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挿話

挿話②

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 ライアンが回復魔法師ヒーラーだと分かった1週間後、ルイーズは王家主催の舞踏会の会場に向かおうとしていた。

 今までにないほど緊張しているルイーズの体は、馬車から降りて王宮の入り口までの移動でさえ、おかしな動きをしている自覚がある。
 そのルイーズの様子を見て、額に手を当てるエドワードは全てを悟った。

「ルイーズ、今日はもう何もしゃべるな」
「大丈夫よ、わたし家の中のことを隠すのは自信があるもん、ねっ!」
「あるもんじゃない。駄目だ、ルイーズが変な自信を持っているときほど、危険だと言う記憶しかない」
「はぁぁーっ」

 外で騒いでいる2人へ、パトリシア侯爵令嬢が丁寧な挨拶のあとに話を続けた。
「相変わらず仲が良いですね。お2人のお子さんは、男の子だったと父から聞きました。ルイーズ様、今度屋敷まで会いに行ってもいいですか?」
 友達のいないルイーズは、まさか訪ねてくると言いだす存在が現れるとは、露ほども思っていない。
 目を泳がせたルイーズは、ハッと何かをひらめいた。


「あー、うちの子病気なので、会わせるのは……」
 その適当なウソに驚愕きょうがくしたエドワードは、すぐに正そうとした。けれど、それよりも先にに落ちないパトリシア侯爵令嬢が問い掛けてくる。

「えっ、エドワード様がいらっしゃるのに、どんな病気なのですか?」

 やってしまった、と言う顔をしたルイーズは、すーっとエドワードに目を向ける。
 そんな視線にも目をくれず、真面目な顔をしているエドワードは、パトリシアを真っすぐ見て、穏やかな口調で話し始めた。
「今朝、熱を出していたから、ルイーズは心配しているんだ。幼い子どもはすぐに体調を崩すからルイーズも敏感になっていて。何かある度に、ルイーズが動揺して王宮に駆け込んできても俺が困るから、人に会わせるのは控えたいから無理だな」
「あっ、そうですよね。図々ずうずうしいお願いをしてしまい申し訳ありません」
 そう言って、王宮へ向かっていくパトリシア。
 その背中を見送るルイーズは遠い目をして、益々ますます、舞踏会に参加するのが憂鬱ゆううつになっている。

「あほ! 俺の横で適当に病気だとか言うな。ウソにしか聞こえないだろう」
「今のは練習してない質問だったから、ちょっと失敗しただけよ」
アランと部屋に置いてきた、ライアンも気になるし、早々に片付けるぞ。ルイーズにミトンを贈ってきたやつらの名前は頭に全部入っているな」
「わたし、顔は1人も分からないわよ」

「ああ知っている。誰も把握していない立食のメニューだけは完璧なのにな。残念だが、余計な時間はない。食べられないのは、俺のせいじゃないからな! 取りあえず1人目が分かれば、あとは何とかなるだろう」
「もーう、エドワードと来ると何だか、ややこしいわね」

「それが社交界だろう……。あの侯爵、前回大声で叫んでいたな、ルイーズ、届いたミトンを出せ。待っていられないから、こっちから声を掛けるぞ」
 早々に帰るためにルイーズとエドワードは、待つよりも直接その人物たちへ、お礼として声を掛けに向かった。
 ミトンを見せながら声を掛ければ、他に贈った心当たりのある人物がじわじわと、ルイーズに近づいてきて視線を向けている。
 ……あとは見つけるのは容易だ。
 視線に気付いたエドワードが、ルイーズを小突き合図を送る。

「あと、何人残っているんだ……」
「印象的には10人くらい。こんな気を遣う会話をするのは、もう疲れたわね。ひゃっ」
 
 言い終わると同時に、ルイーズはエドワードに横抱きにされた。

「その台詞せりふ、もっと早く聞きたかった。ほら、あそこにいる父にでも手を振れば帰るって分かるだろう。あの3人に近づいたらろくなことにならないからな、このまま立ち去る。あした陛下が何か言ってきたら、妻が疲れたからだって説明しておくから問題はない」

 急にエドワードに抱えられたルイーズは、渋い表情をしている。

「えーっ、宰相様にこんなところから手を振っていたら怒られるわよ」
「怒られるために呼ばれたら好都合だ。もう2度と変な手紙を陛下から受け取るなと、ついでに伝えればいい。父のことだ、手を振ったところで、どうせ何も言ってこないだろうが」

 屋敷に残してきたライアンが気になるルイーズは、どうにでもなれと、エドワードに抱きかかえられたまま、満面の笑みで義父に手を振った。

「上出来だ。でも、ルイーズが1人で怒られるのは、かわいそうだからな、保険だ」
 横抱きにされているルイーズは、エドワードに触れるようなキスを落とされる。


 陛下は、遠くに見えるエドワードが帰ってしまうと察し、側近のブラウン公爵を彼らの元へ走らせた。
 ……けれど、1歩遅かった。



※2話のつもりでしたが、長くなったので、分けることにいたしました。
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