私にだけ冷たい最後の優良物件から婚約者のふりを頼まれただけなのに、離してくれないので記憶喪失のふりをしたら、彼が逃がしてくれません!◆中編版
瑞貴◆『手違いの妻』4月15日発売!
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偽装婚約の契約④
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パーティーの開始時間まで、少し早い。
客人が集まるまでの間、彼とサロンでお茶を飲むことになった。
「なんか場違いな場所に来て、落ち着かないわ」
「それなら、これからしばらくお前がこの屋敷へ来て、俺と毎日一緒にお茶を飲もうか」
「え? どうして? 婚約者のふりをするのは、今日だけでしょう」
「お前は本当に馬鹿だな。婚約者のふりが、一日だけな話がどこにあるんだよ。それならすぐに偽装婚約がバレて、また俺がつけ狙われるだろう」
「それならいつまで続けるのよ。一週間?」
「ったくなぁ。一週間のわけないだろう」
「じゃあどれくらい?」
一か月位かしらと考えながらも、期限を確認する。
「うーむ。──そうだな……五年」
「は? ふざけるんじゃないわよ」
「は? 何が問題だ? 俺たちの偽装婚約の契約は馬車の中で、成立したはずだ」
「五年も経ったら、私は二十二歳だわ」
「俺はお前がいくつになっても関係ない。いつまでも待てる!」
鼻息荒めの彼が自信満々言い切った。
おい! 何を元気に胸を張っているんだ!
そちらは、結婚がただめんどくさくて先延ばしにしたいだけだろう。
独身貴族を謳歌しても、レオナールの好条件は大して変わらないのだ。
だけどこっちは困る。本気で枯れ木令嬢になる。
「ふんっ! 何言ってんのよ。五年後なんて、完全に売れ残りの年齢になっているでしょう! 私の愛しい旦那様を探す計画はどうしてくれるのよ!」
「愛しい旦那様か~ぁ」
レオナールが宙を見てほわほわしている。
「レオナールって、本当に自分勝手で嫌な男ね。変な契約に乗るんじゃなかったわ」
「お前なぁ……」
言葉に詰まった彼の眉間に、深い皺が寄る。
「とにかく五年は嫌よ! 今日だけ!」
「この際だ! 俺が令嬢から狙われないために、お前をとことん利用してやるからな。一度契約したんだし、逃げれば契約不履行で訴えるぞ」
「卑怯者! 婚約者のふりは一日だけよ!」
「ああ、勝手に言ってろ言ってろ! そのかわり、今日のパーティーで俺の婚約者のふりをしっかりしろよ!」
「頭にきたわッ! こうなったら素面なんかじゃ、パーティーに参加できないわよ。レオナールのそのワインをちょうだい」
そう言って、彼のグラスを取ろうとすれば、彼がバッと自分の元へグラスを引き寄せた。
「そ、それは……かかか間接、キキキッ」
「何よ!」
「き、きき汚いから嫌だ! お前が口を付けたら俺が飲めなくなるだろう!」
と言って、彼がグラスに入っているワインを一気に飲み干した。
この男……。
どこまでも最低だなと、あんぐり口を開けて見ていれば、彼の様子がおかしい。
彼はお酒に弱いのだろうか? すでに耳まで赤くなっている。
「他の令嬢は、レオナールのどこがいいのかしらね? 私にはちっとも分からないわ」
「……それは、俺にも分からない」
酷く虚ろな目をして、消え入りそうな声で言った。
パーティーが始まる前から、彼はすでに泥酔状態なのでは?
そんな風に思っていれば、「お客様がご到着いたしました」と、教育の行き届いた従僕が彼を呼びにきた。
となれば険悪な空気だった私たちも、婚約者のふりをしながらダンスホールへ向かう。
「なんでレオナールと腕を組むのよ」
「シーッ、誰かに聞かれたらどうするんだ。俺たちは婚約者なんだから当然だろう。この後は、俺の話に頷くだけでいいから、勝手に口を開くなよ」
「分かったわよ」と返答した私は、婚約者を紹介するというのに、すでに酔いが回り、死んだ魚の目をした彼と共に、今夜のパーティー会場へと足を踏み入れた。
◇◇◇
客人が集まるまでの間、彼とサロンでお茶を飲むことになった。
「なんか場違いな場所に来て、落ち着かないわ」
「それなら、これからしばらくお前がこの屋敷へ来て、俺と毎日一緒にお茶を飲もうか」
「え? どうして? 婚約者のふりをするのは、今日だけでしょう」
「お前は本当に馬鹿だな。婚約者のふりが、一日だけな話がどこにあるんだよ。それならすぐに偽装婚約がバレて、また俺がつけ狙われるだろう」
「それならいつまで続けるのよ。一週間?」
「ったくなぁ。一週間のわけないだろう」
「じゃあどれくらい?」
一か月位かしらと考えながらも、期限を確認する。
「うーむ。──そうだな……五年」
「は? ふざけるんじゃないわよ」
「は? 何が問題だ? 俺たちの偽装婚約の契約は馬車の中で、成立したはずだ」
「五年も経ったら、私は二十二歳だわ」
「俺はお前がいくつになっても関係ない。いつまでも待てる!」
鼻息荒めの彼が自信満々言い切った。
おい! 何を元気に胸を張っているんだ!
そちらは、結婚がただめんどくさくて先延ばしにしたいだけだろう。
独身貴族を謳歌しても、レオナールの好条件は大して変わらないのだ。
だけどこっちは困る。本気で枯れ木令嬢になる。
「ふんっ! 何言ってんのよ。五年後なんて、完全に売れ残りの年齢になっているでしょう! 私の愛しい旦那様を探す計画はどうしてくれるのよ!」
「愛しい旦那様か~ぁ」
レオナールが宙を見てほわほわしている。
「レオナールって、本当に自分勝手で嫌な男ね。変な契約に乗るんじゃなかったわ」
「お前なぁ……」
言葉に詰まった彼の眉間に、深い皺が寄る。
「とにかく五年は嫌よ! 今日だけ!」
「この際だ! 俺が令嬢から狙われないために、お前をとことん利用してやるからな。一度契約したんだし、逃げれば契約不履行で訴えるぞ」
「卑怯者! 婚約者のふりは一日だけよ!」
「ああ、勝手に言ってろ言ってろ! そのかわり、今日のパーティーで俺の婚約者のふりをしっかりしろよ!」
「頭にきたわッ! こうなったら素面なんかじゃ、パーティーに参加できないわよ。レオナールのそのワインをちょうだい」
そう言って、彼のグラスを取ろうとすれば、彼がバッと自分の元へグラスを引き寄せた。
「そ、それは……かかか間接、キキキッ」
「何よ!」
「き、きき汚いから嫌だ! お前が口を付けたら俺が飲めなくなるだろう!」
と言って、彼がグラスに入っているワインを一気に飲み干した。
この男……。
どこまでも最低だなと、あんぐり口を開けて見ていれば、彼の様子がおかしい。
彼はお酒に弱いのだろうか? すでに耳まで赤くなっている。
「他の令嬢は、レオナールのどこがいいのかしらね? 私にはちっとも分からないわ」
「……それは、俺にも分からない」
酷く虚ろな目をして、消え入りそうな声で言った。
パーティーが始まる前から、彼はすでに泥酔状態なのでは?
そんな風に思っていれば、「お客様がご到着いたしました」と、教育の行き届いた従僕が彼を呼びにきた。
となれば険悪な空気だった私たちも、婚約者のふりをしながらダンスホールへ向かう。
「なんでレオナールと腕を組むのよ」
「シーッ、誰かに聞かれたらどうするんだ。俺たちは婚約者なんだから当然だろう。この後は、俺の話に頷くだけでいいから、勝手に口を開くなよ」
「分かったわよ」と返答した私は、婚約者を紹介するというのに、すでに酔いが回り、死んだ魚の目をした彼と共に、今夜のパーティー会場へと足を踏み入れた。
◇◇◇
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