私にだけ冷たい最後の優良物件から婚約者のふりを頼まれただけなのに、離してくれないので記憶喪失のふりをしたら、彼が逃がしてくれません!◆中編版
瑞貴◆『手違いの妻』4月15日発売!
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そんなこと、してませんよね⁉③
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いつもと違う雰囲気を醸して、レオナールの心をキュンキュンさせるつもりは、これっぽっちもないから。
そんな風にぶっ込みたい私の心情は、静かに心の内に収めた。
っていうか、これはもしかして私を洗脳するつもりなのかしら⁉
あああぁあー! そういうことかッ!
いつ結婚してもおかしくない結婚適齢期のカップルが、のらりくらりと結婚を先延ばしするのは、意味が分からない。
この先五年もの間、ゴールインする気はないにもかかわらず、私を繋ぎとめておくための、レオナールの作戦だろう。
私がキラッキラのレオナールに惚れたら最後。その弱みに付け込んで、私を縛り付けておく作戦なのか⁉
さすが公爵家の令息だ。子狡いことをよく考えるわねと、感心させられる。
「記憶をなくしてしまってごめんなさい。どうやったらあなたのことを思い出せるかしら?」
「そうだなぁ~」と言った彼が閃いたように明るく発した。
「以前と同じ行動をとれば、それが刺激になって思い出せるかもしれないよね」
「そうね……」
そう言って、私は考えるふりをしてみた。
かつてと同じ行動をとるのであれば、罵倒し合うのが正解だ。
だがしかし、今の彼なら何を言い出すのか分からない。
不安になった私は、頑丈にベッドカバーを被せた寝台に、ちらりと目をやる。
私たちはキスを済ませた関係だと、ふざけた嘘をつく彼だ。
まかり間違って、兄の言う最短ルートの展開に持ち込まれる事態になれば、とんでもないことになる。
変な方向に話が展開する前に、無難な方向へ自分から舵をとる。
「お兄様から、少し先に舞踏会があると教えてもらったんだけど、それに一緒に行きませんか?」
「エメリーは舞踏会に行きたいの?」
「一人なら行く気はないけど、レオナールがパートナーとしてエスコートしてくれるなら、行ってみたいわ」
「ごめん。俺はその日、別の用事があるから舞踏会には行けないんだ」
「そうなんですか。じゃぁ、私も行くのをやめますわ」
「ああ、申し訳ないがそうして欲しい」
私を伴って歩くのは、前回のパーティーで懲りたのかもしれない。
レオナールが舞踏会に出席しないなんて、聞いたことがない。
せっかく安全そうな舞踏会に誘導したのに、うまくいかなかった……。
まいったなと項垂れる私は、何か別の安全策はないかと次の一手を考える。
頭をフル回転している私へ、彼が話を続けた。
「せっかくエメリーから舞踏会に誘われたのに申し訳ないね。代わりと言ってはなんだけど、湖にデートへ出かけないか?」
「湖……ですか?」
「うん」
「それって、我が家から近いアンジー湖でしょうか?」
「おや? よく知っているね」
記憶のない私が湖の名前を告げたのが不思議だったのだろう。レオナールが、不思議そうに目を見開いた。
しまったと思う私は、言い訳をかます。
「お兄様から昨日、この周辺の説明を受けたんです」
「ああ、なるほどね。俺たち二人は、そこへよく出かけていたから、同じ場所へ行くと思い出すかもしれない」
「はは……。以前の私たちは、随分と仲がよろしかったんですね。大きな湖だと聞きましたが、湖畔の景色でも堪能していたんですか?」
「あの湖は綺麗だから見ていて飽きないぞ。だけど、最近はスワンボートに乗るのが定番だったな」
「スワンボートですか……」
「同じ感覚の刺激を受けると、記憶が蘇るかもしれないから、乗りに行くか!」
「乗った記憶はないけど、なんだか楽しそうなので行ってみたいです」
「そうか! それなら次の顔合わせは、外にデートへ出かけよう」
目を輝かせるレオナールが、嬉しそうに笑った。
パーティーの日に私が冗談で誘えば、激昂しながら拒否ったくせに、どの口が言っているのだ⁉
呆れてものも言えない私は、彼の口元を見つめてしまう。
レオナールってば、すごく嬉しそうに顔を綻ばせているから、何か企んでいるのかしら。
裏がありそうで怖いから、承諾しない方がいいかしら──。
そう考えたが、視線の脇には寝台が映る。
何度も我が家に足を運ばせていれば、彼と不純な関係に発展しかねない。
ここは無難な選択をしようと考え、「湖へのデートが楽しみですわ」と、適当に返答した。
「スワンボートに乗った」と、とんでもない嘘をぶっ込んでくるレオナールだ。
何より「キスを交わしていた」とまで言い張るのだから、次は何を言い出すか分からない。
貞操の危機が迫るくらいなら、断然に湖の方が安全だ。二人きりの部屋にこもるより、人目のある屋外の方が、よほどましだろう。
この部屋で万が一、レオナールに襲われそうになって悲鳴を上げたところで、我が家のお花畑連中では、とても当てにならない。
私の悲鳴を聞きつけ、この部屋にいの一番に飛び込んでくるのは兄だろう。
だが、兄は何の役にも立たないはずだ。
押し倒されている私を発見次第、「最短ルート、グッジョブ」と、親指を立て部屋を後にするだろう。
いいや!
最悪、じたばたと暴れている私を見れば、むしろ手足を抑えてレオナールのために協力しかねない。とんでもない兄だ。
よし。こうなれば、彼の嫌いな傲慢女になって、二度と会いたくないと思わせる作戦でいくしかない。
強い決心を固めた私は、ドレスのスカートを握りしめる手に力が入った。
◇◇◇
そんな風にぶっ込みたい私の心情は、静かに心の内に収めた。
っていうか、これはもしかして私を洗脳するつもりなのかしら⁉
あああぁあー! そういうことかッ!
いつ結婚してもおかしくない結婚適齢期のカップルが、のらりくらりと結婚を先延ばしするのは、意味が分からない。
この先五年もの間、ゴールインする気はないにもかかわらず、私を繋ぎとめておくための、レオナールの作戦だろう。
私がキラッキラのレオナールに惚れたら最後。その弱みに付け込んで、私を縛り付けておく作戦なのか⁉
さすが公爵家の令息だ。子狡いことをよく考えるわねと、感心させられる。
「記憶をなくしてしまってごめんなさい。どうやったらあなたのことを思い出せるかしら?」
「そうだなぁ~」と言った彼が閃いたように明るく発した。
「以前と同じ行動をとれば、それが刺激になって思い出せるかもしれないよね」
「そうね……」
そう言って、私は考えるふりをしてみた。
かつてと同じ行動をとるのであれば、罵倒し合うのが正解だ。
だがしかし、今の彼なら何を言い出すのか分からない。
不安になった私は、頑丈にベッドカバーを被せた寝台に、ちらりと目をやる。
私たちはキスを済ませた関係だと、ふざけた嘘をつく彼だ。
まかり間違って、兄の言う最短ルートの展開に持ち込まれる事態になれば、とんでもないことになる。
変な方向に話が展開する前に、無難な方向へ自分から舵をとる。
「お兄様から、少し先に舞踏会があると教えてもらったんだけど、それに一緒に行きませんか?」
「エメリーは舞踏会に行きたいの?」
「一人なら行く気はないけど、レオナールがパートナーとしてエスコートしてくれるなら、行ってみたいわ」
「ごめん。俺はその日、別の用事があるから舞踏会には行けないんだ」
「そうなんですか。じゃぁ、私も行くのをやめますわ」
「ああ、申し訳ないがそうして欲しい」
私を伴って歩くのは、前回のパーティーで懲りたのかもしれない。
レオナールが舞踏会に出席しないなんて、聞いたことがない。
せっかく安全そうな舞踏会に誘導したのに、うまくいかなかった……。
まいったなと項垂れる私は、何か別の安全策はないかと次の一手を考える。
頭をフル回転している私へ、彼が話を続けた。
「せっかくエメリーから舞踏会に誘われたのに申し訳ないね。代わりと言ってはなんだけど、湖にデートへ出かけないか?」
「湖……ですか?」
「うん」
「それって、我が家から近いアンジー湖でしょうか?」
「おや? よく知っているね」
記憶のない私が湖の名前を告げたのが不思議だったのだろう。レオナールが、不思議そうに目を見開いた。
しまったと思う私は、言い訳をかます。
「お兄様から昨日、この周辺の説明を受けたんです」
「ああ、なるほどね。俺たち二人は、そこへよく出かけていたから、同じ場所へ行くと思い出すかもしれない」
「はは……。以前の私たちは、随分と仲がよろしかったんですね。大きな湖だと聞きましたが、湖畔の景色でも堪能していたんですか?」
「あの湖は綺麗だから見ていて飽きないぞ。だけど、最近はスワンボートに乗るのが定番だったな」
「スワンボートですか……」
「同じ感覚の刺激を受けると、記憶が蘇るかもしれないから、乗りに行くか!」
「乗った記憶はないけど、なんだか楽しそうなので行ってみたいです」
「そうか! それなら次の顔合わせは、外にデートへ出かけよう」
目を輝かせるレオナールが、嬉しそうに笑った。
パーティーの日に私が冗談で誘えば、激昂しながら拒否ったくせに、どの口が言っているのだ⁉
呆れてものも言えない私は、彼の口元を見つめてしまう。
レオナールってば、すごく嬉しそうに顔を綻ばせているから、何か企んでいるのかしら。
裏がありそうで怖いから、承諾しない方がいいかしら──。
そう考えたが、視線の脇には寝台が映る。
何度も我が家に足を運ばせていれば、彼と不純な関係に発展しかねない。
ここは無難な選択をしようと考え、「湖へのデートが楽しみですわ」と、適当に返答した。
「スワンボートに乗った」と、とんでもない嘘をぶっ込んでくるレオナールだ。
何より「キスを交わしていた」とまで言い張るのだから、次は何を言い出すか分からない。
貞操の危機が迫るくらいなら、断然に湖の方が安全だ。二人きりの部屋にこもるより、人目のある屋外の方が、よほどましだろう。
この部屋で万が一、レオナールに襲われそうになって悲鳴を上げたところで、我が家のお花畑連中では、とても当てにならない。
私の悲鳴を聞きつけ、この部屋にいの一番に飛び込んでくるのは兄だろう。
だが、兄は何の役にも立たないはずだ。
押し倒されている私を発見次第、「最短ルート、グッジョブ」と、親指を立て部屋を後にするだろう。
いいや!
最悪、じたばたと暴れている私を見れば、むしろ手足を抑えてレオナールのために協力しかねない。とんでもない兄だ。
よし。こうなれば、彼の嫌いな傲慢女になって、二度と会いたくないと思わせる作戦でいくしかない。
強い決心を固めた私は、ドレスのスカートを握りしめる手に力が入った。
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