87 / 88
挿話
挿話②
しおりを挟む
ライアンが回復魔法師だと分かった1週間後、ルイーズは王家主催の舞踏会の会場に向かおうとしていた。
今までにないほど緊張しているルイーズの体は、馬車から降りて王宮の入り口までの移動でさえ、おかしな動きをしている自覚がある。
そのルイーズの様子を見て、額に手を当てるエドワードは全てを悟った。
「ルイーズ、今日はもう何も喋るな」
「大丈夫よ、わたし家の中のことを隠すのは自信があるもん、ねっ!」
「あるもんじゃない。駄目だ、ルイーズが変な自信を持っているときほど、危険だと言う記憶しかない」
「はぁぁーっ」
外で騒いでいる2人へ、パトリシア侯爵令嬢が丁寧な挨拶のあとに話を続けた。
「相変わらず仲が良いですね。お2人のお子さんは、男の子だったと父から聞きました。ルイーズ様、今度屋敷まで会いに行ってもいいですか?」
友達のいないルイーズは、まさか訪ねてくると言いだす存在が現れるとは、露ほども思っていない。
目を泳がせたルイーズは、ハッと何かを閃いた。
「あー、うちの子病気なので、会わせるのは……」
その適当なウソに驚愕したエドワードは、すぐに正そうとした。けれど、それよりも先に腑に落ちないパトリシア侯爵令嬢が問い掛けてくる。
「えっ、エドワード様がいらっしゃるのに、どんな病気なのですか?」
やってしまった、と言う顔をしたルイーズは、すーっとエドワードに目を向ける。
そんな視線にも目をくれず、真面目な顔をしているエドワードは、パトリシアを真っすぐ見て、穏やかな口調で話し始めた。
「今朝、熱を出していたから、ルイーズは心配しているんだ。幼い子どもはすぐに体調を崩すからルイーズも敏感になっていて。何かある度に、ルイーズが動揺して王宮に駆け込んできても俺が困るから、人に会わせるのは控えたいから無理だな」
「あっ、そうですよね。図々しいお願いをしてしまい申し訳ありません」
そう言って、王宮へ向かっていくパトリシア。
その背中を見送るルイーズは遠い目をして、益々、舞踏会に参加するのが憂鬱になっている。
「あほ! 俺の横で適当に病気だとか言うな。ウソにしか聞こえないだろう」
「今のは練習してない質問だったから、ちょっと失敗しただけよ」
「アランと部屋に置いてきた、ライアンも気になるし、早々に片付けるぞ。ルイーズにミトンを贈ってきたやつらの名前は頭に全部入っているな」
「わたし、顔は1人も分からないわよ」
「ああ知っている。誰も把握していない立食のメニューだけは完璧なのにな。残念だが、余計な時間はない。食べられないのは、俺のせいじゃないからな! 取りあえず1人目が分かれば、あとは何とかなるだろう」
「もーう、エドワードと来ると何だか、ややこしいわね」
「それが社交界だろう……。あの侯爵、前回大声で叫んでいたな、ルイーズ、届いたミトンを出せ。待っていられないから、こっちから声を掛けるぞ」
早々に帰るためにルイーズとエドワードは、待つよりも直接その人物たちへ、お礼として声を掛けに向かった。
ミトンを見せながら声を掛ければ、他に贈った心当たりのある人物がじわじわと、ルイーズに近づいてきて視線を向けている。
……あとは見つけるのは容易だ。
視線に気付いたエドワードが、ルイーズを小突き合図を送る。
「あと、何人残っているんだ……」
「印象的には10人くらい。こんな気を遣う会話をするのは、もう疲れたわね。ひゃっ」
言い終わると同時に、ルイーズはエドワードに横抱きにされた。
「その台詞、もっと早く聞きたかった。ほら、あそこにいる父にでも手を振れば帰るって分かるだろう。あの3人に近づいたら碌なことにならないからな、このまま立ち去る。あした陛下が何か言ってきたら、妻が疲れたからだって説明しておくから問題はない」
急にエドワードに抱えられたルイーズは、渋い表情をしている。
「えーっ、宰相様にこんなところから手を振っていたら怒られるわよ」
「怒られるために呼ばれたら好都合だ。もう2度と変な手紙を陛下から受け取るなと、ついでに伝えればいい。父のことだ、手を振ったところで、どうせ何も言ってこないだろうが」
屋敷に残してきたライアンが気になるルイーズは、どうにでもなれと、エドワードに抱きかかえられたまま、満面の笑みで義父に手を振った。
「上出来だ。でも、ルイーズが1人で怒られるのは、かわいそうだからな、保険だ」
横抱きにされているルイーズは、エドワードに触れるようなキスを落とされる。
陛下は、遠くに見えるエドワードが帰ってしまうと察し、側近のブラウン公爵を彼らの元へ走らせた。
……けれど、1歩遅かった。
※2話のつもりでしたが、長くなったので、分けることにいたしました。
今までにないほど緊張しているルイーズの体は、馬車から降りて王宮の入り口までの移動でさえ、おかしな動きをしている自覚がある。
そのルイーズの様子を見て、額に手を当てるエドワードは全てを悟った。
「ルイーズ、今日はもう何も喋るな」
「大丈夫よ、わたし家の中のことを隠すのは自信があるもん、ねっ!」
「あるもんじゃない。駄目だ、ルイーズが変な自信を持っているときほど、危険だと言う記憶しかない」
「はぁぁーっ」
外で騒いでいる2人へ、パトリシア侯爵令嬢が丁寧な挨拶のあとに話を続けた。
「相変わらず仲が良いですね。お2人のお子さんは、男の子だったと父から聞きました。ルイーズ様、今度屋敷まで会いに行ってもいいですか?」
友達のいないルイーズは、まさか訪ねてくると言いだす存在が現れるとは、露ほども思っていない。
目を泳がせたルイーズは、ハッと何かを閃いた。
「あー、うちの子病気なので、会わせるのは……」
その適当なウソに驚愕したエドワードは、すぐに正そうとした。けれど、それよりも先に腑に落ちないパトリシア侯爵令嬢が問い掛けてくる。
「えっ、エドワード様がいらっしゃるのに、どんな病気なのですか?」
やってしまった、と言う顔をしたルイーズは、すーっとエドワードに目を向ける。
そんな視線にも目をくれず、真面目な顔をしているエドワードは、パトリシアを真っすぐ見て、穏やかな口調で話し始めた。
「今朝、熱を出していたから、ルイーズは心配しているんだ。幼い子どもはすぐに体調を崩すからルイーズも敏感になっていて。何かある度に、ルイーズが動揺して王宮に駆け込んできても俺が困るから、人に会わせるのは控えたいから無理だな」
「あっ、そうですよね。図々しいお願いをしてしまい申し訳ありません」
そう言って、王宮へ向かっていくパトリシア。
その背中を見送るルイーズは遠い目をして、益々、舞踏会に参加するのが憂鬱になっている。
「あほ! 俺の横で適当に病気だとか言うな。ウソにしか聞こえないだろう」
「今のは練習してない質問だったから、ちょっと失敗しただけよ」
「アランと部屋に置いてきた、ライアンも気になるし、早々に片付けるぞ。ルイーズにミトンを贈ってきたやつらの名前は頭に全部入っているな」
「わたし、顔は1人も分からないわよ」
「ああ知っている。誰も把握していない立食のメニューだけは完璧なのにな。残念だが、余計な時間はない。食べられないのは、俺のせいじゃないからな! 取りあえず1人目が分かれば、あとは何とかなるだろう」
「もーう、エドワードと来ると何だか、ややこしいわね」
「それが社交界だろう……。あの侯爵、前回大声で叫んでいたな、ルイーズ、届いたミトンを出せ。待っていられないから、こっちから声を掛けるぞ」
早々に帰るためにルイーズとエドワードは、待つよりも直接その人物たちへ、お礼として声を掛けに向かった。
ミトンを見せながら声を掛ければ、他に贈った心当たりのある人物がじわじわと、ルイーズに近づいてきて視線を向けている。
……あとは見つけるのは容易だ。
視線に気付いたエドワードが、ルイーズを小突き合図を送る。
「あと、何人残っているんだ……」
「印象的には10人くらい。こんな気を遣う会話をするのは、もう疲れたわね。ひゃっ」
言い終わると同時に、ルイーズはエドワードに横抱きにされた。
「その台詞、もっと早く聞きたかった。ほら、あそこにいる父にでも手を振れば帰るって分かるだろう。あの3人に近づいたら碌なことにならないからな、このまま立ち去る。あした陛下が何か言ってきたら、妻が疲れたからだって説明しておくから問題はない」
急にエドワードに抱えられたルイーズは、渋い表情をしている。
「えーっ、宰相様にこんなところから手を振っていたら怒られるわよ」
「怒られるために呼ばれたら好都合だ。もう2度と変な手紙を陛下から受け取るなと、ついでに伝えればいい。父のことだ、手を振ったところで、どうせ何も言ってこないだろうが」
屋敷に残してきたライアンが気になるルイーズは、どうにでもなれと、エドワードに抱きかかえられたまま、満面の笑みで義父に手を振った。
「上出来だ。でも、ルイーズが1人で怒られるのは、かわいそうだからな、保険だ」
横抱きにされているルイーズは、エドワードに触れるようなキスを落とされる。
陛下は、遠くに見えるエドワードが帰ってしまうと察し、側近のブラウン公爵を彼らの元へ走らせた。
……けれど、1歩遅かった。
※2話のつもりでしたが、長くなったので、分けることにいたしました。
10
お気に入りに追加
378
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる