上 下
36 / 36

結婚は今すぐに⁉︎

しおりを挟む
 そう考える私は、だいぶ呼吸も落ち着きレオナールに尋ねた。

「ねぇ、私が記憶喪失のふりをしていたのに、レオナールは怒ってないの?」

「エメリーのことを怒るわけないだろう」

「だけど『記憶喪失のふりをしていた』って聞いたときは、怖い顔をしていたでしょう」

「それは……。エメリーが記憶喪失のふりをやめてしまえば、嘘をつき続ける俺との関係が、終わると思ったから」

「ん? それってどういう意味かしら。もしかして、レオナールは私が記憶喪失のふりをしていると気づいていたの」

「ああ。スワンボートに乗っているときに、エメリーが記憶喪失のふりをしているだけなんだと気づいた」
「ええー⁉ そんなときからレオナールは気づいていたの⁉」

「まあな……。俺に水をかける令嬢は、どう考えてもエメリーしかいないだろう。だからそれで、今までと変わらないのに、記憶喪失のふりをしているのだと気がついた」

「どうして気づいたのに何も言わなかったのよ……」
 もしや、下手な猿芝居をしているなと、内心笑われていたのかしらと、暗い顔を見せる。

「エメリーが記憶喪失のふりをしてくれているのは、俺にとっても都合が良かったんだ。記憶喪失のふりをやめて欲しくなかったから、『思い出した』と言わないように、行ってもいない場所にしか連れていかなかったし」

「なんだ良かった~。てっきりレオナールに嫌われたと思い込んでいたけど、違ったのね」

「ん? 俺を罵倒してこないのか?」

「もうレオナールってば、罵倒されたいわけ?」

「そうではないが、てっきりそうなる覚悟をしていた」
「するわけないでしょう」

「俺が恋人だったと嘘をついてエメリーを振り回したことを、怒っているだろう」

「いいえ。一緒に出かけたのが楽しかったから、怒ってないわよ」

「俺と結婚して欲しいのだが……してくれるだろうか」
 彼は、恐る恐る尋ねてきた。


「レオナールのプロポーズを、喜んで受けるわ」
 そう答えたものの、ラングラン公爵家にはアリアという、超絶めんどうなブラコンの妹がいるのが気にかかるため、一つ確認する。

「ちなみに結婚はいつ頃を考えているのかしら」
「明日にでも!」
 彼が胸を張って言った。
「はぁ? 婚約期間五年で始まったのに、どうして結婚が明日になるのよ。いつも極端すぎるわ」

「俺は長年待ったからな、もう一日も待てないから。アリアが部屋を用意しているから、このまま帰らなくてもいいんじゃないかな」
 またしても真面目な口調である。

 突拍子もない話だが、いつだって斜め上をいくレオナールのことだ。ふざけているわけではないのだろう。

 だがしかし、いくらなんでも明日の結婚には同意し兼ねる私も、キリリとした態度で告げた。

「さすがに明日は早すぎるわ。それなら結婚式があとになるじゃない。私の理想は──」

「理想は?」

「結婚式と入籍は一緒の日がいいもの」
 この要望では、さすがに明日は無理だろうと思ったが、にっこりと笑うレオナールがさらに上をいく。

「すでにウェディングドレスは用意してあるから、結婚式だけなら明日にでも挙げられるぞ」


「私の理想の結婚式をレオナールが準備してくれるまでは駄目よ」

「エメリーの理想の結婚式か──」
 宙を見上げるレオナールが、幸せそうな顔をする。

 困ったな……。

 レオナールってば、これから張り切り出しそうだけど、理想の結婚式なんて追及されても、ちっとも分からない。

 はっきり言って理想の結婚式など存在しない。

 白いウェディングドレスを着て教会で誓いを立てる以外、他に何があるかしらと考えている次元の私だ。

 憧れるシチュエーションなんて一つもないのだから。

「一日でも早く結婚するために、早急に手配するからな。希望を全て挙げてくれ」

 まずいな……。
 私の希望なんて、「面倒なアリアを至急追い出してくれ」なんだが、そんなことを伝えれば、彼女は今すぐ修道院に送られるだろう。

「私の理想の結婚式はね……内緒よ。婚約者の願いを察してくれる旦那様が、私の理想の旦那様なんだから、いちいち聞かないで!」

「理想の旦那様かぁ……」
 そう言ったレオナールが、ブワッと真っ赤になり、嬉しそうにしている。

 あれ? どこかで見たことあるなと思う私が、失言したかしらと気づいても遅かった。

 またしても諜報員顔負けの調査を全方位に始める彼の溺愛が、この先も続くのであった──。



 .。.:✽·゚+.。.:✽·゚+.。.:✽·゚+.。.:✽·゚+.。.:✽·゚
 最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 本作を、たくさんの読者様が読んでくださり、感謝しかありません。

 これからも瑞貴の作品を、どうぞよろしくお願いします。
 小説家になろうでは、原作の長編を投稿しております。ご興味がありましたら、そちらも一読くださいませ。
 改めまして、読んでくださった皆様への感謝を込めて、完結。

 瑞貴
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(8件)

はる太
2024.04.18 はる太
ネタバレ含む
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
2024.04.18 瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

はる太様

ご感想ありがとうございます😊

ふふふ、気持ちだけは前のめりのレオナールですから、最後まで準備万端です✨

これからエメリーは、間違いなくドロドロに甘やかされる気がしております。

想定外の展開だったようですが、楽しんでいただけて嬉しいです🥹

そして、気持ちがあたたかくなるお言葉をありがとうございます。
投稿中も感想を届けてくださり、背中を押されました。

最後まで、ありがとうございました。

 瑞貴

解除
はる太
2024.04.16 はる太
ネタバレ含む
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
2024.04.16 瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

はる太様

ご感想ありがとうございます。

やはり、勝手に勘違いをして…妹が出てきました…。

そうなんです。愛が重すぎな鎧ドレスが、エメリーを守っておりましたからね😆

むむむ〜っ、危ないっ。
何か書きそうだからこの変で🤐

引き続きよろしくお願いします🙏

瑞貴

解除
はる太
2024.04.13 はる太
ネタバレ含む
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
2024.04.13 瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

はる太様

ご感想ありがとうございます😊

エメリーに過去の記憶がないと知り、これまでしたかったことを、これでもかとやり始めております。
どのタイミングで記憶が戻ったと言い出すのかしら──。

この先もよろしくお願いします。

 瑞貴

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】

霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。 辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。 王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。 8月4日 完結しました。

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。