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顔が赤いのはドレスのせい?③

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「エメリーの顔が赤く見えるのは、ドレスが赤いせいだろうか……」

「そうよ。赤色が顔に反射しているからでしょう。でも、せっかくドレスコードの赤を着て来たのに、少しも意味が分からないまま終わってしまったわね」

「また同じ舞台に行こうか?」

「ふふっ、そうね。次こそはちゃんと観ましょう。でも……、今日はいいものを見られたから、来て良かったわ」

「寝ていただけなのに?」
「うん。最初はちゃんと起きていたもの」

 レオナールの寝顔を見て、何とも言えない幸福感を抱いたとは、恥ずかしくて伝えられない。

 だけど、彼が私の横で安心しきった姿を見せていたことに、嘘や偽りはないはずだ。

 そうなればきっと、今のレオナールが本当の姿なんだと思う。
 私の記憶が戻ったと知っても、彼の態度はきっと変わらないはずだ。

 それに、頭に花の咲いた両親ではあるけれど、そろそろ記憶が戻ったと伝えてあげたい。

 心配してくれる両親に、このまま嘘をつき続けるのは、そろそろ限界を感じるし。

 そんな風に考えていると、次の顔合わせについて、彼が提案してきた。

「次は、俺の屋敷に来ないか?」
「レオナールの屋敷へ?」

「以前伝えただろう。俺には妹がいるんだが、その妹がエメリーに会いたがっているんだ」

「そうなの?」

 妹のアリアは、私とレオナールの婚約が偽装であると勘ぐっていたはずだけど、どうしてかしらと首を傾げる。

「実は、エメリーの両親が一度我が家に来て、事故のせいで記憶がないことを、うちの両親に報告していたんだ」

「全然知らなかったわ」

「エメリーの記憶喪失のことを、俺は全く気にしないと伝えていたんだが、後から俺の両親が結婚に反対するのではないかと、心配したみたいだ。もちろん、俺の家族もそんなことは気にしていないけどね」

「それでどうして、妹の……」
 口ごもる私は、妹の名前について、分からないふりをした。

「アリアだ。エメリーに過去の記憶がないなら、いろいろ不便だろうと、アリアが心配しているみたいなんだ」

 婚約発表のパーティーで、レオナールがいないタイミングを見計らい、文句をつけに来たアリアが、そんな発想に至るだろうか?

 彼女に限って私を心配するはずはないだろうと感じたが、それを言うわけにもいかない。

 過去の記憶がない以上、今の私はアリアの顔さえ知らない設定で、このまま話を貫かなくてはならない。

 そうだとしても、私の記憶は、ラングラン公爵家の屋敷を見たタイミングで蘇る計画だし、アリアに会うときには、かつての自分に戻ってよいのだから問題はない。

 この計画で「ボロはでないな」と考え、にっこりと笑う。

「そんなことを言ってくれるなんて嬉しいわ。私もアリア様にお会いしたいから、ぜひうかがうわ」

「それでは一週間後、エメリーの家まで迎えに行くから」

「レオナールの屋敷へ行くなんて、緊張するわね」

「なんの心配もいらないさ。アリアは優しいし、エメリーの横には、ずっと俺もいるんだから、普段どおりで構わないから」

 穏やかに微笑む彼が言うものだから、胸がきゅんとする。

 そんな自分に動揺してしまい、彼から顔を背け馬車の窓を見ると、ガラスに映る私の顔が赤い。

 やだ。私ってばずっとこんな顔をしていたのかしら。

 まるで彼を意識していると思われるじゃない。

 そう思うとますます恥ずかしくなって、そのまま横を向き続け、屋敷へと戻った。

 ◇◇◇

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