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犬猿の幼馴染の婚約発表①

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 時は、ヴァロン王国歴の四月一日。

 国中の令嬢を泣かせる大きなニュースが飛び込み、貴族新聞を手にする者たちに激震が走った──。

「おい、この新聞の記事を見てみろ!」

 トルイユ子爵家の狭いリビングの扉が大きく開くと同時に、ダニエルの興奮した声が響く。
 ちなみにダニエルとは、六つ歳の離れた兄の名前だ。

 兄は陽気な性格だけど、婚約者も恋人もいない。いわゆる、絶賛パートナーを募集中の、ぼっち男である。残念ながら私も……。

 先見の明もないくせに、ギャンブル気質のダニエルが、全く価値のない山を、大きな借金を作ってまで無理に購入した我が家は、頭に花の咲いた一家と社交界で笑われ、白い目で見られ続けている。

 その原因を作った当の兄は、「温泉王になる」と世迷いごとを、自信げに言い続けているため、社交界で変人扱いをされているのだが……。

「ほら、読め読めっ!」
 そんな兄から渡された貴族新聞──。視線を向けずにボケッとしていると、兄が続けた。


「ほら、新聞のここだ。早く読めよ!」
 
「何か面白い話でも載っているのかしら?」

「ビッグニュースだ。ラングラン公爵家のレオナール様の婚約発表が書かれてあるぞ」

「ふ~ん」と間延びする音を出す私は、その話題に大して興味はない。会えば喧嘩の幼馴染のことだし、どうでもいい。

 まあ一応、レオナールは幼馴染ではあるし、これくらい知っておいても損はないだろうと目を通す。

 なになに――。
「はっ……?」

「なぁ、驚いただろう」
 絶句する私の反応を見て、茶色の瞳を大きく見開く兄が得意げに言った。


 貴族新聞へ目をやると、大きな文字の見出しで、突拍子もない書き方をされている。

【緊急発表!】

『数多の令嬢たちが、妻の座を狙っていたレオナール・ラングラン(二十歳)が、婚約を発表!』

 ちなみに勘違いはよくないから言っておくけど、私は数多の令嬢の一人には入っていない。

 レオナールなんかを狙っていないし、狙うわけもない。
 彼は、私を「枯れ木」やら「お前」と言い、名前すら呼んでくれないのだ。

 ちなみに、どうして枯れ木かというと、緩いウエーブの茶色の髪が、枯れ葉のようで、くりっとした茶色の瞳はどんぐり。そのうえ細長い手足が枯れ枝に見えるらしい。

 はぁ⁉ どうやっても見えないだろう!

 彼はいつも私をケラケラと笑っているけど、むしろ私が枯れ木に見えるのなら、彼の目は、相当悪いのかしらと心配になるレベルだ。


 それはさておき、その続きを読もうと再び文字を追う。

 レオナールについて、随分と誇張した貴族新聞によると──。

【紫の瞳と輝く金髪の見目麗しい貴公子が、このたび自身の婚約を公表した。

 だが、現時点でラングラン公爵家は、そのお相手の言及を避け、婚約者は未だ謎のままである。
 ここ数年、年若いご令嬢が彼の妻の座を狙い、熾烈な婚約者戦いを繰り広げていたが、一体誰がラングラン公爵家のご令息の心を捉えたのか⁉

 婚約者については、公爵家主催のパーティーで公表するとのこと】



 ──以上が、新聞記事の内容だ。
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