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見つからない彼女、苛立つ彼
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デルフィーは少し変化していた。
以前は乗り慣れなかった馬を、今では難なく乗りこなしている。
それで王都と領地の間を、毎日行ったり来たりしていた。
毎日の乗馬で彼は、さらに男性らしく、磨き上げられていた。
事務仕事ばっかりだったデルフィーが、すっかり逞しく変わっていた。
そう、それだけの時間、彼の目の前に、愛しいアベリアは現れなかったと言う事だった。
昼間は領地で仕事をこなし、夜は王都へ戻る。と、いった生活を繰り返している。
この日は、当主の無茶な行動を見かねて、王都の執事が提言していた。
「デルフィー様、領地の事は誰か違うものを雇って任せるべきです。オリーブで作ったオイルも、あっと言う間に完売して、一旦落ち着いております。こんなに無理をなさっては倒れてしまいます。もう、王都の事業に集中なさった方がよろしいかと思います」
「いや、領地を毎日見る事に意味があるんだ。本音を言えば、ずっと領地の邸に居るべきだと思っている」
デルフィーが、領地で見ていたものは、アベリアの特徴に似ている女性ばかりだった。
始めは、アベリアと同じ髪色の女性、背格好が似ている、好んで来ていたワンピースと同じ柄……。
それが今では、少しふくよかな女性に変わっていた。
アベリアは、すでに、遠くから見ても、膨らんだお腹が分かる頃だろうと踏んでいた。
だから、最近のデルフィーは、ゆったりとした服を着ている女性を見れば、追っかけて確認している。
まさに女の尻を追いかけていることは、自分の面目のために伏せておいた。
「では、王都の事業をどなたかにお任せするべきではないでしょうか? 流石にお一人で領地管理と先代から引き継いだ侯爵家の事業を抱えるのは、ご負担が多き過ぎます」
「任せられるものならそうしてる。出来ないからやっているんだ。それもこれも、この事業、これまでの経営がひど過ぎる。長年、ケビンと一緒に何をしてきたんだ、まったく! こんな馬鹿げた仕入れ値に誰も気づけなかったのか? 契約内容を始めからから見直す必要があるものを、誰に任せられるって話だ」
執事が「自分に任せろ」と言っているようで呆れていた。
「そんなに酷いですか? 確かに利益は薄いですが馬鹿げた程では……。あーそういえば、先代の奥様が、資料を見ていたことがありましたね。確か『飼料の仕入れ値が』とか言っていたはずです。あの時は、女性の言う事でしたので気にしていませんでしたが、もしかして、その辺に詳しいのかもしれませんね。アベリアさんを雇う事が出来たら……」
デルフィーは、執事の言葉を最後まで聞いていられず遮った。
「おい! もし、彼女を見ても、いらない事は言うな! そもそも、彼女に指摘されても気づかないのであれば、これ以上、君には何を言っても無駄だ」
デルフィーは、この執事には、領地に雇い入れた人材が既に信用に足りる存在であることは、伝えていなかった。
今の彼が領地へ行く目的は、アベリアを探す為だけだったから。
どれだけ領地の邸で待っていても、一向に現れないアベリア。
デルフィーが王都や領地内を馬で探しても見つからない彼女。
ケビン従兄が亡くなった翌日、ひょっこりと帰って来るのではないかと期待した愚かな自分。
アベリアに見限られて、当然なことをしたのに、きっと大丈夫と安易な期待をしていた。
彼は焦っていた。
アベリアが子どもを産む前に、大切な契約を結びたかったから。
自分が彼女を見つける前に、お腹の子どもが生まれてしまったら、自分の養子として迎えなくてはいけなくなる。アベリアの産む子は、間違いようもなく自分の子どもなのに。
唯でさえ苛々している時に、従者が彼女の事を見下すのが許せなかった。
そんな彼の前に突然、彼女が現れるのは、すぐそこまで来ていた。
以前は乗り慣れなかった馬を、今では難なく乗りこなしている。
それで王都と領地の間を、毎日行ったり来たりしていた。
毎日の乗馬で彼は、さらに男性らしく、磨き上げられていた。
事務仕事ばっかりだったデルフィーが、すっかり逞しく変わっていた。
そう、それだけの時間、彼の目の前に、愛しいアベリアは現れなかったと言う事だった。
昼間は領地で仕事をこなし、夜は王都へ戻る。と、いった生活を繰り返している。
この日は、当主の無茶な行動を見かねて、王都の執事が提言していた。
「デルフィー様、領地の事は誰か違うものを雇って任せるべきです。オリーブで作ったオイルも、あっと言う間に完売して、一旦落ち着いております。こんなに無理をなさっては倒れてしまいます。もう、王都の事業に集中なさった方がよろしいかと思います」
「いや、領地を毎日見る事に意味があるんだ。本音を言えば、ずっと領地の邸に居るべきだと思っている」
デルフィーが、領地で見ていたものは、アベリアの特徴に似ている女性ばかりだった。
始めは、アベリアと同じ髪色の女性、背格好が似ている、好んで来ていたワンピースと同じ柄……。
それが今では、少しふくよかな女性に変わっていた。
アベリアは、すでに、遠くから見ても、膨らんだお腹が分かる頃だろうと踏んでいた。
だから、最近のデルフィーは、ゆったりとした服を着ている女性を見れば、追っかけて確認している。
まさに女の尻を追いかけていることは、自分の面目のために伏せておいた。
「では、王都の事業をどなたかにお任せするべきではないでしょうか? 流石にお一人で領地管理と先代から引き継いだ侯爵家の事業を抱えるのは、ご負担が多き過ぎます」
「任せられるものならそうしてる。出来ないからやっているんだ。それもこれも、この事業、これまでの経営がひど過ぎる。長年、ケビンと一緒に何をしてきたんだ、まったく! こんな馬鹿げた仕入れ値に誰も気づけなかったのか? 契約内容を始めからから見直す必要があるものを、誰に任せられるって話だ」
執事が「自分に任せろ」と言っているようで呆れていた。
「そんなに酷いですか? 確かに利益は薄いですが馬鹿げた程では……。あーそういえば、先代の奥様が、資料を見ていたことがありましたね。確か『飼料の仕入れ値が』とか言っていたはずです。あの時は、女性の言う事でしたので気にしていませんでしたが、もしかして、その辺に詳しいのかもしれませんね。アベリアさんを雇う事が出来たら……」
デルフィーは、執事の言葉を最後まで聞いていられず遮った。
「おい! もし、彼女を見ても、いらない事は言うな! そもそも、彼女に指摘されても気づかないのであれば、これ以上、君には何を言っても無駄だ」
デルフィーは、この執事には、領地に雇い入れた人材が既に信用に足りる存在であることは、伝えていなかった。
今の彼が領地へ行く目的は、アベリアを探す為だけだったから。
どれだけ領地の邸で待っていても、一向に現れないアベリア。
デルフィーが王都や領地内を馬で探しても見つからない彼女。
ケビン従兄が亡くなった翌日、ひょっこりと帰って来るのではないかと期待した愚かな自分。
アベリアに見限られて、当然なことをしたのに、きっと大丈夫と安易な期待をしていた。
彼は焦っていた。
アベリアが子どもを産む前に、大切な契約を結びたかったから。
自分が彼女を見つける前に、お腹の子どもが生まれてしまったら、自分の養子として迎えなくてはいけなくなる。アベリアの産む子は、間違いようもなく自分の子どもなのに。
唯でさえ苛々している時に、従者が彼女の事を見下すのが許せなかった。
そんな彼の前に突然、彼女が現れるのは、すぐそこまで来ていた。
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本作を読んでいただき、ありがとうございます。 本作は、緩急のある恋愛小説の為、途中に暴言等が含まれます。そこも含めての結末ですが、不快に思われる方もいるかもしれません。苦手な方は読み流しをおねがいします。 これからも、応援よろしくお願いします。 本作のタイトルロゴを作ってくれた、まちゃさんありがとうございます。
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