私にだけ冷たい最後の優良物件から婚約者のふりを頼まれただけなのに、離してくれないので記憶喪失のふりをしたら、彼が逃がしてくれません!◆中編版
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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偽装婚約の契約⑥
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パーティーの途中で、男性たちが別室へと流れていった。恒例の葉巻の時間だろう。殿方は婦人抜きで秘めた会話をするのが、お好きなようだ。
大半の女性陣は、呆れ半分でこの時間を眺めているとはいえ、この間に、女性陣もマウントの取り合いを繰り広げるのだけれど。
レオナールも、王太子殿下と共に私の横からいなくなった。
するとすぐに、レオナールの妹のアリアが、再び私の前に現れた。
おそらく私が一人になるのを待っていたのだろう。
「忘れないでくださいまし! あなたがお兄様と婚約なさったのは、別にあなたが愛されているからではないことよ」
「ええ、そうでしょうね」
淡々と返した。
全て、偽り、偽り、偽りだ!
この会場中を騙したレオナールの作戦だし、目の前で蔑むアリアが、私に真実を述べたまでだ。よくぞ見破った!
「いつもお優しいお兄様は、わたくしのものだったのに……。せめてアネット様のようなできた方なら納得もできたのに。あんたみたいな令嬢の風上にも置けない女を、公爵家には入れないから」
「はぁ……」
嫁ぐ予定のない私は、気のない返事をする。
「あなたのお母様ってば、旅の踊り子だったんですって。どうりで淑女教育がしっかりとされていないはずですわね。そんな恥ずかしい出生で、お兄様を狙うなんて本当に卑しい方ですわ」
「お母様のことはアリア様には関係ないわ!」
「我が家に嫁いでくるんですもの関係はございますわ」
「……ぅっ」
「これまでお兄様は、あなたのことを散々嫌っていたんですから、勘違いなさらないでくださいね」
鋭い目つきで睨まれた直後、彼女の背後からレオナールが現れた。
「おやアリア。さっそくエメリーを一人にしないように、気遣ってくれていたのかい」
「ええ、そうですわ。わたくしはバイオリンと刺繍が得意なことをお話ししていたのよ」
「そうなのか。今度エメリーにも刺繍を教えてくれると助かるな」
そう言って彼は、にこりと笑う。
何だこの兄妹は……。レオナールは妹に盲目すぎるだろう。
実際のところアリアは、私をいびっていたのだ。
喋ってもいない「趣味の話に賛同せよ」と言いたげのアリアが、にっこにっこの顔を私へ向けてくる。
面倒に思えてきた私は、「ぜひともお願いしたいわ」と、嫌味なくらいにっこりと笑ってやった。
そうすればアリアも安心したのだろう。
「では、お兄様が戻ってきたのでわたくしは、失礼いたしますわ」
と言い残して去っていった。
「ねぇ」
「なんだ?」
「アリア様は、随分と私たちの婚約を疑っているようだったわ。勘がいいわね」
「それはまずいな」
「どう考えても私たちの関係には無理があるわ。そもそも周囲を欺くのは難しいのよ。レオナールの婚約者のふりは、これ以上できないわね。これでお終いにしましょう」
「いいや絶対にやめない。婚約解消なんてすれば、俺がまた令嬢たちから追い回されるだろう!」
「レオナールの問題なんて、知ったこっちゃないわよ」
「へぇ~、お前はそういう態度にでるのか……俺たちは契約したよな」
「どうだったかしら?」
こうなれば逃げるが勝ちだ。
所詮私たちの口約束である。
とぼけておけば証拠はない。それに気づいた私は知らないふりにでた。
「どのみちお前は俺の婚約者としてパーティーに出席したからな。俺の婚約者はお前だと誰もが知る事実になった。お前から婚約破棄を申し立てると言うなら、婚約解消の違約金でも払ってもらうか……我が家の言い値で」
「は⁉」
「子爵家のお前から、婚約破棄を宣言されたとなれば、いくら必要だろうか?」
「お金なんて、我が家にあるわけないでしょう!」
「俺からは婚約解消を求めないからな。婚約を解消して欲しければ、相応の違約金を払うのは常識だろう」
「脅す気なの……」
「言っただろう。俺はお前をとことん利用してやるって。俺の気が済むまでお前は婚約者だ。嫌なら違約金を今すぐ払え」
お巡りさ~ん。恐喝現場は、ここです! 助けてくださいな、と思ったものの、周囲を見渡せば豪華絢爛な調度品の数々が目に飛び込んでくる。
大富豪が貧乏子爵令嬢に金をたかっているなんて、警察もお役所も信じてくれないじゃない!
やられた……。
少し前の自分が浅はかだった……。
今になって気づいたけど、たった一日でも彼の婚約者のふりなんかしてはいけなかったんだ。
彼から婚約解消を言い渡さない限り、婚約解消の原因はトルイユ子爵家になるのだ。それを分かっていなかった。
大半の女性陣は、呆れ半分でこの時間を眺めているとはいえ、この間に、女性陣もマウントの取り合いを繰り広げるのだけれど。
レオナールも、王太子殿下と共に私の横からいなくなった。
するとすぐに、レオナールの妹のアリアが、再び私の前に現れた。
おそらく私が一人になるのを待っていたのだろう。
「忘れないでくださいまし! あなたがお兄様と婚約なさったのは、別にあなたが愛されているからではないことよ」
「ええ、そうでしょうね」
淡々と返した。
全て、偽り、偽り、偽りだ!
この会場中を騙したレオナールの作戦だし、目の前で蔑むアリアが、私に真実を述べたまでだ。よくぞ見破った!
「いつもお優しいお兄様は、わたくしのものだったのに……。せめてアネット様のようなできた方なら納得もできたのに。あんたみたいな令嬢の風上にも置けない女を、公爵家には入れないから」
「はぁ……」
嫁ぐ予定のない私は、気のない返事をする。
「あなたのお母様ってば、旅の踊り子だったんですって。どうりで淑女教育がしっかりとされていないはずですわね。そんな恥ずかしい出生で、お兄様を狙うなんて本当に卑しい方ですわ」
「お母様のことはアリア様には関係ないわ!」
「我が家に嫁いでくるんですもの関係はございますわ」
「……ぅっ」
「これまでお兄様は、あなたのことを散々嫌っていたんですから、勘違いなさらないでくださいね」
鋭い目つきで睨まれた直後、彼女の背後からレオナールが現れた。
「おやアリア。さっそくエメリーを一人にしないように、気遣ってくれていたのかい」
「ええ、そうですわ。わたくしはバイオリンと刺繍が得意なことをお話ししていたのよ」
「そうなのか。今度エメリーにも刺繍を教えてくれると助かるな」
そう言って彼は、にこりと笑う。
何だこの兄妹は……。レオナールは妹に盲目すぎるだろう。
実際のところアリアは、私をいびっていたのだ。
喋ってもいない「趣味の話に賛同せよ」と言いたげのアリアが、にっこにっこの顔を私へ向けてくる。
面倒に思えてきた私は、「ぜひともお願いしたいわ」と、嫌味なくらいにっこりと笑ってやった。
そうすればアリアも安心したのだろう。
「では、お兄様が戻ってきたのでわたくしは、失礼いたしますわ」
と言い残して去っていった。
「ねぇ」
「なんだ?」
「アリア様は、随分と私たちの婚約を疑っているようだったわ。勘がいいわね」
「それはまずいな」
「どう考えても私たちの関係には無理があるわ。そもそも周囲を欺くのは難しいのよ。レオナールの婚約者のふりは、これ以上できないわね。これでお終いにしましょう」
「いいや絶対にやめない。婚約解消なんてすれば、俺がまた令嬢たちから追い回されるだろう!」
「レオナールの問題なんて、知ったこっちゃないわよ」
「へぇ~、お前はそういう態度にでるのか……俺たちは契約したよな」
「どうだったかしら?」
こうなれば逃げるが勝ちだ。
所詮私たちの口約束である。
とぼけておけば証拠はない。それに気づいた私は知らないふりにでた。
「どのみちお前は俺の婚約者としてパーティーに出席したからな。俺の婚約者はお前だと誰もが知る事実になった。お前から婚約破棄を申し立てると言うなら、婚約解消の違約金でも払ってもらうか……我が家の言い値で」
「は⁉」
「子爵家のお前から、婚約破棄を宣言されたとなれば、いくら必要だろうか?」
「お金なんて、我が家にあるわけないでしょう!」
「俺からは婚約解消を求めないからな。婚約を解消して欲しければ、相応の違約金を払うのは常識だろう」
「脅す気なの……」
「言っただろう。俺はお前をとことん利用してやるって。俺の気が済むまでお前は婚約者だ。嫌なら違約金を今すぐ払え」
お巡りさ~ん。恐喝現場は、ここです! 助けてくださいな、と思ったものの、周囲を見渡せば豪華絢爛な調度品の数々が目に飛び込んでくる。
大富豪が貧乏子爵令嬢に金をたかっているなんて、警察もお役所も信じてくれないじゃない!
やられた……。
少し前の自分が浅はかだった……。
今になって気づいたけど、たった一日でも彼の婚約者のふりなんかしてはいけなかったんだ。
彼から婚約解消を言い渡さない限り、婚約解消の原因はトルイユ子爵家になるのだ。それを分かっていなかった。
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