全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

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侯爵夫人は資金提供に付いてきた、不要なおまけ

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 ケビン・ヘイワード侯爵の両親は、父方の親族の元を訪問中に、火事に遭遇して亡くなっていた。

 先代侯爵の不慮の死によって、ケビンはおろか周囲の人間たちも混乱しながら、ケビンへ侯爵位の継承が行われた。
 ヘイワード侯爵は、侯爵領の管理と王都にて事業を経営している。だから、ケビンは、分からないながらも管理を続けるしかなかったのだ。

 事故当時、まだ若かったケビンは、侯爵としての領地管理や事業経営について、先代から十分に学びを得る前の出来事だった。
 正直なところ、領地のことも事業のこともケビンは何も分かっていなかった。
 でも、両親を亡くした失意に負けたくなかったケビン・ヘイワード侯爵は、無駄な虚勢を張った。
 事業経営の知識が乏しいにもかかわらず、他人を頼ることなく、知識や経営の手管について教えを請わないまま、間違った独学で突き進んでしまったのだ。

 結果、先代侯爵が遺していた資金は3年で底をつく。

 蓄えていた資金を失ったばかりの頃は、侯爵という高位貴族の立場を使い、周囲へ少し声をかけるだけで簡単に資金調達が出来た。
 そのことも、ヘイワード侯爵が落ちぶれるのに拍車をかけたのかもしれない。
 ヘイワード侯爵家は、それから数か月のうちに、返済不能な額の借金を抱えてしまう。

 途方に暮れたヘイワード侯爵は、なりふりなど、構っていられなかった。
 それまでは嫌悪を抱いていた、下位貴族にも手当たり次第に資金調達をお願いして回った。
 侯爵は気付いていなかったけれど、ヘイワード侯爵家の悪評は、貴族中に広がっていたから、協力してくれる者は簡単には現れなかった。
 何人にも断られた結果、アベリアの父だけが救いの手を伸ばしてくれた訳だ。

 通常、ヘイワード侯爵のように落ちぶれかけた貴族のことは、他の貴族たちからすると、災難に巻き込まれることを懸念して見向きもしない。

 アベリアの父は娘との結婚を条件に、借金の全額返済と1年程度は余裕で暮らせるお金を、結婚支度金という名目で侯爵に渡したのだ。
 それ故、ヘイワード侯爵はアベリアのことを「お金で侯爵夫人の座を買った」と、ことあることに揶揄している。

 アベリアは、ヘイワード侯爵家の事について、父親からも詳しくは教えて貰っていない。
 その上、侯爵家からも相手にされず、限られた情報しか持ち合わせていなかった。

 アベリアが嫁いできた時に、男爵家から一緒に侯爵邸で従事することになったマネッチア。
 彼女がもたらす情報でしか、ヘイワード侯爵家を知り得ない。
 おかげで、アベリアは気分を害するような噂話だけが詳しくなっていた。
 
 邸に妻と愛人が暮らしているのだから、アベリアとエリカの話は、メイドたちが開く井戸端会議の話の種だ。
 マネッチアが、メイドたちから聞いてきたことに、ヘイワード侯爵とエリカの出会いの話もあった。
 おそらく、エリカ本人が得意げに従者の誰かに話したのが、邸中に広がっているのだろう。

 借金返済の目途もなく、他の貴族からは冷たくあしらわれ、孤独で寂しい日々を過ごしていたヘイワード侯爵。
 彼にとっては、町の酒場で出会ったエリカだけが癒やしの存在だった。
 貴族たちからは、「ヘイワード侯爵」の名前を出せば怪訝な顔をされ、平民であれば「貴族」と聞けば壁を作られる。
 誰も、自分の話を真剣に聞いてくれる者はいなかった。
 その中で、ヘイワード侯爵に壁を作ることなく、自然体で接してくれる、唯一の存在がエリカだ。
 エリカの笑顔に元気付けられ、唯一互いに笑顔で話すことができる存在。

 ヘイワード侯爵はエリカを、アベリアとの結婚前から邸に住まわせ、まるで新婚夫婦のように振る舞っていた。
 平民のエリカは、従者たちと感覚も似ていたし、明るい性格のおかげで、侯爵家に仕える従者たちとも、あっと言う間に良好な関係が築かれていた。

 そこに、多額の資金提供と一緒に、余計なおまけであるアベリアが付いてきてしまう。
 侯爵とエリカにとってはもちろん、ヘイワード家に仕える従者たちにとっても、アベリアは、2人の仲を引き裂く悪者であり、侯爵家の邪魔者として扱われていた。


 1年前の結婚初日。
 まさか、嫁いだその家で、愛人がニコニコと笑って正妻を出迎えるとは、想像もできないまま、アベリアは侯爵家の門をくぐってしまった。 
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 本作を読んでいただき、ありがとうございます。 本作は、緩急のある恋愛小説の為、途中に暴言等が含まれます。そこも含めての結末ですが、不快に思われる方もいるかもしれません。苦手な方は読み流しをおねがいします。 これからも、応援よろしくお願いします。 本作のタイトルロゴを作ってくれた、まちゃさんありがとうございます。
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