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偽装婚約の契約②

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 私を騙すつもりなのだろうが、舐めてもらっては困る。

 彼が堂々と種明かしをする前に、すでにネタバレしているのだから。
 レオナールの罠に引っかかるほどチョロくない。

 それを突きつけられた彼は、相当ショックな様子で肩を落とす。

「というわけで、今日のパーティーは行かなくてもいいわよね。レオナールが一人で『エイプリルフールの嘘で~す』と公表したらいいでしょう」

 横では「男心を分かっていないな」と、兄がブツブツと文句を言っているが、乙女心を毛ほども分かっていない兄に言われたくない台詞だ。

「おい! お前はさっきから文句ばっかり言ってないで、さっさと俺と一緒に来い!」

「どこに?」

「今日のパーティーの主役は、俺とお前だからな」

「えっ、えっ! ちょっと本気で言っているの⁉」

「当たり前だろう。今日は俺の婚約者を発表だと、世間に触れているんだからな」
 半ば強引に彼から腕を組まれ、──まさかの強制連行である……。

 ◇◇◇

「ほらっ、乗るんだ!」
 と強引なレオナールに馬車へ押し込められた。

「もう、いい加減に手を離してよね。変なことをしたら訴えてやるんだから」

「おおおお俺がお前なんかに、ななな何をするっていうんだよ! 絶対にないからな! 気持ち悪いことを言うな」

「あぁ~そう。気持ち悪くて結構! それは良かったわ! だったらさっさと手を離しなさいよ。ったく触らないで」

「お前なぁ~、今日のパーティーの意味が分かっているのか?」

「だから、王太子殿下から罰ゲームでもさせられているんでしょう」

「そんなわけあるか! どこの阿呆が余興で婚約を発表するんだ!」

「じゃあ、何だっていうのよ。まさか、本当に私と婚約する気なんてないでしょう。私は絶対に嫌だからね」
 挑発的な口調で告げる。

「あ、あ、あ当たり前だ! 誰がお前なんかと結婚するんだよ。俺の名前に汚点が付くだろう! 馬鹿っ」

「あっそう。悪かったわね、汚い点で!」

 それを聞いたレオナールが、私からすっと視線を外すと閉じたカーテンを見たまま、肩を丸めて沈黙する。

 ようやっとこちらを向いたかと思えば、生気を失ったような彼は、異常なほど暗い顔をしている。

「まあお前みたいに、俺に興味のない令嬢が一番適任だったんだ」

「何に?」

「俺の行く先々、次から次へと現れるとんでもない令嬢に、もううんざりなんだ」

「だからって何よ! モテない私への自慢かしら?」

 顔色を一段と悪くする彼が、ボソッと言った。

「俺の婚約者のふりをしてくれ」

「無理よ。そんな面倒なのは絶対に嫌だから」

「頼むっ! 俺をつけ狙う令嬢たちの罠が年々巧妙になってきて、このままでは身が持たない」

「そんなこと……私に関係ないでしょう」

「今日のパーティーで、俺には婚約者ができたことを社交界全体に拡散したいんだ!」

「レオナールは良くても、私がレオナールの婚約者のふりなんかして、婚約解消されたら……お嫁にいく先が見つからないじゃない」

「それは大丈夫だ。お前が結婚できるまで……俺がちゃんと責任をとるから」

 必死に拝んでくる彼は、随分と真面目な口調で発した。

「そうねぇ~」と言いながら、今一度考えるが答えはすぐにでた。


「やっぱりデメリットしかないわね」

「そう言うなら、メリットを与えてやろう」

「は? 何よ、偉そうに」

「俺が、お前の結婚持参金と結婚式の費用を全て用意してやる。相手が誰であろうと、お前の理想の結婚式に金を使えるし、結婚持参金は、お前の言い値で構わない。どうだ!」

 なんと! この婚約者のふりに付き合えば、報奨金が付くようだ。

 しかも言い値とは、相当な太っ腹だ!
 貧乏子爵家の痛い所を衝いてくるレオナールだが、渡りに船である。

「その話に乗ったわ! 私が結婚できるまで、ちゃんと責任とってよね、約束よ」

「もちろん」
 と言った彼が、悪い顔で笑う。
 今ここに、互いの利害関係が一致した、『一日だけの偽りの婚約』が成立した。
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