返してやった。
何が「どうでもいい客人」よ。ドレスだって侯爵家に出入りしている商人から、ちゃんと買ったのに、そんな訳ないじゃない。
――――…………。
「はぁ~っ、はぁ~っ…………」
「てっ、店主~…………。この荷台の商品…………全部買い取って」
「ふんっ、お姉さん戻って来たのか。ほらよっ」
ポンっと、袋に入った硬貨をあたしへ放り投げた店主。
何が悲しくて今日2回も、この嫌味な店主に会わなきゃならないのよ。
あぁ――もう、汗だくで、くったくった、誰のせいよ。
早くお金を確認して、帰ってからゆっくりお菓子でも食べようっと。
ガチャ(少ない)、ガチャ(少ない)。
「さっきの半分しか入ってない。はぁはぁ」
「当たり前だ。昼間に来た時には言っただろ『色を付けた』って。今は、そんなの付ける気はないからな。それに納得しないなら他を当たれ。ふんっ、今から行ってもどこも閉まってるだろうけどよ」
「はぁはぁ。…………分かったわよ」
悔しぃー。
どうして、他の質屋でも家具とドレスを馬鹿にして、高く買い取ってくれなかったのよ。わざわざ、一番気前の良かった質屋に戻って来たのに、結局、一番安くなっちゃったじゃない。
「おいエリカ! それの半分は俺のもんだからな。あと、居候するなら、しっかり働けよ」
「……分かったわよ」
ジョンに半分あげるのは惜しいけど、でもまぁ、あたしにはまだ胸に隠し持ってる宝石があるしね。これくらいでケチクサイこと言う女じゃないわよ、うふふふっ。
あたしが使っていた家具とドレスは、ジョンがせっせと荷台に運んでくれている。
ふふっ。今のうちに、あたしはこっち。
だって、宝石だけは絶対に見つからないようにしなきゃね。そぉーっと、袋に仕舞ってムンギュッっと胸に押し込んだ。
そうこうしているうちに、ジョンが全部片づけてくれて、あたしが使っていた部屋は、すっかり空っぽになった。
こんなに広かったんだ……。
いつも、ケビン様と一緒にいたから、狭く感じていたけど、嘘みたいね。
「ジョン、この家具とドレス、すぐに売りに行くよ」
「おっおう。でもスゲーなエリカっ! 侯爵邸の家具なら、アンティークってやつだろう。いくらになるんだ、これ」
「ふっふっふっ、きっと遊んで暮らせるわよ」
――――…………。
「はぁはぁ…………」
それにしても、2人だけでこの荷物を荷台で運ぶのは、やっぱしんどいわね。
「エリカ、あそこに見えてる質屋でいいだろう」
あたしは、ジョンに頷いた。
「早いところ金貨に換えよう、もう限界」
正直言って、流石にこれだけの量は重過ぎるわよ。お腹も苦しいし、これ以上荷台を押すのは無理だから。
「店主~。この荷台の商品を全部買い取って頂戴」
「うぉー、お姉さんまた随分沢山持ってきたな。――あぁーこりゃーまた……。まあ、荷台全部でこの金額ってとこだ」
ポンっと、店主から袋に入った硬貨を渡された。
ふっふっ、思わずにんまりしてしまう袋の重さね。さっそく袋を開けて、金額を確認しましょう。
これでもね、ジョンの店じゃ、金の計算が一番早いって重宝がられてたほど得意なのよ、うふふっ。あーいけない、涎が。
――ガチャ(違う)、ガチャ(違う)、ガチャガチャガチャ……(無い無い無い)。
「ちょっと、金貨が足りないじゃない! これだけ売れば全部金貨でもおかしくないはずなのに、何で、銀貨ばっかりなのよ。馬鹿にしてるの?」
「お姉さん、何夢見たこと言ってんだよ。これでも、あっしら庶民で言えば、半年分の給金に抵たるだろう。あんたらが、クタクタになって運んできたから、それでも色を付けてやってんだぞ」
「嘘ばっかり。これだけのドレスと家具を売ってんのよ! 家具は大豪邸から貰ったんだから、そのアレよ、何だっけ、そう『アンティーク』ってやつでしょっ」
「わっはっはっはっ、姉さん冗談きついって。この家具全部、その辺の量産品だから。大豪邸って言うけど、どうせ使用人部屋か、どうでもいい客人用の部屋のもんだろうさっ!」
「はぁっ! 何言ってんの、そんな部屋じゃないわよ……見る目ない店主ね。じゃぁ、このドレスは? 高かったんだから!」
「高かったって、この一番安い生地のドレスが⁉ まあ、あっしら庶民にとっちゃぁ高いわな、ガハハハッ。でも、貴族様にとっちゃ、こーんなお安い生地じゃぁ、外には着て行けねーよ。それによぅ、1日に何回も着替える貴族様の普段着にするんでもな、こんなゴテッゴテッに大きなコサージュやフリルを付けたんじゃ、邪魔くさくて人気がないのは決まってんだ。こんな売りにくいもの、値段付けてやっただけでも、ありがたく思えってんだ」
「キィーー、何言ってんのよ! ジョン、こんな酷い店には売らない。違うところへ行くわよ」
あたしは、一度受け取った硬貨の入った袋を、店主へ投げつけるように返してやった。
何が「どうでもいい客人」よ。ドレスだって侯爵家に出入りしている商人から、ちゃんと買ったのに、そんな訳ないじゃない。
――――…………。
「はぁ~っ、はぁ~っ…………」
「てっ、店主~…………。この荷台の商品…………全部買い取って」
「ふんっ、お姉さん戻って来たのか。ほらよっ」
ポンっと、袋に入った硬貨をあたしへ放り投げた店主。
何が悲しくて今日2回も、この嫌味な店主に会わなきゃならないのよ。
あぁ――もう、汗だくで、くったくった、誰のせいよ。
早くお金を確認して、帰ってからゆっくりお菓子でも食べようっと。
ガチャ(少ない)、ガチャ(少ない)。
「さっきの半分しか入ってない。はぁはぁ」
「当たり前だ。昼間に来た時には言っただろ『色を付けた』って。今は、そんなの付ける気はないからな。それに納得しないなら他を当たれ。ふんっ、今から行ってもどこも閉まってるだろうけどよ」
「はぁはぁ。…………分かったわよ」
悔しぃー。
どうして、他の質屋でも家具とドレスを馬鹿にして、高く買い取ってくれなかったのよ。わざわざ、一番気前の良かった質屋に戻って来たのに、結局、一番安くなっちゃったじゃない。
「おいエリカ! それの半分は俺のもんだからな。あと、居候するなら、しっかり働けよ」
「……分かったわよ」
ジョンに半分あげるのは惜しいけど、でもまぁ、あたしにはまだ胸に隠し持ってる宝石があるしね。これくらいでケチクサイこと言う女じゃないわよ、うふふふっ。
0
本作を読んでいただき、ありがとうございます。 本作は、緩急のある恋愛小説の為、途中に暴言等が含まれます。そこも含めての結末ですが、不快に思われる方もいるかもしれません。苦手な方は読み流しをおねがいします。 これからも、応援よろしくお願いします。 本作のタイトルロゴを作ってくれた、まちゃさんありがとうございます。
お気に入りに追加
1,820
あなたにおすすめの小説

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。
しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。
だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。
○○sideあり
全20話

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

殿下、私は困ります!!
IchikoMiyagi
恋愛
公爵令嬢ルルーシア=ジュラルタは、魔法学校で第四皇子の断罪劇の声を聞き、恋愛小説好きが高じてその場へと近づいた。
すると何故だか知り合いでもない皇子から、ずっと想っていたと求婚されて?
「ふふふ、見つけたよルル」「ひゃぁっ!!」
ルルは次期当主な上に影(諜報員)見習いで想いに応えられないのに、彼に惹かれていって。
皇子は彼女への愛をだだ漏らし続ける中で、求婚するわけにはいかない秘密を知らされる。
そんな二人の攻防は、やがて皇国に忍び寄る策略までも雪だるま式に巻き込んでいき――?
だだ漏れた愛が、何かで報われ、何をか救うかもしれないストーリー。
なろうにも投稿しています。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる