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偽装婚約の契約④

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 パーティーの開始時間まで、少し早い。
 客人が集まるまでの間、彼とサロンでお茶を飲むことになった。

「なんか場違いな場所に来て、落ち着かないわ」

「それなら、これからしばらくお前がこの屋敷へ来て、俺と毎日一緒にお茶を飲もうか」

「え? どうして? 婚約者のふりをするのは、今日だけでしょう」

「お前は本当に馬鹿だな。婚約者のふりが、一日だけな話がどこにあるんだよ。それならすぐに偽装婚約がバレて、また俺がつけ狙われるだろう」

「それならいつまで続けるのよ。一週間?」

「ったくなぁ。一週間のわけないだろう」

「じゃあどれくらい?」
 一か月位かしらと考えながらも、期限を確認する。

「うーむ。──そうだな……五年」

「は? ふざけるんじゃないわよ」

「は? 何が問題だ? 俺たちの偽装婚約の契約は馬車の中で、成立したはずだ」

「五年も経ったら、私は二十二歳だわ」

「俺はお前がいくつになっても関係ない。いつまでも待てる!」
 鼻息荒めの彼が自信満々言い切った。

 おい! 何を元気に胸を張っているんだ!

 そちらは、結婚がただめんどくさくて先延ばしにしたいだけだろう。
 独身貴族を謳歌しても、レオナールの好条件は大して変わらないのだ。

 だけどこっちは困る。本気で枯れ木令嬢になる。

「ふんっ! 何言ってんのよ。五年後なんて、完全に売れ残りの年齢になっているでしょう! 私の愛しい旦那様を探す計画はどうしてくれるのよ!」

「愛しい旦那様か~ぁ」

 レオナールが宙を見てほわほわしている。

「レオナールって、本当に自分勝手で嫌な男ね。変な契約に乗るんじゃなかったわ」

「お前なぁ……」
 言葉に詰まった彼の眉間に、深い皺が寄る。

「とにかく五年は嫌よ! 今日だけ!」


「この際だ! 俺が令嬢から狙われないために、お前をとことん利用してやるからな。一度契約したんだし、逃げれば契約不履行で訴えるぞ」

「卑怯者! 婚約者のふりは一日だけよ!」

「ああ、勝手に言ってろ言ってろ! そのかわり、今日のパーティーで俺の婚約者のふりをしっかりしろよ!」

「頭にきたわッ! こうなったら素面なんかじゃ、パーティーに参加できないわよ。レオナールのそのワインをちょうだい」
 そう言って、彼のグラスを取ろうとすれば、彼がバッと自分の元へグラスを引き寄せた。

「そ、それは……かかか間接、キキキッ」

「何よ!」

「き、きき汚いから嫌だ! お前が口を付けたら俺が飲めなくなるだろう!」
 と言って、彼がグラスに入っているワインを一気に飲み干した。

 この男……。
 どこまでも最低だなと、あんぐり口を開けて見ていれば、彼の様子がおかしい。

 彼はお酒に弱いのだろうか? すでに耳まで赤くなっている。


「他の令嬢は、レオナールのどこがいいのかしらね? 私にはちっとも分からないわ」

「……それは、俺にも分からない」
 酷く虚ろな目をして、消え入りそうな声で言った。

 パーティーが始まる前から、彼はすでに泥酔状態なのでは?
 そんな風に思っていれば、「お客様がご到着いたしました」と、教育の行き届いた従僕が彼を呼びにきた。

 となれば険悪な空気だった私たちも、婚約者のふりをしながらダンスホールへ向かう。

「なんでレオナールと腕を組むのよ」

「シーッ、誰かに聞かれたらどうするんだ。俺たちは婚約者なんだから当然だろう。この後は、俺の話に頷くだけでいいから、勝手に口を開くなよ」

「分かったわよ」と返答した私は、婚約者を紹介するというのに、すでに酔いが回り、死んだ魚の目をした彼と共に、今夜のパーティー会場へと足を踏み入れた。

 ◇◇◇
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