私にだけ冷たい最後の優良物件から婚約者のふりを頼まれただけなのに、離してくれないので記憶喪失のふりをしたら、彼が逃がしてくれません!◆中編版
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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結婚は今すぐに⁉︎
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そう考える私は、だいぶ呼吸も落ち着きレオナールに尋ねた。
「ねぇ、私が記憶喪失のふりをしていたのに、レオナールは怒ってないの?」
「エメリーのことを怒るわけないだろう」
「だけど『記憶喪失のふりをしていた』って聞いたときは、怖い顔をしていたでしょう」
「それは……。エメリーが記憶喪失のふりをやめてしまえば、嘘をつき続ける俺との関係が、終わると思ったから」
「ん? それってどういう意味かしら。もしかして、レオナールは私が記憶喪失のふりをしていると気づいていたの」
「ああ。スワンボートに乗っているときに、エメリーが記憶喪失のふりをしているだけなんだと気づいた」
「ええー⁉ そんなときからレオナールは気づいていたの⁉」
「まあな……。俺に水をかける令嬢は、どう考えてもエメリーしかいないだろう。だからそれで、今までと変わらないのに、記憶喪失のふりをしているのだと気がついた」
「どうして気づいたのに何も言わなかったのよ……」
もしや、下手な猿芝居をしているなと、内心笑われていたのかしらと、暗い顔を見せる。
「エメリーが記憶喪失のふりをしてくれているのは、俺にとっても都合が良かったんだ。記憶喪失のふりをやめて欲しくなかったから、『思い出した』と言わないように、行ってもいない場所にしか連れていかなかったし」
「なんだ良かった~。てっきりレオナールに嫌われたと思い込んでいたけど、違ったのね」
「ん? 俺を罵倒してこないのか?」
「もうレオナールってば、罵倒されたいわけ?」
「そうではないが、てっきりそうなる覚悟をしていた」
「するわけないでしょう」
「俺が恋人だったと嘘をついてエメリーを振り回したことを、怒っているだろう」
「いいえ。一緒に出かけたのが楽しかったから、怒ってないわよ」
「俺と結婚して欲しいのだが……してくれるだろうか」
彼は、恐る恐る尋ねてきた。
「レオナールのプロポーズを、喜んで受けるわ」
そう答えたものの、ラングラン公爵家にはアリアという、超絶めんどうなブラコンの妹がいるのが気にかかるため、一つ確認する。
「ちなみに結婚はいつ頃を考えているのかしら」
「明日にでも!」
彼が胸を張って言った。
「はぁ? 婚約期間五年で始まったのに、どうして結婚が明日になるのよ。いつも極端すぎるわ」
「俺は長年待ったからな、もう一日も待てないから。アリアが部屋を用意しているから、このまま帰らなくてもいいんじゃないかな」
またしても真面目な口調である。
突拍子もない話だが、いつだって斜め上をいくレオナールのことだ。ふざけているわけではないのだろう。
だがしかし、いくらなんでも明日の結婚には同意し兼ねる私も、キリリとした態度で告げた。
「さすがに明日は早すぎるわ。それなら結婚式があとになるじゃない。私の理想は──」
「理想は?」
「結婚式と入籍は一緒の日がいいもの」
この要望では、さすがに明日は無理だろうと思ったが、にっこりと笑うレオナールがさらに上をいく。
「すでにウェディングドレスは用意してあるから、結婚式だけなら明日にでも挙げられるぞ」
「私の理想の結婚式をレオナールが準備してくれるまでは駄目よ」
「エメリーの理想の結婚式か──」
宙を見上げるレオナールが、幸せそうな顔をする。
困ったな……。
レオナールってば、これから張り切り出しそうだけど、理想の結婚式なんて追及されても、ちっとも分からない。
はっきり言って理想の結婚式など存在しない。
白いウェディングドレスを着て教会で誓いを立てる以外、他に何があるかしらと考えている次元の私だ。
憧れるシチュエーションなんて一つもないのだから。
「一日でも早く結婚するために、早急に手配するからな。希望を全て挙げてくれ」
まずいな……。
私の希望なんて、「面倒なアリアを至急追い出してくれ」なんだが、そんなことを伝えれば、彼女は今すぐ修道院に送られるだろう。
「私の理想の結婚式はね……内緒よ。婚約者の願いを察してくれる旦那様が、私の理想の旦那様なんだから、いちいち聞かないで!」
「理想の旦那様かぁ……」
そう言ったレオナールが、ブワッと真っ赤になり、嬉しそうにしている。
あれ? どこかで見たことあるなと思う私が、失言したかしらと気づいても遅かった。
またしても諜報員顔負けの調査を全方位に始める彼の溺愛が、この先も続くのであった──。
.。.:✽·゚+.。.:✽·゚+.。.:✽·゚+.。.:✽·゚+.。.:✽·゚
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
本作を、たくさんの読者様が読んでくださり、感謝しかありません。
これからも瑞貴の作品を、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろうでは、原作の長編を投稿しております。ご興味がありましたら、そちらも一読くださいませ。
改めまして、読んでくださった皆様への感謝を込めて、完結。
瑞貴
「ねぇ、私が記憶喪失のふりをしていたのに、レオナールは怒ってないの?」
「エメリーのことを怒るわけないだろう」
「だけど『記憶喪失のふりをしていた』って聞いたときは、怖い顔をしていたでしょう」
「それは……。エメリーが記憶喪失のふりをやめてしまえば、嘘をつき続ける俺との関係が、終わると思ったから」
「ん? それってどういう意味かしら。もしかして、レオナールは私が記憶喪失のふりをしていると気づいていたの」
「ああ。スワンボートに乗っているときに、エメリーが記憶喪失のふりをしているだけなんだと気づいた」
「ええー⁉ そんなときからレオナールは気づいていたの⁉」
「まあな……。俺に水をかける令嬢は、どう考えてもエメリーしかいないだろう。だからそれで、今までと変わらないのに、記憶喪失のふりをしているのだと気がついた」
「どうして気づいたのに何も言わなかったのよ……」
もしや、下手な猿芝居をしているなと、内心笑われていたのかしらと、暗い顔を見せる。
「エメリーが記憶喪失のふりをしてくれているのは、俺にとっても都合が良かったんだ。記憶喪失のふりをやめて欲しくなかったから、『思い出した』と言わないように、行ってもいない場所にしか連れていかなかったし」
「なんだ良かった~。てっきりレオナールに嫌われたと思い込んでいたけど、違ったのね」
「ん? 俺を罵倒してこないのか?」
「もうレオナールってば、罵倒されたいわけ?」
「そうではないが、てっきりそうなる覚悟をしていた」
「するわけないでしょう」
「俺が恋人だったと嘘をついてエメリーを振り回したことを、怒っているだろう」
「いいえ。一緒に出かけたのが楽しかったから、怒ってないわよ」
「俺と結婚して欲しいのだが……してくれるだろうか」
彼は、恐る恐る尋ねてきた。
「レオナールのプロポーズを、喜んで受けるわ」
そう答えたものの、ラングラン公爵家にはアリアという、超絶めんどうなブラコンの妹がいるのが気にかかるため、一つ確認する。
「ちなみに結婚はいつ頃を考えているのかしら」
「明日にでも!」
彼が胸を張って言った。
「はぁ? 婚約期間五年で始まったのに、どうして結婚が明日になるのよ。いつも極端すぎるわ」
「俺は長年待ったからな、もう一日も待てないから。アリアが部屋を用意しているから、このまま帰らなくてもいいんじゃないかな」
またしても真面目な口調である。
突拍子もない話だが、いつだって斜め上をいくレオナールのことだ。ふざけているわけではないのだろう。
だがしかし、いくらなんでも明日の結婚には同意し兼ねる私も、キリリとした態度で告げた。
「さすがに明日は早すぎるわ。それなら結婚式があとになるじゃない。私の理想は──」
「理想は?」
「結婚式と入籍は一緒の日がいいもの」
この要望では、さすがに明日は無理だろうと思ったが、にっこりと笑うレオナールがさらに上をいく。
「すでにウェディングドレスは用意してあるから、結婚式だけなら明日にでも挙げられるぞ」
「私の理想の結婚式をレオナールが準備してくれるまでは駄目よ」
「エメリーの理想の結婚式か──」
宙を見上げるレオナールが、幸せそうな顔をする。
困ったな……。
レオナールってば、これから張り切り出しそうだけど、理想の結婚式なんて追及されても、ちっとも分からない。
はっきり言って理想の結婚式など存在しない。
白いウェディングドレスを着て教会で誓いを立てる以外、他に何があるかしらと考えている次元の私だ。
憧れるシチュエーションなんて一つもないのだから。
「一日でも早く結婚するために、早急に手配するからな。希望を全て挙げてくれ」
まずいな……。
私の希望なんて、「面倒なアリアを至急追い出してくれ」なんだが、そんなことを伝えれば、彼女は今すぐ修道院に送られるだろう。
「私の理想の結婚式はね……内緒よ。婚約者の願いを察してくれる旦那様が、私の理想の旦那様なんだから、いちいち聞かないで!」
「理想の旦那様かぁ……」
そう言ったレオナールが、ブワッと真っ赤になり、嬉しそうにしている。
あれ? どこかで見たことあるなと思う私が、失言したかしらと気づいても遅かった。
またしても諜報員顔負けの調査を全方位に始める彼の溺愛が、この先も続くのであった──。
.。.:✽·゚+.。.:✽·゚+.。.:✽·゚+.。.:✽·゚+.。.:✽·゚
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
本作を、たくさんの読者様が読んでくださり、感謝しかありません。
これからも瑞貴の作品を、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろうでは、原作の長編を投稿しております。ご興味がありましたら、そちらも一読くださいませ。
改めまして、読んでくださった皆様への感謝を込めて、完結。
瑞貴
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ご感想ありがとうございます😊
ふふふ、気持ちだけは前のめりのレオナールですから、最後まで準備万端です✨
これからエメリーは、間違いなくドロドロに甘やかされる気がしております。
想定外の展開だったようですが、楽しんでいただけて嬉しいです🥹
そして、気持ちがあたたかくなるお言葉をありがとうございます。
投稿中も感想を届けてくださり、背中を押されました。
最後まで、ありがとうございました。
瑞貴
はる太様
ご感想ありがとうございます。
やはり、勝手に勘違いをして…妹が出てきました…。
そうなんです。愛が重すぎな鎧ドレスが、エメリーを守っておりましたからね😆
むむむ〜っ、危ないっ。
何か書きそうだからこの変で🤐
引き続きよろしくお願いします🙏
瑞貴
はる太様
ご感想ありがとうございます😊
エメリーに過去の記憶がないと知り、これまでしたかったことを、これでもかとやり始めております。
どのタイミングで記憶が戻ったと言い出すのかしら──。
この先もよろしくお願いします。
瑞貴