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顔が赤いのはドレスのせい?①

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 レオナールから届けられた赤いドレスを纏い、彼の到着を待つ。

 湖のデートのときは、逃げるように自分の部屋で待っていたのだが、エントランスに近いリビングで待っているあたり、このデートを楽しみにしている自分もいる。

 私だって、年ごろの乙女なんだし、優しくされたら嬉しいわけだし……。

 彼のことだ。てっきり早めに訪ねてくるのではないかと思ったが、案外ギリギリだった。

 彼に何かあったのかもしれない。大丈夫かしらと考えていたタイミングで、訪問を知らせる呼び鈴が鳴り、パタパタと急いでエントランスへと向かう。

 そうすると、まっすぐこちらを見ている彼が言った。

「遅くなってしまい、申し訳ない」

「いいえ。忙しいのに時間を作ってくれてありがとう」

 すると、口に手の甲を当てる彼が、照れたように言った。

「そのドレス……大人っぽい雰囲気のエメリーもいいな」

「着慣れない色だから、なんだか照れくさいわ」

「うん。赤くなっているエメリーが可愛い、ふふっ」
 くすりと笑われ、ドキリとした。

 まずい……。
 私らしくない。無邪気に笑う彼にときめいてしまっているではないか……。

 そうしてご機嫌な彼と向かった演劇場は、一般客とは違う入り口から案内された。

 人の気配が全くない階段を登ることしばらく。高さ的には二階くらいまで登った気がする。

「ねえねえ、こっちで本当に合っているのかしら?」

「ああ」と、言い切る彼に従い登り続けると、見えてきた防音扉。その前には扉を管理する従業員の姿がある。

 私たちを見れば、恭しく頭を下げ、扉を開けてくれた。
 そうなれば、そのまま中へと入っていく。

 すると、舞台を正面にする一角にもかかわらず、他の客がいない空間が広がる。

 何も言わないレオナールは、一つだけ設置されているソファーへと歩みを進める。

「あの~、ここはどういうことかしら?」
 背面の高いソファーに座ってしまえば、もうここは、私とレオナールしかいない空間だ。

 今は幕が下りている舞台も、演目が始まれば照明で眩しくなるはず。

 ここに座っている限り、レオナールと舞台しか視界に入らない。大層贅沢な環境である。

「今日は三階を貸し切りにした。これで誰の目も気にせず舞台に集中できるだろう」

「初めてなのに、こんな贅沢を知ってしまっては、次から普通の席に座れないわよ」

「逆に俺はここしか知らないぞ。エメリーはこれからも俺と一緒だから、ずっとこの席だろう」

 さすが公爵家嫡男だ。感覚が浮世離れしている。挙句にそれが当然だと思っているのだから恐ろしい。

「そこにあるライトを点灯させれば、後ろに控えている従業員が御用聞きにくる。飲み物も食べ物も大概揃っているから、今のうちから注文しておくといいよ」
 そう言われたけど、何か欲しいものは特になかったので、「分かったわ」とだけ返答した。

 そんな会話を交わして少しすると、ブーというブザー音と共に、舞台の幕が上がった。
 客席は一気に暗くなったが、反対に舞台が明るく照らされる。

 今日の演目はよく覚えていない。恋愛の舞台だということは認識しているけど、偶然今、上演されている舞台というだけだ。

 レオナールから、「次はどこに行こうか?」と聞かれ、人の気配のない川に行くよりも、俄然、演劇場の方がいいだろうと考えて提案したのが観劇だった。

 私の想定では、両隣に他のお客さんもいるはずだったのだが、全く違った。

 薄暗い中で二人きりになった。そのうえ仲睦まじく手を繋ぎ座っている。身動きも取れず気まずい……。

 序盤、私をじっと見つめるレオナールからの熱い視線にドギマギしてしまい、話が全然頭に入ってこなかった。

 舞台を全く見ないレオナールが、何を考えているのか、そのことばかりを考えてしまったのだから。

 そのせいで、舞台を真っすぐ見ているくせに、話がよく分からなくなっている。

 今は、その熱い視線も感じないし、彼はどんな真剣な顔で舞台を見ているのだろうと思い、横を見る。

 すると、秀でた形の目を閉じ、私に寝顔を向けているではないか──。
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