私にだけ冷たい最後の優良物件から婚約者のふりを頼まれただけなのに、離してくれないので記憶喪失のふりをしたら、彼が逃がしてくれません!◆中編版
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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破天荒な兄の教え①
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何だかとんでもない失敗をやらかしてしまった気がする。
そんな風に感じてならない私は、頭を抱えて悶絶する。
なぜって……?
だって今……、「婚約者のふり」の期限が、ご機嫌なレオナールによって容赦なく撤廃されてしまったんだもの、そう思うだろう。
全く予期しない形で、非常事態の始まりを迎えた。
まずい、まずい、まずいわ。
このまま、ぼやぼやしていられないじゃない!
「そうだ! こうなれば記憶が戻ったことにしよう」
危険を察知し、「記憶喪失のふり」をやめようと強く決意したところで、もう一つの現実に気づく。
「駄目だ……」
──そうなれば結局、振り出しに戻る。
パーティー会場で喧嘩の原因となった、例のお金問題である。
記憶が戻ったなんて告げれば、偉そうなレオナールが再登場して、「婚約者のふりを辞退したければ、違約金を払え」と、言われるはずだ。
我が家に違約金なんて払えるかあぁぁあ──と内心絶叫する私は、どちらにしろ詰んだ……。
「記憶喪失のふり」でも、「記憶が戻った体」でも、どのみち偽装婚約者のポジションから抜け出せない。
もはや魔の無限ループだ……。
もう私一人では手に負えない。誰かに相談しなきゃ──。
私の味方は誰かしらと悩む私は、ばふりと再びベッドに横たわる。
「碌な家族がいないわね──」
お花畑の世界にいて頼りない両親より「モテない同盟」の兄の方が、まだ話が通じそうだけど、どうだろうか?
いや……。
私がレオナールから脅されていると相談したところで、「金などあるか!」と一喝されるだけな気がする。
あんな図太い神経の兄に相談すれば、私の納まるところは「婚約者のふりを続けること」だろう。
──ってことなら、お花畑の両親を説得する方が、得策のような気がする。
ならば私の作戦はこうだ。
その一 私が記憶喪失であることを理解してもらう。これはちょろい。
その二 「記憶喪失の娘を公爵家へ嫁に出すのは忍びない」そう思わせる。
その三 公爵家の嫁など務まらないと知らしめ、婚約者の座から、積極的辞退へと誘導する。ここが一番の腕の見せどころだ!
全ての課題を見事クリアした暁には、めでたく婚約解消を獲得して、平凡地味ライフへ戻る!
よし! これはもう完璧な計画だ。
そんな風に考えていると、ノックとほぼ同時に扉が開く。
「エメリー、入るぞ!」
声の先に視線を向ければ、満面の笑みを浮かべる兄が、入り口に立っているではないか。
その兄にとっては一週間ぶりの再会だと言うのに、号泣していたレオナールとは大違いである。
何を笑っているのよと、思わず言いそうになるが、それは我慢して計画を遂行する私は、ガバリと起き上がると不安げな声で告げる。
「あなたは誰ですか?」
「モテ期到来の頼れる兄だ!」
「そう……」
相も変わらず絶好調にふざけている。
こんな兄に目一杯可愛く見せて、損したわね。
それを馬鹿にできないのは悔しいが、記憶喪失の演技に徹しようとした、そのときだ──。
あっけらかんと喋る兄の言葉によって、計画がガラガラと音を立てて崩れ始める。
「な~んだ。ちゃんと記憶があるんだろう」
「へ?」
「記憶喪失だとレオナール様は言っていたが、エメリーは何をやってんだ?」
「えっと……。お兄様ですか?」
「だからエメリーは、何をすっとぼけているんだ? 俺のことをちゃんと分かっているだろう」
「そんなことは、ありませんけど」
「はは、エメリーごときが俺を騙せると思うな。バレバレだ」
「誰だか存じませんが、失礼ですわ」
すると、つかつかとベッドサイドまでやってくると、私をじっと見つめた。
何をしてくるつもりかしらと見ていれば、顎をくいっと持ち上げられ、兄の顔が近づいてくる。
まさか、キ、キスをする気か──!
間近に迫る実の兄のドアップ。
見た目だけはいい男だけど、兄と妹でキスなんてあり得ないから。
「いくらモテないからって、妹相手に盛らないでくれますかッ、お兄様!」
そう叫んだ瞬間。兄の動きがピタリと止まる。
「言っておくが俺はモテる!」
全く根拠のない自信を全面に出す兄は、「どうだ!」と気取って、胸を張る。
「自分で言っていて虚しくない?」
「いいや全く。俺は、『最後の優良物件』が売れたことによって、これからモテ期到来の一番熱い男だからな」
「ってか、ふざけたことを真面目な顔でぶっ込んでこないで、私から早く離れてくださいな!」
未だに目の前に迫る兄を、あっちへ行けと押っ付ける。
「おっと危ない、危ない。エメリーにキスをしては、ヴァロン王国の全独身令嬢を泣かせるところだった」
「何をふざけたことを言っているのよ! 聞いている私が恥ずかしいわ」
「馬鹿なことをしているのはエメリーだろう。エメリーがふざけているせいで、美しいご令嬢が待ち侘びる俺の唇が、ぶちゅーっと妹にぶつかるところだったんだぞ」
「あのね……。お兄様を待っているご令嬢は一人もいないでしょう。夜会でも、私としか踊ったことがないくせに、よく言うわよ」
「変だな? 俺の妹はレオナール様のことも分からない記憶喪失のはずなんだが、どうでもいい話はちゃんと覚えているんだな」
そう言って、顎に手を当て小首を傾げた。
「あ……」
返す言葉もなく絶句する。
ふざけた兄に乗せられてしまい、少し前に立てた計画は、泡となって完全に消えた。
そんな風に感じてならない私は、頭を抱えて悶絶する。
なぜって……?
だって今……、「婚約者のふり」の期限が、ご機嫌なレオナールによって容赦なく撤廃されてしまったんだもの、そう思うだろう。
全く予期しない形で、非常事態の始まりを迎えた。
まずい、まずい、まずいわ。
このまま、ぼやぼやしていられないじゃない!
「そうだ! こうなれば記憶が戻ったことにしよう」
危険を察知し、「記憶喪失のふり」をやめようと強く決意したところで、もう一つの現実に気づく。
「駄目だ……」
──そうなれば結局、振り出しに戻る。
パーティー会場で喧嘩の原因となった、例のお金問題である。
記憶が戻ったなんて告げれば、偉そうなレオナールが再登場して、「婚約者のふりを辞退したければ、違約金を払え」と、言われるはずだ。
我が家に違約金なんて払えるかあぁぁあ──と内心絶叫する私は、どちらにしろ詰んだ……。
「記憶喪失のふり」でも、「記憶が戻った体」でも、どのみち偽装婚約者のポジションから抜け出せない。
もはや魔の無限ループだ……。
もう私一人では手に負えない。誰かに相談しなきゃ──。
私の味方は誰かしらと悩む私は、ばふりと再びベッドに横たわる。
「碌な家族がいないわね──」
お花畑の世界にいて頼りない両親より「モテない同盟」の兄の方が、まだ話が通じそうだけど、どうだろうか?
いや……。
私がレオナールから脅されていると相談したところで、「金などあるか!」と一喝されるだけな気がする。
あんな図太い神経の兄に相談すれば、私の納まるところは「婚約者のふりを続けること」だろう。
──ってことなら、お花畑の両親を説得する方が、得策のような気がする。
ならば私の作戦はこうだ。
その一 私が記憶喪失であることを理解してもらう。これはちょろい。
その二 「記憶喪失の娘を公爵家へ嫁に出すのは忍びない」そう思わせる。
その三 公爵家の嫁など務まらないと知らしめ、婚約者の座から、積極的辞退へと誘導する。ここが一番の腕の見せどころだ!
全ての課題を見事クリアした暁には、めでたく婚約解消を獲得して、平凡地味ライフへ戻る!
よし! これはもう完璧な計画だ。
そんな風に考えていると、ノックとほぼ同時に扉が開く。
「エメリー、入るぞ!」
声の先に視線を向ければ、満面の笑みを浮かべる兄が、入り口に立っているではないか。
その兄にとっては一週間ぶりの再会だと言うのに、号泣していたレオナールとは大違いである。
何を笑っているのよと、思わず言いそうになるが、それは我慢して計画を遂行する私は、ガバリと起き上がると不安げな声で告げる。
「あなたは誰ですか?」
「モテ期到来の頼れる兄だ!」
「そう……」
相も変わらず絶好調にふざけている。
こんな兄に目一杯可愛く見せて、損したわね。
それを馬鹿にできないのは悔しいが、記憶喪失の演技に徹しようとした、そのときだ──。
あっけらかんと喋る兄の言葉によって、計画がガラガラと音を立てて崩れ始める。
「な~んだ。ちゃんと記憶があるんだろう」
「へ?」
「記憶喪失だとレオナール様は言っていたが、エメリーは何をやってんだ?」
「えっと……。お兄様ですか?」
「だからエメリーは、何をすっとぼけているんだ? 俺のことをちゃんと分かっているだろう」
「そんなことは、ありませんけど」
「はは、エメリーごときが俺を騙せると思うな。バレバレだ」
「誰だか存じませんが、失礼ですわ」
すると、つかつかとベッドサイドまでやってくると、私をじっと見つめた。
何をしてくるつもりかしらと見ていれば、顎をくいっと持ち上げられ、兄の顔が近づいてくる。
まさか、キ、キスをする気か──!
間近に迫る実の兄のドアップ。
見た目だけはいい男だけど、兄と妹でキスなんてあり得ないから。
「いくらモテないからって、妹相手に盛らないでくれますかッ、お兄様!」
そう叫んだ瞬間。兄の動きがピタリと止まる。
「言っておくが俺はモテる!」
全く根拠のない自信を全面に出す兄は、「どうだ!」と気取って、胸を張る。
「自分で言っていて虚しくない?」
「いいや全く。俺は、『最後の優良物件』が売れたことによって、これからモテ期到来の一番熱い男だからな」
「ってか、ふざけたことを真面目な顔でぶっ込んでこないで、私から早く離れてくださいな!」
未だに目の前に迫る兄を、あっちへ行けと押っ付ける。
「おっと危ない、危ない。エメリーにキスをしては、ヴァロン王国の全独身令嬢を泣かせるところだった」
「何をふざけたことを言っているのよ! 聞いている私が恥ずかしいわ」
「馬鹿なことをしているのはエメリーだろう。エメリーがふざけているせいで、美しいご令嬢が待ち侘びる俺の唇が、ぶちゅーっと妹にぶつかるところだったんだぞ」
「あのね……。お兄様を待っているご令嬢は一人もいないでしょう。夜会でも、私としか踊ったことがないくせに、よく言うわよ」
「変だな? 俺の妹はレオナール様のことも分からない記憶喪失のはずなんだが、どうでもいい話はちゃんと覚えているんだな」
そう言って、顎に手を当て小首を傾げた。
「あ……」
返す言葉もなく絶句する。
ふざけた兄に乗せられてしまい、少し前に立てた計画は、泡となって完全に消えた。
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