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破天荒な兄の教え②

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 ……記憶喪失のふりがバレたとなれば、平凡地味ライフを目指す私は、是が非でも兄を味方に付けるしかないだろう。

「私もお兄様のような、のこぎりでも切れない図太い神経が欲しいわね」

「言っておくが、レオナール様を知らないふりをするエメリーの方が、俺よりよっぽど図太い神経をしているだろう。俺が知っている令嬢の中で、一番強気でふてぶてしい性格だと思うぞ」

「お兄様が常々言っていたでしょう。可愛くすっとぼけろって」

「ああ、なんだそういうことか。レオナール様に構って欲しくて、すっとぼけていたのか」

「違うわぁーっ‼ 人生最大のピンチだからよ」

「何を意味の分からないことを言っているんだ?」

「レオナールに騙されて、窮地に陥ったのよ!」

「まあ、パッとしないエメリーは、ちょっとくらい窮地があった方が、刺激があっていいだろう。人生が潤うぞ」
 私の肩をポンポンと叩いて笑っている。

「よくないわぁ―っ‼ レオナールの『婚約者のふり』をしないと、婚約解消の違約金を払えって脅されているのよ。これのどこが潤いなのよ!」

「俺には脅しに聞こえないが、それの何が問題なんだ?」
「は? 大問題でしょう!」

「おお、そうだった……伝えるのを忘れていた」

「何を?」

「婚約おめでとう」

「は? 何がおめでとうよ! これは婚約じゃなくて、お金をたかる恐喝よ! 恐喝ッ!」

「だから、結婚すれば払わなくてもいいんだろう。それならさっさと結婚すればいいだろう」
 ふんと鼻で笑われた。

「なんでレオナールと結婚しなきゃならないのよ! 彼は私のことが大っ嫌いで、私だって彼なんか嫌いだもの。そんな二人が結婚できるわけないし、しないから」

「レオナール様は、エメリーのことが好きだろう。どっからどうみても大好きだぞ」

「モテないお兄様は、本当に感性がどうかしているのね。彼が私のことを好きなわけないでしょう」

「なるほどな……。こんな調子のエメリーを好きになったレオナール様に同情するな……。とにかくエメリーはそのまま婚約者に収まっていればいいだろう。それが一番平和な解決方法だ」

「このまま婚約者のふりなんかしていたら、穏やかな日常が遠退いていくじゃない……」
 がっくしと項垂れる。

「それはレオナール様の妻の生活でいいだろう。『レオナール大好き♡』とでも可愛く言ってみろ。そんな気がしてくるはずだ。良かったな、はははっ」

「あのね、私の話を聞いていたかしら? それともお兄様は本当に馬鹿なのかしら?」

「何に悩んでいるのか俺には毛ほども理解できんが、エメリーはそのままレオナール様と婚約者のままでいるのが無難だ」

「ひっどい。私の事情も分からず、そんなことを軽々しく口にするなんて、横暴だわ!」

「何言ってんだよ。エメリーの我が儘のために、ラングラン公爵家へ違約金を払えるわけないだろう。婚約解消は駄目だ。考えを改めろ」

「どうせお兄様なんて、当てにしていないわよ。自分で何とかするもん」

 いよいよ頭にきた私は、手に取った枕を兄に投げつけようかと思ったが、兄の言葉で固まった。

「それじゃあエメリーは、公爵家に違約金を払うために、娼館に身売りでもするか?」

「でたわ、でたわ! これだもの。実の妹を娼館に売るなんて、レオナールと同じで、人でなしだわ」

「どうせ極上客が即座に身請けするだろうな」
 兄がにこっと笑う。

 おや? 枯れ木だと思われていた私も、案外美人なのかしらと誇らしげに尋ねる。

「それって私が美人だからってことかしら?」

「安心しろ。そんなことは言っていないから」

「あっそ……。じゃあ極上客って誰よ」

「エメリーが娼館にいると知れば、レオナール様が毎日足しげく通って、堂々と手籠めにするんじゃないか?」

「あるわけないでしょ!」

「はははっ試してみろ。最短ルートで結婚だ。良かったな」

「どこがいいのよッ‼」

「どのみち逃げられないから、可愛くすっとぼけて、婚約者をやっていればいいだろう」

「っていうか、お兄様はこの部屋に何しに来たのよ」

「レオナール様から頼まれた」

「は? 何をですか?」
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