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第5章 祝福されるふたり

5-23 最愛の妻が、1番大切だから①

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 そもそも面倒事が嫌いなエドワード。
 妻から強請ねだられれば別だが、彼が披露宴を開くつもりは微塵みじんもない。
 元より、ルイーズが人前で目立つことを躊躇ためらっていた。
 自分たちの披露宴は要らないと、気の合う2人の意見はピッタリ合致していたのだ。

 2人の結婚を祝う祝賀会は、国王陛下と宰相が勝手に話を進めていた。それも、王家主催……。
 むしろ、自分で適当に開催した方がましだった。
 最後まで乗り気ではないエドワードは、向かう馬車の中で不貞腐ふてくされた顔を見せる。
 機嫌の悪いエドワードの顔を見たルイーズは、自分も何かするのか、ざわざわと胸騒ぎを覚える。

「ねぇ、祝賀会って、わたしたちは何かするの?」
「俺は何もする気はない。じじぃは、大広間に2人で来て、立っているだけでいいって言っていたけどな」


 会場に到着し、大広間に入った2人の視界には、見慣れた光景が映る。
「これ、舞踏会と何が違うの……」
「……さあな。リンゴの酒がないだけで、全く一緒だな」

 新郎新婦の2人は呆然ぼうぜんとその場に立ち尽くしていた。

 だが、2人の到着を待ちびていた人々が一斉に集まり、2人へ祝いの言葉を直接述べようと、長蛇の列をなしている。
 当たり障りのない祝辞を告げる貴族たちを、エドワードが適当にあしらい、ルイーズは取りあえず笑っておけと、作り笑いを浮かべていた。

 そこへ、レベッカ王女が列を割って2人の前に現れた。彼女は美しいカーテシーをして、しおらしく話し始めた。

「以前、ルイーズ様に失礼なことを言ってしまって申し訳ありませんでした。お2人の結婚おめでとうございます」

 ……エドワードでさえ、全く見たことのない腰の低いレベッカ王女。
 ほうける2人が声を出すよりも先に、レベッカ王女は、最前列にいた貴族に、割り込みを詫び、そそくさといなくなった。

「何も返事が出来なかったけれど、いいのかしら……」
「ルイーズに、ただ誤りたかっただけだ。このままだと、お茶会でルイーズにいじめられると焦ったんだろう。言い返されたら一大事だからな」

「えっ! わたしにっ!」
 ルイーズは自分の顔を指さし、意味が分からない? と言いたげにエドワードを見つめる。

「まあそうだろう。この会場の令嬢のほとんどが、黄色いドレスを着ているのは、前回のルイーズを真似まねたんだろう。わざわざドレスを新調させるほど、ルイーズは影響力があるってことだ」

「ははは……」
 顔を白くして、ルイーズは感情のこもらない笑いを返す。

 レベッカ王女の割り込みで、待ちぼうけを食らった最前列の男爵が、祝辞の後に、そわそわした口調で話し始める。

「この会場へ入ったときに、つまずいて転んでしまったんです」
 男爵だと名乗る、でっぷりと太った中年男は、すかさず右ひざに出来た切り傷を見せた。
 男爵の右ひざは、彼の体重によってガタがきていたせいで、スラックスをまくる動きが、何ともおぼつかない。

 男爵の傷は、転倒して負傷したにもかかわらず、擦過傷ではなく1本の綺麗きれいな切り傷。
 冷ややかな視線を向けるエドワードの顔には、ウソつけ……。と書いてある。

 だが、男爵の名前におぼえのあるルイーズは、瞳を潤ませた。
 彼は3か月前に、自分に艶々つやつやと輝く綺麗なチョコレートを1箱、送ってくれた人物だ。

「エドワード、私たちにお祝いの言葉を届けるために、足が悪いのにわざわざ来てくれて転んだのよ……、どうしよう」
「あほ! 何がどうしようだ。どう見ても、その傷は転んで出来たものじゃないだろう。だまされるな」
「そんな悪い人じゃないわよ。だって、わたしにチョコレートを送ってくれて、すごく優しい言葉を添えた手紙も入っていたもの」
 
 申し訳なさげな表情のルイーズは、エドワードの手をゆさゆさと揺すっている。
 ハッと何かに気づいたエドワードは、自分たちへ挨拶あいさつをしようと待ち望んでいる列の長さを確認すると、頭を抱えている。

(こんな会話をいちいちルイーズとしていたら、この列をさばくのに何時間かかるんだよ)

 顔を強張らせ、焦り始めるエドワード。
 
「おいっ、お前のその傷は、この会場で転んで出来たものでないことくらい、俺には分かっている。それでもルイーズのために治してやる。治った足で、ルイーズに椅子を探して持ってこい」
「はっはい、もちろんです」

 エドワードは、バシッとつかむように、にへへと笑う男爵の手を握った。

「あっ、ありがとうございます。ただいま、すぐに探してきます」
 エドワードの手が離れると、繰り返し礼を言った男爵は、走ってどこかへ消えて行った。

 エドワードは、チラリとルイーズの顔を見る。
 ルイーズを無理やり連れ帰りたいが、何も言わない彼女が、納得する気がしない。
 歯がゆい感情が、エドワードの心を占め、ギュッと強く拳を握る。

「ルイーズ……。気分が悪いんだろう。帰るか?」
「駄目よ、せっかく皆私たちのために来てくれたのよ。帰るわけないでしょう」

「……そう言うと思った。悪い、ルイーズにヒールは使えない。下手に治療をすると、悪阻つわりの原因になっている存在が消えるから……」
「気にしなくていいのに。大丈夫よ。わたし、体力には自信があるから」
「どの口が言っている……。こんなときまで無理をするな」
 笑って見せたルイーズとは対照的に、ぐっと感情を抑えたエドワードは、目つきが鋭くなった。

 エドワードに無償で治療を受け、自由に走れるようになった男爵が、ルイーズへ椅子を持って戻ってきた。

「ルイーズはこのまま座っていろ。俺が駄目だと判断すれば、そこまでだ。さっさと終わらせて帰る! ルイーズにチョコレートを送ってきたのは何人いるんだ」

「……貴族籍って話なら50人くらいかな」

姑息こそくなやつらは、そんなに混ざっているのか……。同じ会話をいちいち繰り返すだけでも時間が掛かるっていうのに……。どう考えても、ルイーズがもたないだろう……)

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