全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

文字の大きさ
上 下
4 / 57

夫を捨てた夜。その夫は知らない事情

しおりを挟む
 アベリアは、ヘイワード侯爵の愛人であるエリカの行動を想像していた。
 アベリアが抱くエリカの印象は、ふわふわの髪をなびかせ、甘えた声とクリクリの大きな瞳を上目で遣って、ひたすら夫に媚びている女性だ。

 彼女はいつだって、夫である侯爵に甘えているように見えていたし、侯爵の方も、エリカに甘えられているのが嬉しそうにしていて、夫の表情は緩んでいた。
 侯爵は、妻に見せる表情とは全く違う顔を、愛人エリカには見せている。


 それに、侯爵とエリカが2人でいるところにアベリアが遭遇すれば、いつでも、侯爵の腕にエリカが腕を絡め、体を密着させて、親密そうな姿を、アベリアへ見せつけていた。
 エリカは決まって、すれ違いざまに振り返るのだ。
 そして、アベリアに向けて、勝ち誇った表情を作る。
 もちろん、そんな表情は侯爵に気付かれないよう、妻にだけ見せていた一面だ。

 エリカは、侯爵の愛情を独り占めしていることに、意気揚々としていた。
 自分が、愛し合う2人を引き裂くことはしたくない。
 だから、愛人が自分にだけ見せていた一面でさえ、気に留めることはなかった。

 だけど、エリカの本性は、アベリアの理解が到底及ばない愛人のようだ。

 アベリアは小さな声で呟く。
「エリカさんは、厨房の中にも、仲の良いご友人がいらっしゃるのかもね。まぁ、こんなゆるゆるの愛人なら、侯爵の子を宿したと言っても、実際には誰の子か分かったものじゃないわ。でも、私には関係ないから、もう何も言わないけどね」
 

 アベリアの実家は、男爵家という猫の額ほどの領地しか管理していない。けれど、その当主の知識と分析力によって、この国の公爵家以上の資産を保有している。

 アベリア自身も、父の先見の明と好機を逃さない俊敏さに、いつも驚かされていた。
 半面、娘のことも道具の一つと割り切る冷淡さに呆れている。

 娘の教育にだけは、少しの出費を惜しまなかった父親。男爵は娘に多くの知識と教養を与えていた。
 それも、また、金に変わると思っていたから。

 男爵は、社交界で良い噂の無いヘイワード侯爵へ、娘を嫁がせてまで上位貴族との関係を作りたかった。
 幸せにならない結婚を、娘にさせる。
 そんな冷酷な思考の持ち主が、アベリアの父親だ。
 娘が離婚を切り出しても取り合ってはもらえない。
 そして、離婚ができても、一度汚名のついた娘を、容赦なく切り捨てることは分かりきっていた。

 アベリアには、金銭管理の厳しいその父親が、侯爵家を持ち直すまでの多額の資金を費やしたということが腑に落ちていない。
 どう考えても、高位貴族との縁故だけでは、割に会わない程の結婚支度金を、男爵は負担していた。
 ヘイワード侯爵家には、それ以上の回収が見込める何かがあると、アベリアは思っている。
 
 アベリアも、結婚初日は17歳の純情な少女だった。
 ただの紙切れだけの結婚になると分かって、父親に売られたとは思いたくなかった。

 初めてこの邸へ足を踏み入れるまでは、ヘイワード侯爵を夫として、共に人生を歩んでいきたいと願っていた。
 純情な乙女の気持ちは、たった一瞬でヘイワード侯爵に踏みにじられた。
 その屈辱は、彼女なりのやり方で晴らすつもりでいる。
 
 最後の晩餐で、夫を引き留めた言葉。
 夫の気持ちが少しでも自分に向いていれば、彼女の気持ちも変わったかもしれない。

しおりを挟む
 本作を読んでいただき、ありがとうございます。 本作は、緩急のある恋愛小説の為、途中に暴言等が含まれます。そこも含めての結末ですが、不快に思われる方もいるかもしれません。苦手な方は読み流しをおねがいします。 これからも、応援よろしくお願いします。 本作のタイトルロゴを作ってくれた、まちゃさんありがとうございます。
感想 12

あなたにおすすめの小説

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。

華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。 嫌な予感がした、、、、 皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう? 指導係、教育係編Part1

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

処理中です...