47 / 57
見つからない彼女、苛立つ彼
しおりを挟む
デルフィーは少し変化していた。
以前は乗り慣れなかった馬を、今では難なく乗りこなしている。
それで王都と領地の間を、毎日行ったり来たりしていた。
毎日の乗馬で彼は、さらに男性らしく、磨き上げられていた。
事務仕事ばっかりだったデルフィーが、すっかり逞しく変わっていた。
そう、それだけの時間、彼の目の前に、愛しいアベリアは現れなかったと言う事だった。
昼間は領地で仕事をこなし、夜は王都へ戻る。と、いった生活を繰り返している。
この日は、当主の無茶な行動を見かねて、王都の執事が提言していた。
「デルフィー様、領地の事は誰か違うものを雇って任せるべきです。オリーブで作ったオイルも、あっと言う間に完売して、一旦落ち着いております。こんなに無理をなさっては倒れてしまいます。もう、王都の事業に集中なさった方がよろしいかと思います」
「いや、領地を毎日見る事に意味があるんだ。本音を言えば、ずっと領地の邸に居るべきだと思っている」
デルフィーが、領地で見ていたものは、アベリアの特徴に似ている女性ばかりだった。
始めは、アベリアと同じ髪色の女性、背格好が似ている、好んで来ていたワンピースと同じ柄……。
それが今では、少しふくよかな女性に変わっていた。
アベリアは、すでに、遠くから見ても、膨らんだお腹が分かる頃だろうと踏んでいた。
だから、最近のデルフィーは、ゆったりとした服を着ている女性を見れば、追っかけて確認している。
まさに女の尻を追いかけていることは、自分の面目のために伏せておいた。
「では、王都の事業をどなたかにお任せするべきではないでしょうか? 流石にお一人で領地管理と先代から引き継いだ侯爵家の事業を抱えるのは、ご負担が多き過ぎます」
「任せられるものならそうしてる。出来ないからやっているんだ。それもこれも、この事業、これまでの経営がひど過ぎる。長年、ケビンと一緒に何をしてきたんだ、まったく! こんな馬鹿げた仕入れ値に誰も気づけなかったのか? 契約内容を始めからから見直す必要があるものを、誰に任せられるって話だ」
執事が「自分に任せろ」と言っているようで呆れていた。
「そんなに酷いですか? 確かに利益は薄いですが馬鹿げた程では……。あーそういえば、先代の奥様が、資料を見ていたことがありましたね。確か『飼料の仕入れ値が』とか言っていたはずです。あの時は、女性の言う事でしたので気にしていませんでしたが、もしかして、その辺に詳しいのかもしれませんね。アベリアさんを雇う事が出来たら……」
デルフィーは、執事の言葉を最後まで聞いていられず遮った。
「おい! もし、彼女を見ても、いらない事は言うな! そもそも、彼女に指摘されても気づかないのであれば、これ以上、君には何を言っても無駄だ」
デルフィーは、この執事には、領地に雇い入れた人材が既に信用に足りる存在であることは、伝えていなかった。
今の彼が領地へ行く目的は、アベリアを探す為だけだったから。
どれだけ領地の邸で待っていても、一向に現れないアベリア。
デルフィーが王都や領地内を馬で探しても見つからない彼女。
ケビン従兄が亡くなった翌日、ひょっこりと帰って来るのではないかと期待した愚かな自分。
アベリアに見限られて、当然なことをしたのに、きっと大丈夫と安易な期待をしていた。
彼は焦っていた。
アベリアが子どもを産む前に、大切な契約を結びたかったから。
自分が彼女を見つける前に、お腹の子どもが生まれてしまったら、自分の養子として迎えなくてはいけなくなる。アベリアの産む子は、間違いようもなく自分の子どもなのに。
唯でさえ苛々している時に、従者が彼女の事を見下すのが許せなかった。
そんな彼の前に突然、彼女が現れるのは、すぐそこまで来ていた。
以前は乗り慣れなかった馬を、今では難なく乗りこなしている。
それで王都と領地の間を、毎日行ったり来たりしていた。
毎日の乗馬で彼は、さらに男性らしく、磨き上げられていた。
事務仕事ばっかりだったデルフィーが、すっかり逞しく変わっていた。
そう、それだけの時間、彼の目の前に、愛しいアベリアは現れなかったと言う事だった。
昼間は領地で仕事をこなし、夜は王都へ戻る。と、いった生活を繰り返している。
この日は、当主の無茶な行動を見かねて、王都の執事が提言していた。
「デルフィー様、領地の事は誰か違うものを雇って任せるべきです。オリーブで作ったオイルも、あっと言う間に完売して、一旦落ち着いております。こんなに無理をなさっては倒れてしまいます。もう、王都の事業に集中なさった方がよろしいかと思います」
「いや、領地を毎日見る事に意味があるんだ。本音を言えば、ずっと領地の邸に居るべきだと思っている」
デルフィーが、領地で見ていたものは、アベリアの特徴に似ている女性ばかりだった。
始めは、アベリアと同じ髪色の女性、背格好が似ている、好んで来ていたワンピースと同じ柄……。
それが今では、少しふくよかな女性に変わっていた。
アベリアは、すでに、遠くから見ても、膨らんだお腹が分かる頃だろうと踏んでいた。
だから、最近のデルフィーは、ゆったりとした服を着ている女性を見れば、追っかけて確認している。
まさに女の尻を追いかけていることは、自分の面目のために伏せておいた。
「では、王都の事業をどなたかにお任せするべきではないでしょうか? 流石にお一人で領地管理と先代から引き継いだ侯爵家の事業を抱えるのは、ご負担が多き過ぎます」
「任せられるものならそうしてる。出来ないからやっているんだ。それもこれも、この事業、これまでの経営がひど過ぎる。長年、ケビンと一緒に何をしてきたんだ、まったく! こんな馬鹿げた仕入れ値に誰も気づけなかったのか? 契約内容を始めからから見直す必要があるものを、誰に任せられるって話だ」
執事が「自分に任せろ」と言っているようで呆れていた。
「そんなに酷いですか? 確かに利益は薄いですが馬鹿げた程では……。あーそういえば、先代の奥様が、資料を見ていたことがありましたね。確か『飼料の仕入れ値が』とか言っていたはずです。あの時は、女性の言う事でしたので気にしていませんでしたが、もしかして、その辺に詳しいのかもしれませんね。アベリアさんを雇う事が出来たら……」
デルフィーは、執事の言葉を最後まで聞いていられず遮った。
「おい! もし、彼女を見ても、いらない事は言うな! そもそも、彼女に指摘されても気づかないのであれば、これ以上、君には何を言っても無駄だ」
デルフィーは、この執事には、領地に雇い入れた人材が既に信用に足りる存在であることは、伝えていなかった。
今の彼が領地へ行く目的は、アベリアを探す為だけだったから。
どれだけ領地の邸で待っていても、一向に現れないアベリア。
デルフィーが王都や領地内を馬で探しても見つからない彼女。
ケビン従兄が亡くなった翌日、ひょっこりと帰って来るのではないかと期待した愚かな自分。
アベリアに見限られて、当然なことをしたのに、きっと大丈夫と安易な期待をしていた。
彼は焦っていた。
アベリアが子どもを産む前に、大切な契約を結びたかったから。
自分が彼女を見つける前に、お腹の子どもが生まれてしまったら、自分の養子として迎えなくてはいけなくなる。アベリアの産む子は、間違いようもなく自分の子どもなのに。
唯でさえ苛々している時に、従者が彼女の事を見下すのが許せなかった。
そんな彼の前に突然、彼女が現れるのは、すぐそこまで来ていた。
0
本作を読んでいただき、ありがとうございます。 本作は、緩急のある恋愛小説の為、途中に暴言等が含まれます。そこも含めての結末ですが、不快に思われる方もいるかもしれません。苦手な方は読み流しをおねがいします。 これからも、応援よろしくお願いします。 本作のタイトルロゴを作ってくれた、まちゃさんありがとうございます。
お気に入りに追加
1,820
あなたにおすすめの小説

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。
しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。
だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。
○○sideあり
全20話

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる