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別人に変貌した幼馴染③

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 私が変な顔をしたせいで彼が訝しむ。
 じぃっと見つめてくるレオナールは、目を白黒させる私の瞳の奥を覗いて確認する。

「ん? どうしてそんなに驚いているのかな」

 レオナールに「愛しい」なんて言われて動揺しまくりの私は、大きく瞳孔が開いているはずだ。絶対に。

 ──まずい。私に記憶があるとバレるのは困る。

 ここで発覚すれば、「婚約解消」の多額の違約金を請求されるかもしれない。
 もしくは偽婚約者確保に熱心なレオナールに取っ捕まり、今度こそ、この先五年は逃げられない。

 どうする、どうする、どうする⁉

 ああぁあーー!

 ――そうだ、その手があったぁぁッ!
 と、閃くわたしは、にこりと笑う。

「だって……とってもカッコいい素敵な人が、私の婚約者だなんて……信じられないから……夢みたいで」
 片方の頬に手を当てると、照れた表情を見せてみた。

 どうだ! これでレオナールは私から一目散に逃げていくはず。
 なぜなら、彼は自分に群がる令嬢が嫌い。大嫌いだ。

 彼の苦手なキャラに私が変貌したとなれば、私は問答無用にお役御免。偽婚約者としての価値は地に落ちた。

 さあ、この部屋の出口はあなたの背後にあるわ。

 内心、とっとと立ち去りなさいなと、考えながらも、うっとりとした顔を作る。

 すると、彼が目を瞬かせ真っ赤になった。

 よぉーし! 大成功だ。
 顔面を紅潮させるほど彼が怒っている!

 こうなれば、レオナールは私に二度と近づいて来るまい。

 ほ~れ、ほ~れ、正常運転に戻れ。
 ──と、内心馬鹿にしていた、そのときだ。彼が声を出して笑った。

「はは、嬉しいな。エメリーから素敵な恋人と呼ばれるなんて」

「は……。じょ、冗談ですよね」

「本当だよ。記憶を失っても、エメリーは可愛いね」

「嘘ですよね」

「いいや」
 私の最高のボケが、なぜか失敗に終わる。

 それならばと、再び気合を入れ直す。
 先ほどの言葉では攻撃力が、いまいち足りなかったようだ。
 私以上に奇怪な台詞を並べ立てるレオナールへ、これでもくらえと彼の嫌いな言葉をとことん返してやることにした。

「嬉しいわ。私の我が儘に優しく付き合ってくれそうな、見目麗しいキラキラの貴公子様が、私の婚約者なんて」

 ほ~れ、気持ち悪いだろう。
 そう思った私の感情とは裏腹に、レオナールがギラッギラッに眩しい笑顔を見せる。

「愛してるよエメリー。愛しい人の我が儘は、何を言われても可愛いからね」

「本当に冗談ですよね……。あなたのような貴公子様が、私の婚約者なんですの?」

「貴公子様じゃなくて、レオナールだよ。いつもそう呼んでくれていたんだから」

「そうなのね……。ごめんなさい。あなたが誰なのかさっぱり分からない……」

「それは残念だけど、俺の愛は何があっても変わらないから」
 変わる以前に、二人の間に愛など存在しなかっただろうに。

「私たちはいつからお付き合いをしていたのかしら」

 この偽レオナールめっ!
 もうここまできたら、リアルに知らない人物だ。
 何が愛しい婚約者だ。
 偽婚約者になっただけだろう。
 都合のいい解釈をするな! と内心ブチ切れながらも、表面上必死に微笑む。

「二人が出会ったのは八年前で、それからずっと俺たちは付き合っていったんだ。俺のためにエメリーがいつもチーズケーキを焼いてくれていたんだけど、本当に覚えていないのかい?」

「全く覚えていないわ」

「一週間前にやっと婚約発表をしたのに……こんなことになって」

「ああ……。その婚約が破談になってしまったのね」

「いや、そんなことは絶対にしない。俺にはエメリーしかいないから」

 そりゃぁ~そうだ。
 いくら公爵令息とはいえ、「偽婚約者」なんてふざけた役を頼める令嬢は、私くらいだろう。

 って今、婚約解消はしないって言っていなかった⁉

 はあ? 嘘だ! 何を考えているのよ。

 いいや! 彼が何と言おうとも、盗賊に襲われかけた汚名付きの令嬢を、ラングラン公爵家の婚約者に据えておくわけがない。

 さあ! ちゃんと真実を告げるのよと、彼を急かす!

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