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嬉しい彼女が作る料理と、それが眩しく見える彼
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アベリアと彼女のメイドのマネッチアが、侯爵領へ到着した日の夕方の厨房。
「っちょっと、お嬢様! 夕飯の買い出しから戻って来たら、厨房に強烈な臭いが漂ってますけど、今度は何をしでかしてるんですか?」
独特の臭いが苦手なマネッチアが、血相を変えて詰め寄ってくる。
「庭に生えていたドクダミを洗って乾かす作業をしているだけよ。抜いて来るだけでも大変だったんだから。まだまだたくさん自生しているから、明日はマネッチアも手伝ってね」
「あ~っ、侯爵夫人になってせっかく上品になったと思っていたのに、やっぱりお嬢様のままでしたか。私、ドクダミだけは無理ですからお断りします」
「ふふっ、そう言うと思ってた。慣れると、臭いなんて気にならないんだけどね」
予想通り、侍女に手伝いを断られたアベリア。断られたのに、呑気に笑っていた。
アベリアは、侍女には不評なドクダミを使って、商品を売り出すつもりでいる。
肌への美容効果が高い抽出エキスで化粧水を作れば、貴族達には高値で売れると確信していた。
彼女にとっての宝が、すぐ目の前の庭に溢れかえっていたのだから。
見る人によっては唯の雑草だけど、自分にとっては貴重なものだった。馬車を降りた時から、ドクダミに目を付けていたけど、前から見ただけでは、どれほど生えているか分からなかったアベリア。実際に確かめると、相当な数の化粧水が作れそうだった。
侍女から買い出しの品を受け取ったアベリアは、今日の夕飯を自ら作り始めた。
「お嬢様、何を作るんですか? 手伝いますから申し付けてください」
「パエーリャを作るから、手伝わなくていいわ。私にとって、嬉しい時のお祝いみたいなものだから自分で作りたいの。明日からは忙しくなるから、調理はマネッチアに任せるから、今日はゆっくりしてて」
そう言ってアベリアは、乾燥した赤く細長い植物を、小さな紙の包みから出した。その植物で黄色く染めた米へ、この地で捕れた新鮮な魚介類を乗せた。それは、マネッチアが見たことも無い料理で、貴族の彼女が1人で作っていた。
夕飯が出来たと呼ばれたデルフィーは困惑していた。
見たことも無い料理を、まさか侯爵夫人が1人で作り上げたことが信じられなかった。それに、このとびきり美味しいこの料理の、味と香りは、初めてどころか、今まで一度も見聞きしたことも無かったのだから。
「アベリア様、この黄色い米は、いったいどうやって作ったんですか?」
「それはね、去年の秋に紫の花の雌しべを摘んで、乾燥させたものを使ったの。秋になったら、その花が咲いているのを探し回るんだけど、1つの花から沢山は取れないから、とっても貴重なのよ」
「そんな、貴重なものを私たちが一緒に頂いて良いのですか?」
「えっ、一緒に食べないと意味がないでしょう。この調味料は沢山無いから、いつも作れるものじゃないの。だから、嬉しいことがあった時に食べたいんだもん」
「そうですか、それにしても、このような調味料は聞いたことが無いのですが、気になるので私も調べておきます」
「そう、じゃぁ秋になったら一緒に花を探して摘みに行きましょう。限られた時期に一斉に咲くから、結構大変なんだ。ふふっ、だから覚悟してよ」
これまでのデルフィーは、1人で味気のない、ただ空腹を満たすだけの食事を摂る日々だった。
そして、今日、突然と目の前にアベリアが現れた。
彼女が作った黄色くて美味しい料理や笑顔が、自分にはとても眩しく感じたデルフィー。
もしかして、彼女は思った程、傲慢な女性ではないのかもしれないと感じ始めていた。
「っちょっと、お嬢様! 夕飯の買い出しから戻って来たら、厨房に強烈な臭いが漂ってますけど、今度は何をしでかしてるんですか?」
独特の臭いが苦手なマネッチアが、血相を変えて詰め寄ってくる。
「庭に生えていたドクダミを洗って乾かす作業をしているだけよ。抜いて来るだけでも大変だったんだから。まだまだたくさん自生しているから、明日はマネッチアも手伝ってね」
「あ~っ、侯爵夫人になってせっかく上品になったと思っていたのに、やっぱりお嬢様のままでしたか。私、ドクダミだけは無理ですからお断りします」
「ふふっ、そう言うと思ってた。慣れると、臭いなんて気にならないんだけどね」
予想通り、侍女に手伝いを断られたアベリア。断られたのに、呑気に笑っていた。
アベリアは、侍女には不評なドクダミを使って、商品を売り出すつもりでいる。
肌への美容効果が高い抽出エキスで化粧水を作れば、貴族達には高値で売れると確信していた。
彼女にとっての宝が、すぐ目の前の庭に溢れかえっていたのだから。
見る人によっては唯の雑草だけど、自分にとっては貴重なものだった。馬車を降りた時から、ドクダミに目を付けていたけど、前から見ただけでは、どれほど生えているか分からなかったアベリア。実際に確かめると、相当な数の化粧水が作れそうだった。
侍女から買い出しの品を受け取ったアベリアは、今日の夕飯を自ら作り始めた。
「お嬢様、何を作るんですか? 手伝いますから申し付けてください」
「パエーリャを作るから、手伝わなくていいわ。私にとって、嬉しい時のお祝いみたいなものだから自分で作りたいの。明日からは忙しくなるから、調理はマネッチアに任せるから、今日はゆっくりしてて」
そう言ってアベリアは、乾燥した赤く細長い植物を、小さな紙の包みから出した。その植物で黄色く染めた米へ、この地で捕れた新鮮な魚介類を乗せた。それは、マネッチアが見たことも無い料理で、貴族の彼女が1人で作っていた。
夕飯が出来たと呼ばれたデルフィーは困惑していた。
見たことも無い料理を、まさか侯爵夫人が1人で作り上げたことが信じられなかった。それに、このとびきり美味しいこの料理の、味と香りは、初めてどころか、今まで一度も見聞きしたことも無かったのだから。
「アベリア様、この黄色い米は、いったいどうやって作ったんですか?」
「それはね、去年の秋に紫の花の雌しべを摘んで、乾燥させたものを使ったの。秋になったら、その花が咲いているのを探し回るんだけど、1つの花から沢山は取れないから、とっても貴重なのよ」
「そんな、貴重なものを私たちが一緒に頂いて良いのですか?」
「えっ、一緒に食べないと意味がないでしょう。この調味料は沢山無いから、いつも作れるものじゃないの。だから、嬉しいことがあった時に食べたいんだもん」
「そうですか、それにしても、このような調味料は聞いたことが無いのですが、気になるので私も調べておきます」
「そう、じゃぁ秋になったら一緒に花を探して摘みに行きましょう。限られた時期に一斉に咲くから、結構大変なんだ。ふふっ、だから覚悟してよ」
これまでのデルフィーは、1人で味気のない、ただ空腹を満たすだけの食事を摂る日々だった。
そして、今日、突然と目の前にアベリアが現れた。
彼女が作った黄色くて美味しい料理や笑顔が、自分にはとても眩しく感じたデルフィー。
もしかして、彼女は思った程、傲慢な女性ではないのかもしれないと感じ始めていた。
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本作を読んでいただき、ありがとうございます。 本作は、緩急のある恋愛小説の為、途中に暴言等が含まれます。そこも含めての結末ですが、不快に思われる方もいるかもしれません。苦手な方は読み流しをおねがいします。 これからも、応援よろしくお願いします。 本作のタイトルロゴを作ってくれた、まちゃさんありがとうございます。
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