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本当に私を好きなのか?①

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 意外な程、湖へのお出かけを満喫してしまった私は、心地よい疲れと共に小さな我が家へと戻ってきた。

 次回のレオナールとの約束は、観劇に決まってしまった。

 これまで劇場に行ったことはないし、楽しみではある。

 偽装婚約者との恋人ごっこを楽しんでどうするのよと、己に突っ込みを入れてしまうが、レオナールが嫌な所をちっとも見せてこないんだもの、仕方ない。

 いつ彼が本性を出して、捨てられるのだろうかと考えると、不思議と胸が苦しくなる。

 リビングでボケッとして座っていると、テンションの高い兄が入ってきた。

「おー、可愛いふりを次期公爵のレオナール様に、ぶっ込んでいる妹じゃないか。今日のデートは楽しかったか?」

「残念ながら楽しかったわよ。どういう訳か、レオナールが別人のキャラのままなんだもの」

「今の態度が本来の姿だろう。レオナール様はエメリーのことが大好きなんだって。いい加減に気づけよ」

「そんなわけないでしょう。だったら今まで何年も続いていた、暴言の数々は何だったのかしら? 説明がつかないでしょう」

「それは繊細な男心だ」

「は? ふてぶてしいレオナールが繊細だなんて、意味が分からないわ」

 これ以上、頭の中を混乱させるのは勘弁してくれと、フイッと顔を背ける。

 そこへお父様が「おや? 二人ともいたのか」と言いながらリビングに入ってきたため、お兄様とのコソコソ話は強制的に終了した。

 ◇◇◇

 湖のデートから三日が過ぎた頃──。

 リビングのソファーに座っていると、兄からポンと平べったい大きな箱を無言で渡された。

 この箱は「きっとレオナールからの贈り物だわ」と思う私は、今度は何かしらとそわそわする気持ちで箱を開けた。

 そうすると、目が覚めるような深紅が目に飛び込んでくる。
 その上に、封筒もある。きっと中には手紙も入っているのだろう。

 ドレスよりも先に、その封筒に手をやれば、今度はどんな嘘をぶっ込んでいるのかしらと、にやけてしまう。

 ふっと冷静になれば、彼のつく嘘に内心喜んでいる自分もいることに驚いてしまう。

 だけど騙されないわよと思う私は、綻んでしまった口元に今一度きゅっと力を入れ、手紙を開封した。

【親愛なるエメリーへ 四日後の十四時に演劇の席を予約したから、間に合うように屋敷まで迎えに行くね。ドレスコードのある演劇なので、今回届けたドレスを着て欲しい。着ているのを見たことがない色合いだから、今からエメリーに会えるのが待ち切れない。愛しているよ。~レオナールより~】

 メッセージを二回ほど読み返してから、折り目に合わせてそっと閉じた。

 どうやらその演劇のドレスコードが赤で、その色がテーマになっている舞台らしい。

 観衆も、ネクタイやリボンの小物でもいいから赤色を身に着けるようにと、前振りがあるみたいだ。

 それならリボンで十分だろうと思のだが、レオナールはそう考えないらしい。

 ご丁寧に、赤いドレスを贈ってきたのだから。

 毎回毎回まめな彼は、本当に私のことが好きなのではないか?
 そう思えてならない。

 彼は王城で文官の仕事もしている。決して暇ではない。

 私と会う時間を作るため、相当無理をしている気がするのだ。

 いくら偽装婚約者が欲しいからといって、嫌いな相手のためにそこまでするだろうか?

 そんな疑問も、ここ最近、心の中を占めている。

 私にここまでの手間をかけるのなら、本当の恋人や奥様に気を遣うのと何ら変わらない。

 黄色い声を上げる令嬢を避ける目的に、『何の気配りも必要ない私』だからこそ、偽装婚約者をさせる意味も価値もあったはずだ。

 それなのに週に一回のペースでデートに出かけ、その途中で手紙まで書いていれば、通常の婚約者より、よほど手がかかるだろう。

 ここまでされてしまえば、兄が常々言っている、「レオナールは私を好き」という言葉がしっくりしてくるのだ。
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